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紺碧の採掘師

第11章 02

2020.06.18 06:00

周防「ところで私のナンバーはATL SK-KA B02で製造師記号が二つ入ってる。KAは神谷俊明、SKは周防和臣。この和臣という製造師は人工種の進化の為に有翼種の遺伝子が必要だと考えて、イェソドを探す為に神谷さんと一緒にB02を作り始めた。しかし私が生まれる直前に神谷さんが老衰で亡くなってしまい、だから私は神谷さんに会った事は無い。その代わり、約20才離れのB01、カナンが色々と世話してくれた。…と言うか、私にはカナンしか居なかった。なぜなら和臣という製造師は…。」と言って暫し黙ると「和臣には一人息子がいてな。勿論、人間で、私と同い年位の奴なんだが。…そいつが、事情は知らんが10才の時に家出して行方不明になった。その時から和臣は、私を息子の代わりにし始めた。…まぁ私も嬉しかったので必死に和臣の理想の息子になろうと頑張った。だが…。」と言うと溜息をついて暫し悩むと「…ちょっとここは語れないな。」と言うと「とにかく私は幼い頃から船に乗せられカナンと一緒に雲海でイェソドを探していたが、特に何も見つからなかった。しかし私が15才になったある日、カナンが突然『一緒にイェソドへ逃げよう』と言い出した」

一同「!」

周防「つまりカナンは既にイェソドを発見していたがそれを人間に言わなかったし、私の探知を妨害していた。…カナンに何があったかは知らないが、彼はもはや人間に見切りをつけて、イェソドで有翼種と共に暮らす決意をしていた。そしてその為の計画を立てていた。」

一同「…。」唖然としつつ周防の話の続きを待つ

周防「…あれは何年経っても忘れられない…。」と呟くと「…今から82年前のある日、航空管理の船2隻と警護の船2隻そして採掘船オブシディアンの5隻でイェソドへ行った。鉱石弾で死然雲海を切り拓き、イェソドを守る『壁』が近づいた所で船団は多数の有翼種に囲まれ、そこで最初の話し合いが持たれた。まぁ人間側は有翼種に和解しようと言う訳だが理由はどうあれ有翼種にとっちゃ勝手な言い分でどうでもいい訳だよ。大体、カナンと私以外の人工種は人形みたいな奴らで、…これが人工有翼種の成れの果てと知って有翼種はショックだったろうな。」と言うと「ところで、カルロスと護君は、イェソドの首都ケテルには行ったのかな」

カルロス「いや」

護「ケテルの下のコクマの街なら行きました。」

周防「それでも恐らく相当なイェソドエネルギーだったろ」

カルロス「ああ。」

周防「有翼種たちは5隻の船を首都ケテルへと案内した。しかしカナンと私はケテルがどんな所か人間に言わなかったんだよ。」

カルロス&護「え!」

カルロス「あの壮絶なエネルギーの中に突っ込んだと」

周防「有翼種が住むイェソド山、あれは殆どイェソドエネルギーの山と言っても過言じゃない。頂上にはエネルギーの源泉があり、首都ケテルはその近くにある。…なのでケテルが近づくに連れて人間は立っていられなくなり、人によっては急性エネルギー中毒を起こして倒れる。ついに船は進めなくなり、そこで二度目の話し合いをしたが、有翼種は、ケテルに来れないなら和解は無いと言い張り、人間は仕方なく一旦引き上げる事にした。そこで私は本当は、カナンと一緒に浮き石を持って船から飛び降りる筈だったのに。…どうしても行けなかった。」と言ってため息をつくと「まぁ…、息子の和樹が居なくなって悲しむ和臣を見ていたし、自分がその息子の身代わりをやっていて、それが自分の存在価値だと思っていたし。…ここで逃げたら製造師の和臣を悲しませるという罪悪感に引っ張られて、私は、一緒に飛び降りようとするカナンの手を振り払って自分は船に残ると言い張った。…それが自分の選択であり自己意志だ、と。カナンは『それは本当に貴方自身の自己意志なのか』と何度も問い、私はそうだとキッパリ答えた。ついにカナンは諦めたように『では、お元気で』と言うと微笑みながら船から落下して行った。下には有翼種の街。落下するカナンが数人の有翼種に取り囲まれるのが見えた。それが私がカナンを見た最後だ。」と言い、「あれ以後、人間はイェソドに行きたいと言わなくなった。お蔭で私のイェソド探しの役目も無くなった訳だ。」

