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ブルーマンデー・ビバリーヒルズ

2020.06.12 23:14

ああ、どうしてなぜ。

きみは女で俺は男なのだろう。

月曜の朝の憂鬱さ。


カーテン越しの夏バテ寸前の日射しも、鈍くファンを回転させる年老いた扇風機も、一階から聞こえるめざましくんの時報の声すら全てその一因になる。


ああ、この腹立たしさ。


月曜の朝が何より嫌いだ。


そんな風に散々悪態をつくのは所詮思考。


現実の自分ときたらそれでも無理矢理体を起こし朝食を摂り、揃えられた制服を纏い家を出て行くもんだから呆れてしまう。


静岡の夏はじっとりと背中を濡らす。


湿度の高い外気と反射で熱を孕んだアスファルト、その丁度真ん中で二足歩行しているのが自分。


今日も朝から額には汗を浮かべ照り返しの通学路を進む。


「大野くん、おはよ。」


そう追い越された声を辿るとさくらがいた。


こめかみには汗がつたい前髪が張り付くのだろう、鬱陶しそうに横に流す仕草を見せた。


「おはよ。」


「今日からプール始まるね。」


「俺一時間目だからラッキー。」


「ずるい。私、四時間目なのに。」


何がずるいもんか、しかも給食当番だから早く上がらなきゃいけないし、と愚痴りながら肩を並べて(と、言ってもさくらの肩の位置は十センチ程下)歩きだす。


「まあ、私の分もせいぜい楽しんでよ。」


「いや、おまえも今日体育プールなんだろ?」


何だそれ?、と尋ねる間もなくさくらは上履きに履き替えると登校してきた生徒の波に見えなくなった。


月曜お得意の全校朝礼を終えたその足で更衣室に向かった。


中学に上がって二年。


気付けば水泳の授業は男女バラバラになり、そんな周りの配慮から男女の違いを否応なしに意識させられた。


手早く制服を脱ぎプールサイドに出るとコンクリートは既に焼け付く程に熱を含み、じりじりと背中に浴びた日射しに汗がつたう。


朝一番の水面がそれはそれは瞬いて、学校の施設とは思えない程に魅力的に思えた。


「大野!」


そう呼び掛けられたのは水泳の授業も終えた三時間目の教室。


プール側に面した校舎に教室のあるクラスは男子が騒ぐ。


答えは至って単純明解、プールサイドには水着の女子生徒。


中二といえど男なのだ。


冷やかし半分にプールサイドを覗いては未熟な性(さが)は返り討ちに合う。


呼ばれた時点で気が付けばいいのに、のこのこ近付いてから気付く自分も大概馬鹿なのだ。


窓枠越しに垣間見たプールサイド、さくらを真っ先に見つけてしまった。


「やっぱ城ヶ崎てスタイル良いよな。」


グラビアだよなと口々に騒ぐ男子の中、真っ先に飛び込んで来たさくらの細い痩せっぽっちの肩だとか水着から覗く真っ白な背中が脳裏に焼き付き、胃の奥の奥が締め付けられた。


昼休みもゆったりと過ぎ、五時間目も六時間目も時折居眠りを挟みながら過ぎた。


終礼も終えて部活に向かう途中プールを横切ると、そこを囲むフェンスの向こうにさくらを見つけた。


五時前にも関わらず太陽は照りつけ百日紅(さるすべり)の影の下、それでもはっきりとさくらだと判った。


その隣に見たのは平岡。

何となく、目の離せない光景だった。


次の瞬間に平岡がさくらの額に唇を寄せたことや、さくらが今までに見たことのない表情をしていたことに愕然とした。


陽もすっかり沈み身支度を整え友達を待つ間、やっぱりあのフェンスの向こうが目に入った。


今は落とす影もなく佇む百日紅にさくらを思い出した。


次第にこのまま焼き切れてしまうのではないかと思う位、耳鳴りを覚える位に頬が熱くなった。


二人の距離感に目眩を覚えたし、さくらも女なのだ、とあの時一瞬で見せ付けられた。


自分は一体どうしてしまったのだろう。


平岡の事を嫌いにすらなりそうだった。


悔しくて恥ずかしくて息すら詰まりそうになった。


カルキの薫りに紛れて塩素の刺激と誤魔化して、今ならそんな風に泣けるのではないか。


その小さな痛みが何故なのか、考える間もなく押し寄せて来る波に下唇を噛んだ。