わたしが好きなシーン(乳蜜
こんにちは、サイジョーサイコです。
鋭意別作カキカキ中ですが、ふと読み返すと乳蜜も追憶もついつい読んじゃいますね。
これ名作なんじゃとうっかり思います。 ささ、私の乳蜜萌え、いってみましょうかー!
①誰の体?
二か月ぶりに触れた彼女の体は硬かった。といっても緊張してこわばっているわけではない。柔らかさが足りなくなったから、以前より筋肉を感じやすくなっていたのだ。
ルイの腕や背中に触れながら、そうなった理由を考えると、答えはすぐに見つかった。
『先生に言われるまではヨガだけだったけれど、今は毎日ジムに行ってるわ』
仲秋に縛られようとしている結衣子を眺めながら、ルイはそう言っていた。
彼女の体が硬くなった理由は分かったけれど、すっきりしなかった。それどころか、どろりとした違和感が膨らんでいく。
ルイの体は、今まで自分が縛ってきた体ではない。その意識が強く働いてしまったせいか、まるで彼女以外の誰かに触れているような気になった。
膨らむ一方の違和感に耐えながら、腕を前に伸ばしてルイの腕を後ろ手にする。手にした縄を掛けようとしたとき、異変が起きた。
ルイをどう縛ればいいのか急に分からなくなった。
苦悩する子がすき!!!!!(何度でも言う
ずっとパートナーだったのに二ヶ月触れてないんですよ。その間瑠衣は先生の縄を受けるために肉体改造したわけですよ。そりゃあ違和感だらけになるでしょうよ。
②自覚アリ
「それでね、レオンが奥さんから聞いた話だと、受け入れたときに伝わるものがあるんだって。だから縛られてみた方がいいんじゃないかって思ったの。いくら話したってあんたは自分を曲げないし」
暗に分からず屋と言われた気がしたが、実際そうなのだから渡海は何も言い返さなかった。
わかっておったんだな。。
話してわかるなら、結衣子や遥香が言ったことも理解したはずだもんね、でもこれが君だよね、と謎の親心が発現しました。
③クールな熱さ
「意外に素直だな」
稜は薄笑いを浮かべながら見下ろしていた。向けられている目を見ると、仲秋とは異なる加虐の悦が滲んでいた。
ルイや結衣子を縛っていたときの師の瞳は、見ているだけで恐れをなしてしまうほど熱を帯びている。しかし、見上げる先にある稜の目はそれとは違う。背筋が震えてしまいそうなほど冷たいものだった。
肩で息をしながら見上げていると、顎を持ち上げていた指が離れ、稜は再び背後に回った。
背縄に縄を足しているのか、擦れ合う縄の音がした。動きに合わせて体が揺れたと思ったら、胸回りに掛けられた縄がぎゅっと絞られた。
「くっ……」
閂をしっかり掛けられ声が漏れた。とっさに体をこわばらせてしまったせいで縄が肌に食い込み、そこから鋭い痛みが走る。走った痛みは痺れに似たものに変わり、体の奥へと吸い込まれていった。
「渡海さん」
肌の下に潜った痺れに意識を向けていると、前の方から稜の声がした。
と、同時に耳に何かが触れた途端ぞくぞくと震えが走り、渡海は肩を竦ませる。
耳から顎へと顔の輪郭に沿って降りてきたものは稜の指だった。
指先が掠めた余韻が肌から消えそうになったとき、ぞくりとしてしまうほど冷たい笑みを浮かべている稜と目が合った。
持ち合わせた冷静と情熱が混ざらない稜。その加虐性は、渡海までゾクゾクさせちゃいます。
きっと稜は同性相手でもプレイできるんだろうなあと思ってたけど、期待を裏切らないでくれました。
もしも稜も瑛二と同じような熱さのタイプだったら、結衣子は彼を必要としなかったでしょうね。
④ごまかしごまかし
歩から持たされた鯛飯のことが唐突に出た。
稜から目礼されてしまい、渡海はぶっきらぼうに返す。
「ああ」
確かにあれはうまかった。
歩に気を遣わせてしまったな、と申し訳なく思っていると、稜から思いがけないことを聞かされた。
「くるすの常連なの? あの鯛飯確か普通に出してないよね。俺たちも常連って人にノットでもらったのが最初だった」
渡海は稜に目線を向けたまま、体を石のように硬直させた。
今聞いたばかりの話だと、あの鯛飯はかなり特別なものらしい。
一緒に住んでる恋人の実家がそこで、ただ持たされただけだと言えば済む話だが、渡海は動揺してしまい言えなくなる。
「常連……ま、まあ、先生の伝手で……」
「そうなのか。うまかったなー、あれ」
とっさに出た嘘だったが、瑛二たちは疑っていないようだった。
言えばいいじゃんよぉぉと思ったワンシーン。うろたえる渡海くんかわいい。
瑛二は疑ってないけど、稜は若干探りいれてますね。
⑤ストイック