一同、言葉も無い。

護「…そんな、ことが」

周防「あったんだよ。…で。」と言い暫し言葉を切ると「ここからが地獄の始まりなんだが聞きたいか」

護「…ここから?」と目を見開いて驚く

カルロス「聞こう。」

周防「イェソドから戻って数日経ったある日、行方不明になっていた和臣の息子が突然、戻って来るという珍事が起こった。」

一同「ええ?」

周防「なんか行方不明というのは嘘だったんじゃないかと思うけれども、まぁとにかく本物が戻って来た。てことは身代わりはもう要らん訳だよな?」

穣「い、いや」

メリッサ「そんな訳ないでしょ!」

周防、自分を指差して「コレはアッサリ捨てられまして。人工種の息子は要らんと」

一同「ええええ?」

夏樹「捨てられた…?」

シトロネラ「そんな」

護「マジで…?」

周防「まぁ、その、…私の方を向いてくれなくなった。それで私は衝動的に和臣の元から逃亡した。…何で逃げたかよく覚えてないんだが…。」

穣「そりゃあショックで記憶も飛ぶわ…。」

周防「とにかく人間の居ない所に行こうと思ったんだがイェソドには行けない。なぜなら自分が行かないと決めたから。」

護「そんな」

周防「当時はそう思った。まぁ探知を使ってアチコチ逃げ回っていたけども結局捕まって、霧島研で働く事になった。あの頃は本当に人工種の自分が嫌で、とにかく人間になりたかった。タグリングさえ外せば人間のフリをして暮らせるかもしれないと思って、霧島研で働きながらタグリングについて勉強をした。

当時の霧島研は人工種を作っていたので日々の仕事で色々学んだ。するとだんだん人工種のメンテを任されるようになり遺伝子管理もやるようになり。まぁ重宝されてはいたが私はとっとと霧島研から逃げたかったので密かに自分のタグリングに細工して逃げる準備をしていたら、見つかって壮絶に締められた。」と言うと「ああ、思い出した。当時は原体B型だからって凄い言われたな。重要資料だから生かしとくって事だよ。殺してくれりゃあラクなのに、とは思ったが黙って殺されるのもハラが立つ。自殺してやろうかと思った事もあったが、…自殺できないようにされていたという。凄いよな」と皮肉な笑みを浮かべると「まぁ、とにかく色々足掻いて…。しかしある時、一人では限界だと思った。そして、仲間を作ろうと思った。自分のように自己意志を持った人工種を作ろうと思ってそこからは製造師めざして一直線。

だが人間の望むものでなければ作らせてもらえないという、このジレンマ。

自己意志を持った奴を作ろうとすると尽く阻まれて、人間の望むものを作れと。でも成果を挙げないと力を持てない、力が無ければ自分の望むものが作れない。その葛藤の中で…。結局は人間の操り人形になって人工種を苦しめて行ったという。」と言うとうな垂れて「…私は最も残酷な製造師だと思う。」

一同「………。」言葉も無い

周防「そんな状況の中で…確か42才の時かな、霧島研が様々な事情で人工種製造をやめたので、製造師は全員、MFに移籍になったんだが、その頃になると流石に私も認められて、…しかしこっちが力を持つと逆に私を持ち上げて利用しようとする奴が結構いた。…そう、だから、私は紫剣さんを信用するのに相当な年月がかかった。あの人は原体B型の研究がしたいと言って私の所に来たんだが、ああこいつも私を利用するのかと思った。何せまぁ…本当に、…人間は勿論、自分が作った人工種にさえも、誰にも理解されずに生きて来たので、孤独すぎて誰も信じられないという。」と言い、ため息をついて「でもあの人、しつこかったんだよ。…私はMFでやっとそれなりの力を持てたので、独立して一人で自由にやろうと思ったのに、あの人が、『付いていく』と。まぁでも人間の紫剣さんが一緒だと管理とか世間がゴタゴタ言わず、スムーズにSSFが出来たけれども、でも本当は、どんなに小さくてもいいから人工種だけで建てた製造所にしたかったな。」と言って「いやはや、長い話になってしまった。」と言い「まさかこんな話をする事になるとは。語るつもりは無かったのに」

