第5章 01

一方、必死に森の中を走るカルロスは、ようやく湖に出る。

カルロス、荒い息をしつつ「やっとだ…。」と言うと大きな石の傍にいき、へたり込むように石に寄りかかって座るとタグリングを押さえて「やっと、管理波を振り切った…」と言い、空を見上げてポロリと涙を流すと「あとは護の所に辿り着くだけだ！」と言い、肩から斜めにかけたショルダーバックの中から小さなチョコバーのようなお菓子を取り出し、急ぎポリポリ食べるとペットボトルの水を飲んで、ふぅと溜息をつくと、ボトルをバッグに入れ、立ち上がって再び走り出す。

(護、護…十六夜護…!!)

探知しつつ道なき道を走り続けるカルロス

かなり走ると目の前がちょっと開けて、崩れかけた古代の建物の遺構が残る場所に出る。

カルロスは建物の基礎のような大きな平べったい石の上によじ登ると、その上にクッタリと倒れるように横になり、仰向けになる。

カルロス、荒い息を整えつつ(ずっと探知しながら走るのは疲れるな…。)

空はやや暗くなってきている。(そろそろ日が落ちる。しかし予想外に遠いな。あの時、二日も歩けば行ける距離だと感じたんだが…。もしや探知をミスったか…？少し休んだら再探知をかけよう…。)と思いながら、ウトウトする。

そして、いつしか寝てしまう。

夜明け。

ふと目を覚ますカルロス(ん…。ああ、寝てしまったのか…。)と身体を起こして動かしつつ(護はどっちだ…)と探知をかける。(護…護…。分かり難いな。)

エネルギー全開で探知して(あっ、僅かにこっちに感覚が！)すぐさま石から飛び降りて走り始める。

カルロスは再び森の中を走る。

徐々に周囲が薄暗くなってくる。(まずいな、曇って来た。雨が降らなきゃいいが…。)

必死に走るカルロス。所々に大きな石が転がっているやや開けた場所に出ると、石にもたれ掛かって休憩する。

荒い息をしつつ、(結構走ったな…そろそろ護の存在をハッキリ知覚出来るはず…)と思い、再びエネルギー全開で探知する。(どこだ、護)

『…ALF IZ ALAd454十六夜護！』

その頃、イェソドの護は、ターさんと一緒にケテル石の採掘作業をしている真っ最中。

ターさんから少し離れた場所で、ケテル柱をコンコンと叩いてどの辺りを切るか、切り所を探していたが、(…ん？)と、何かに気づく。頭に「？」を浮かべて辺りを見回し、近くに居た妖精を見ると「なに？」

妖精「？」

護は妖精に「俺の事、呼んだだろ」

妖精「???」妖精も頭に「？」を浮かべる

護「呼んでない？…あらま、気のせいだったか」と言うと作業に戻る。

妖精「…？」

探知していたカルロスは、徐々にその力を弱める。

カルロス(…おかしいな、一瞬、護の感覚を掴んだ気がしたが…。まぁいい方角の確認は出来た。)と再び走り出す。

必死で走り続けるカルロス。周囲はどんどん霧がかかってくる

カルロス、荒い息でフラフラしつつ(…少し休みたいが、…天候が…。)ハァ、ハァとふらつきつつ(薄暗い…。霧が濃くなってきた。そういえば護を探知した時も天候悪化で…。もしかして、ここはいつも天候が悪い地帯なのか？)と思いつつ必死に走る。(…視界が…)焦りつつも慎重に周囲を確かめながら小走りに進むが、ふと。

(あれ?!　何だこの霧。全然濡れていないぞ。こんなに濃い霧なら普通はかなり濡れる筈…。)

しばらく走るが、周囲が白い霧に覆われてしまう。

カルロス「く…。方角を見失った。」と悔し気に立ち止まると必死で探知をかける。(護…どこだ、十六夜護！)それからはぁ、はぁと荒い息をして「おかしい、見つからん…。」

そして再び(ALF IZ ALAd454十六夜護！)と探知をかけるが、「くぅ…」と呻いて「見つからない…。いや、待てよ。あれ?!」と驚いて「周りの地形が、周りの木が、…何も、知覚できん！…自分の周囲の探知すら出来ない？」

