遺伝子ワクチン
ナカムラクリニック@nakamuraclinic8
"待望のコロナワクチン"
DNAワクチンのデメリットで挙げていたは"ワクチンの精度が落ちる"だけ.これは正しくない.
DNA/RNAワクチン→サイトカインストーム(免疫異常亢進)→突然死の可能性や,全身の細胞の遺伝子が変化して様々な疾患を発症する可能性に触れてない。情報がフェアじゃないよね
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/9911/dna.html 【DNAワクチン】
D.B. ワイナー(ペンシルベニア大学) R. C. ケネディ(オクラホマ大学)
近代医学の成果を数え上げるなら,ワクチンが上位に挙げられるのは間違いない。ワクチンのおかげで天然痘は根絶でき,ポリオ(小児マヒ)も新しい患者はほとんど発生しなくなった。さらに発疹チフス,破傷風,麻疹(はしか),A型肝炎,B型肝炎,重症の下痢を引き起こすロタウイルス感染症などの深刻な感染症から多くの人を救っている。
一方,ワクチンの開発がずっと期待されていながらまだ実現していない感染症も多い。マラリアやエイズ,ヘルペス感染症,C型肝炎などがそうだ。従来技術で作ったこれらの病気予防用のワクチンは,効果がなかったり,多少効果があっても副作用のリスクが大きく,予防のメリットを上回ってしまうために,いまだに実用化できていない。
このため,こうした感染症の予防には,まったく違った発想のワクチンが必要となる。その中で最も有望なのは,DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)といった遺伝物質で作ったワクチンだ。遺伝子ワクチンのアイデアは10年前には“きわもの”扱いされたこともあったが,現在では大学や産業界の研究者が精力的に研究を進め,臨床試験も始まりつつある。
著者
David B. Weiner / Ronald C. Kennedy
2人はともに遺伝子ワクチンの開発に少なからぬ貢献をしてきた。ワイナーは抗ウイルスDNAワクチンのパイオニアの1人。ペンシルベニア大学の病理学・実験医学教室の準教授で,同大学の遺伝子治療研究所のメンバーでもある。ケネディは,オクラホマ大学ヘルスサイエンスセンターの微生物学・免疫学教室と産婦人科学教室の教授を兼任しており,感染症やガンに対する遺伝子ワクチンを研究している。
https://www.primate.or.jp/serialization/106%EF%BC%8E%E6%9C%9F%E5%BE%85%E3%81%8C%E9%AB%98%E3%81%BE%E3%82%8Bdna%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3/ 【期待が高まるDNAワクチン】 2017/12/04
これまでのワクチンは、不活化ワクチン、弱毒生ワクチン、サブユニットワクチン、ベクターワクチンといった形で、免疫源となるウイルスタンパク質を、接種して免疫を誘導してきた。このような体外から投与する、ワクチンとは異なり、DNAワクチンは、ウイルスタンパク質遺伝子を投与することにより、免疫源のタンパク質は体内の細胞で産生させるという、まったく異なるタイプになる。
DNAワクチンは、ワクチン遺伝子を組み込んだプラスミドを、大腸菌などの細菌をタンク培養で増殖させて製造する。プラスミドは細胞質内で自律的に増殖するDNAである。プラスミドを遺伝子の運び屋としたのが、プラスミドベクターで、遺伝子治療で広く用いられている。プラスミドベクターでは、GMP(医薬品の適性製造基準)にもとづく製造方式や、ヒトでの安全性を確認するための条件が確立されている。DNAワクチンは、プラスミドベクターにワクチン遺伝子を組み込んだものであるため、実用化の条件はほとんど揃っている。
DNAワクチンには、いくつかの利点がある。細胞培養や卵で製造するワクチンと異なり、DNAワクチンは、タンク培養で迅速に大量生産できる。たとえば、インフルエンザワクチンは前年の流行から予測したウイルス株を用いて製造されているため、出来上がったワクチンが翌年の流行ウイルスに対応するとは限らないが、DNAワクチンであれば、直ちに流行株を用いたワクチンが製造できる。製造法が単純で容易なため、いくつもの候補抗原のDNA をすぐにワクチンとすることができる。DNAは熱に強く、冷蔵保存の必要がない。
DNAワクチンの投与法としては、筋肉内注射が一般に用いられてきた。最近では、電気パルスによるエレクトロポレーションも行われている。これは、筋肉内注射後に針電極でミリ秒の電気パルスをかけて、細胞膜の透過性を高めて、DNAの細胞内への取り込みを高めるものである。
多くの利点があるため、DNA ワクチンは理想的なものとして、1990年代から数多く開発されてきたが、人体用に承認されたワクチンはまだない。現在、トリインフルエンザ、エボラ、C型肝炎、HIV、乳ガン、肺ガン、前立腺がンなどのDNAワクチンについて臨床試験が行われている。特記すべき例として、ジカウイルスDNAワクチンは、2016年2月にWHOがジカウイルス感染の緊急事態を発表して、半年後には臨床試験が始められるという、急速な進展を見せている。これについては、次回(107回)に紹介する。
獣医領域では、すでにいくつかのDNAワクチンが承認されている。2005年カナダでは、養殖サケの伝染性造血壊死病ウイルスに対するDNAワクチンが承認された。2008年、オーストラリアでは、繁殖期の雌豚の成長ホルモン分泌促進のためのDNAワクチンが承認された。米国では、馬用のウエストナイルウイルスDNAワクチンが農務省(USDA)から2008年に承認された。イヌのメラノーマDNAワクチンは、2007年に条件付きで承認され、摘出手術後に用いられてきたが、2010年に正式承認された。2017年11月にはニワトリ用の高病原性トリインフルエンザDNAワクチンが初めて承認された。
Scientific American誌12月号は、2017年における革新的技術トップ10のひとつに、ゲノムワクチン(DNAワクチン)をあげている。
参考文献
Ling, G.: Vaccines composed of DNA or RNA could enable rapid development of preventives for infectious diseases. Sci. Amer. 317, issue 6, Dec. 2017.
