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Again

2020.06.13 04:57

それから、彼女は。

「山田、明日暇だろ?」


ああこの人、私を何だと思ってるんだろ。


スモーキングルームの一角。


紫色のスモークはゆらゆら陽射しに溶けて行く。


企画資料を引継ぐために先輩を探していた。


そしたら、当たり前みたいに一服して、当たり前みたいに私にそう尋ねてきた。


余裕顔で、自信気に。


だから。


「暇?私、明日は忙しいんです。」


なんて強気に答えてみたり。


「へえ。何すんの?」


先輩にはそんな私の強気はミジンコほども伝わらない。


「朝起きます。で、顔洗って一週間溜まった洗濯を回します。朝ごはんには張り切って明太子を焼くんです。それから、お給料入ったんでブーツ買いに行くんです。それからマリメッコでかわいいクッションカバー見たり。」


鼻先をタバコの匂いが掠める。


次のそれから、は先輩に遮られて言えなかった。

だって、先輩。


「何?」


「や。…何?じゃなくて。何?!」


「変な顔。」


「ちょあの、今の。」


ん?キス。


余裕顔で、自信気に、先輩は笑う。


びっくりするぐらい無邪気に。


目が覚めるくらい鮮やかに、いたずらっ子みたいだ。


これが元カノの結婚式にラルフの新品スーツにヴィトンのネクタイを締めた張本人なんだろか。


「びっくりした?」


「当たり前ですよ!心臓わし掴みですよ。」


「何それ、心臓わし摑みって。面白いなあ、山田かよこ。」


なんだと、呼び捨てでフルネームか。


たぶん大人な私達は、こんなときキスの理由なんて尋ねたりしない。


「何なんですか、今のは。」


私はやっぱり子供だ。


「聞くのかよ。わかんねえの、山田。」


私はエスパーじゃない、言われなくちゃわからないこともあるんだ。


「じゃあさ。」


先輩はタバコを揉み消すとコーヒーの入った紙コップを一気に傾けた。


「とりあえず、今晩付き合えよ。」


「なんでいつも、そんなに偉そうなんですか?」


だけど杉山くんの式に行けたのは、少なからずこの人のおかげ。


話してみようかな、前の彼のこと。


とっても好きだった、杉山くんのこと。


そのお嫁さんになった、たまちゃんのこと。


今度子供が産まれる、まるちゃんのこと。


今、思うこと全部。


話してみようかな、先輩に。


そんなことを考えながら、頬が熱く熱くなるのを感じた。