第8章 掃除がラクになる法則
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掃除予防
掃除予防を考えるには、方程式の現状分析が重要となる。
どこに、どんな汚れが付着しているかを理解し、その発生原因を改善し予防を考えていく。
掃除予防を考えながら、掃除の方程式の知識を追究して行くと、汚れにくく、掃除がラクになる法則が見えてくる。
そして、掃除予防の究極理論は、「掃除がラクになる法則」にあるとも言える。
*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2016年公開)
掃除をラクにするためには・・・
掃除をラクにするためには、住まい方の改善と、住まい自体の改善が大切である。
しかし、どのように改善すれば良いのか?を知るためには、どうして汚れるのか?や、どうして掃除が大変なのか?など、汚染原因を知ることが重要となる。
そして、私は知っている。ものには、掃除がラクなものと、大変なものがある。それは、長年の清掃実務経験から、感じていたことでもある。
掃除の方程式で原因を分析してみると・・・
掃除の方程式で原因を分析
掃除の方程式で始めに行う現状分析の「どんな汚れ?汚れの知識」と「どこに?素材の知識」がある。
汚れの知識で予防を考えると、掃除対象となる汚れは、主に素材の表面に付着している。そこで注目するべきは、なぜ汚れたのか?その付着原因を考えると、汚れが付着しにくい環境作りが大切なことに気付く。
極論を言うと、汚れなければ掃除をする必要はない。
しかし、現時点でそれは不可能といっても過言ではないので、汚れにくい環境を作るということが、掃除をラクにするということになる。
では、付着してしまった汚れについてはどのような対策があるのだろうか? 素材の知識で予防を考えると・・・
汚れが付着する場所となる素材自体に、汚れにくく掃除のしやすい物を活用することでも、掃除がラクになるといえる。つまり、掃除がラクな素材や商品を使用するということである。
例えば、
*汚れが付着しにくい素材は掃除がラクといえる。
*除去力として化学的な力や物理的な力を活用しやすい素材は掃除がラクといえる。
*掃除作業がラクなものは掃除がラクといえる。
さらに、ここで注目したのは素材の表面形状。
汚れは、素材表面に付着する。
とくに、素材の表面が平滑・密であれば、汚れは付着しにくく、
付着しても除去しやすいが、素材表面に凹凸や隙間が多ければ、
汚れは付着しやすいし、付着した汚れを除去するにも困難を伴う。
これは素材に限らず、モノの全体像や場所を含む室内空間で考えたときの形状にも当てはまるのである。
つまり、凹凸の有無や数や形状によって、汚れ方や掃除作業に大きな変化を及ぼすといえる。
そして、全ての凹凸が汚れやすく掃除が大変、というわけではない。
これらを考慮すると、凹凸を無くす又は使用場所や形態を工夫することは、汚れにくい環境を作ることや掃除がラクな素材を考えるうえでも重要なことであり、掃除をラクにするためにも必要な要素といえる。
作業方法の知識で予防を考えると、多くの予防対策を行ったとしても、長年の生活に伴う、経年の汚れは避けられないもの。
つまり、密閉された状態でない限り、汚れは必ず付着すると言える。
しかし、「掃除がラクな作業環境が確保」されていれば、汚れが付着しても掃除はラクに行える。
このことからも、用具や洗剤を含む、掃除がラクな作業環境を確保することは掃除をラクにするために大切な要素といえる。
これら4つの事をまとめると次のような法則が見えてくる。
掃除がラクになる法則(うえきの法則)
掃除予防理論の観点から、掃除の基礎知識を追求していくと、掃除がラクになる法則があることに気付く。
掃除がラクになる法則(別名:うえきの法則)
掃除をラクにするためには・・・
1. 汚れにくい環境を作る
2. 凹凸を無くす又は使用場所や形態を工夫する
3. 掃除がラクな素材を使用する
