崎山御殿(御茶屋御殿)の獅子
あまり観光客が訪れないが、琉球の歴史好きには是非寄っていただきたい場所がある。
1677年に建てられた首里崎山町の崎山御殿。
現在は首里カトリック教会と小学校が建つその場所に、かつては中国からの冊封使を招いた御茶屋御殿(東苑)があったということで、私の散歩コースの定番の場所にしています。
そこでは芸能、茶道、武芸などが盛んに行われたことが記録から分かっています。
ずいぶん前の話ですが、箏曲の発表会で琉球古典音楽の「江佐節」の歌伴奏を務めた事がありました。
その江佐節の歌詞に「じんやちゃらとぅぶす」という聞きなれない歌詞がありましたので、じん とは何かと調べました。
「じん」とは香木のお香であり、「ちゃら」とはそれも高級なクラスのお香だと分かりました。
江佐節
沈香や伽羅飛ぶす
御座敷に出じて
踊るわが袖の
匂ひのしゅらさ
私なりに簡単に訳しましたら(勝手に)
「香り高き伽羅を漂わせた御座敷に出て踊り、
私の着物の袖から香る匂いの美しさといいなんという喜びでしょう」
と当時のお座敷の雰囲気を美しく伝え、楽童子らの様子が見て取れる三八六の琉歌に身も心も奪われました。
もしかすると、この江佐節の舞台となったのはこの御茶屋御殿なのではないか、などと勝手に想像したのでございます。
冊封使を招く大事な場所ですから、質の高い香りや食事が出されたと考えてもおかしくはないですね。
戦争の影響で破滅的に失われたこの御茶屋御殿も、歌に残された背景や思いをくみ取って大いに想像力を働かせる事で充分に楽しいものです。
また、御茶屋御殿にあった石造の獅子が、そう離れてない雨乞嶽に今もまだ残されています。
当時の歴史、人物、音や匂いを、この獅子はどんな思いで見守ってきたのだろうかと、想いを馳せずにはいられません。