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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

秋篠月淸集卷三秋/藤原良經

2020.06.08 23:11


秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]



秋篠月淸集三

 秋部

  立秋

したくさにつゆおきそへてあきの來るけしきのもりにひくらしそなく

くるかたはにしときけともけふの日の出つるよりこそあきはたちけれ

  水邊立秋

まつかけやなつなきとしのしみつにもけにあきかせはけふそたちける

  秋の始に

あさちはらあきかせたちぬこれそこのなかめなれにしをのゝふるさと

おのれのみいはにくたくるなみのおとに我もありとやいそのまつかせ

つゆのしたにみちありとてや秋はこしむくらのにはにつきのみそすむ

いろかはるつゆのみそてに散りやせむみねのあきかせこの葉あをくて

こすゑふくかせのひゝきにあきはあれとまたいろわかぬみねのしひ柴

  院の選哥合の十首のうち山家秋月

ときしもあれふるさとひとはおともせてみやまのつきにあき風そふく

  湖上曉霧

志賀のうらのさゝ波しらむきりのうちにほのほのいつる沖のともふね

  院の八月十五夜の選哥合の十首の哥に月多秋友

つきならてたれかはしらむきみかよにあきのこよひのいくめくりとも

  月前松風

あきのよのひかりもこゑもひとつにてつきのかつらにまつかせそふく

  月下擣衣

さとはあれてつきやあらぬとうらみてもたれ淺茅生にころもうつらむ

  海邊秋月

たちかへりけふりなたてそすまのあまのしほくむ袖につきそやとれる

  湖上月明

あふさかのやまこえはてゝなかむれはにほてるつきは千さとなりけり[鳰]

  古寺殘月

鐘のおとにはつ瀬の檜はらたつね來てわくるこのまにありあけのつき

  深山曉月

ふかゝらぬ外やまのいほのねさめたにさそな木のまのつきはさひしき

  野月露凉

あきのゝの篠につゆおくすゝのいほはすゝろにつきもぬるゝかほなる

  田家見(レ)月

あきのくもしくとは見れといなむしろふし見のさとはつきのみそすむ

  河月似(レ)氷

これもまたかみよはしらすたつたかはつきのこほりにみつくゝるなり

  おなし夜當座の御會に月前雁

かりかねもくものころもをいとひけりおのか羽かせにすめるよのつき

  院の十首の哥合に月前雁

つきかけやなみをむすはぬうすこほりしき津のうらによするふなひと

  山嵐

うちしくれよものこの葉はいろつきてみやまのあらしあきをふくなり

  院にて和哥所始之後初度之影供哥合に初秋曉露

あきの來ていくかもあらぬをきはらやあかつきつゆのそてになれぬる

  關路秋風

ひとすまぬ不破のせき屋のいたひさしあれにしのちはたゝあきのかせ

  聞旅月鹿[旅月聞鹿歟][定家本此詞哥こゝには無之イ]

