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紺碧の採掘師

第10章 03

2020.06.17 04:10

一方、玄関では。

ジェッソ「押し通ります。どけ!」と怒鳴ると右肩に駿河を担いで管理を押し退け玄関内へ。

管理の必死の静止を振り切って一同は中に入る。受付ロビーを通って奥の吹き抜けにある階段へ行こうとしたその時。階段から男が降りて来る。

上総、それを指差して「あの人!」

ジェッソ、思わず止まる「…もしかして」

すると後ろから追ってきた管理の声「あっ!所長!」

ジェッソ「…この方が…。」

四条は階段の途中で立ち止まってジェッソ達を見ると「用件は何かな。」

そこへ階段の上からバッとカルロスが飛び降りて来ると黒石剣を四条の首に突き付け「…ここで貴方を殺せば人工種と人間の関係はどうなるのでしょうね!」と叫ぶ

四条「…それはもしかして黒石剣とかいう石かな。」

カルロス「知ってるのか。そう。有翼種はこれを採掘道具として使っている。」

四条「なるほど。イェソドへ行って有翼種に何を吹き込まれた?」

カルロス「吹き込まれる?」と怪訝そうに言うと「私は他人に何か言われた位で自分の意見をコロッと変えるような自己意思無しじゃありませんが。」

四条「何か誤解があるのではと」

カルロス、暫し黙ってから「まぁ、一般的にはコイツみたいなバカ正直で素直なイイ子が人工種だと思われてるようで」と、周防と共に階段の途中に居る護を指差しつつ言う。

護「それって褒めてんのか貶してんのか」

カルロス「有翼種に、人工種は人間の手先で操り人形だとか言われたよ。向こうは人工種の事を快く思ってはいない。それでも私と護を助けてくれた。」

四条「なぜ戻って来た」

カルロス「自分の船が欲しい。あっちとこっちを自由に行き来したいもので」

四条「すると採掘船も向こうに行くようになるのかな。」

カルロス「人工種が有翼種側に付く事が恐いか」

四条「せっかく育てたものを手放すのは惜しいさ」

カルロス「せっかく育てたものを腐らせても?」

四条「腐らせる?」

カルロス「私はこちら側の採掘師としてはベテランだが、有翼種側の採掘師としては新人だ。探知も全然出来ないしな。」

上総、思わず「ええ?」と驚く

踊り場の四条とカルロスを挟んで上り階段に周防を人質にした護達、下り階段に駿河を人質にしたジェッソ達がいる。

護「うん。カルさんはまだ売れる石を探知できない」

カルロス「むしろ護の方が売れる石を探せるという!」

上総「でもー!」

カルロス「だって『売れる石』って何だかワカランだろ!『美しい絵を探知しろ』ってのと同じ事だ!」

上総「ああー!」と笑顔で納得

カルロス、四条に「同じ探知という能力でも求められる性質が違う。という事は、自分の可能性を広げられるという事だ。人工種がさらに進化する事は人間にとっても有益だと思いますが。閉じた世界で同じ事をしていたら、せっかくの可能性を腐らせるだけ。それは何も人工種に限った事では無く人間もそうです。」

四条「…。」暫し黙ってから「…僅かな亀裂が全てを決壊させる気がする。それを防ぐ為に管理がいる。」

カルロス、暫し黙ってから黒石剣を降ろすと「では私と護はイェソドに行き、二度とこちら側に戻って来ない事にしましょう。」

護「え」

カルロス「そうすれば変化は起きない。」

穣「いや。起きる。なぜなら俺が行くからだ!お前が自力でイェソドに行ったように俺も行く。」

護「それに俺みたいに偶然行っちゃう人もいると思いますし。」

マゼンタ「うん、俺はドンブラコで行きたい」

健「え」

ジェッソ「私も行こう。有翼種の採掘を見てみたい。」

上総「俺も!」

穣「もう波紋は広がってしまった。どんなに締めて閉じようとも、俺達はそれをブチ壊していく。」

四条「…。」暫しの沈黙。

と、そこへ周防が「…未だかつて人工種が、ここまで反抗した事は無かった。」と呟き「前代未聞の事態。逆に言えば、やっとここまで来たという事です。」と言い「長かったな…。」と感慨深げに呟く