カルロスの顔に不安を通り越して恐怖の色が浮かぶ。(…私はあまりに疲れすぎたんだろうか…？)

それからヤケになって「くっ…そぉおおお！」と唸ると「護うぅぅぅ！」と絶叫して探知をかけて、へたり込むようにガクリと地面に膝をつき、その場に座り込む。

カルロス、上を向いて「…なぜ、なぜ、探知が…。」と掠れた声で呟き、(…落ち着け、少し休むんだ。少し休めば必ずまた探知出来るようになる…！)と自分に言い聞かせると、拳を握りしめて俯き、「こんな所で、死んで、たまるか…」と呟きつつ地面に俯せに倒れ伏す。(…少し、休むだけだ…！)

そんなカルロスを見つめる怪しげな存在の影。

一方、護は採掘作業を続けている。そこへ妖精がトコトコと来ると護の足にキック

護「むぅ？」と妖精を見ると「付いて来いって？…今ちょっと仕事中で」と言うと妖精がジャンプして護の顔面にキック。護、怒って「コラ！」

そこへターさんが来て「どしたの」

護「なんか妖精が呼んでる。木箱でついて来いって」

ターさん「木箱で？…もしかしてさっきのエネルギーかな。誰かが君を探してたよ。」

護「俺を探してた？」

ターさん「うん。前と同じエネルギーだね。気づかなかった？」

護「…あれは妖精じゃなかったのか。」と言うと「もしかしてお迎えかな…。だったら行かない方が」と不安げな顔で言った途端、妖精が護の足を長い耳でバシバシ叩く。他の妖精もやってきて、ポコポコと護に体当たり

護「な、なんだなんだ。」

ターさん「よっぽど来てほしいみたい。行ってみようか。」

護「う、うん…」と沈んだ面持ちでケテル石を積んだ木箱の上に乗る

ターさん「一旦、家に戻って木箱の中身を置いてから行こう。」

ボコボコバシバシ

何かが、眠るカルロスの頭や顔を叩いている。

カルロスが目を開けると、妙なものが自分を見ていて思わず怯む(…な。なんだこれ。)

見ればゴツゴツした石にウサギの長い耳のようなものが付いた妙な存在が自分を見ている。

カルロス、怯みつつ、妙なものを見て(…何か言っている…？)

