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テイク・オフ。

2020.06.13 06:28

小さなその背中も、笑うと傾ぐ三日月みたいな瞳も、手の平に収まる掌だって。


きみを包み巡る全てが愛おしい、なんて脆弱(ぜいじゃく)で滑稽で心地好いんだろう。



薄い雲を溶かした空はよく澄んだ大気の色をしていた。


彼の瞳がビー玉の様にその色を映すのを、その鼻筋をただただ眺めていた。


そしてその輪郭を辿ってたどり着いた唇は「何だよ。」と悪態着く。


「何見てんだよ。」


形のいい唇は、そんな事ばかり。


「別に、見てないし。」


「嘘つけ、見てただろ。ガン飛ばしてんなよ。」


「ああ、口悪いんだ。そんなことばかり言ってるとチクるよ。」


まるちゃんに。


「親にチクられるってビビるか、いくつだよ。」


「大野、ほんっと外面だけだよね。」


「何とでも言え。じゃあお前はさとしさんの前でもぶりっ子すんのか。」


しないよ、馬鹿。


ああだこうだと理屈を並べる、昔はそんなこと無かったのに、幼なじみとはその性根まで知り尽くしてしまってるだけに時に一挙一動腹が立つのだ。


「てか、聞いてた?私の言ってること。」


「聞いてたよ。」


「じゃあどうすんのよ。」


どうするもこうするも、と本当に聞いているのかすら怪しい生欠伸を繰り返している。

「まるちゃん、誕生日に何あげよう。」


「杉山があげたるもんなら、全部大はしゃぎするよ。」


そんなことを言う。


まるちゃんは大野を産んだ人で、私の母の親友で、そして話がわかる私の友人でもあった。


その友人が生まれた日となれば張り切らない理由なんてない。


「ドリフは?」


「復刻版を一昨年お母さんとあげた。」


「仕事道具は?」


「スイスの練りクレヨンは去年あげたし。」


そういえばお母さん、今年はおそろいのワンピースをあげるって言ってっけ。


大野はいよいよ痺れを切らして、「カードでも一枚書いてやれば馬鹿みたいにはしゃぐって」むしろあげなくていい・と言い出す始末。


そうじゃないでしょう、と口を尖らせる私を尻目に相変わらず温い欠伸を噛み殺している。


「何が一番、喜んでくれるかな。」


例え大野がどれだけ白々しい視線を向けようが、やはり友人の喜ぶ顔を見たいと思うのだ。


「付き合ってるって言おうか。」


「何でよ。」


それ言ってどうすんのよ。


突拍子のない考え無しのその発言に、語尾は思わずエキサイト気味になる。


「何でよ・って、ね。絶対喜ぶと思うんだけど、俺達付き合ってること聞いたら。」


多分絶対赤飯だぜ、だって赤飯炊きたかったなんでうちは男子なんだろうね・とか言ってたもん。


大野は半ば思い出して、そして首をもたげて深く息をついた。


「でもそれってさ、全然プレゼントじゃなくない?」


「いや、そんなことないぞ。絶対大喜びするね、はしゃぎ回って父さんに呆れられて、それでもお構い無しにその足でお前んち行って、たまえさんとかさとしさんに言うんだ。」


娘さんを下さい、って。


真っ赤になって唇を尖らすその様に、私は堪らず笑い転げる。


照れる位なら言うなよ。


おかしい話だ、何て馬鹿げた話。


だけど時々思う、今目の前にいる人を選んだのはやっぱり大好きな友人の子だからなんだろうか。


だって、そういう所本当に良く似てる。


「本当にそれでいいかな、まるちゃん喜んでくれるかな。」


「え、まじで。」


「自分が言ったんでしょうが、へたれ。」


「父親譲りだよ。」


嘘だ、けんいちさんはそんなことないよ。


「何でもいいじゃん、一緒にのんびり考えよう。」


「でもなあ、まるちゃん誕生日過ぎちゃってるしな。」


にも関わらず、右手を柔(やわ)く握られれば、ま・いっかなんて思ってしまう私は結構薄情な奴。


雲を裂く飛行機に思わず目くばせ、いい天気だなあ、とやっぱり隣は温い欠伸を繰り返した。