Photo小説:『もう一度だけ時を止めて』
2020.06.17 06:29
あの日から、部屋の隅で、色褪せ、渇いて時を止めた花。
残り香も今は無く。
凍った時間だけが漂う部屋。
あなたといつも語らった喫茶店。
10年振りに何気なく立ち寄って、見るはずのない幻を見た。
あなたと私の間に凍った時が溶け出して、ゆっくりと動く。
証のないあなたの左手と私の左手。
あなたの温もりが、私の胸に色を注(さ)す。
渇いて、色を失くした部屋の花を染めて。
もう一度だけ、このまま二人の時を止めて。
photo/文:麻美 雪