四条「まさかこんな事が」

周防「これは私が望んだ世界そのものです。」

四条「…なに」と言い、思わず「貴様、一体何を」と言いかけた所で

周防、笑って「私は何もしていませんよ。出来る訳が無い。なぜなら私が今ここで、自由とは何かを彼らに教わっているからです。」と言い「長かった。本当に長かった。でも製造師連中は何もしていないんです。むしろ作った子達を苦しめましたからね。憎まれ殺されてもおかしくない位に。だって製造師連中が真の自由を知らないから。そして管理の人々も」

四条「自由を、知らない?」

周防「知らないからこんな事になる訳です。」と言い「ぶっちゃけアンタらの心はガッチガチですよ。まぁ私もですが!」

カルロス「全くだ。」

周防「何なら殺しといて下さい。」

カルロス「ふざけんな。」と言い「復讐の為にコイツを殺すと俺が他の人工種に恨まれて俺が復讐されるという負の連鎖。と同様に、貴様を殺しても人工種が人間から復讐されるっていう!」と黒石剣を周防や四条に突き付けながら言うと「とある人工種が小さな船一隻欲しいというのをこんな団体で阻止しようとする、管理ってのはよっぽどヒマなんだな!」と叫ぶと「貴様らがガンガン締め付けたお蔭でコッチは自由を渇望しまくって、こんな事に…と言っても発端はコイツの偶然のドンブラコなんだが」

護「自由を渇望したから落ちたんだよ!」

穣「そして有翼種のターさんに出会った!」

護「そう!」

穣「自由を渇望したから本当に自由な人と出会った。本気で渇望すれば道は拓ける!」

護「さすがカッコイイ事を言う」

穣「だろ!言っててちょっと恥ずかしいが!」

周防「でも本当にそうですよ。信じられませんよ本当に…。昔の人工種がどんな状態だったかを思うと、もう…。」

暫しの沈黙

カルロス「とにかく貴様らがどんだけ阻止しようと我々は船でイェソドとこちらを行き来する。その方法を編み出す!…という事で小型船の免許を取りたいので許可してくれ!」

四条「…。」

カルロス「まぁ誰か免許持ってる奴を探して操縦してもらうって手もあるが!」

護「すると船は大きめのがいいねぇ。」

カルロス「で…、それでもなお、我々の情熱を頑なに阻止するというなら、その時は本当に…」と言って黒石剣を四条の首に当てると「血の流れる復讐の連鎖が始まるかもしれないな!」

四条「脅すのか」

カルロス、タグリングを指差し「貴様ら、既にコッチを脅してるだろう!どっちが最初に脅したと思ってる?」

暫しの対峙。

カルロス、「…もうめんどくさいので今からマルクトの航空船舶学校に話をしに行きます。」と言うと、突然その黒石剣の切っ先を、ジェッソの前に座り込んでいる駿河の首に付きつけると「人質として一緒に来て頂けますね!」