https://news.yahoo.co.jp/articles/e89066d80b02c4ffe1606698beaa54ddc2e51d3f
【吉村大阪府知事がワクチン完成に強い決意表明「大阪の医学がコロナに打ち勝つことを証明する」】 6/17(水) 20:24配信 中日スポーツ 大阪府の吉村洋文知事
吉村洋文大阪府知事(45)が17日、ツイッターを更新。府や大阪市、阪大、大阪市大などが連携して開発している新型コロナウイルスのワクチンについて、「大阪の医学がコロナに打ち勝つことを証明する」との強い決意を表明した。
吉村知事は17日の定例会見での今月30日から大阪市大医学部付属病院の医療従事者にDNAワクチンを投与して治験を開始するという発言を報じた記事を添付して、「全国初の人への投与を今月開始する」とあらためてツイート。その上で「秋には数百単位、年末には10万~20万単位、来年春以降には数百万単位で実用化を目指す」との今後の見通しを示した。
この日の午後にも「一刻も早い、日本国産ワクチンが必要だ」とツイッターで主張していた吉村知事のツイートを見たフォロワーからは「ぜひコロナに打ち勝って証明してください!!」「大阪の医学がコロナに打ち勝ち証明される事を心より願っています」などのコメントが寄せられていた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200328-00170083/ 【新型コロナの免疫とワクチンの話をしよう 免疫学の第一人者・宮坂先生にお尋ねしました(上)】
木村正人 | 在英国際ジャーナリスト3/28(土) 11:50
イタリアでは手遅れになっている患者が多いようですが
[ロンドン発]中国に続いて欧州、そしてアメリカを襲う新型コロナウイルス。免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授にさらに質問をぶつけてみました。
木村:英BBC放送のドキュメンタリー番組で中国の患者さんの家族がCTスキャンの画像を見せる場面がありました。素人が見ても両肺の9割5分ぐらいがハチの巣のようになっていて間質性肺炎を疑いました。新型コロナウイルス肺炎の末期というのは間質性肺炎がひどくなって死んでいくのですか。
宮坂氏:いいえ、私の理解は、そうではありません。レントゲンでは白く見えますけれども、あれは肺胞自身がつぶれる、破壊されるために白く見えているのです。
普通、間質性肺炎というのは、肺胞ではなくて、肺胞と肺胞の間の間質のところに炎症が起こることを指します。
ところが、新型コロナウイルス感染の場合には、肺胞の上皮細胞が感染して壊れるので、肺胞が壊れる。それとともに周囲の間質にも炎症が起こっているということで、肺胞の破壊なしに間質性肺炎が起きているわけではありません。また、間質性肺炎が起きたから肺胞が破壊されているのではなくて、やはり一次的には、何らかの原因で肺胞の上皮細胞がやられてしまって、従って空気交換ができなくなる、ということだと思います。
肺炎の最初の自覚的症状は呼吸困難ですね。あれは酸素が十分に体内に吸収できなくなるからです。その時点では、レントゲン写真ではそんなに白く見えないことが多いのですが、そこからなぜか急に重症化する人がいるのです。
木村:今後、日本でも流行が広がると、病院のベッドが足りなくなってくるから、若くて症状の軽い人は、みんな自宅で療養することになると思います。イタリアでは手遅れになっている人も多いようです。重症化して病院の集中治療室(ICU)に入れられた人で助かる例は少ないという報道もあります。
宮坂氏:何歳で、そしてどういう状態で、ICUに入ったかということが大事です。中国や欧米のデータを見ると、年齢によって50歳より前であれば、ICUに入っても多くの人は元気になって退院しますが、60、70、80歳となると、ICUに入ったら半分は亡くなります。きちんとした医療施設があっても、高齢者には持病があることもあり、助けられる例は多くないようです。
ただ、イタリアのように人工呼吸器が足りなかったり、重症者を入院させられなかったりというような状況にまでいってしまうと、ICUに担ぎ込まれても十分な治療ができず、結局は駄目という状況があるようです。
木村:医療資源のひっ迫度合いによって、助けられる命の率も大きく変わってくるわけですか。
宮坂氏:そうだと思います。この他に、重症化をするかどうかは2つの重要なファクターがあります。一つは、ウイルスの曝露(ばくろ)量です。医療関係者は患者に近接距離で接するのでウイルス曝露量が多く、どうしても重症化する率が非常に高くなります。
木村:本当にかなり重症化率、死亡率が高いですね。
宮坂氏:それは彼らが、ウイルス曝露量が多いだけでなく、非常にストレスのある状況で仕事をしていることも原因になっています。ストレスによって免疫力が落ちていて、非常に感染しやすい状況になっています。体の抵抗力が落ちているためにウイルスが入ってきやすくなっていて、いざウイルスが入ってくると、体内で一気に増えてしまうということです。
もう一つの大事なファクターは持病です。糖尿病、心疾患、高血圧などの持病があり、しかも治療が不十分だった場合、また、がんの化学療法を受けていると、免疫力が低下していますから、当然、重症化しやすく、いったん重症化すると非常に高い確率で亡くなるということになります。
と言っても、実際の統計を見ると、糖尿病や高血圧を持っている人は、重症化率は確かに高いですが、中国の統計では20~25%で、一方、普通の人が重症化するのは数%です。ですから、持病を持っていたら半分以上が重症化するというわけではありません。
