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紺碧の採掘師

第3章 01

2020.06.10 07:42

それから2日後の朝。

護を乗せた木箱を吊り下げて飛んでいるターさん。ケテル石が採れる浮島の大地に降りる。

ターさん「多分、君は黒石剣よりこっちの方が合うと思うんだ」と言い自分の斧を見せると「今日は君の白石斧を作ろう。」

護「俺の?」

ターさん「うん。まずは斧の刃になりそうな硬いケテル石を探して、黒石剣で板状に切る。幅と高さはこれより一回り大きく。大雑把でいいから」と自分の斧を立てて護に指示する

護「なるほど。」と言うと「自分の採った石で作る斧か…」と嬉しそうな顔をする

ターさん「自分専用の斧だよ。いいだろ?」

護「うん!」とニコニコ

ターさん「じゃあ俺は別の所で採掘してくる」と言い木箱を持って飛んでいく

護、ニコニコしたまま「かなり硬い奴を探さないと」

黒石剣を片手に、あちこちのケテル石をコンコンと叩き始める。妖精がそれを面白そうに見ながら護について歩く。

護は暫くアチコチ走り回ってケテル石をコンコン叩いていたが、崖近くのケテル石を叩いた時に「ん」と気づいてちょっと強めに叩いてみる。(これ、いいかも)そしてちょっと叩き切ってみるが「うーん。」と悩んで「もうちょっと…」暫くウロウロしてケテル石を見つけては叩いたり切ったり。

護、切った石をいくつか並べて「うーん。」と悩むと、妖精をみて「どれがいいと思う?」

すると妖精は長い耳でクイクイと合図をしてトコトコと歩き出す。

護「ついて来いって?」護が付いていくと、妖精は近くにあった鈍い輝きのケテル石の柱の上に乗る。

護「これ…?」と言ってコンコンと黒石剣で叩くと「んー?」と驚いて「これは。手ごたえが違う!」そして妖精を見て「さすが石の妖精!」

妖精、嬉しそうにポコポコと踊る

護「これをどう切ったものか。上手く切らないと、石を活かせない…。」と真剣な表情で石を叩きつつ考えていたが、所々をちょっと削り落とすように切ってから「よぉーし」と言い、ちょっとドキドキしながら、緊張した面持ちで「ハッ!」と気合と共に一気に石柱の根元を叩き切り、柱を横に倒す。それから柱の右側側面を切り、左側を切り、真ん中に残った板状の石を片手で抑えつつ、黒石剣を地面に置くと、板状になった石を持ち上げて空に掲げて「採れた!」

すると背後からパチパチと拍手が聞こえる。振り向くとターさん。その後ろに石を積んだ木箱。

ターさん「なかなか良い石みつけたな。じゃあそれを斧にしよう。それ、この辺りに置いて」と地面を指差す

護「はい!」護は石を寝かせる

ターさん、腰につけた道具入れのポーチからノミと金槌を取り出すと、ケテル石板のアチコチをコンコンと叩き始める。暫く叩いてから狙いを定めてノミで亀裂を入れ始める。暫くすると石板が大雑把な斧の形になる