駿河「は、はあ」

四条「待て!」

駿河「んでも流石に今の時間だと、もう窓口は…でもマルクトの学校はデカイから、まだ事務の人とか居るのかなぁ。」

穣「カルさん探知だ!」

カルロス、穣に「私が何でもかんでも探知できると思ったら大間違いだぞ!」と言うと「ったくどこぞの管理がモタモタしてるせいで余計な時間を食った!」

護「全くだ」

カルロス「お陰で、ここで朝まで交渉ができるじゃないか!」

四条「なに?」と同時に

護・穣・マゼンタ・駿河「はぁ?」

カルロス、黒石剣の切っ先を再び四条に向けると「第三種免許取得と小型船所持の許可を出してくれるまで貴方はこの状態です!」

護「何せ朝までヒマなもんで」

健「寝る時間は欲しい…」

マゼンタ頷く

四条「………。」暫し呆然としてから深い溜息をついて頭を振ると「困った奴らだ…。」と言うと「まぁ、特例として…とりあえず貴様には第三種免許を」

護「俺もです!」

四条「二人には許可しよう。明日、航空船舶学校へ入校手続きをしに行くが良い…。」と言い近くの管理たちに「誰か一緒に行って先方に説明してやれ」

管理の何人かが「は、はい!」

カルロス「貴方の寛大さに感謝します四条所長。貴方は人工種に史上初めて小型船の免許取得と、所持の許可を与えて下さった方です。皆、喜びますよ。」

四条「船の所持もか。まぁいいだろう!」と苦々しく言う

そこへ穣がバッと四条の前に進み出ると「所長!ついでにアンバーはイェソドに行っても良いという許可を頂けますか!」

四条が驚いて「な」と言った途端

穣「何せ有翼種と一緒に採掘しようって約束したもんで行かなきゃならねぇんですわ。大丈夫!良質の鉱石タップリ採って帰ってきますから給料アップよろしう!」

マゼンタ「え。給料アップ?」

四条「ダメだ!勝手にそんなことを」と言っている間に

ジェッソ「所長、さらにオブシディアンまでイェソドに行かせてくれるとは!」

四条「誰がそんな事を言った」

ジェッソ「黒船も一緒にイェソドへ」

四条「黒船はダメだ!」

ジェッソ「アンバーが行くなら黒船も行かねば」

四条「黒船は、ダメだ!」

穣「アンバーは許可するんですねサンクス!流石ですぜ所長!」

四条「いや、人の話を聞け」

ジェッソ「わかりました!黒船は今は行きませんがアンバーが行った後に黒船も行きます。これで宜しいか」

四条「人の話を聞け!」

穣「無理です。アンバーは何がどうでもイェソドに行きます。」

ジェッソ「アンバーを阻止すると代わりに黒船が行ってしまうかもしれません。」

四条「貴様ら!」

穣&ジェッソ「何でしょうか!」

四条、はぁとため息ついて黙ると「…。」それから苦々しい顔で「…アンバーだけならば。黒船はダメだ!」

穣「サンクス所長!」

ジェッソ「…。」

穣「口約束だけですと何も知らない管理の方が困ると思いますので所長の直筆サイン入りのイェソド行き許可証をお願い致します!立派な額縁に入れてアンバーのブリッジに飾りますから」と一気にまくし立てる。

四条「大丈夫だ。…明日必ず許可証をやる」

そこへ、周防が護に「護君、ちょっとこれを外してくれるかな」と首に巻かれたベルトを指さす

護「…すみません、もう暫く人質を」

周防「いや、人質というかね…。」と言って暫し黙って考えてから、四条を見て「四条所長。」と言って立ち上がると「そろそろ、人工種全員のタグリングを外したいのですが。」

護、思わず「えっ」

一同、周防の言葉に唖然とする

四条「た、タグリングを?」と言ってから「それは!」

周防「ダメだというなら自殺しますが宜しいか。」

その言葉に全員、固まる。

それから四条、やおら何とか「じ、…冗談を」と引き攣った顔で言う

周防「私はもう97ですしね。いつ死んでも全然おかしくない。」

護、思わず「す、周防先生…」と言い、それから周防の首に巻いたベルトを外す

周防「…ここでタグリング廃止が決まると歴史に残る大事件ですよ。」

四条「何が起こるか」

周防「それはやってみないとわからない。大体、人生奇想天外で」と言いちょっとカルロスたちを見ると「まさか彼らがこんな事を起こすとは…。」と微笑しつつ言うと、溜息をついて「私はもうこんなものを皆の首に付けるのは本当に嫌なんで、外させてくれませんかね。」

四条「それだけは」

周防「申し訳ないがもうタイムリミットです。この提案が通らなければ私は自殺します。すると人間は、人工種に恨まれるでしょうね。しかし提案を受け入れれば、…皆に感謝されますよ。」

四条「…。」

暫しの沈黙

周防、静かに「今すでにもう、これはただの首輪です。何の効力もない。…本気で全力で生きようとする者の意志をなめちゃいけません。」と言うと「とりあえず、製造師記号がSUの人工種のタグリングは今日からどんどん外して行きますので宜しく。」

護「あの、俺のも外して下さい!」

穣「俺のもー!」

周防「外したい方のタグリングは製造師を問わず外しますよ」

四条「待って下さい!勝手なことをされては混乱が起きる!」

すると周防、語気強く「当たり前だ!」と言うと「混乱の無い変化なんか無い。各個人が悩み苦しみ葛藤すればいい。苦しみが無ければ変わろうと思う事も自分を内省する事も無い!」

四条「…あなたは…!」

周防「私を阻止するなら殺すしかありませんよ。」

四条「今まで散々タグリングを付けてきた奴が」

周防「ええ今まで本当に従順な人工種でした。本当にバカな事ばかりやってきました。でもバカなりにダラダラと長く生きて良かったと思います。この命の使い道がこんな所にあるとは。」と言い「…まぁ、私がどうなろうと流れはもう止まらない。」