4. 掃除がラクな作業環境を確保する
*各法則は、それぞれが互いに矛盾しないように、組み合わせて使用することで、大きな効果を生み出す。
法則の内容は、いわれてみればあたりまえのことだが、以外にできていないものでもある。
1.汚れにくい環境を作る
汚れにくい環境を作ることで掃除をラクにする。極論を言うと、汚れなければ掃除をすることもないのだが、現時点で汚れない環境を作ることはおそらく不可能と言える。
したがって、掃除をラクにするための最も重要なことは、「汚れにくい環境を作る」こととなる。
汚れにくい環境を作るためには、最初に汚れについて考える。
それは、掃除の対象となる汚れを特定し、その発生原因や性質などの分析結果をもとに、掃除をラクにする、汚れにくい環境を作るための予防対策を考えるからである。
汚れにくい環境を作る手順
・汚れを特定する → ・発生原因や性質などを分析する → ・汚れの予防対策を行う
・汚れを特定する →
代表的な住まいの汚れについて紹介する。
汚れを分類する際、健康を重視するか、実際の掃除を重視するかで、汚れの特定や分類に違いもある。
健康に害を与える可能性と汚染範囲等を考慮して大きく3つに分けてみると、
1. ハウスダスト(ホコリ・PM2.5等)を含む室内空気汚染
2. 微生物や害虫等生物汚染
3. 日常生活に伴うその他の汚れ(代表的な汚れとして「油汚れ」やスケールとも呼ばれる「水アカ汚れ」がある)
のように分類することがでる。
その他、実際に家庭で行う掃除の、代表的な汚れを4つに分類してみると、
住まいの4大汚れに
1.「ホコリ汚れ」
2.「油汚れ」
3.「カビ汚れ」
4.「水アカ汚れ」
と分類することも出来る。
・発生原因や性質などを分析する →
予防したい汚れについて対策を考える。その際に、発生原因や場所、汚れの性質や付着する素材など、どんな汚れがどこに付着することを予防したいのように具体的に分析していくと、詳細な対策を考えることもできる。
・汚れの予防対策を行う
例えば、住まいの掃除対象となる汚れの分析結果を考慮して、汚れの発生量を減らすための対策や、掃除を行う素材(建築仕上げ材など)に汚れが付着しにくい、または付着させないための対策を考える。
室内環境で考えた場合、外部から室内へ汚れが侵入するのを防ぐなどの対策をすることで、汚れの発生量を減らすことができる。
さらに、汚れが室内に侵入または室内で発生した場合でも、汚れを速やかに除去するための対策をしておくことで、建材や素材に汚れが付着するのを軽減してくれる。
その他、生物的な汚れである場合には発生および発育させないための対策なども重要なこととなる。
このように、掃除の対象となる汚れの発生原因や性質を知り、それらを考慮した様々な対策を組み合わせることで汚れにくい環境を作ることができる。
また、室内の凹凸を無くしたり、掃除がラクな建材を使用したり、掃除がラクな作業環境を確保することで、掃除およびメンテナンスをラクにするなど、他の法則を採り入れて、汚れにくい環境を作ることも大切である。
2.凹凸を無くす又は使用場所や形態を工夫する
基本的に建物の形や建築材料(素材)の表面形状など、凹凸が無いほうが汚れにくく掃除がラクである。
その反対に、凹凸の頻度や周期が多いほど汚れの付着面も多くなるので、掃除の作業量が増えるほか、凹凸の形状が複雑なほど汚れの除去は困難なものとなる。
しかし、凹凸による素材の質感やデザイン的な長所などは捨てがたいものである。そこで、汚れの性質や掃除のことを考慮すると、汚れにくい凹凸があることが解った。
凹凸にも汚れにくいものや掃除がラクなもの、掃除がラクな作業環境を確保するための凹凸など、使用場所や用途に応じて色々な凹凸があり、それらをうまく使うことで掃除をラクにする。
また、凹凸は汚れやすいということを認識していれば、凹凸を多く使用する個所には他の法則を採り入れることで掃除をラクにすることもできる。
例えば、新築やリフォームの際に、設計の段階から室内全体としての凹凸について考えてみる。
