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スーパースプレッダー

2020.06.19 01:45

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/031900182/  【元祖スーパースプレッダー「腸チフスのメアリー」が残した教訓】 本人は無症状のまま51人が感染、3人が死亡 2020.03.23

ジョージ・ソーパーはいわゆる探偵ではなかった。彼は土木技師だったが、公衆衛生の専門家のような存在になっていた。そのため1906年、米国ニューヨーク州ロングアイランドの家主が腸チフスの発生源の追跡に苦労していたとき、ソーパーに声がかかった。その夏、家主はある銀行家の家族と使用人にロングアイランドの家を貸していた。8月後半までに、この家に暮らす11人のうち6人が腸チフスに感染したのだ。

 ソーパーは以前、ニューヨーク州の職員として感染症の調査を行っていた。「『エピデミック・ファイター』と呼ばれていました」とソーパーは後に記している。腸チフスの場合、1人の保菌者から感染が広がることもあると、ソーパーは考えていた。ロングアイランドを訪れたソーパーはメアリー・マローンという料理人に目を付けた。1人目の感染者が出る3週間前、マローンはこの家にやって来ていた。(参考記事:「新型コロナと闘うイタリア、ベネチアで今何が起きている?」)

 ソーパーのこの発見は、無自覚な保菌者がいかにして感染症の発生源になるかを実証した。そして後に、公衆衛生と個人の権利を巡る論争を引き起こすことにもなった。

 ソーパーは1900〜1907年に夏の別荘でマローンを雇ったニューヨークの富裕層をくまなく調査し、22人の感染者を突き止めた。腸チフスは細菌性の感染症で、通常、チフス菌に汚染された食物や水を通じて感染する。感染すると高熱、下痢などの症状が現れ、抗菌薬が開発される前は、せん妄が見られることや死に至ることもあった。(参考記事:「アステカ人の大量死、原因はサルモネラ菌か」)

 当時は公衆衛生の慣行を定めた法律が存在しなかったため、腸チフスはありふれた病気で、ニューヨークは何度も集団発生を経験していた。ソーパーが調査を開始した1906年、ニューヨークでは腸チフスの死者が639人報告されている。しかし、集団発生の感染源を追跡し、1人の保菌者に行き着いた前例はなかった。もちろん、無症状の保菌者を突き止めた前例もない。

 ソーパーによる調査の結果、マローンは日曜日になるとしばしば、生の桃を添えたアイスクリームを出していたことがわかった。加熱した料理に比べると「料理人にできるのは細菌が付着した手を洗うことくらいしかなく、家族へ感染してしまったのでしょう」とソーパーは推測している。(参考記事:「感染の原因、私たちはなぜ知らない人と握手するのか?」)

ついに感染源を突き止める

 調査の開始から4カ月後、ソーパーはパーク・アベニューの富豪の家で働くマローンを発見した。ソーパーは後に、マローンはアイルランド生まれの37歳の料理人で、「身長は約168センチ。金髪、真っ青な目、健康的な肌色。口と顎に強い意志を感じる」と詳述している。マローンは証拠を突き付けられ、尿と便のサンプル提供を求められたとき、ソーパーにカービングフォーク(肉料理を切り分ける時に使う大型のフォーク)を向けて追い返した。

 続いて気鋭のS・ジョセフィン・ベイカー博士が派遣され、マローンの説得にあたったが、やはり追い払われてしまった。父親を腸チフスで亡くしたベイカーはその後、自身の使命として予防医学の推進に取り組んだ(そして、女性として初めて公衆衛生の博士号を取得した)。「私たちを信じることができなかったのは、メアリーにとって悲劇でした」とベイカーは振り返っている。

 最終的に、マローンはベイカーと5人の警官によって病院に連れて行かれた。マローンは脱走を試み、成功しかけたが、検査の結果、腸チフスの原因菌であるチフス菌が検出された。そしてブロンクスの川に浮かぶ小島ノース・ブラザー島にあるリバーサイド病院の敷地内の小さな家に隔離された。


https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=13909

【「新型コロナウイルス感染症とスーパー・スプレッダー」】 (2020年02月01日発行) P.57

                                                矢吹 拓 (国立病院機構栃木医療センター内科医長)