免疫系の暴走サイトカインストームについて教えて下さい
木村:ウイルス性の炎症から免疫系の暴走によるサイトカインストームと呼ばれるものに移行する瞬間というのは、どういう感じで起きるのですか。同時に起きていくわけですか。
宮坂氏:それはよく分かっていません。肺炎が悪くなるにつれて、免疫細胞の異常な活性化状態が起っています。しかし、何がその異常活性化状態を引き起こしてしまうのかが、現在のところわからないのです。免疫細胞が活性化されると、炎症性サイトカインというものが作られます。これは、自動車ではアクセルに相当するもので、免疫反応を強く前に進ませる役割があります。
新型コロナウイルス感染の末期に起こるサイトカインストームでは、ちょうど自動車でいえば、ブレーキをかけずにアクセルを踏み込み続けた状態で、全くブレーキが利かないようになっています。でも、われわれにも分からないのは、なぜアクセルだけ踏み込まれてブレーキが利かないようになってしまうのか。通常は、免疫反応の場合、アクセルを踏んだらブレーキが踏み込まれて、加速しすぎないような調節機構があるのですが、サイトカインストームの場合、そこがうまく働いていないようです。
免疫反応というのは一種の炎症反応であり、通常の場合、炎症は一定程度起こっても、必ず戻ってきて回復します。でも、このサイトカインストームの場合には、ある一定のスレッシュホールド(敷居)を超えると、だーっとサイトカインがつくられ続けすぎて、さらに免疫細胞が異常に活性化されて、それが急激な肺胞の破壊あるいは間質の破壊につながっているように見えます。
でも、なぜそうなるかは、われわれにも分かっていませんし、どういう人がそういうことを起こしやすいのかも、先ほど言ったような持病や加齢などのリスクファクターは分かっていても、例えば若い人でもなる人は何%かいるわけです。そういう人が血液検査や何かで分かれば、その人を入院させて重点的に診ればいいのですが、これが分からないのです。
ワクチン開発の見通しはどうでしょうか
木村:英インペリアル・カレッジ・ロンドンのロビン・シャトック教授はワクチンの開発に取り組んでいますが、遺伝暗号を新型コロナウイルスの塩基配列が公表されてから2週間で作りました。その遺伝暗号を筋肉に注射するとタンパク質をつくって免疫反応を起こすと言われています。大学のホームページを見ても1行か2行の説明しかないので何のことか分かりません。
宮坂氏:それが今、DNA(デオキシリボ核酸)ワクチンとかRNA(リボ核酸)ワクチンと言われるもので、アメリカではモデルナという会社がRNAワクチンを開発していて、今、第一相の治験が始まるところです。
ウイルスの遺伝子は一本鎖のRNAですが、その中から特定のウイルスタンパク質を作る部分を見つけてきて、それをわれわれの体に注入し、細胞の中で発現させてやれば、特定のウイルスのタンパク質がわれわれの体で作られるようになります。
そうすると、そのウイルスタンパク質はわれわれの体にとって異物ですから、われわれの免疫系が認識して、それに対する抗体をつくる、あるいは、それに対するキラーT細胞をつくるようになる、ということが期待できます。
つまり、これまで行われてきたような、ウイルスタンパク質を用いて免疫するのではなく、体内でウイルス遺伝子を発現させてウイルス由来タンパク質をつくらせることができれば、外からタンパク質を入れるのと同じ免疫効果があるはずだろう、というのがRNAワクチンの考え方です。
木村:それをすると、かなり開発のスピードが上がるのでしょうか。
宮坂氏:そういうことです。特定の遺伝子、タンパク質を試験管の中で大量につくらせること自体が技術的に大変で、これまではこのプロセスで時間を無駄にしていたのです。ですから、ウイルスのDNAやRNAの一部を注射することによってウイルスタンパク質をわれわれの体の中で作らせることができたら、ワクチンの開発としてはものすごく手間が省けるわけです。
ところが大事なことは、私たちの体はどの遺伝子でも導入すればタンパク質をつくるわけではないということです。よくタンパク質をつくってくれる遺伝子と、そうではない遺伝子があります。だからウイルスRNAをちょん切って、何種類かのRNAをわれわれの体の中に入れて、どのRNAが人体で一番ウイルスタンパク質を効率よくつくらせるかを決めないといけないのです。
ウイルスのRNAは、何十種類ものタンパク質をつくり、その中で一番大事なタンパク質を作ってくるRNAはどの部分か、そしてもっとも免疫を刺激できるタンパク質はどれか、ということを順番に探さなければいけません。それはそれで手間ですが、試験管の中でウイルスのタンパク質を最初に大量につくって免疫をするという作業は省けるので、何カ月も仕事が早くできます。
しかもこのウイルスの遺伝子はRNAですから、RNAのどの部分がタンパク質になるかは、ほぼ全部分かっています。だからウイルスRNAの中にタンパク質を作りそうな領域が20カ所あるとすると、それをちょん切ってそれぞれ注射して、20カ所のうちどれが一番いい免疫力を上げるRNAかを見つけることができるわけです。そういうことをすると、RNAワクチンの候補が早く見つけられるであろう、ということです。
このためには、まず動物で前臨床試験をすることが必要で、そこで一番免疫力を上げられるRNAワクチンの候補が見つかれば、次に人で試すことになります。そうすると、第1相試験、第2相試験、第3相試験という臨床治験をやることになります。
