プロの道具
建築現場で職人さん達の使う道具に感心してしまうことが時々ある。
写真は電気工事の職人が使っているもので、最近よく見かけるようになった。
タバコの箱ぐらいの大きさの、アクリル製の四角い定規である。
縦・横に5ミリピッチの目盛り、中心のマーク、水平・垂直の水準器、長辺小端に
フェライトのマグネットプレート。これだけが組み込まれている。
こいつが実に「優れモノ」だ。
まず本体の大きさ。スイッチ・コンセントを取付けるために壁に開ける穴のサイズ
になっているのだ。中心マークでねらいを定めたら、水平垂直を確かめて、鉛筆で
本体周囲をグルリとなぞれば、一発で穴開けラインが決まる。
分電盤などを取付ける際には、こいつを横のマグネットで分電盤に貼付けておく。
両手で盤を持ちながらも、水平垂直を確かめられるのだ。
目盛りが5ミリピッチというのも簡潔でいい。5ミリまで判れば1ミリまでも目安
できる。だいいち見易い。
本体の厚みは19.5ミリで、これもきっとワケがあるにちがいない。
こいつの使い方が解ってくると、本体が透明であることもうなずける。もっとも、
腰の道具ベルトに頻繁に出し入れするうちに、表面が一様に傷だらけになってきて
半透明に見える。最初に目にした時は、乳白アクリルかと思った。
使い勝手はもちろんのこと、形があまりにシンプルで美しいので欲しくなった。
その日の作業が終わる頃を見計らって、「俺に譲ってくれ」と言ったら、もちろん
断られた。「明日の仕事が出来ねえじゃねえか」
だが翌週現場に行くと、新しいのを買ったから使い古しの方を私にくれると言う。
これを手に嬉しそうにしている私に「日曜大工でもするのかい?」と聞くので、
「机の上に飾っておくんだ」と答えた。「ハァ?」と不思議そうな顔をしながら、
「しょうがねえなぁ・・・」と新しい方と交換してくれた。
自分で使い(え)もしない道具を持って愛でてるのは、ちょっとキモチワルイ気も
するが、このコラムのネタにはなったので・・・まっ いいか。
(増田 奏)