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さよなら、 フェアリーテイル

2020.06.13 01:04

ずるくて悲しい、それでも愛しい。


好きだなんて、認めたら苦しくなるでしょう。


だったら鈍くならなきゃ、自分の気持ちにも、あの子の視線にも、彼の気持ちの機微だって。


小さい頃からいつだって守られていた。


父に、母に、姉に祖父母、ときには彼に。


それが当たり前じゃないんだと、私が気付いたのはもう大分時が経ってからだった。


私は地元を飛び出し、夢にも見た大都会に目がくらんでいて。


目先のことばかりになるのは私の悪い癖。


それを嗜(たしな)めてくれる人もいなくて、ますます自由だと思い違えていた。


その結果多分、いえ、きっと。


本当に沢山の物をなくしたり見落とした。


高校三年の冬、珍しく暖かな祝日に幼なじみの花輪くんが卒業したらオーストリアに留学すると耳にした。


花輪くんは学校の廊下ですれ違うたび、言葉を交わすたび物憂げに私を見つめていた。


あの薄茶の瞳が云わんとしていることを、私は知っていた。


だけどそれを聴いても、伝えられても。


私は彼の思うようにはできなかったし、意識の違いで気まずくなることを恐れてしらを切り通した。


それからほどなくして、予定通りに彼は日本を発った。


花輪くんを乗せた飛行機は西の空に小さくなって、やがて見えなくなった。


最後に握り返された私の左手には、彼の甘いフレグランスだけが残った。


「さくら、本当はお前。花輪の気持ち気付いてたろ?」


やっぱり幼なじみで私の恋人は、どうしようもないくらい真剣な眼差しで問いかけた。


曖昧に笑って、はぐらかして。


だって、そうするしかなかったんだもん。


花輪くんは優しい。


優しくて、柔らかで私を傷つけることは死んでもしないだろう。


正直、そんな花輪くんじゃあどうしていけないんだろう?と、自分自身に問い掛けた日もあった。


「さくらくんは。童話みたいだ。小さい頃から欠かさず手元にあったはずなのに、それなしじゃ生きていけないみたいに思っていたのに。少し知恵がついて、心が強くなると手放さなくちゃいけなくなる。」


ずっと手元にあったって、誰も咎めたりはしないのにね。


花輪くんはそう笑っていた。


「さよならフェアリーテイル。」とも。


それは小さな小さな僅かな痛みになって、小骨のように私の心を突いた。


あれからいくつもの冬がきて、私を守る物はつらつらと消えていき。


着のみ着のままで生きていくすべを私は覚えた。


変わらない誓いの左手の薬指だけが、私を守っていてくれた。


だけど洗濯物のはためくベランダで、まだ乳臭い頬に。


今でもふ、と。


花輪くんのあの言葉を思い出す。


「さよならフェアリーテイル。」


いつか私の子もそんな風に、誰かを想う日がくるんだろうか。


その時はどうか、どうか。


あの頃の私のような、ずるくて悲しい嘘はつかないで。


「さよなら。」


小さく呟くと、風が西から吹いて私の髪を舞いあげていった。