本稿を執筆している2020年1月21日現在、中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスによる感染者が断続的に報告されている。なかには重症者・死亡者も含まれており、日本国内でも中国から帰国した輸入感染者が確認されている。普段毒性が弱いとされているコロナウイルスが突然変異して猛威を振るう事態は、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)に次いで3回目である。過去には動物を媒介した重症化と流行が確認されているが、今回も重症化リスクが懸念され、ヒト-ヒト感染の可能性が指摘されている。

ウイルスの流行時期に、感染を一気に蔓延させる要因のひとつがスーパー・スプレッダーである。スーパー・スプレッダーとは、病原体に感染したホストのうち、通常予測される以上の二次感染例を引き起こすホストのことである。例えば、保菌者として腸チフスを拡散した「腸チフスのメアリー」が有名で、彼女は家政婦として給仕した家族に腸チフスを感染させ、その生涯を通して50人前後の感染者や死者を出したという。「腸チフスのメアリー」は長期間にわたって感染を拡大させたが、単回の接触で多くの患者にウイルス感染を拡げてしまうホストもスーパー・スプレッダーである。例えば、韓国ではMERS感染の83.2%が5件のスーパー・スプレッダーから蔓延したとされている。スーパー・スプレッダーのリスク因子は明らかにはなっていないが、宿主・病原体・環境要因が関連しており、さらに宿主の行動が重要ではないかと推察されている。

感染源として個人が特定されることは、プライバシーや人権の問題はあるが、流行拡大が起きないためにも、スーパー・スプレッダーの特徴を明らかにすることは重要である。感染流行のいち早い収束を祈るばかりである。

矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科医長)[新型コロナウイルス感染]


https://www.asahi.com/articles/ASN4R7T8HN4RUBQU00F.html  【無症状でも感染わかる 新型コロナ「抗体検査」に期待】  酒井健司   2020年4月27日 11時43分

日本国内の新型コロナウイルス感染症の感染者数が1万2000人を超えました。これは確認できた分だけですので、「本当の感染者数」はもっとずっと多いです。軽症者はPCR検査を受けられるとは限りませんし、クルーズ船をはじめとした先行事例からは感染しても無症状のままの人がけっこういることもわかっています。新型コロナウイルスに感染したけど診断されていない人はたくさんいるはずです。

各国の感染者数が発表されていますが、検査体制が充実している国ほど確認された感染者数が多くなります。実際の感染状況や感染対策の有効性を評価するためにも、本当の感染者数を推定でもいいから知りたいところです。しかし、無症状の人も含めてかたっぱしからPCR検査をするのは難しいのが現状です。

そこで抗体検査が注目されています。海外ではすでにいくつか抗体検査を用いた研究がなされていますし、日本でも調査目的での抗体検査を行うとの報道がありました。

抗体検査、数千人に実施へ 疫学調査で感染状況を把握

PCR検査はウイルスそのものを見ていますが、抗体検査はウイルス感染後の免疫反応を見ます。抗体検査と一口にいっても複数の方法があり、その一つがイムノクロマト法による簡易キットです。すでに複数の製品があります。原理的にはインフルエンザ迅速キットと同じですが、新型コロナ感染症の抗体検査では検体は鼻腔(びくう)拭い液ではなく血液を使います。検体採取のときに検査者が感染するリスクが低いのは大きな利点です。また、治ってしまうとPCR検査は陰性になりますが、血液中の抗体はしばらくは残ります。現在感染しているかどうかではなく、感染したことがあるかどうかを調べるには抗体検査のほうが向いています。