わすれすよかりねにつきをみやきのゝまくらにちかきさをしかのこゑ

  故鄕蟲

たかまとのをのへのみやのあきはきをたれきて見よとまつむしのこゑ

  院の影供の哥合に江月聞(レ)雁

夜をかさねたまえにおるゝかりのこゑあしまのつきにたつそらやなき

  夜風似(レ)雨

みやきのゝ木のしたかせのはらふ夜はおともしつくもむらさめのそら

  おなし夜の當座の御會に山家擣衣

ふるさとをゆめにたに見むやまかつのよはのさころもうちも寢なゝむ

  おなし影供に月前秋風

ゆきかへりつきとまつとにふくあらしはれてのくもにつゆそこほるゝ

  水路秋月

ひさかたのあまのかはよりかへるらしくたすうき木をおくるつきかけ

  關路曉霧

わするなよきりのまよひにひと夜ねてせきこき出つる須磨のともふね

  院にて八月十五夜の當座御會に秋月の和歌五首

あらしふきむら雲まよふゆふへよりいてやらぬつきも見るこゝちする

きゝすてゝぬる夜もひとよありなましにはのまつかせつきにふかすは

のち見むとゆくすゑとほくちきるかなこよひはふけぬあきのよのつき

つゆといへはかならすつきそ宿りけるそれゆゑおかぬかりのなみたも

きのふまてあきのなかはとまちし夜はたゝこよひそとすめるつきかな

  八幡若宮の哥あはせ院より侍けるに六首のうち初秋風

やはたやまにしにあらしのあきふけはかはなみしろきよとのあけほの

  野徑月

をちこちのかきりもしらぬのへのつきゆきつくはてやみねのしらくも

  故鄕霧

やまとかもしきしまのみやしきしのふむかしをいとゝきりやへたてむ

  海邊雁

しらくもにつはさしをれしかりかねのおりゐるいそもなみやひまなき

  宇治の御所にて院の御會に山風

すゑとほきあさ日のやまのみねにおふるまつには風もときはなりけり

  水月

こよひしもやそうちかはにすむつきをなからのはしのうへに見るかな

  野路

みやこよりわけくるひとのそて見れはつゆふかくさのひとそしらるゝ

  八月十五夜の五首五辻殿の初度の御會に松間月

いまよりはこゝに千とせをまつかけにすまむつきとはしるやしらすや

  野邊月

このさとはきたのゝはらのちかけれはくまなきつきのたのもしきかな

  田家月

いねかてにいくよをつみてみたやもりとまもあらはのつきにふすらむ

  羇旅月

みやこにはつきのくもゐになかむらむ千さとのやまのいほのかけみち

  名所月

こよひならてほかに見し夜はやみなれやいまこそつきはすまのうら波

  八月十五夜翫(レ)月おなし當座の會に

ゆくあきもいまやなかはにすきぬらむつきにねぬ夜のかねのひとこゑ

  家の選哥合に山月

あしひきのやまのたかねはひさかたのつきのみやこのふもとなりけり

  野風

そてのつゆかゝれとてやはしめしのにすゝのしの屋をはらふあきかせ

  秋の夕暮に

なにゆゑとおもひもわかぬたもとかなむなしきそらのあきのゆふくれ

あきの色をこゝろにそめてのちそおもふつゆもしくれも人のためとは

あきといへはゆふくれことのなかめゆゑそのゆゑもなき物おもひかな

袖のうへはたゝこのころのつゆおきて世をはうらみすあきそかなしき

見もしらぬむかしのひとのこゝろまてあらしにこもるゆふくれのそら

  古鄕秋

來ぬひとをうらむるやとのゆふくれにおもひすつれとをきのうはかせ

あきかせにをきの葉すさふゆふまくれたか住みすてしやとのまかきそ

出てゝいにし人はかへらてくすの葉のかせにうらむるふるさとのあき

なかめわひたれいてにけむふるさとのあきをのこせるをきのうはかせ

つゆのそてしものさむしろいかならむあさちかたしくを野のふるさと

  あきのうたよみけるなかに

みよしのをあきのはるにてなかむれはあけほのよりもゆふくれのそら

はるこそはあけほのことになかめしかまたこのころのうすきりのそら

つゆふかしとはかり見つるあさちはらくるれはむしのこゑもみちぬる

にはふかきまかきのゝへのむしのねをつきとかせとのしたにきくかな

むらさめはほとなくすきて日くらしのなくやまかけにはきのしたつゆ

くさふかき野へはひとつに見しかともおもひわくへきはなさかりかな

のなかなるあしのまろ屋にたれすみてうつらのとこのともとなるらむ

うちなひくいり江の尾はなほの見えてゆふなみまかふまのゝうらかせ

  庭草露滋

おくつゆをはらはて見れはあさちはらたましくにはとなりにけるかな

  蟲聲非(レ)一

さまさまのあさちかはらのむしのねをあはれひとつにきゝそなしつる

  田家秋

かせのおとは蘆のまろ屋にしくれ來てあらぬくもしくあきのをやま田

  風破(二)曉夢(一)

見るゆめはみやまおろしにたえはてゝつきはのきはのみねにかゝりぬ

  萩

ふるさとのにはのこはきのはなさかりしかなけとてや野へになりにし

  女郎花

かせふけはたま散るのへにをれふしてまくらつゆけきをみなへしかな

  鹿

あきのかせをのへのまつにことゝへはひとはこたへすさをしかのこゑ

むさしのゝしのゝをすゝきさむき夜につまもこもらぬをしかなくなり

  初雁

あきも來ぬかせもすゝしくなりぬとやさむきこし路をいつるかりかね

はつかりのなみたおちそふはきのうへにしたつゆよりも色そありける

  水風

しみつせくまつのしたかせふきまよひなみにそうかふひくらしのこゑ

うちなひくいはもとこすけたま散りてあらしもおつるやまかはのみつ

  名所を四季によせてゆみける中に宮城野秋

みやき野の木のしたつゆをかたしきてそてにこはきのかたみをや見む

  須磨關月

すまのせきふけゆくなみのうきまくらともなふつきそうらつたひゆく

  月前草花

はるゝ夜におのかしたつゆかす見せてつきにそやとるにはのはきはら

  月照(二)窓竹(一)