四条と周防、暫しの無言の対峙

すると護が「い、…嫌です、俺は。俺はもう、…。」暫し黙ると「俺はもう、自分を全く理解しない人に対して分からせようとする事も、相手の勝手な押し付けで自分がイライラするのも何もかもどうでもいい。そんな下らない事の為に自分の人生が頓挫するのが嫌なんです。俺は、自分を生きたい。やっとそれをイェソドで見つけた。」と言うと「周防先生を死に追い込むような人間だったら俺はイェソドへ行き二度とこちらに戻りません。人間の事とか全部忘れて捨て去ります。有翼種と同じように、断絶します。俺は復讐なんて下らない事に自分の大事な人生の時間を費やしません!だってそれよりもっとやりたい事が、イェソドにあるから!」と言い「…俺は、自分の望む人生を切り拓く為には全力で戦うけど、憎しみとか復讐は本当に不毛だから、したくない。なのに、それを仕掛けてくる人がいる…!」と残念そうな目で四条を見据える。

その言葉に穣、驚いたように護を見つめて(…お前…、俺と同じ道を)

と同時に周防が溜息をついて「…だからカナンはイェソドに残ったんだ」と呟く

瞬間、護とカルロスが思わず同時に「えっ」と言う

護「カナンって」

カルロス「カナンさん?…残った?」

周防「…知ってるのか?カナンを」

護「はい。会いました、イェソドで。」

周防「カナンと?」と言って「…もし生きていれば今、120才だが」

すると護とカルロス同時に「ええええええ!」と大ショック受けて

護「120?マジで?!」

カルロス「あれで120だとう?!」

周防「…だから別人では」

護「いやいやいや存命で健在です!しかもタグリング外れてました!勝手に取れたとか」

カルロス「しかも有翼種の女性と結婚して養子まで育てたという」

周防、唖然として目をパチパチさせる「…。」

護「周防先生、そのうちイェソド行きましょう!カナンさんの店に行かないと」

周防「店?」

カルロス「カナンさんはコクマという街で喫茶店やってんです。」

護「貴方が製造師になったと話したらビックリしてました」

そこへ穣が「…もしもし。なんか話がぶっ飛んでんだが」

護「いやもぅ年齢が…。あっ、そうだ、カナンさんが残ったってのは」

周防「…カナンは自分の意志でイェソドに残ったんだよ。」

護「ええ?カナンさん、たまたま流されてきたって自分で言ってましたが」

周防「いや、カナンは自分の意志で残った」

カルロス「残った?」

穣「話が全くわからーん」

護「俺もワカラン!」

四条「…120才の人工種?」

ジェッソ、四条に「知ってますか?」

四条「そんな話は聞いたことがない」

カルロス「そりゃそうだ、断絶してんだからな」

護「もぅ俺も断絶しちゃおうかなぁ…」

カルロス「その前に色々足掻いてからだ!」

周防、カルロスに「ところで…。本当にカナンなのかな」

カルロス「本当にATL KA B01神谷可南だ!アンタの事を知ってんだから本人に決まってる」

周防、驚いた顔でカルロスを見つつ「よく、そのフルネームを…じゃあ本当に会ったのか」と言うと「人工種って120まで生きられるのか…。」

護「だから死ぬとか軽々しく言わんで下さい!」

周防「ああ、…そうだなスマン。」

カルロス、ため息ついて「なんかもう…。混乱してきたから、この辺りで一旦締めるか」

マゼンタ「うん!」

四条「ちょっと待て。120歳の人工種について」

周防「それは話すと長いので後日また」

カルロス「まぁ免許と船所持と採掘船がイェソドに行く許可はもらったし」

四条「アンバーだけだ!」

カルロス「タグリングは外してOKって事で」

四条「OKとは言っていない」

ジェッソ「もう諦めたらどうかと」

穣「とりあえずやってみましょうや!んで混乱が起きたらまた考えると!」

四条「…暫定的にならば。」

カルロス「よし、じゃあ船に戻ろう。一旦SSFに行って明日またマルクトに来ると。」

四条「来なくていい!」

穣「だって直筆サイン入り許可証もらわないとー!」


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