ほこり汚れの性質を考慮すると、汚れが付着しやすい凹凸と付着しにくい凹凸がある。
住まいの設計を考えるとき、安全性はもちろんのことデザイン性や生活に伴う快適性を採り入れることで、室内の凹凸は増えていく傾向がある。
とくに居住後の室内には、各居住者のライフスタイルにより家具や家電などの“もの”が増えていくため、凹凸が多くなる要因が増えることにもなる。
これらを解決するには、収納スペースの確保やデザイン性や快適性を持ちつつ、凹凸が無い又は使用場所や形態を工夫して、汚れにくい凹凸を積極的に採り入れていくなどの対策をする。
この他にも、汚れにくい凹凸理論は存在する。
例) ほこりなどの汚れが付着しにくい室内の凹凸
3.掃除がラクな素材を使用する
住まいの汚れは建材(素材)に付着するものであり、その建材には掃除がラクなものから大変なものまである。
外装や内装材を選ぶ時、デザインや機能性で選ぶのも良いが、居住後の掃除も考えて選ぶ事が大切である。
使用する建材の性質や、形状および使用場所などにより掃除作業に大きな影響を与える。
物理的な性質で考えると、建材の表面が平滑・密であれば、汚れは付着しにくく、付着しても除去しやすいが、建材表面に凹凸や隙間が多ければ、汚れは付着しやすいし、付着した汚れを除去するにも困難を伴う。
化学的な性質で考えると、耐水性や耐洗剤性などに優れた建材は掃除がラクといえるが、その反対に、水や洗剤に弱い性質や吸水性がある建材は掃除が大変といえる。
また、キッチンやお風呂場やトイレなどといった住宅設備も、各種建材の集合体として捉え、掃除がラクなものを使用する。あらかじめ掃除の事も考えられて作られた建材を使用することは、掃除をラクにする有効な手段でもある。
このように、建材には掃除のしやすいものがあり、それらを使用することで掃除をラクにする。
例えば、住宅に使用される建材の種類や販売されている商品数はかなり多く、どのような建材を選べば掃除がラクであるのか迷うほどである。
そこで一つの目安として、掃除がラクになる法則をもとに、掃除がラクな建材選びのポイントを挙げてみた。
次に記す3つの内容に1つでも多く当てはまる商品(建材)は掃除がラクということになる。
① 汚れにくい対策がしてある商品
(構造やコーティングにより防汚対策がされているなど、汚れにくい商品を選ぶ)
② 凹凸が無い又は掃除がラクな凹凸をしている
(凹凸を無い又は使用場所や形態が工夫されていて、掃除がラクな凹凸をしている商品を選ぶ)
③ 掃除のことも考えて作られている商品
(商品の掃除方法の説明や、掃除がラクになる工夫がされている商品を選ぶ)
○注 揮発性化学物質が含まれている建材をできるだけ使わないようする
室内に使用される建材には、ホルムアルデヒド放散量の等級が表示されている。自然素材や放散量の少ない材料を使用するなど、シックハウス対策も併せて行うと良い。
4.掃除がラクな作業環境を確保する
掃除のしやすい作業環境を確保することで、作業時間と作業量の短縮を可能にする。
設計の段階から入居後の掃除をイメージし、ラクな掃除方法を考えその対策をする。
この時、居住者による日常的な掃除方法とその作業環境に加え、専門業者による掃除(メンテナンス)の作業環境も併せて対策する事で、長期的な維持管理をラクに行える。
例えば、掃除の作業環境を考えるまえに、居住後の掃除作業をどのように行うのか?を考える。掃除の方程式で表すと、作業方法の知識などが参考になる。また、私のまとめた住まいの掃除マニュアル(*別紙)や必要とされる各場所や汚れに対する掃除方法を調べることも出来る。
その作業内容により、必要とされる用具や設備などがみえてくる。
そして、作業が効率よく行えるための環境を整備することが、掃除をラクにし、日常生活に伴う汚れ対策となる。
掃除用具などの置き場、掃除に必要な設備(電源や水栓などの場所)、メンテナンス用の点検口設置(床下や壁や天井など)、etcまで、居住後の掃除およびメンテナンスのラクな環境を整えるための対策を行う。