ターさん「よし。あとは街に行って職人に頼んで仕上げてもらおう。」

護「街?…もしかして有翼種の街?」

ターさん「うん。」と言い、切り落としたケテル石を指差し「この破片は売れるから持っていく」と言い斧と一緒に木箱に入れると「今日はこれから街に行くよ」

護「…俺が行ってもいいのかな」と不安げな顔をする

ターさん「行かなきゃダメじゃん。君の服を買ったりしないと」

護「そうか、いつまでもターさんの服を借りていられない。代金は働いて返すので」

ターさん「じゃあ頑張って売れる石を採らないとね!」

護「う、うん。迎えが来るまで…。」

ターさん「もう来ないんじゃない?」

護「え」

ターさん「だって昨日も来なかったし。君の無事が分かって安心しちゃったんだよ、きっと。」

護「そうかなぁ…。」

ターさん「ここに来るの大変だからね。諦めたんだろ。」

護「…それちょっと寂しいなぁ…。」

ターさん笑って「何を言ってる!ともかく街に行くよ!今日は久々に街に泊まりだ。美味いゴハン食べてこよう!」


暫し後、護入りの木箱を吊り下げて飛ぶターさん。高度を下げて森の中の街道に沿ってゆっくり飛びながら

ターさん「あ、ちなみに今夜、護君は一人で宿に泊まってくれるかな。俺は実家に行くので」

護「実家?そうか、向こうは仕事の為の家か」

ターさん「流石に突然、人工種を連れて実家に行けないから」

護「大丈夫どこでも寝ます!あ、宿代は」

ターさん「売れる石を採ったら俺に支払って。」と言い「えーと、確かこの辺りだったような…」と呟く。すると突然何かにバチンと弾き飛ばされて護が木箱から落ちる。

護「うわ!」

ターさん「あら。」

そこへ「おーい」と声がして屈強な有翼種が降りて来ると「ターさん…」と言って護を見て「あれ?」と言って「引っかかったのはこっちか」

ターさん「はい。」

有翼種「良かった。『壁』が間違えてターさんを弾いたのかと思った。…無断で友達を外に連れ出しちゃダメだろ。ちゃんと申請しないから弾かれる」と言い「じゃあ君、翼から古い羽根を一枚…」と言って護を見て「羽根…。」

護「ありません。人工種なので」

有翼種「えっ?」と言ってから「無い?」

ターさん「彼は人工種だから。」

有翼種「人工種?!」

護「はい。行き倒れていた所をターメリックさんに助けて頂きました。十六夜護と申します。」

有翼種「た…助けたって」とターさんを見て「…とんでもない奴を」

ターさん「だって見殺しには出来ないし」

有翼種「それは…、まぁ、とにかく、ちょっと待った、相談してくる」と言い「ここに居ろよ!ここに!」と言って飛んでいく。

護、ターさんに「どういう事?」

ターさん「ここに、イェソドを守る為の『壁』と呼ばれる見えないバリアがあるの。」

護「イェソド?」

ターさん「イェソド鉱石の、イェソド。ここはイェソド山の麓だよ。これから行くのはケセドの街」



暫し後。3人の有翼種に囲まれて街を歩いている護。ターさんはいないけど妖精はいる。さらに護を見に来た野次馬もいる。

護、キョロキョロと周囲を見つつ(これが有翼種の街…。ケテル石を使った建物が多い。ケテルがメジャーな石材ってこういう事か。)

いかつい建物の中に入る護たち。受付カウンターのあるロビーのような場所に、初老の有翼種を中心として数人の有翼種が集っていた。護たちは初老の有翼種の前に立つ。

有翼種「連れて来ました。人工種です。」

護、緊張の面持ちで「初めまして、十六夜護と申します。…ご迷惑かけて、大変申し訳ありません」

護の周囲を妖精がトコトコと歩き回る。初老の有翼種はじーっと護を見て「…妖精に好かれとる。」と言うと、護に「貴方はどうやってイェソドへ来たのかな?」

護「事故です。採掘作業中に地下の川に落ちて、流されて、気が付いたらターメリックさんに救助されていました。」

初老の有翼種「すると仲間は貴方を探していますね。」

護「恐らく…。」

初老の有翼種「仲間の所に戻りたいですか。」

護「…もし仲間が探しに来てくれたらその時は戻るかもしれませんが、そうでなければここに居たいと思います。」

初老の有翼種「なぜ」

護「ターメリックさんと一緒に採掘するのが楽しいので」

すると初老の有翼種はキョトンとした顔をして「ほぉ」と言う。「楽しい。どんな所が」

護「…自由な所、でしょうか。」

初老の有翼種「すると人工種の採掘には自由が無いと」

護「ええまぁ…。」

すると有翼種たちがヒソヒソと何か話し始める

初老の有翼種「…人工種は人間の命令で動く、自己意志の無い人形だ、という話は本当だったらしい。」

護「そんな事は…」

初老の有翼種「貴方はイェソドの有翼種について何か聞いた事はありませんか」

護「ありません。」

初老の有翼種「…遥か昔、人間と有翼種はイェソドエネルギーの源泉を巡って戦争をした。しかし人間はイェソドエネルギーに弱い。そこで人間の手先として、有翼種と戦い源泉を採る為の存在が作られた。それが人工種という」

