『不満足な状況こそが己を奮い立たせる 』栃木SC 韓 勇太インタビュー(後編)
ーーさて、昨シーズンの話に戻りますが、ヨンテ選手は開幕2試合連続ゴールを決めた後、「14試合」もの期間、得点を取れていないんです。この「空白の期間」はヨンテ選手にとっても試練だったと思うんですが、どういったことを考えて日々を過ごしていましたか?
「結果を残せなかったり、試合に出れなかったりすると『なんで?』と最初は思うんですけど、よくよく考えるとあのときのメンタリティではいくら試合に出ていたとしても結果を残せていないと思います。開幕2試合でゴールを決めて、『結果を残せる』とか『何でも出来る』というメンタリティになってしまって、得点を取れなくなったというか。僕はこれまでも、これからも、全てにおいて『俺が勝っている』という気持ちは常に持っているんですけど、その当時は悪い意味で自分のことしか考えれていなかった。14試合もの間、得点することは出来なかったけど、そういった自分の課題が明確になった点では良かったです」
ーーなるほど。その空白の期間を経た後、ヨンテ選手は第17節の「vs東京ヴェルディ」で鬱憤を晴らすかの如く2得点を決めましたよね。そこに至るまでのプロセスはどのようなものでしたか?
「試合に出れず、外から試合を見ることもあるなかで、少しずつ頭の整理もついてきたし、調子もよくなっていったんです。調子がいいときの得点を取れる感覚を取り戻しつつあって。試合前の一週間のトレーニングでスタメンで出るなっていうことは薄々分かっていたし、その時はチームの為にも走るし、『絶対おれが決める』『おれ以外は決めるな』という気持ちでした。ある種、小学生のときの自分に戻った感じですね。全ての局面に顔を出して、全ての局面でボールも要求するし、『おれがなんとかする』みたいな感じで。良い意味で『自分主導』のメンタリティでした」
ーーあのときの試合は僕も見ましたが、「本能のまま」動いている印象がありました。その試合に臨むにあったての、“独特なモチベーション”って意図的に作りだしているものなんですか?それとも、色々な要素が相まって自分をそうさせているんですか?
「後者ですね。スタメンで出れないとか、監督に認めてもらえないとか、周りの人間に何か言われるとか。そういう要素が合わさって、危機感も生じたし、『見とけよ』っていう気持ちが高まって来た。自分的にはそういう『不満足な状況』を作られた方が力を発揮する傾向がありますね(笑)
ーーそういう意味ではこの「空白の14試合」の間、落ち込んだり腐ることはなかったんですか?
「いや、全然そういうのはなかったです。僕はそういう時に『何でうまくいかないのか』を結構考えるんですけど、結局考えても一緒だという結論に至るんですよ。じゃ何をすればいいのか。それは自分の『原点』に戻ることです。試合に出れないし、悔しいけど、原点に戻ってみようと」
ーーヨンテ選手にとって「原点に戻る」とは、どういったことを指すんですか?
「僕が思うに原点って『無心で取り組めていた時』だと思っていて、これが原点なのかは分からないけど、自分にとっては親父と毎日トレーニングしていた時期だったり、小学生の頃に朝練をやっていた時期が原点だと思っていて。そういった意味で、あの時に親父とやっていたトレーニングとか、小学生の頃に朝練でやってたトレーニングをやろうと思いました。朝6時に起きて、公園で一人でドリブル練習をしたり、ヨガをやったりして、その日のチームトレーニングに向かうんです。その結果、その取り組みがパフォーマンスに影響を与えたかどうかは覚えていないけど、気持ち的に前に進んでいる実感を持つことが出来ていました。これが正解だったかどうかは置いといて、自分がやるべきことを設定して、それを毎日続ける事で、調子に乗っていた自分を払拭出来たと思っているので、結果的には正解に持ってくことが出来たと思っています」
ーー僕たちのような傍観者からすると、14試合も得点を取っていないと『きっと苦しんでいるんだろうな』って思ってしまいますけど、そういう部分は無かったんですね。
「無いですね。僕は上手くいっていないときより、上手くいっているときのほうが周りの意見が気になるタイプで。うまくいっていない時っていうのは、ある程度仕方がないし、そうなったら『自分はこれをやる』って決めて、それをやっていくだけなので」
【チームに迎合するのか、個を貫くのか】
ーー「自分がやるべきこと」を定めて、この局面を乗り切ったんですね。しかしその後、10試合以上スタメン出場なく、いくつかの試練がヨンテ選手を待ち迎えています。ブラジル人FWのルカオ選手のシーズン途中の加入もありました。その間はどのような気持ちでしたか?