掃除がラクになる法則を活用する
掃除がラクになる法則を活用することで、今までよりも掃除がラクになる。
掃除予防に法則を取り入れて対策を考えると良い。
例えば、「住まい方の改善」として、室内でホコリが多く舞っている時などは、網戸を閉めての窓開け換気やレンジフードや換気扇を積極的に使う事で、ホコリや空気の汚れを速やかに排除し、外から新鮮な空気を取り入れて「汚れにくい環境を作る」事が出来る。
最も効果が高いのは、家や物を作る時に取り入れることである。
掃除予防の「住まいの改善対策」で、新築やリフォームの場合、法則を採り入れて設計するとより効果的である。
これは、住まいに限らず建物すなわち(戸建・マンション・店舗・ビル・他)や様々な製品にも当てはまる。
*具体的には、掃除がラクな家の構想案で紹介している。
掃除がラクになる法則を「住まい方の改善」と「住まいの改善」に取り入れて、それぞれの環境や人に適した掃除予防の対策を行うことができる。
掃除がラクになる法則の議論について
法則は、まだ議論の余地が大いにあると考えている。
例えば、法則の「汚れにくい環境を作る」という項目があるが、現時点で掃除をラクにするための究極の答えでもある。
他の項目は、汚れにくい環境を作るためでもあるからだ。
また、他の項目以外にも汚れにくい環境を作る項目があり、その他の項目は全て汚れにくい環境を作るに分類している。
例えば、汚れているという感覚やどこまでキレイにしたいかという感覚は人それぞれ異なる。
掃除が苦手で多少の汚れは気にならないという人の場合、素材の色などによる「汚れが目立たない工夫」などもあるからである。汚れが目立たなければ掃除を行う回数も減り、掃除がラクになるとも言える。
これらのことからも、掃除がラクになる法則については、掃除の方程式のような完成度はなく、私個人の見解だけでは現時点で未知なる部分があり、今後の研究と他分野の専門家など多くの人の議論の基に、掃除学という学問は進化していくものと考えている。
掃除学:基礎理論まとめ
まだ紹介したい内容も多くあるのだが、「掃除学」本サイトにおける掃除の基礎理論は一旦締めくくる。
他の専門分野の知識や専門家が加わるなど、より掘り下げて追求していくことで学問としてさらなる進化が期待できる。
例えば、各汚れに対する専門家や素材・材料などに関する専門家、化学や洗剤・物理や用具に関する専門家、作業や予防や人の行動や意識に関する専門家などなど、基礎理論がまとまることで関わる専門家も多く明確になっていくものでもある。
そして、掃除学の基礎理論の集約は、掃除の方程式である。
掃除方法決定の指標的役割を担う、公式「掃除の方程式」の考案は、掃除に関する国家資格でまとめられた知識や理論に、多くの影響を受けている。
これに、長年の実務経験による現場理論などを含む、新たな項目を加えて、理論をまとめ直したものから、「掃除の方程式」が考案された。
そして、今までの掃除に対する「汚れたから掃除する」「掃除はしなければいけない」という固定概念を取り払い、掃除の回数を減らしたい、または、できる限り掃除をラクにするという発想が、掃除予防の究極理論「掃除がラクになる法則」の考案につながった。
掃除学は学問の一つである。
学問とは、多くの人の知恵が加わり議論が交わされることで、進化し洗練されていくものだと感じている。
掃除の方程式も掃除がラクになる法則も、私の個人研究から考案されたものであり、一つの問題定義と捉えて、掃除学という新しい学問をより多くの人に議論していただき、より洗練された基礎理論の発展を望んでいる。
そのことにより、私たちの生活に欠かせない「掃除」に関する多くの問題が解決されていき、より快適で健康な暮らしに発展していくものと感じている。
次回、掃除学:第2編(関連知識)第1章「掃除とは」 について解説。
著者:植木照夫(クリーンプロデューサー、ベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)