一同、暫く言葉も無い。

ジェッソ、ぽつりと「…壮絶すぎる…。」と呟く

穣「…凄ぇ…。信じられねぇ…。」

周防「…だから今、君達がこんな事態を起こした事に、驚いてるよ。」と微笑み、「皆、ありがとう。」

暫しの沈黙

そこへ駿河が突然「…周防先生。俺は黒船で、貴方をイェソドのカナンさんの所へ連れて行きたいと思います!」

周防、思わず「え」と目を丸くする

するとジェッソが「うん」

上総たちも「うん!」と大きく頷く

駿河「カルさんが」と言い慌てて「…カルロスさんが船を持つまで待っていられません。今すぐにでも先生をカナンさんの所へ連れて行きたい。この、オブシディアンで!…もう管理なんかどうでもいい、許可なんか要らない。人間がどれだけ貴方や人工種に理不尽な事をしたかを思えば」と言い、俯いて「…俺は今までティム船長が立派な船長だと思っていました。でも、違った。」と言い拳を固く握り、そして「俺は、間違える所でした。ていうか、歴代の黒船船長は、みんな、間違って来たんだと思います。どこかで間違えたのに、それを正しい事だと思って代々踏襲してきてしまった。それがやっと今、止まったんです!もしかしたら、霧島研の奴らもそうなのかもしれません。」と言い「先ほど先生は霧島研で、苦しみが無ければ内省する事も無いって仰いましたが、俺は苦しむ事が出来て幸いだと思います。なぜなら、…自分が絶対に正しいと思って苦しまずに去って行った方がいるからです…。」

周防「…。」暫し駿河を見つつ(…凄い青年だな)と驚嘆する

駿河「とにかく先生をイェソドに連れて行きたいのですが、先生のご都合は」

周防「…カナンの都合もあるんじゃないかと」

カルロス「向こうは行けば会えるという感じではある」

すると護が「あ、待ったカルさん。カナンさんはいいけど、街に入る為の許可が無い。黒船で行くなら尚更」

カルロス「しまった、そうか。有翼種に許可とらないといけないのか。」

護、腰のポーチからキレイな白いカードケースを出すと中から用紙を取り出して「これ、俺のイェソドの身分証明書です。」と周防に見せる

周防「ほぉ…。」

穣も「おぉ」と身を乗り出して見る。

カルロスもポーチから自分のケースを出すと「これは私のだ」と駿河たちに見せる。

ジェッソ、何か気になる様子で「そのカードケース…、何かの石?」

カルロス「ケテル石」

ジェッソ「ケテル!?」

カルロス「うん。向こうはケテルを良く使う。」

ジェッソ「…。」ちとビックリした顔

護、証明書を仕舞いつつ、カルロスに「やっぱ一度イェソド行って来なきゃならないよ、カルさん。」

カルロス「そうだな。」と言いつつ自分の証明書を仕舞う

穣「アンバーはいつでも行けますぜ?」

護、周防に「先生はいつ頃イェソドに行きたいですか」

周防「うーん…」と言って暫し考えると「イェソド行って何が起こるかワカランので、SSFを数日空けても大丈夫なようにしとかないと…。とはいえ紫剣さんが何とかしてくれるが。」と言うと「でも行くなら早くて一週間後だな。」

護「じゃあそれに間に合うようにイェソドで許可取って戻って…」と言い「あ。カルさん、航空船舶学校どうしよう」

カルロス「…それはまぁ…」

駿河「そうだ免許の事だけど。第三種なら学校行かなくても免許取る方法ありますよ。要は試験に受かればいい訳なので。誰かの小型船借りて来て、操縦経験の豊富な人を指導者として同乗させて練習区域で練習すりゃいいんです。最初だけ教習所で講習受けなきゃなりませんが、その後の実機練習では自由に時間を使えるので教習所に入るよりいいかと。」