ただし抗体検査には注意点もあります。新型コロナウイルス感染症において抗体の意義ははっきりしていません。抗体の意義は病気によって違います。麻疹や風疹なら抗体の存在は感染症から守られていることを示していますが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症や慢性C型肝炎ではそうではありません。また、感染してから抗体ができるまでには時間がかかりますので、症状が出てすぐは診断の目的には使えません。「抗体がついたから安全だ」とか「抗体が陰性なので感染していない」といった誤解をしないようにしましょう。

抗体検査を使った調査目的の研究も、解釈が難しいかもしれません。海外の抗体検査を使った研究では、PCR検査で確認された感染者よりもずっと多く、数十倍も感染した人がいるかもしれないという結果も出ています。ただ、検査は必ずしも正確ではありません。本当はウイルスに感染したことがなくても検査が陽性になる「偽陽性」が、一定の割合であります。

偽陽性の割合が小さくても集団に適用すると大きな影響が出ます。たとえば、ウイルスに感染していない人の99.9%を正しく陰性と判定し、0.1%だけ偽陽性が出る検査キットがあったとしましょう。無作為に選んだ日本人1万人にこの検査をすると、本当の感染者数がきわめて少なくても10人ぐらいが偽陽性になります。日本の人口は1億2000万人ですから、そのまま掛け算すると感染者数を誤って12万人多く評価することになります。キットにより精度は異なります。新型コロナウイルス感染症の流行以前の検体や、流行が比較的抑えられている地域での結果と比較するなど、慎重に判断する必要があるでしょう。

偽陽性だけではなく、本当は感染していたのに抗体検査で陽性にならない「偽陰性」もあります。ただ、抗体検査に限らず、どの検査もなにかしらの欠点はあります。それぞれの検査法の特徴を理解し目的によって使い分ければいいのです。検査の選択肢が増えるのは喜ばしいことです。


https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200607-00182203/ 

【WHOがマスクに関する方針転換 無症状者のマスク着用によるエビデンス】

                       忽那賢志 | 感染症専門医6/7(日) 9:39

6月5日、WHO(世界保健機関)は症状がない人に関するマスク着用の推奨に関し方針転換を行いました。

世界保健機関(WHO)は5日、新型コロナウイルス感染拡大阻止のためのマスク利用の指針を改定し、流行地では公共交通機関利用時など人同士の距離を取ることが難しい場合、他人に感染させないためにマスク着用を推奨すると表明した。

出典:広範なマスク着用を WHOが修正、布もOK 新型コロナ

日本人的には症状があろうとなかろうとマスクを着用することに何の違和感もないかと思いますが、これまでWHOは症状のない人がマスクを着用することを推奨しておらず、症状がある人に限定してマスク着用を推奨していました。

WHO、せきなどの症状のない人に「マスク推奨しない」(2020/03/02 )

この方針転換にはどういった背景があるのでしょうか。

これまでの経緯と、無症状者がマスクを着けることによる現時点でのエビデンスをまとめました。

これまでは概ね「症状のある人=感染性あり」だった

WHOはこれまで「症状がある人のみマスク着用を推奨」という立場をとっていました。

これは、新型コロナ以前に知られていた呼吸器感染症(咳などの飛沫から広がる感染症)は症状が出てから感染性が出るという原則に則ったものです。

季節性インフルエンザの発症前後の感染性の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)

例えばインフルエンザは、発症直前からもウイルスを排出してはいますが、感染性のピークは発症から1日後です。

同じコロナウイルス感染症であるSARS(重症急性呼吸器症候群)では発症から10日後に感染性のピークが来ます。

このように、これまでの呼吸器感染症は症状のある人から感染が広がっていたという科学的・疫学的事実に基づいて「症状がある人のみマスク着用すべし」という推奨が出されていたわけです。

新型コロナは発症前に感染性のピーク

しかし、新型コロナはこれまでの呼吸器感染症とは異なり、発症する前から人にうつしていることが明らかになってきました。

新型コロナの発症前後の感染性の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)