「してない。数えるほどしか縛られたことがないが、啼いたことなど一度もないからな」
とはいえ、仲秋が自分を縛るときは稽古のときだから、もちろん「本気」ではない。
それに、縛られている間、瑛二や稜のときのような「何か」を感じたこともなかった。
真面目な顔で答えると、目の前で瑛二が呆れたような顔で稜に迫る。
「おい稜、こいつくっそ真面目だぞ」
「わかってるよ、ストイックなんだって」
ストイック。
自分に厳しくして欲望を抑えること。禁欲的であること。
結衣子からそう言われたときにはピンとこなかった。けれど、言葉の意味を今考えてみると、思い当たることがある。
ベルリンで、彼女から言われたことを当てはめてみると、より明確になってきた。
重い縄。自罰的。彼女はそう言っていた。
縄を学んだのは、頭にこびりついたルイの体の縄痕を消し去りたかったからだった。
緊縛師として舞台に上がったのだって、ルイを仲秋から引き離すためだ。それに、彼女の仕事を守りたかったからだ。
今振り返ると、必要に迫られた末に縄を握っていたことに気がついた。自分自身の欲望や衝動といったものは何もない。
仮に何かあるとしたら、基本に忠実であろうとする意識だけだ。
それがストイックと言われる理由かもしれない。
割と初期の段階で「縄読み」に関連して渡海の本質に触れるにあたり、イヴと蛇をごりごり読んだのですが、まあこの一言に尽きるだろうなあと。
彼の本質については、谷崎さんに「どういう子?」と尋ねることはしませんでした。私を介した結衣子の言葉にしたかった。ゆえにそんなキーワードになったのですが、意外と合っててほっとしたのです。
⑥できなかったこと
「なにができなかったの?」
渡海はしばし思案したあと、重い口を開く。
「覚悟だよ」
深い息を吐いてから、渡海は再び話し出した。
「ルイと一緒に居続けるための覚悟を持てなかった」
縄痕に激しく嫉妬したのは、彼女を縛った縛師が自分より腕が良かったこともあるけれど、自分以外の男に彼女が体を晒した事実を受け入れ難かったからだ。しかし、それを言葉にしなかったのは、嫉妬していることを彼女に知られたくなかったからだ。
嫉妬から仕事を辞めろと言いたくなったことも一度や二度ではない。しかし、仕事を大事にしている彼女から、それを奪ってしまうことになるから言えなかった。
君も瑛二と同じような苦悩を抱えたのう、としんみりしてしまった一幕。そりゃあ稜に気遣いもするわと納得したものです。
⑦縄のちがい
瑛二の縛りを思い出しているうちに、渡海はそこまで思い出した。
結婚こそしてはいなかったけれど、母親は父親にちゃんと愛されていたのだ。それまで父親は、母親だけでなく自分をも省みていなかったとばかり思っていただけに、それが分かった途端父親に対してずっと頑なだった心が解けていった。
しんみりしてしまった気分を変えて稜を見ると、彼に縛られていたときのことを思い出してしまい、渡海は顔を赤らめた。
「稜にしばられているときは、……その……、ぞくぞくしたっつーか、なんというか……エロいというか……」
稜の縄は、瑛二のものとは全く違う。
瑛二の信条「綺麗にする」とは、もしかしたらありのままの自分に戻ることも含まれるのかもしれない。
そして稜の「乱れさせる」とは、あられもない姿になることかもしれない。いや、違う。稜の目つきや手つきがエロいだけだ。そうでなけでば男相手にそそられてしまった理由がつかない。
……と、苦々しい気分で振り返りながら、渡海は言いにくそうに答えた。
縄はいろいろ引き出してくれる、ってのを実の伴う体感覚として知った渡海。縄は一期一会、誰一人として同じ縄はない。感じるものもそれぞれ。
ちな、瑛二の『綺麗にする』は『躍動する生』に繋がります。蝶々や写真という物質的な所有欲が、その辺にも現れてます。稜の『乱れさせる』は『もっと見せて』という欲求に直結してます。結衣子と子どもの頃の話をしたときに、そんな話してましたね。ゆえにあけすけ。
だから男相手にそそられたっていいじゃない。←
⑧ですよねえええ
あきれ顔の瑛二を苦笑いしながら稜がいさめる。
瑛二の言う通り、確かに結衣子はきついし可愛くない上に、面倒くさそうで気まぐれだ。それなのに、彼らはどうして彼女の側にいて好き放題を許しているのだろう。そう思ったときには口が開いていた。
はい、きついし可愛くないしめんどくさくて気まぐれです。私も困ってる。
⑨ヒントの数々
-1
「ああ……、子どもみてえだな」
呆れ顔を向けると、瑛二は平然とした表情を浮かべている。
「子どもだよ。子どもは警戒心に敏感なんだ」
子ども? あの結衣子が?
