コロナウイルスは交叉(こうさ)免疫が起こる可能性がある
https://note.com/sato_agg/n/nc1848191805a
【「交差免疫」で新型コロナウイルス感染症を防ぐ】 2020/04/01 16:59
新型コロナウイルス関係の情報をいろいろ収集していると、また一つ気になるキーワードが出てきました。
「交差免疫」「交差反応」「交差抗体」「交差防御能」 「cross ‐protection」というキーワード。
「交差」は「交叉」とも表記されます。
ある抗原に対して起こる免疫反応が、別の似た抗原にも反応する事です。
身近な事例でいえば、「花粉症」の人が本来のアレルゲンの花粉ではない果物でもアレルギー反応が起きてしまうことがありす。
インフルエンザワクチンでは、ウイルスの変異株が多く型の異なったワクチン株が存在し、流行株とは異なったワクチン株を摂取してしまうと効果が無い事が知られています、そこで、全ての変異株にも「交差防御能」を持つユニバーサルワクチンが最近注目されているようです。
ウイルスに感染すると免疫反応により各種抗体が誘導されますが、気道(鼻や喉)粘膜上に分泌されるIgA抗体は「交差免疫」の性質のある抗体です。この分泌型IgA抗体の誘導を狙ったインフルエンザワクチンが「経鼻投与型粘膜ワクチン」です。
前回の記事でも触れた「BCGワクチンが新型コロナウイルスでも効果があるのでは?」という話もこの「交差免疫」が関わる話です。
さて、新型コロナウイルスに関して、個人的に興味を持ったHLA型に関する研究論文をいろいろ調べているとひとつの論文に行き着きました。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.22.20040600v1.full.pdf
従来のSARS-CoVが、HLA型により症状に差があったように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)でも同じ傾向がみられたという報告なのですが、もうひつと重要な報告がありました。
それは、一般的な風邪を引き起こす従来のヒトコロナウイルス(HKU1、OC43、NL63、229E)と新型コロナウイルスの間で、必須ウイルス成分のゲノム配列を比較した結果、極めて近い同一性が確認できたという報告です。
つまり、一般的なヒトコロナウイルスによる抗体を持っていると新型コロナウイルスの「交差抗体」として「交差免疫」が働くと考えられるのです。
下図の赤い箇所が、各種コロナウイルスの抗原に関する部分の類似性↓
画像1
昨年末辺りから、日本ではちょっと立ちの悪い風邪が流行っていたけど、もしかして弱毒型の新型コロナウイルスだったのでは?
だから、日本にはあるていど集団免疫ができているのでは? という憶測が一部SNSで広まっていますが、
別に弱毒型の新型コロナウイルスではなくても、従来のヒトコロナウイルスの風邪だったとしても集団免疫ができているのかもしれません。
ただし、この論文ではHLA型に関する重要な事も指摘がされています。
HLA-B*46:01のHLA型はもつ人は、全てのコロナウイルスにおいてHLAのペプチド結合親和性が低い、つまり抗原提示能力が低いので免疫が十分に機能せず、重症化しやすいと考えられます。
下図、右側はHLA型による新型コロナウイルスの抗原提示能力の高さをグラフ化したもの、A*02:02、B*15:03、C*12:03は免疫がよく働き、A*25:01、B46:01、C*01:02は重症化しやすい可能性がある。左側はHLA型の世界の人口分布。
なので、一般的な風邪をひきやすい人は新型コロナウイルスでも感染しやすい(重症化しやすい)可能性があります。S型、L型両方の新型コロナウイルスに感染した疑いのある事例がありましたが、A*25:01、B46:01、C*01:02辺りのHLA型を持っている人なら抗体ができにくいので十分ありえますね。
ちなみに、HLAが抗原提示できる場合に誘導される免疫細胞は、CD4 T細胞(ヘルパーT細胞)、CD8 T細胞(キラーT細胞)、B細胞です。
最後に、HLA型の研究は、臓器移植や癌治療、HIV治療のような分野では進んでいるようですが、一時的な流行性の感染症に関してはまだまだ始まったばかりでほとんど解明できていないという印象です。この論文でも「最初の研究」だと記されています。HLA型との関連性にはまだ未解明の部分が沢山あるものと想像します。
流行が終わってしまうと研究対象も無くなってしまうので継続的な研究が困難になりなかなか解明されない気もします。
でも、HLA型を知れば知るほど、治療薬や特に抗体に関わるワクチン開発にはHLAの要因抜きには開発できないのでは?と思うようになりました。特にワクチン接種による重症化(ADE)はHLA抜きにして解明できないと思います。
HLA型に関してはとても奥が深いので、新型コロナウイルスだけに関わらず今後もいろいろ調べてみたいと思っています。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202005/565589.html
【kSARS-CoV-2の抗体生成は通常と異なる】 2020/05/20 市嶋洋平(シリコンバレー支局長)
抗体検査を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の流行の状況把握や活動自粛解除のために活用するという議論が世界中で進んでいる。米スタンフォード大でも現在、1万5000人規模の抗体検査が進行中だ。この検査について、スタンフォード大学医学部病理学准教授で、ウイルスの抗体に関する研究を行っているスコット・ボイド(Scott Boyd)氏に話を聞いた。なお、今回のインタビューには、オブザーバーとしてスタンフォード大学医学部の創薬研究機関、「SLDDDRS」所長の西村俊彦氏にも参加していただいている。
スコット・ボイド氏●マニトバ大学で生化学の学士号を、オックスフォード大学で英文学の学士号を取得。ハーバード大学医学部で医学博士号、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得後、スタンフォード大学で病理学レジデント、血液病理学フェローシップを経て現職。研究室では、感染症やワクチン接種に対するヒトの免疫応答、食物アレルギーや免疫不全などの免疫学的疾患の解析に、ハイスループットDNAシークエンシングと単細胞実験を用いて取り組んでいる。
――現在のスタンフォード大での抗体検査による疫学調査はどのように行われているのか。
ボイド まずは医療従事者を対象に4月6日からSARS-CoV-2に対する抗体検査を開始した。現在、1日50~100人程度の検査を行っている。4月下旬からスタンフォード大の関連病院での検査が本格的に始まったため、検査数が増えてきた。5月中旬の時点で約1万4000人に実施している。多くが医療従事者で、入院中の患者も含まれる。我々は他の調査にも参加している。医療従事者や感染した患者、そして回復した患者も含まれる。今後数カ月でこうしたデータが10万人以上集まってくるだろう(ボイド氏の取り組みはこちら)。
最も問題になるのは、実際にウイルスへの感染者が少ない場合だ。偽陽性でないことを確認するため、非常に精度の高いテストが必要になる。そのために今回のテストを開発した。
なお、4月には既にスタンフォード大のメンバーが参加する住民対象の抗体検査の結果が報告されているが、これは医学部の学生による取り組みで我々とは全く別の動きだ(スタンフォード大のメンバーによるサンタクララ郡の論文はこちら)。
――具体的にどのようなテストを行っているのか?