このように新型コロナウイルス感染症では、発症前に感染性のピークがあり、発症前の無症状の時期から周囲にうつしているというデータが集積してきました。

これがほとんど無視できる量であれば良いのですが、新型コロナの感染伝播の総量を100とすると、この発症前の無症状者からの伝播が45%、そして無症状のまま経過する無症候性感染者からの伝播が5%ということで、合計50%は無症状者からの伝播であることが分かっています。

感染した日からの感染性の推移(Science 10.1126/science.abb6936 (2020).およびTomas Pueyo氏 "The Basic Dance Steps~"より)

会話や呼気でも飛沫が発生する

さて「発症前の時期」あるいは「無症候性感染者」から感染するってどういうことでしょう。

普通、インフルエンザなどの呼吸器感染症は咳やくしゃみなどの飛沫を介して感染します。

しかし、当然ながら発症前の時期、あるいは無症候性感染者では咳やくしゃみなどの症状はみられません。

ではどうやってこの「発症前の時期」あるいは「無症候性感染者」から感染するのでしょうか?

以下はNew England Journal of Medicineに掲載された動画です。

会話によって発生する飛沫をレーザー光を当てることで可視化したものです。

前半がマスクなしで会話した場合の飛沫の拡散、後半がマスクを着けた状態で会話した場合の飛沫の拡散を見たものです。

「Stay Healthy(ヘルシーでいよう!)」と繰り返し発音していますが、特に「th」の発音の際に飛沫が多く飛んでいることが分かります。全然ヘルシーな感じはしません。

しかしマスクを着用すると、ほとんど飛沫は飛ばなくなりヘルシー感が急激にアップします。

「咳で発生する飛沫の量と会話で発生する飛沫の量は大きくは変わらない」とする研究もあり、これらのことから症状がなくても会話などで新型コロナが伝播する可能性が示唆されます。

マスク着用の有無による呼気中のコロナウイルスの量の違い(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2)

またマスク着用によりヒトコロナウイルス(新型コロナウイルスではなく)に感染した患者の呼気からはウイルスが減少するという、当たり前といえば当たり前の研究も最近報告されています。

ウイルスの構造上、新型コロナウイルスとヒトコロナウイルスとでマスクの効果が変わる可能性は低く、新型コロナでもマスク装着は有用と考えられます。

実際に、少なくとも1人以上の感染者が出た家族のうち、最も感染が広がりにくかった要因は「発症前からのマスク着用」であったとする報告も出ています。

これらの知見に基づき、WHOは「流行地では無症状者も公共交通機関利用時などではマスク着用」という方針に切り替えたものと思われます。

なお、CDC(米国疾病予防センター)は4月3日の時点で流行地域における無症状者のマスク着用を推奨しており、日本でもご存知の通り5月4日から「新しい生活様式」として屋内では無症状者もマスクを着用することが推奨されています。

WHOの推奨は世界全体への影響を及ぼすため慎重な判断が求められることから、エビデンスがある程度集積するまで推奨を保留していたのではないかと推測します。

屋外でのマスク着用は危険なことも

ちなみにマスク着用が推奨されるのはいまのところ換気が不十分となりやすい屋内や混雑した交通機関内のみであり、屋外でのマスク着用を推奨しているものではないことにご注意ください。

冒頭の写真のハチ公は屋外でもマスクを着用しており「新しい生活様式」に適応しすぎていますが、屋外でのマスク着用は熱中症のリスクもあり注意が必要です。

また日本小児科医会は窒息や熱中症のリスクが高くなるとして2歳未満の子どものマスク使用は不要でありむしろ危険という声明を発表しています。2歳未満でなくとも小さいお子さんや心肺機能が低下した方のマスク着用には十分注意しましょう。

またマスク装着によってマスク表面が汚染し、これを触ることによって手にウイルスが付着し感染のリスクとなることも考えられます。

飛沫を浴びるなど明らかに汚染した場合にはこまめにマスクを交換するようにしましょう。

またご自身の感染予防のためにはマスク着用以上に、手洗いをこまめに行うことが重要です。

マスクをつけているから自分は安心、と思わず基本的な感染対策もおろそかにしないようにしましょう。