怪訝な顔をしながら瑛二の言葉を考えていると、遥香の言葉と重なった。
「あ」
そうか、だから結衣子は……。
「だから試してるってわけか……」
-2
「それも先生直伝の責め縄をしながら。彼女が先生の弟子だったなんて、俺たちもあの時初めて知った」
「ベルリンで縛った時先生の名前を出したから、それのネタばらしにしては、随分、その、手が込んでるというか、主張しているような……」
「ね。まるで『わたしを見て』って言ってるみたいだ」
「あ」
渡海は目を見開いた。
「わたしを見て、か……」
-3
「彼女の言動、もう一度思い返してみるといいよ。渡海さんにしてみれば不可解だろうけど、基本的にはシンプルだから」
「そうなのか?」
「うん。自分の思いをなかなか言わないだけ。渡海さんへの言葉のほとんどは飾りに過ぎないよ。渡海さんの縛りの不満はたった一つ。渡海さんに愛してもらえなかったことだ」
子どもだから試すし、自分を見てほしいし、愛してほしい。とても幼い動機が起因してるだけに、彼女は取り繕う。
⑩幕開け
「んなこと言われても……。あいつ以外の女を愛せるわけねえだろ……」
顔をしかめさせながらぼやくと、瑛二の声がした。
「あいつぅ?」
とっさに目をやると、彼はにやにやと笑っている。
流れで恋人のことを話していたことに気づき、渡海は顔をハッとさせる。
向けられている目は興味津々といったものだった。それから逃げられず、渡海は渋々口を開いた。
「……一緒に住んでるやつがいるんだよ。そいつを不安にさせたばっかで、んなことできるわけねえ」
「この瞬間だけでいい」
稜の声がして、そちらに目をやると真面目な顔になっていた。
「……いや、そのときだけでも愛することなんかできねえ。歩を裏切ることになる……」
稜から目をそらすと、瑛二の声が耳に入った。
「歩っていうのか……」
独り言のような小さい声だったけれど、瑛二の口から歩の名前が飛び出したとき、心臓がどくんと大きく脈打った。
勝手に大きくなった目で瑛二を見つめているうちに、無言の圧力を感じてしまい、渡海は仕方なく話しだす。
「去年の秋、知り合ったんだ。瑠衣のことがあったから誰かと付き合うことに自信が持てなかったんだが、縁あって。ベルリンで女王サマを縛ったのを見てたらしくてな。言葉にはしねえが不安がってたんで、洗いざらい打ち明けたんだ。瑠衣のこと全部。そうしたら、それでも側にいるって言ってくれた。だから、そいつを裏切れない」
「ははーん。結構なカノジョじゃねえか」
「ああ。俺にはもったいねえくらいいい女なんだ。全てを打ち明けたあと、少しずつでもいいから、瑠衣から気持ちを向けてほしいって言われたんだ。裏切れねえだろ……」
捨て鉢に言うと、また瑛二の声がした。
「俺にとってのルカみてえだな。アユ、可愛いのか?」
「……アユ……」
下げていた目を上げ、渡海は呆れた顔を瑛二に向けた。
瑛二は愛称を勝手に作るやつだったことを思い出し、ため息の一つもつきたくなった。が、気を取り直し返事する。
「可愛いよ。気が強すぎるのが難点だが」
「んじゃ、まずはアユと話して向き合ってこいよ」
――は?