ワクチンというのは、最悪の場合、病原体にも抗体をつくるけれども、われわれの体に対しても抗体をつくってしまうことがあるのです。もし、ワクチンによって神経細胞に対する抗体ができたら、われわれはアルツハイマーになってしまう、あるいは脳炎を起こしてしまうわけです。
実はそういうワクチンの悲しい歴史もありました。これはいいと思ってつくったワクチンでも、例えば、日本脳炎のワクチンでも脳炎が起きたことがありました。
マウスの脳で人のウイルスを増殖させたがゆえに、マウスの神経細胞に存在する抗原がワクチンに混ざってしまい、そのためにそのワクチンをうつと人の神経細胞に対する抗体ができて脳炎を起こす、つまり、ワクチンを打ったために脳炎を起こしてしまったという例が今までもあったのです。
この他にも、RSVという子どもの肺炎ウイルスに対するワクチンを作ったところ、接種した子どもにかえって肺炎が起こる頻度が増え、死者が増えたという悲しい事例が過去にありました。また、デング熱を起こすウイルスに対するワクチンでも同様のことがありました。これは「ワクチンによる病原性の増強」と言って、ワクチン接種により、かえってウイルスの病原性が増して病気が悪化したという例です。
このようなことから、ワクチンの場合には、第1相試験で約100人、第2相試験で数百人、第3相試験で少なくとも2000人や3000人で安全性と有効性を調べます。しかし、そのような安全性、有効性試験を通り過ぎたワクチンであっても、過去には大きな事故が起こったことがありました。ワクチンというのは何百万人に投与するので、千人単位の安全性試験ではなかなかわからないことがあるのです。
ワクチンの安全性試験にはどれぐらいの時間がかかりますか
木村:人数を大きくすると、きわめて稀だけれども大きな副反応が見えてくるということですか?
宮坂氏:そうです。何百万人という単位でワクチン接種をすると、稀だけれども大きな副反応が見えてくることがあるのです。そうなると、必ず大きな非難を受けることになります。ワクチンは健康な人が受けるものですから、1例でも副作用があったら、「このワクチンは駄目だ」と。当然、自分の子どもがワクチンを打って脳炎になったら、「何だ」と絶対に言いますね。
ですから、ワクチンというのは安全性試験と有効性試験がやはりすごく大変で、それをやるにはどうしても2年かかります。
だから米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長という感染症のトップの人も、少なくとも1.5年から2年かかると言葉を濁していましたけれども、それは大人数に対する安全性試験と有効性試験まで入れたら、どうしてもそうなるのです。
ただ、例外は、例えばエボラ出血熱のように、抗体が効くらしいということから試験的に抗体を投与したという例があります。エボラになった感染症の患者さんに、治った人から抗体をとってきて次の人に入れたら、それなりに効いたと。それを人工的に大量につくれる抗体の形につくり替えて、それを何種類か混ぜて投与したら確かに効いたのです。
それは安全性試験とともに有効性試験を同時にやっているのです。これは、かなりのリスクがあり、事故が起こる可能性があります。「それでもいいですか」と言ってインフォームドコンセントをとるのですが、死にそうな人だったらOKするしかない、そういう試験です。
また、第1相、第2相、第3相試験は、ランダム化の試験ですから、あなたに何を投与しますということは、一切言わずに行います。だからその試験に参加しても、自分は正しいお薬をもらっているのかそうでないのかが分からない状態でやるのです。
だから感染症のワクチンの治験は大変です。1群はプラセボ(偽薬)、1群は効くはずのワクチンを投与します。投与を受ける人はどちらのものを投与されているのかは知りません。プラセボを受けた人は、その感染症に免疫はできず、感染のリスクが残ることになります。
ということから、ワクチンの安全性試験と有効性試験を第3相試験までやるというのは大変です。第3相では、数千人の集団を見つけて試験をする必要があり、それを感染が起こりうる地域でやる必要があるのです。
イギリスは、これが2年ぐらいでできるかもしれない、それまでに集団免疫ができればあとはワクチンでいいだろうなどと言っていますが、私は2年では絶対にできないと思います。
木村:臨床試験とは相手のインフォームドコンセントを取って人体で実験をするということですか。
宮坂氏:そういうことです。だから死にそうな人に対しての実験としては成立するのですが、健康な人にそれを言ったら簡単にはやらせてもらえません。
だから、もしも新型コロナウイルスで重症化した患者さんで、死にそうだったら分かりません。今のエイズ薬やアビガンやいくつかのお薬は、そういうところで使っているわけです。
エイズ薬などは、すでに第3相まで過ぎたお薬なので、敢えて新たな臨床試験なしに目的外使用という形で特別にやっているわけです。でもこのワクチンの場合にはそういうわけにはいきません。何百万の人にやろうと思ったら、必ず第3相までの試験は通していないと、国は認可を出しません。それには私は少なくとも2年はかかるだろうと思います。
木村:SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスとMERS(中東呼吸器症候群)ウイルスで共通に存在する抗原(=タンパク質)でマウスを免疫すると、両方のウイルスに反応するTリンパ球が体内にできて、ウイルス感染細胞を殺すことができるというお話を前回うかがいしました。
SARSやMERSは致死率がそれぞれ10%や34%ぐらいあって非常に危険なウイルスだと思いますが、そういうのを動物や、極端な話をすると、人間の体にわざと入れることはできるのですか。