「これは前回の挫折というかブランクのときと同じなんですけど、『おれの方が勝っている』という気持ちは常に持っていたし、この状況をどういう風に打破すれば、面白いのかなということを考えていました。でも正直、ベンチから試合を眺める日々が続くうちに『ムカつき』はどんどん増していきましたけどね」
ーースタメンを奪還するために、日々のトレーニングから心がけていたことはありますか?
「んーそんなに無いですね。というよりも、絶対に自分がスタメンで出るときが来ると分かっていたというか、このままでは終わらないと分かっていました。だから、自分に出番が回ってきた時にどうしようかということを試合を眺めながら考えていましたし、そのおかげで、残りシーズンでの僕のプレースタイルは少し変わりました」
ーーなるほど。どういう風に変わったんですか?
「その当時、試合に出ていたルカオ選手と自分を当てはめて考えた時に、『自分には出来て、ルカオ選手に出来ないこと』は何だろうと。ルカオ選手は体格もあってスピードもあって、ブラジル人特有のポテンシャルは秘めていた。その一方で僕は、ルカオ選手より長い間このチームでやってきたので、コミュニケーションも積極的に取れるし、チームがやろうとしていることに合わせる事が出来ます。そこからチームが勝つために必要な選手、試合に勝てるFWになろうとしました」
ーーシーズンを通して「良い時」と「悪い時」を経ている訳ですが、1年間のシーズンを全体的に振り返ってみて、選手としての「手応え」や「課題」は見えてきましたか?
「手応えと課題が表裏一体なんですよ」
ーー表裏一体というのは?
「シーズンの過程で自分のプレースタイルを変えたりして、自分を上手く適応させていけば、これからもこのレベルでやって行けるという感覚を得ることが出来たんですけど、それと同時に、それ自体が課題でもあるということです。 適応しながらやっていくというスタイルは自分のやりたいことでもないし、理想像でもないので。『1番』になりたいっていう目標のなかで、今はそこに対する通過点でしかないし、1番になるのであれば、もっともっと自分に対する要求を高めないといけないです。例えば去年、チームが苦しい時に、僕はチームに合わせることによってチームに貢献するのではなくて、『自分がやりたいプレーをしたうえでチームに貢献する』というステージに進まない限り1番にはなれないですよね。自分が『出来る事』と『やりたい事』と『チームから求められるプレー』のギャップです」
ーー自分の「やりたいこと」が「チームから求められること」と、イコール関係になることが理想ということですね。
「そうですね。昨シーズンは、自分の『我』を選択するのか『チーム』を選択するのかという葛藤があったんですけど、そもそも、その両方を解決できればいい話なので、自分の『我』自体が『チームの為』になるようにするしかないですね」
【2020シーズン、ストライカーとしての道を選ぶ】
ーーコロナウィルスの影響でリーグは中断していましたが、今シーズン、田坂監督率いる栃木SCは「ストーミングサッカー」を掲げています。そのなかでヨンテ選手はリーグ再開に向けてどのようなモチベーションを持っていますか?
「実際にリーグは1試合しか闘えていませんけど(取材時)、自分のプレースタイル的に、今みたいなスペースがある状態でのプレーは好きだし、自分にとっては有利でもあるので。守備の部分で強度の高いプレスバックをし、そのうえで、攻撃の時も爆発的なパワーを出せるような感覚はあります」
ーーやはり栃木SCの強度の高いトレーニング成果ですか?
「そこは大きいです。守備もして、顔を出して、ビルドアップに関与して、更にゴール前まで走り込んで仕事をする。それが出来るだけの体力を持ち合わすことが出来るということは、今後の自分にとっても大きいです」
ーー栃木SCでのプレーはいち選手としての成長も促してくれそうですね。それでは最後に、今シーズン再開に向けての意気込みをお聞かせください。
「全体トレーニングも再開されて、試合堪のところで難しい部分もあるけど、気持ち的な部分では常に準備出来ていますし、自分のなかでのやるべきこともやってきたので、コンディションは問題ないです。あとはしばらくの間チームメイトとプレー出来ていないし、お互いがどんなプレイヤーだったのかっていうところを忘れている部分もあるので、あえて『自分を出す』ということを意識してやってます。 これからは、『個の力で局面を打開出来る選手』がどんどん貴重になって来ると思うし、自分もそういう“ストライカー”を目指しているから、今年はそういったところで成長していけるようにトライしていきたいと思います」
ーーありがとうございました。今シーズンの活躍を期待しています!
※2020年6月11日取材