護、思わず「え?!」と驚く

初老の有翼種「有翼種は、人工種と人間から源泉を守る為に『壁』を作って閉じ籠った。まぁ今は完全に閉じている訳ではありませんが、『壁』はある。」

護、唖然として「なんですかそれ。そんなの初めて聞きました。人工種は単に人間に代わって鉱石を採る為の存在として作られた筈、源泉なんて…ん?」と首をかしげて「源泉って何ですか」

初老の有翼種「源泉は…源泉だな。」

護「イェソド鉱石が沢山あるとか?」

初老の有翼種「鉱石なんかそこら中にゴロゴロ転がってる。」

護「え。ゴロゴロ?」

初老の有翼種「皆、適当に採って使ってる」

護「ええ。…人工種は鉱石を採るのに凄い苦労してるのに…」

初老の有翼種「そうだったのか。」と言うと「ちなみに貴方は人間に『源泉を採れ』と言われても断れますか?」

護「勿論…」と言いつつ思わずタグリングを触って「断りますが、人間はそんな事は言いません!」

初老の有翼種はじっと護を見て「なるほど」



所変わって、とある石屋にて。

ターさんと、何人かの有翼種がしげしげと黒石剣を眺めている。その周囲には採った石が並べられ、番号札がつけられている。

有翼種「これは凄い。こんな上品な黒石剣は稀だぞ」

ターさん「だろ?人工種の彼が採ったんだ」

と、そこへ「いた、ターさん!」と声が。

ターさん「来た来た。彼だよ」と戸口から入って来る護を指差す

護「やっと許可が出たよ、街に出入りしていいって」

有翼種の女性、護を見て「あらホントに翼が無い。」

有翼種「君が人工種か」

護「初めまして、護と申します。」

有翼種「石屋のバートンです。宜しく」

女性「レイスでーす」

有翼種「ジンっす」

護「許可は出たけど、なんか源泉がどうだとかワケワカラン事を言われて」

ターさん、笑って「気にしないの!」

護「気にするよ!ちなみに源泉ってどこにあるの」

ターさん「この山の頂上辺りにある。俺は見た事ないけど。」

レイス「一般人は立ち入り禁止なの」

護「人間が源泉を狙ってるとか言われたけど、こんなイェソドエネルギーだらけの所で人間が生きるの無理だろ」

ターさん「エネルギーを中和させる石があるから大丈夫だよ。そうだ川の水さ、そのままだとイェソドエネルギーを含んでるから中和させて使うんだ。蛇口から出る水は普通の水だから安心して」