宮坂氏:いいえ、そうではなくて、こういう実験は全てウイルスの遺伝子の一部分を切り出してきて、特定のタンパク質だけ、あるいはそれを作る遺伝子だけを切り出してきて、それを使ってマウスを免疫したりするわけです。
私が前にお話したのは、SARSウイルスとMERSウイルスという異なる2種類のコロナウイルスの間で共通に持っているアミノ酸配列――共通抗原と言いますが――これをマウスに投与するという実験です。
これはマウスを感染させるのではなくて、ウイルス由来のタンパク質で免疫するということです。そうすると、マウスのBリンパ球もTリンパ球もこのウイルス抗原によって刺激されて、Bリンパ球が抗体を作り、Tリンパ球のうちウイルス感染細胞を殺すことができるキラーT細胞が、実際にこの免疫によってできてくるのです。
中でもキラーT細胞は、MERSの感染細胞も殺せるし、SARSの感染細胞も殺す能力を持っていました。つまり、例えばAというコロナウイルスを使って、Bという別のコロナウイルスに対する免疫を起こすことができるかもしれないということです。ただしそれはAとBが共通の抗原を持っていればという話です。
木村:それは今回の新型コロナウイルスにも、ひょっとしたら応用は可能なのですか。
宮坂氏:はい。SARSとMERSと今回の新型コロナウイルスの間には共通に存在するアミノ酸配列が確かにあるのです。そういう配列があるからといって全て免疫を起こす力が強いかどうかというのは、やってみなければ分からないですが、SARSとMERSで共通のタンパク質でお互いに反応する免疫を起こすことができたということは、新型コロナウイルスに対してもこのような共通配列を用いて免疫を起こせる可能性があると思います。
つまり、ウイルスの一部のタンパク質あるいは遺伝子の一部だけを取ってきて、実際の感染力がないものでワクチンを作って、免疫を起こすことができる可能性があるのです。
(つづく)
本人提供
宮坂昌之氏
1947年長野県生まれ、京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学博士課程修了、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所、1994年に大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター臓器制御学研究部教授。医学系研究科教授、生命機能研究科兼任教授、免疫学フロンティア研究センター兼任教授を歴任。2007~08年日本免疫学会長。現在は免疫学フロンティア研究センター招へい教授。新著『免疫力を強くする 最新科学が語るワクチンと免疫のしくみ』(講談社)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200329-00170179/ 【「人造ウイルスが米国から来たとは科学的に考えにくい」新型コロナの免疫とワクチンの話をしよう(下)】 木村正人 | 在英国際ジャーナリスト 3/29(日) 12:00
二度なしの原理って何ですか
免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授へのインタビュー後編です。
木村:集団免疫説についてもう一度おうかがいできますか。
宮坂氏:例えばパトリック・ヴァランス英政府首席科学顧問の論拠の一つは、このままでいくと国民の6割から7割が感染するかもしれないと。この6割、7割という数字はどこから来ているかというと、基本再生産数、1人当たり何人に感染させるかというのを、例えば2.5とすると、0.6という集団免疫のための最小閾(しきい)値が出てくるわけです。
(筆者注)集団免疫閾値(%)=(1-1/基本再生産数)×100
その0.6が6割、すなわち国民の6割が免疫を獲得しないと、どんどん感染は広がっていき、逆にいうと、免疫が何もない場合には国民の6割ぐらいは感染すると考えたようです。しかし、私はそこに問題があると考えています。
どういうことかというと、特定のウイルスに対して免疫がある、ないというのは、今までは、私たちが言う獲得免疫のことを指していました。
免疫には自然免疫と獲得免疫の両方があって、自然免疫というのは私たちが生まれつき持っている免疫機構です。一方、獲得免疫というのは、Bリンパ球が抗体をつくったり、Tリンパ球がキラーT細胞をつくったり、そういうことに関するほうの免疫で、生後獲得する能力なので、獲得免疫と呼ばれます。
後者の獲得免疫ができると、体には免疫記憶ができて、一度感染した病気には二度かからなくなるという、いわゆる二度なしの原理が成立します。これが多くの人が居る集団でできると、集団免疫ができると考えられたのです。
ところが最近、ここ10年ぐらいの間に分かってきたのは、その獲得免疫が働きだす前に自然免疫という機構が動き出すということでした。
例えば、皮膚の細胞がつくっているバリアもそうですし、皮膚の細胞がつくっている殺菌成分や抗菌物質もそうですし、あるいは万が一ウイルスが皮膚を通り越すと、白血球が待っていて白血球が食べて殺します。それは元々体に備わっている、われわれが生まれつき持っている仕組みです。この自然免疫が体への病原体の侵入を阻んでいるのです。
1つの例が、インドなどに行くと、インド人は全く病気にならないのに、日本人はすぐに下痢をしたり病気になったりします。その場合には1日以内に感染症にかかってしまうので、病気になるかならないかは、まずは自然免疫が強いか強くないかということが問題なのだろうと私は考えています。