くれたけはまとうつあめのこゑなからくもらぬつきのもりあかすかな

  林中曉月

もろともにみねの木のまをわけゆけはそてにたまらぬありあけのつき

  連夜見(レ)月

くもらはとたのむゆめ路もわすられていく夜のまとにつきをみるらむ

  詠(レ)月五首未(レ)出月

やすらひにやまこえやらぬなかつきのつきまちくらすそてのしらつゆ

  初昇月

やまかけのみつにひかりもみちぬらむみねをはなるゝあきのよのつき

  停午月

あきのよもふけぬるほとはのこりけりしはしいそくなつきのゆくすゑ

  漸傾月

たちはてゝなかむるかたそかはりぬる寢ぬ夜のつきのかけにまかせて

  入後月

なほうきはくもらぬ名のみのこる夜のつきはとまらぬあかつきのやま

  山月

やまふかみゝやこをくものよそに見てたれなかむらむさらしなのつき

  山居月

やまふかみけにかよひ路やたえにけむさらすはつきにおとつれもかな

  八月十五夜座主のもとより

こよひかもこゝろのそらにまちしあきは山のはにたにくものなきかな

たくひなきひかりにいろもそひなましこよひのつきをきみとみたらは

  かへし

はれそめてまたゝなひかぬくもまてもおもひしまゝのやまのはのつき

きみと見むそのおもかけをやとしてもそてあはれなるわかやとのつき

  内大臣のこと侍りける比無動寺の法印のもとへつかはしける

とへかしなかけをならへてむかし見しひとなき夜はのつきはいかにと

  かへし[此二首定家本に書入之但哀傷部に入]