渡海は瑛二を凝視した。
歩に何を話せと言うのだ。意味が分からない。
「話して向き合ってこい、って言われても、あいつ、縄のこととか全然わかんねえし。それにルイのことは全部話した。隠していることなんかねえよ」
「ルゥの話じゃねえよ。今なんで躓いてるか、なんでこうやってウジウジ考えて迷ってんのか。カッコつけのお前のことだ、どうせ言ってねえだろ」
瑛二からあきれ果てたような顔とともに苦言を向けられ、渡海は息を飲み込んだ。
「気が強ぇならケツ引っ叩いてもらえよ。縄がわかんない奴だろうとそこまでついてきて一緒に暮らしてんだ。お前緊縛師だろ? 口で話せないなら縄で話せ」
「……縄で話せ?」
また理解に苦しむ言葉が飛び出した。
渡海は怪訝な顔をする。
すると、瑛二は持っていたグラスを勢いよく床に置いた。
「おっまえ、ほんっとに頭かってえな!!」
急に迫った瑛二の勢いに怯んでしまい、渡海は後ずさる。
「ちょ、瑛二さんうるさい。台無し」
稜が背後から瑛二のシャツの裾を引っ張ると、
「しょうがねえだろ稜っ、こいつこの頑固が――」
と、勢いよく振り返った。
「はいはい」
冷静な稜に瑛二が宥められる様子を眺めているうちに、渡海はようやく理解した。
「つまり。縄で話せってことは、縛れってことだろ?」
二人に視線をやりながら問いかけるが返事はない。
渡海は仕方なく、歩を縛ったときのことを話し始めた。
「あ……あいつを二度縛ったが、その、いろいろ大変だった……。あいつが縄に酔いやすいタチなだけに、その……。――だから、縛ったら、まずい、んだ。いろいろ……」
いざ口にすると、艶めかしい歩の姿が頭に浮かび、渡海はいたたまれなくなった。
しどろもどろになりながら視線をさまよわせていると、稜と瑛二の声が耳に入ってきた。
「あーあ、レアカスク旨いなあ」
「くっそ……こんな時じゃなかったら朝まで飲ませて吐かせてやるっつーのに……」
二人に目線を向けると、稜は澄ました顔でグラスを傾けているし、瑛二は悔しそうに水を飲んでいた。全身の火照りを持て余したまま彼らを眺めていると、せき払いのあと瑛二が口を開く。
「別に、そこまでしろとは言ってねえよ」
「え?」
聞き返すと、瑛二は真顔で答えた。
「縄で縛るってのがどういう行為か、ここ最近でお前もいろいろ知っただろ。整理ついでにアユに話しながら、手遊びでもいい、縄に触れてもらえ。どんな関係であっても受け手はいつも命がけなんだ。命の代償に愛されでもしなきゃ浮かばれねえよ」
「命の代償……か」
中略なし!
男縄会において多分ここが一番大変だったなぁと思います。どうやったら渡海に『癖を持った人間の飢餓感』に気づいてもらえるかと、瑛二と稜が奮闘しました。でも瑛二は結局堪えきれず怒鳴りました。
ヒントを出しても「歩がいるから」と頑なな渡海。瑛二たちにしたら「気持ちはわかるがそうじゃない」というところで。瑛二にしちゃあよく我慢したほうだ。
創作のちょっとした難しさの一つに、登場人物が何かに直面した際の『情報の出し方』と『情報の知り方』があります。
これだけがっぷりとしたコラボをするくらいです。谷崎さんも、緊縛の心得として何が必要か当然わかっています。だけど渡海くんはちゃんとわかってない。わかっていない登場人物を演出するって、実は難しいんですよ。
こんなところにしておきましょうか。
割とシリアス続きだったので、こういう笑えるところと真剣なところとが書くことができたのも楽しかった男縄会。
さて、残りラストまで。明日は谷崎さんの自萌えです。
後半は本当に見せ場だらけ。どんなシーンを上げてくるか、とっても楽しみです。