つまり、かなり感染性の強いウイルスがあっても、私たちは最初に自然免疫で対抗するのです。ウイルスがそれを超えて自然免疫に勝つと、いったんは病気になりますが、その過程で獲得免疫が働いて、抗体ができてきたり、キラーT細胞ができてきたり、免疫記憶ができて、やがて感染症を排除するように免疫機構が働きます。
おそらく多くの場合、獲得免疫が動く前に自然免疫が働いて、獲得免疫が動かないままウイルスを追い出してしまっている人が、かなりいるのではないかと思います。
今の教科書の常識だと、獲得免疫は感染によって成立するので、感染によって免疫力が強くなるけれども、自然免疫は生まれつき持っているものなので、一度感染しても強くならない、記憶がないということになっています。
しかし最近、自然免疫といえども、少しは記憶があって、二度、三度、感染を繰り返していると、ある程度は強くなりそうだということがわかってきました。その例として、結核ワクチンであるBCGを投与すると、結核とは関係のない感染症が子どもで減ることがわかってきました。
BCGは自然免疫を刺激するもっとも強力な物質なので、自然免疫が強化されたことにより、他の感染症もある程度防げるようになったのではと考えられる報告です。さらに面白いデータが最近、オランダのグループから出ています。
彼らは、弱毒化したウイルスからなる黄熱病ウイルスワクチンを人に接種した時に起こる反応について、BCGの投与効果を調べました。投与する黄熱病ウイルスは生きているので一過性に接種を受けた人の血液中に出現するのですが、BCG投与を受けていた人ではこのウイルス血症の頻度が著しく減る、つまり、BCG投与により結核とは関係のない病原体に対しても実は免疫力が強化されていることが示唆されたのです。
彼らはさらに解析を進め、BCGが単球(マクロファージのもととなる細胞)という自然免疫細胞に働いてエピジェネティックな変化(遺伝的な変化ではなく、遺伝子の機能を変えるような変化のこと)を起こし、このために単球の生体機能が高まっていることを実験的に明らかにしたのです。彼らは自然免疫も訓練で強化できると考え、この現象のことをtrained immunityと呼んでいます。
もしかすると、このようなことが中国でも働いていたかもしれません。例えば、中国湖北省武漢市は人口約1000万人で、公称の感染者は約10万人、これが正しければ、かかった人は100人に1人です。でも中国の数字ですから怪しいとして、その10倍かかったとしましょう。最近の論文では、そのぐらいかかっていてもおかしくないという論文もいくつかあります。そうすると、それでも10人に1人しかかかっていないことになります。
そのかからなかった9人は、はたしてウイルスに曝露(ばくろ)されなかったのか、曝露されたけれどもウイルスの感染を受けつけなかったのかと考えると、もちろん両方の可能性はありますが、かなりの人は自然免疫だけで追い出してしまった可能性があるのではないかと思っています。あるいは、症状が出ないまま獲得免疫まで動いて追い出した人も、もちろんいると思いますが。
同様のことが、あれほど多くの感染者を出したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でも見られています。多くの感染者が密集していた状況でも、乗船者3711名に対して感染者が696名、つまり感染した人は19%足らずであり、10人中8人は感染しなかったのです。
新型コロナウイルスに対して獲得免疫が動いたのかどうかは、抗体を測ると分かります。獲得免疫が動くと、抗体ができますが、自然免疫が動いただけでは抗体はできないからです。この点、イギリス政府が国民全員に配布して抗体の有無を調べることを計画しているのですが、もし配布されるキットの精度と感度が良ければ、抗体陽性者が何人いるかがわかります。
もちろん抗体陽性者というのは、今感染している人も抗体陽性ですし、感染が終わって治った人も抗体陽性ですので、PCR検査でさらに確認をしないといけないのですが、それができると、実際の感染者が何人で、感染を終えて治癒した人が何人で、一方、全く獲得免疫が動かなかった人が何人というパーセンテージが出ると思います。
そのパーセンテージを見ると、イギリスのヴァランス政府首席科学顧問の言う、6割の人がなったのかならないのかということが後から分かると思います。
私自身は、十分な証拠はまだありませんけれども、6割の人がかかって感染が止まったのではなく、おそらく自然免疫が働くことによって、かなりの人がウイルス感染を撃退したと考えています。何割かの人は感染をして抗体をつくっていると思いますけれども、6割も感染したとは思えません。
でも、あの中国でも見事に今感染のピークは下がってきて、これも公称ですけれども、感染者の毎日の報告は、ほとんどゼロに近いということになっています。話半分に聞いたとしても、ピークがすでに終了してきていることは間違いないと思います。
ということは、6割が感染しなくても、感染というのは収束する可能性があるのです。今の集団免疫説には無理があるようです。
新型コロナは収束しても終息はしないのですか
宮坂氏:新型コロナウイルスの場合、終息はまず絶対になくて、一度、収束はするけれども、また繰り返して来年来るということになりそうな気がします。
とすると、イギリスの最初の仮定、すなわち6割の人が感染しないと感染は収まらないというのは、あまりに単純化した考え方で、実はこれは違うかもしれません。