いにしへのかけなきやとにすむつきはこゝろをやりてとふとしらすや

  月のくまなかりける夜なかめあかして

袖のうへにやとかすつゆのたまらすはたゝくもゐなるあきのよのつき

すむつきよいくさとひとのそてのうへにひかりをわけて宿りきつらむ

ものおもふわれかはあやなあきのつきたつねてそてのつゆにすむらむ

身やはうきそらやはつらきあきのつきいかになかめてそてぬらすらむ

ことしとてあきやはかはるつきかけにならはぬほとのこゝろそひぬる

見るつきはやまよりやまにうつり來ぬ寐ぬ夜のはてのあかつきのそら

  いかなりけるときにか

おもひいてゝなくなく月にたつねすはまてとちきりしなかやたえなむ

  つきのうたよみける中に

はるはなほこゝろあてにそはなは見しくもゝまかはぬみよしののつき

あはゆきをはるのひかりに見しよりもくもまのつきのにはのむらきえ

それもなほこゝろのはてはありぬへしつき見ぬあきのしほかまのうら

ひろさはのいけの水くさをふきよせてかせよりはるゝなみのつきかけ

手にくみしやまゐのみつにすまねともあかてわかるゝしのゝめのつき

へにけりなことしもはるをみよしのゝいまさらしなにあきふくるまて

  一二三を句の上にすゑて秋の哥よみける

ひとむらのむかしのすゝきおもひいてゝしけき野わくるあきのゆふ暮

ふたもとのすきのこすゑははつしくれふるかはのへにいろもかはらす

みか月のありあけのそらにかはるまてまきの戶さゝぬあきのよなよな

よつのうみかせしつかなるなみのうへにくもりなきよのつきを見る哉

さつきやまともしにもれしさをしかのあきはおもひに身をしをるらむ

みなつきのそらにいとひしうつせみのいまはあきなるねをやなくらむ

たなはたのあきのなぬかにしられにきしのひかぬへきそらのけしきは

やへしけるむくらのかとにゆふきりのかさねてとつるあきのやまさと

こゝのへやなかき夜すからもるみつのおとさへさむきにはのはつしも

とかへりのはな咲くまつもくちにけりあさかほのみやはかなかるへき

  秋の夜に

ちきりおかぬなかこそあらめあきの夜のなかきおもひをとふ人もかな

くらきよのまとうつあめにおとろけはのきはのまつにあきかせそふく

きゝあかすまつのあらしのこゑなくはしくれぬひまやゆめ路ならまし

ものおもふ千よをひと夜もかきりあれはまとより西につきはめくりぬ

  秋のうたよみける中に

あきそかしくさにも木にもつゆ見えてつきにしかなくありあけのやま

木のもとにつもるこの葉をかきつめてつゆあたゝむるあきのさかつき

あきといへはなへてくさ木もしをれけり我そてのみとおもひけるかな

あかつきのしきの羽おとはしくれにてすゝのしの屋につきそもりくる

  野分を

くさも木ものわきにたへぬゆふくれにすそのゝいろのつゆそくたくる

  霧

ときしらぬやまさへときをしりにけりふちのけふりをきりにまかへて

やまさとはひとりおとするまつかせをなかめやるにもあきのゆふきり

  座主無動寺にはへりけるにつかはしける

きみかすむやまのおくをも見つるかななかき夜ころのゆめのかよひ路

世のうきをよそにきくなるやまのおくに猶しかなかはおなしあきかせ

としへにしわかたつそまのすきむらにいくあきかせのきみをとふらむ

あはれいかに志賀のあきゝりほのほのとうらこく舟のあとなかむらむ

つたへくるあとはつきせしいはか根のうこくことなきてらのしるしは

  かへし

ふみ見てもわかおもひをもおもひしるしのふ日ころのゆめのかよひ路

鹿はなけと世のうきことをよそにきくやまのおくにはあらぬあきかせ

かせならてきみかとふこそうれしけれわかたつそまのすきのしるしに

からさきやあきのあさ霧ほのほのとしまなきふねのあとをしそおもふ

いはかねやきみかゆかりのきみなくはうこかぬてらもあとなからまし

  九月九日作文しけるとき中宮大夫詩をおくるへきよしかねていへりけるをその日になりてたまはせさりけれは後朝につかはしける

しらきくの眞かきさひしく見えしかなきみかこと葉のはなをよそにて

  かへし

  中宮大夫

しらきくのはなもてやつすことの葉はなかなかなりやきみかまかきに

  さて十三夜にこそ詩をおくらめと侍りけれは

さりともなその夜のつきのくもらすはこと葉のつゆをみかゝさらめや

  かへし

  中宮大夫

みかくへきことはのつゆのおかはこそその夜のつきのかけもまたれめ

  又

みかき[くイ]おく詞のつゆのもりこすはその夜のつきそ五月雨の空

  かへしにつけて詩をおくるとて

  中宮大夫

おほかたのこよひのつきはくまなきにこと葉のつゆにさみたれそふる

  かへし

ことの葉はそらにしらるゝひかりにてこよひのつきはみかかれにけり

  終夜擣衣

ころもうつあはれは夜はのものなれやつきいりぬれはこゑたゆむなり

  擣衣

かへるへきこしのたひひとまちかねてみやこのつきにころもうつなり

  しくれをきゝて

おほかたのあはれにすくるむらしくれきゝわくそてにいろは見ゆらむ

  菊

やまかはのすゑのなかれもにひふなりたにのしらきく咲きにけらしも

  紅葉

たつたやまゝつのあなたのうすもみちしくれおくあるあきのいろかな

  庭霜

ふるさとのはらはぬにはにあとゝちてこの葉やしものしたにくちなむ

  燕子樓中霜月夜秋來只爲一人長といふこゝろを

ひとりのみつきとしもとにおきゐつゝやかてわか世もふけやしにけむ

  秋の暮に

やとさひてにはにこの葉のつもるよりひとまつむしもこゑよわるなり

つきかけはありあけかたによわりきてはけしくなりぬやまおろしの風

しもむすふあきのすゑにもなりぬれはすそのゝくさもかせいたむなり

なかつきのすゑ葉のゝへはうらかれてくさのはらよりかはるいろかな

  九月盡

眞くすはらあきかへりぬるゆふくれは

   かせこそひとの

      こゝろなりけれ