護「なんて場所だ…。とんでもない場所があったもんだな!」

バートン「なぁ、人工種って機械で作られるって聞いたけど、ホントなのか。」

護「はい」

レイス「親はいないの?」

護「いますよ。製造師と育成師っていう…遺伝子を組んで人工種を作るのが製造師、育てるのが育成師」

バートン「有翼種は卵から生まれるんだ。」

護「卵…?」

ターさん「母親が作る卵型のフィールドの中で子供が生まれる。」

護「へぇ」

ジン、護の足元をポコポコ飛び回る妖精を見て「しかし君、随分と妖精に好かれてんな。人工種なのに」

レイス「心が濁ってる人には近づかないのよ、妖精って」

護「そ、そうなのか」

ジンは護が採ったケテル石を手に取り「これ、斧にする石の片割れだろ?」

ターさん「そう。それ。幾らになるかな」

ジン「500だね」

ターさん「えー。600だよ。人工種が採ったって事で」

ジン「それ、むしろ400になるんだけど。」

ターさん「なんで」

ジン「そりゃそうだろ。まぁいい今回はサービスで510ケテラにしといてやる」

護「…ケテラって、通貨単位?」

ターさん「うん」というと護に「あ、護君、斧にする石を職人の所に持っていって。この左隣の家だから。」

護「わかった」

レイス「道具屋レイモンドって店よ。」


護は石を持って隣の家へ。ちょっと奥まった入り口のドアを開けて中に入ると作業台が並ぶ空間に二人の有翼種が居た。

護「すみません、これを斧にして欲しいんですが」と石を見せる

するとメガネをかけた有翼種がやってきて「ターが連れて来た人工種って、君だな。」と言いつつ護の石を手に取ると「…ご希望は?」

護「希望というと…」

有翼種「頭の大きさとか柄の装飾とか」

護「斧を作るのは初めてなので、お任せします。」

有翼種「あらま」と言うと「ちょっと持ってみて」と護に石を立てるように持たせて「君、かなり力があるね。怪力だろ」

護「見て分かるんですか?」

有翼種「うん。」と言い「この石、君と相性がいい。自分で見つけたの?」

護「妖精が見つけてくれたんです。」

有翼種「なるほどね。わかった。」と言って護から石を受け取ると、紙にメモを取りつつ「仕上がりは3日後。代金はその時に。」

護「はい。宜しくお願いします」

と、そこへ入り口のドアが開くとターさんが顔を覗かせ「護君、終わった?」

護「うん。」

ターさん「よし、じゃあ食事に行こう!ジンさんも来るって!」

ジン「人工種がどんなモン食うのか見てやる」

護「普通ですよ!美味しいものなら食べます!」

3人は楽しそうに繁華街へと繰り出す。



所変わって採掘都市ジャスパー、午後七時。

採掘船本部の駐機場に泊まっているアンバー船内の食堂に、剣菱と穣がいる。他には誰も居ない。

二人はスナック菓子をつまみつつ、缶ジュースを飲んでダラダラしている。

穣、ため息ついて「…やっぱ酒が飲みたいな…。」

剣菱「船内、お酒禁止ですので」と言い「本当は外で飲んで憂さ晴らししたい所だが」

穣「外だと愚痴が言えねぇ。誰が小耳に挟むかワカラン」

剣菱「そうなんだよなぁ…。かといってあんまり船内に居ても、本部に文句言われるが。」

穣、ため息ついて「明日も仕事かぁー」

剣菱「仕方ねぇ。皆、護よりもイェソド鉱石の方が大事らしい。」

穣「…どいつもこいつも採掘量って…。」

剣菱「まぁアレだ。採掘監督に再任おめでとう穣君!」と乾杯するように缶ジュースを掲げる

穣「護が居なくなったからだ!」と叫び「何で助けにいかねぇんだ!無事でいるなら、なんで!」とテーブルをドンと叩くと「あの黒船の人型探知機、ウソついてんじゃねぇだろうな…!」

剣菱「…管理は人工種にタグリングを付けときながら、護を必死で連れ戻しには行かない。人間に保護されたから安心って言ってるが、その人間が行ける所にどうして管理が行けないんだ?おかしいよな。」

穣「…。」

剣菱「まぁ、本当に護が無事で、安全な人に保護されているなら、それでいいんだが。」と言い、「どうもこう…、人工種と管理の関係ってのは」と言い暫し黙ると、深いため息をついて「難しい…。」

穣「でも船長がアンバーから降ろされなくて本当に良かった。」

剣菱「まぁそう簡単には降ろされねぇけどもよ。だけどな、今回は事故だから処罰は無いけど採掘しろ、ってのは…。何なんですかねぇ。」

穣「こんな状況で採掘もへったくれもねぇのに。」

剣菱「サボっちまうか。どうせウチが採らなくても、黒船がいっぱい採ってくれるし。」

穣「それはそれでムカつく。」と言い「…あのカルロスに、アンバーの分まで採ってやったとかドヤ顔されたらブッ殺したくなる。」と言うと「うあぁぁ!」と頭を掻き毟って「しゃーねぇ!仕事すりゃいいんだろ畜生」

剣菱「落ち着け穣。…そろそろ船から出ないとヤバイ。どっか食事に行くべ。酒はアカンけど。」

穣「えぇ」

剣菱「酔って口を滑らせたら恐い。どこで管理が聞いてるかワカラン。」