このコロナウイルスは、比較的ウイルスとしてはそれほど強くなく、増殖もゆっくりです。体外ではやや長く生き残りますけれども、感染力という点でいけば、インフルエンザより少し強いだけであって、おたふくかぜや、はしかや、その他の強いウイルスに比べたらずっと低いです。
だから、この辺りの集団免疫という考え方については、今までの考え方とは異なり、自然免疫も考慮した上での新たな集団免疫の考え方が必要かもしれません。
木村:集団免疫閾値というのは、ワクチンを大体どれぐらいの人に打ったらいいのかということを考える上で必要だから、考え出されたことなのですか。
宮坂氏:そうです。しかし、一つの問題は、これが古い免疫学の考えに従っていて、一方、現在の免疫学で考えると、自然免疫、獲得免疫の両方を考えた上で改めて集団免疫というものを考える必要があると思います。
ソーシャル・ディスタンシングって何のことですか
木村:計算式を見ると、1人から1人にうつるのではなく、1人から0.9人や0.8人にうつるようになっていけば終息に向かうという考え方を式にしたように思うのですが。
宮坂氏:そういう考えでいいと思います。日本ですと、今一番問題になっているのは、実効再生産数で、地域ごとに1人が何人に感染させるかの実際の数字を出しています。
例えば、この病気は1人当たり2.5人(筆者注:英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は欧州の感染爆発を見て3人に引き上げた)に感染させると言われていましたけれども、ソーシャル・ディスタンシング(人と人との間に距離を置くこと)をすれば、ずっと感染のリスクは下がります。
それから地域によっては、感染者が元々いないところだったら、それから元々ソーシャル・ディスタンシングができているところだったら人の接触が少ないですから、1人が2.5人に感染させる感染症であっても、実際うつす率は1ぐらいになってきて、さらにソーシャル・ディスタンシングがうまくいっているところは、日本では0.9や0.8になりつつあります。
こういう都道府県は、どんどん感染は下がっていくだろうという見通しが立てられているわけです。
新型コロナウイルスは中国起源なのでしょうか
木村:中国の鍾南山先生という、SARSを経験されて、今回封じ込め作戦の指揮を執られた人ですが、この人はどうしてこういう大規模なソーシャル・ディスタンシングというか、ロックダウンが必要だと初期の段階で分かっていたのでしょうか。
宮坂氏:ソーシャル・ディスタンシングというのは昔からやられていたことで、ワクチンのない時代から、これしか方法がなかったのです。ワクチンのない新型コロナウイルスの場合にも、本当は最初からこれをやる必要があったのだと思います。イギリスは、最初は全くこれをやりませんでしたが、むしろそれが良くなかったのだと思います。
木村:先ほど言った鍾南山先生が、新型コロナウイルスは中国起源ではないと言っているのですが、これは政治的な発言なのでしょうか。やはり数から見ても武漢市から出たと思わざるを得ないのですが、これはどうなのでしょうか。
宮坂氏:かねてからSARSウイルスのスパイクタンパク質をコードする遺伝子領域を見ると、明らかに普通では考えられないような塩基配列があって、それがどこかのウイルスから持ち込まれたものではないか、従って、このウイルスは人造ウイルスではないか、あるいはどこかでつくったウイルスが漏れ出たのではないかということが言われ、3つぐらい論文が出ました。
ところが、いやそうではないだろうという論文もあります。つい最近、アメリカのグループが調べたのですが、新型コロナウイルス感染症の患者さんから直接とってきた何種類ものウイルス、コウモリにいるウイルス、それからセンザンコウ(哺乳綱鱗甲目に分類される構成種の総称)にいるウイルスの塩基配列を全部比べてみると、やはり新型コロナウイルスに非常に近いものが、センザンコウにも、コウモリにもいるのです。
いろいろな塩基配列の解析からすると、やはりこのウイルスはそちらの動物側から来ているということのようです。その動物の中で変異が起こったものが人に変異をしたのか、それとも、たまたま人にうつったものが、さらに人の中で変異をして、このように悪くなったのか。その区別はつきませんが、人造ウイルスという説は考えにくいと。人造ウイルスが人にかかるだけでなく、コウモリにもセンザンコウにもかかったということは考えにくいですから。
どちらの動物も海鮮市場にいたということを考えると、私は中国のあの近辺で発した可能性が一番高いと思います。一方、中国は、2019年10月末に武漢市で行われた世界軍人オリンピックにアメリカの軍人が来て、そのウイルスが持ち込まれたと言っています。
もちろんそれがアメリカから持ち込まれたものだったら、アメリカはもっと早く、このウイルスの感染が勃発していないといけないわけです。今アメリカの感染者は8万5000ぐらいになりましたけれども、感染は中国よりも2カ月ぐらい後です。そういうことを考えると、人造ウイルスがアメリカから来たという説は、科学的には非常に考えにくいと思います。
木村:新型コロナウイルスにはL型とS型があって、日本では、強毒性が流行している地域では死人がたくさん出て、弱毒性だと死人が出ないというようなことが言われているようです。ここら辺はどうなのでしょうか。
宮坂氏:日本では、それが本当かどうか、検証が進みつつあり、L型もS型も同じぐらいの頻度で入ってきているらしいです。ただし、亡くなっている方が特に片方の悪いほうの型なのかというのは、まだはっきり分かっていません。これから分かると思います。
PCR論争は改めてどう理解すればいいのでしょう