護「ほぉ…」

駿河「指導者なら黒船とアンバー足して6人もいるし。もし管理が人工種の指導者はダメとか騒いだら、俺が乗ります。」

カルロス「外地で練習するなら種族関係ないかもな」

駿河、ちと驚いて「外地…?うーん、管理波が無いので練習には向かないような。」

カルロス「探知が居ても?」

駿河「貴方、探知しながら操縦できるのかな」

カルロス「…やってみないとワカラン」

駿河「恐いからやっぱり最初は練習区域で練習しよう。それに、管理波が無い所で操縦ってラクすぎます。練習にならない」

カルロス「そ、そうか。」

駿河「最も難しいのは都市部での操船です。…さっきのウチの副長の操船にはビビりました。」

護「どの位の期間で免許取れるんですか?」

駿河「それはもう、お二人次第です。自主学習と練習が全てなので」

カルロス「よしじゃあその方法にする。」

駿河「ならとりあえずジャスパーの教習所に行って手続きしとけばいい。」

カルロス「ジャスパーか。明日、管理に電話してジャスパーの教習所にしたと言わんとなー」

護「その手続きとか終わったらアンバーでイェソドに行くって感じかな」

穣「よし、了解!」

カルロス「で、何とか一週間後にあの人を黒船でカナンさんのとこに連れて行くと。」と周防を指差して言う

駿河「了解です。」



暫し後。二隻の船はSSFの屋上の駐機場に着く。屋上では男性二人と女性が船を待っていた。

タラップが降りて、アンバーからは月宮やマゼンタたちが、黒船からは周防やカルロス達が出て来る。

すると待っていた人々が「おかえりなさい!」

周防「ただいま戻りました」

月宮「ただいまです」

一人の男が周防とカルロス達の方に歩み寄りつつ「ちょっとちょっと君達。大事な事を忘れてますよ。」

護「…何でしょうか?」

男は自分を指差して「これを連れて行かないと。私も仲間に入れてくれ!」

周防、その男性を指差しつつ護に「コレが紫剣先生です。」

紫剣「なんか物凄く面白い事が起こっていたらしいけれども、何がどうなった!おい昴!」

昴「ええ」とめんどくさそうな声をあげると「夏樹に聞いて」

夏樹「えぇ」

周防「あ!そうだ、紫剣さん、ちょっと小型船を貸してくれませんか」

紫剣「誰に?」

周防、カルロスを指差して「コレに」

紫剣「コイツ誰だっけ。…といういつものね、SSFでよくある会話。」と言うとカルロスに「わかってる。どっかの十六夜先生が目の敵にしているカルロスだろ」

カルロス「…。」冷たい目で紫剣を見る

紫剣「…お前、昔の周防先生に似て来たな」

カルロス「なんですと」

周防、カルロスと護を指差し「コレとコレが一緒に第三種免許取るので小型船貸してほしい」

紫剣「ええ。」と言って「いいけど壊したら新しいの買ってくれよ。ところでコレは誰だ!」と護を指差す

護「ALF IZ ALAd454十六夜護と申します!」

すると紫剣「うわぁ…」と言って笑い出すと「周防と十六夜がくっついた!」と言って笑うと「恐いなぁ。十六夜先生から苦情の電話が来ないといいけど」

護「だ、大丈夫です!そんな事はさせません!」

周防「ところで紫剣さん。私は一週間後にちょっと旅行に行ってきます。」

紫剣「どこへ?」

周防「黒船でイェソドのカナンの所に行く事になりました。」

すると紫剣、真顔になり唖然として周防を見ると「イェソドのカナンって…」

周防、護を指差し「コレがイェソドでB01に会ったと」

紫剣「え!」

周防「人工種最高齢の記録更新です。120歳」

紫剣「本当に?!つまりアンタそんなに生きるの?!」

周防「すみませんね、とっととくたばらなくって!って事で一週間後にイェソド行ってきます。」

紫剣「ほー…。」と言い、「そうですか。」と言うと、微笑を浮かべて感慨深げに「そうですか…。」と呟く

カルロス「…とりあえず、明日ジャスパーの教習所に行くので今晩はSSFに泊まる。」

護「お邪魔しまーす!」

穣「んじゃあ今日はこの辺で!護、明日また連絡するから」

駿河「予定が決まったら教えて下さい。」

カルロス、駿河に「はい。また連絡します。」

穣、紫剣たちに「では紫剣先生、周防先生、皆さんおやすみなさい!」と言いつつアンバーへ。

駿河、周防に「周防先生、貴重なお話をありがとうございました。」と言うと「それでは皆様、失礼します」

上総たち「おやすみなさーい」と言いつつそれぞれアンバーや黒船に戻って行く

二隻を見送りつつ、紫剣「いやぁ…驚いたなぁ…。」

周防「驚きましたよ本当に。」

紫剣、周防に「何がどうなったか詳しく教えて下さいよ」

周防「眠いので、明日。」


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