カルロス「起きろ…？」と呟いて「…疲れたんだが…」すると妙な存在はカルロスの顔にキック。

カルロス渋々何とか起き上がると「起きました…。」と言って溜息。

妙な存在は、ポコポコ跳ねながらカルロスに何かを伝える

カルロス「ついて来い？…人使いの荒い奴だな…」と言いつつフラフラ立ち上がって歩き出す。

護はターさんの吊り下げる木箱に乗って、妖精と共に上空を移動中。

前方に巨大な雲が見えて来る。

ターさん「死然雲海が近づいてきた。まだ行くの？」

妖精は護に何かを伝える。

護「雲海の中に突っ込めって」

ターさん「雲海の中に行くなら黒石剣を持って来ればよかった。まぁ白石斧でも雲海を斬れるけど、威力が弱いんだよね…」

周囲が少し曇って霧がかってくる。

護「…かなり長距離飛んだけど、ターさん大丈夫？」

ターさん「うん。…なんか護君を助けに行った時もこんな感じだったなー」

護「そ、そっか…。」不安げな顔

暫し飛ぶと、妖精がポコポコと護の膝を叩く

護「ん。」と妖精を見ると「ターさん、ここだって」

ターさん「ほーい」

ターさんは森の中に降下して、木箱を降ろしつつ地面に着地する。周囲は木々が微かに見える位の濃霧。

妖精がターさんと護の頭の上に乗って、頭の上でポンポンと跳ねる。

護「ここで雲海切りかぁ。俺、雲海切りした事ないんだけど。」

ターさん「石を切るみたいに前方の霧を切ればいいよ。」

護「了解」

ターさんと護はそれぞれの白石斧を持ち、やや離れて並んで立つ。

ターさん「いくよ。せーの！」二人はバンと斧をふるう。その瞬間、霧が少し晴れて、その部分に林が現れる。

林の中に人影が見える。

護「んん？…誰かいる」と言って目を凝らしてよく見ようとしたその瞬間。

声「…あっ！お前は！」という叫び声と共にその人物が林の中を走って来ると「十六夜護だな！」

護、ビビりながら「は、はいっ！」

カルロスは全速力で走って来るなり飛びつくようにして護をガッと抱き締めると

「…会いたかった…。会いたかった…。会いたかった…。」と護を抱き締めながら涙を流す。

突然の事に、護は混乱しつつ、何とか「あ、あの？」と声を出すが

カルロスはまるで力が抜けたかのように、そのまま護にもたれ掛かりつつ地面に座り込む。

護「ち、ちょっ…」と驚きつつカルロスを支え「大丈夫ですか?!」と言いながら(…誰だこの人？どっかで見覚えあるような)

もたれ掛かるカルロスを支えて自分も地面に座り込んだ護、困ってターさんに「どうしよう…。」

呆然とその様子を見ていたターさん、ふと我に返って「あ。あぁ。とりあえず木箱の中へ。ウチに連れて行こう。」

護「うん」と言うと、カルロスを抱え上げてターさんと２人で木箱の中に寝かせるが、そこで護が「あ。」と言うと突然酷く驚いて「この人は!?」とカルロスを見ながら叫ぶ

ターさん「どしたの」

護「アンタもしかして黒船のカルロス?!」

カルロス、薄目を開けて護を見て「ふ」と微笑する

護「何でここに！俺を捕まえに来たとか!?」

カルロス「逃げて来た。」

護「どこから？」

カルロス「オブシディアン。」

護、暫し唖然としてカルロスを見てから「な、何で。」

するとカルロス、ポロリと涙をこぼして「お前に会いたかった…。」と言って目を閉じる。

護「…。」全く意味がワカランという表情でカルロスを見つめる。

そこへターさんが「とりあえず…家に帰ろう。」と言ってゆっくり木箱を引き上げて飛び始める。

カルロス、ふと目を開けると、翼を広げて飛ぶターさんを見て「…な、なんだあいつ…。」と驚く

護「彼は有翼種なので飛べるんです。」

カルロス「有翼種…？」と言い、周囲の妖精たちを指差し「これは」

護「石の妖精。」

カルロス「…ほぅ…。」と言い「変な所に来てしまった…。」と微笑む

護「…ちなみにあの…。どうやってここへ」

カルロス「走って来た。だが途中で霧の中で迷って探知が出来なくなり…この変なものに助けられた」と言うと「ああそうか。以前、護を探知した時に傍に居た存在、それは有翼種の貴方だったか…。」とターさんを見る。

ターさん「…凄いですね。死然雲海を越えて俺達を探知するなんて。」

護「死然雲海って、さっきの霧の事だよ。」

ターさん「あれはエネルギーの溜まり場で不安定だから、貴方のように敏感な人は極端に能力が上がったり、逆に全く使えなくなったりする。」

カルロス「なるほど…。」と言うと、「そうか、それで私は探知ミスをしたのか！距離を読み違えた…」

ターさん「もぅ…妖精がいなかったらどうなってた事やら…。」と溜息をつく

護「あのー。ところで、俺に会いたかったというのは、どうして」

カルロス笑って「…なぜだろうな」と言うと「お前は今、どんな状況なんだ」と護を見て言う。

護「俺？…彼と一緒に採掘師してるよ。」とターさんを指差す。

カルロス「こっちでも採掘師か。」

護「うん。こっちの採掘は、向こうの採掘より楽しい。」

カルロス笑って「知ってる。」

護「…？」

カルロス「私も仲間に入れてくれ。お前と一緒に採掘がしたい。」

護、少し驚いた顔で「はぁ。…それはいいけど…」と言うと、ターさんに向かって「ターさんゴメン、人工種が一人増えた。」

ターさん「いいけどベッドが無いから護君、ソファで寝てね。」

護「うん。」