木村:国立感染症研究所が、PCR検査に関し、積極的疫学調査に対する誤解について、という文書を出しましたが、疫学調査をする場合、その試薬や、出てくる標本の規格を統一しないといけないので、それで感染研が自分のところでつくった試薬にこだわった。
それと、標本の規格を合わせるために条件を絞りすぎたということで、それで十分な数のPCR検査ができなかったのではないかと。それに対する医療現場からの不満や国民の疑問などが出て、今や疫学にこだわらずに臨床的な立場から確定診断としてPCR検査がある程度柔軟にできるように態勢を切り替えたと説明されています。
積極的疫学調査というのは、こういう感染症が出たら、いつもやっておられると思いますが、これと臨床のバランスというのは、いつも問題になってくるかと。ここら辺はどう考えたらいいのでしょうか。
宮坂氏:PCR検査の数がもっと日本でも多くできることに越したことはないと思います。しかし、よくある議論で、例えば日本人が何%かかっているかを調べるために、健常のポピュレーション(人口)も含めて大規模なPCRスタディをやれなど、これは全く間違っていると思います。
なぜかというと、PCRはあまりにも偽陽性が多いですし、偽陰性もあって、どちらも結構間違いが多いのです。そういう間違いが多い検査で大規模な疫学的スタディをやること自身、不正確な結果しか出ないわけですから、まずいです。
一方、PCRで陽性と出ると、確かに95%ぐらいの確率で陽性なので、確定診断として、感染が疑われたらPCRで確認するということは絶対に必要です。ですから、PCRの数が、今1日で何千件と言っていますけれども、もっと多くできることは絶対に必要です。その必要性を認めていないのではありません。
一方で、日本の開業医が確か8000人ぐらいで、医療機関は1万2000ぐらいだったと思います。もしこれが総じて2万あったとすると、1つの病院で1件の検査を出しても、日本で毎日2万件の検査が出てくるわけです。もし一つの医療機関から数検体が出ると、日本の検査能力をはるかに超えることになるのです。そうしたら本当に必要な検査すらできなくなってしまいます。
もしも韓国のように、今1日に確か1万5000や2万の検査をやっているはずですが、2万件できたとしても、日本では病院1つから1検体しか出せないわけです。だから、それを考えただけでも、それぞれの末端の開業医や医療機関でPCRを用いて検査をすること自体が無理なのです。
インフルエンザの迅速検査キットなら、来る患者さんにどんどん検査することもできますし、陰性だったら「3日後にまた来てね。もう一回調べましょう」とできますが、PCRはそういうわけにいきません。1個1万円ぐらいかかり、試薬にも制限があります。
確かに、感染研でキットを配布するに当たり、あるいはキットを使用するに当たり、若干そういう不都合なことがあったのだと聞いてはいますが、それはさておき、今の数の問題、すなわち医療機関の数と、1日に出てくるPCRの検査数を考えたら、PCRで大量に陰性か陽性かをスクリーニングすること自体が日本では無理な話なのです。
ところが、そのことが理解されないまま、「なぜPCRをやらないのだ」、あるいは今度の世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長のように、「テスト、テスト、テスト」と言ったと。それを日本では、「テスト、テストと言っているのに、日本はまだできないのか」とやるのですが、困ったものです。
「テスト、テスト、テスト」と言ったのは、必要なものに関してはたくさんやってほしい、感染者を見つけ出すためにはテストをしないと分からないという意味だったと思われますが、あの人は言い方が下手くそで、誤解をされているところがあります。また、私自身、かねてからあの人の能力には疑問符がつくかもしれないとも思っていますが…。
でもPCRという検査は、やはり今申し上げたような理由から、一度にたくさんやることは非常に難しいです。今の日本が10倍できるようになって、今4000できるのが4万できるようになったとしても、1医療機関から2検体しか出せません。
インフルエンザだったら、大体多い年で2000万人ぐらい患者さんが出ます。疑われる人は、その5倍以上はいるはずですから、そうすると少なくとも1年間に1億検体が出るという計算になります。1億検体を300で割ったら、1日に30万検体ですか。PCRでは全然できる数ではありません。ところが、迅速診断キットだから、あの数がこなせるわけです。
日本のモーニングショーに出てくる医学博士や専門家の方は、ご自分は現場でそういうPCRの検査を直接されないので、そこを理解していただけないのです。しかもこのPCRは、この病気が指定感染症なので、検査をバイオロジカルセーフティーのグレード2より上でやる必要があります。
感染が怖いので、最初のRNAを分離するところは陰圧のところでやっています。そこから後は、普通の検査室でもできますけれども、最初の感染物質を扱う操作は普通の研究室ではリスクがあります。PCR検査自体は日本の普通の研究室でもたくさんやっていますが、新型コロナウイルス用のPCR検査は日本の多くの研究機関では自由にできません。
一方、韓国はバイオテロがある可能性もあったので、そういうことがたくさんできる仕組みを元々持っていたわけです。あるいは、ベンチャービジネスもそれに応じてたくさんありました。だから1日1万5000でも2万でもできます。日本は今10日かかっても2万にいかないわけです。それは今の日本の社会に置かれていた態勢が韓国とは全然違うので、一概には言えないのです。
(おわり)