ボイド リサーチサイエンティストのキャサリナ・ロールゲン氏を含む私のチームで独自にテストシステムを開発した。ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のフロリアン・クラマー氏の研究室から提供されたSARS-CoV-2の遺伝子配列情報を利用し、静脈から採取した全血の血漿で検査している。
必要な試薬は、サーモフィッシャーサイエンティフィックやシグマアルドリッチからうまく調達できた。6カ月から1年間の検査に必要な量を確保できている。
このCOVID-19のパンデミックの状況下でプロジェクトを迅速に立ち上げるのには苦労した。PCR検査やRNA検知のキットでさまざまな課題が指摘されているが、テストシステムの開発やそれに必要な試薬の調達も大変だった。また、検査数を増やすには液体をかくはんするロボットを増やす必要があるが、現時点で在庫がなく購入するのが難しい。順番待ちになっている。
COVID-19患者でも、症状が軽い人が多くいる。そうした人の抗体のレベルは低いので検出が難しい場合があり、検査を継続しているところだ。一方で、重症患者は検出が容易だ。
――精度を上げるために行っている工夫は?
ボイド ELISA法で行っている。だが、その精度を上げるために、さまざまな条件を評価した。具体的には、SARS-CoV-2に感染して陽性となっている血液サンプルを利用したり、COVID-19のパンデミック以前の血液サンプルを利用したりして、最も適切な感度と結果が得られる条件を見つけた。
結果としてSARS-CoV-2の感染者については、IgG抗体を今のところ100%検出できている。条件は症状が出てから3週間後以降に検査した場合だ。一方で特異度については、99.8%だ。これは今回のCOVID-19が流行する前年の血液サンプルなどで調べた。
西村俊彦氏●スタンフォード大学医学部麻酔科に設置した創薬を中心とした研究開発機関「Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science(SLDDDRS)」の共同所長を務める。米国、日本・アジアの大学・研究機関、企業の連携に取り組む。東北大学医学部卒。医学博士。専門は胸部外科。シリコンバレーに20年間在住。
――現時点で明らかになっていることは?
ボイド 今回の調査は、医療従事者や患者を対象にしている。現在(5月2週時点)のところ、検査結果が出た人の大部分が医療従事者だが、1.4%がポジティブ(陽性)という結果だった。約1万4000人のサンプルを検査した結果だ。
通常、ヒトは細菌やウイルスに感染した際、初期にIgM抗体が現れ、時間経過に従いIgG抗体ができる。ところが今回、IgMとIgGが同時に出てくるようなケースが散見された。通常の免疫反応と違うことが起こっている可能性がある。
これは驚くべき、興味深い新しい発見だと思っている。SARS-CoV-2は感染していながら無症状の状態が長く続く場合がある。免疫システムがその間、ずっとウイルスを検出し続けているのかもしれない。そのため、IgGの抗体が(IgMに対して)さほど遅れずにできるのかもしれない。ただしこれは推測だ。 こうした無症状や軽い症状の患者のケースの抗体反応については研究を継続していく必要がある。
西村 あくまでも仮説だがこうは考えられないか。今回の抗体検査の結果でIgMと同時に検出したIgG抗体は、一般的なコロナウイルスに対するIgG抗体で、以前から存在していた。そして今回の抗体検査に交差的に反応したものではないか。
ボイド それは非常に重要なポイントだ。世の中にはかぜを引き起こすコロナウイルスがまん延している。そうしたコロナウイルスに対する抗体が、「今回、SARS-CoV-2として検出されるのではないか」という疑問があるだろう。ただ今のところ、我々が得た結果からはそうした交差反応はなかったと思っている。
というのも、まずSARS-CoV-2の特徴を示す受容体は他のコロナウイルスとは非常に異なるものであること。唯一、SARSを引き起こすSARS-CoVはSARS-CoV-2と近い特徴を持っているが、米国では感染者がほとんどいなかった。
今回のテストシステムで2年前の健康な血液検体200を調べたところたった1つだけ反応があった。これはIgMについて弱い陽性反応を示していたものだった。仮に交差反応を示すとすれば、反応が1つだけというのは説明がつかない。現在、他のコロナウイルスにかかった患者の血液も調べている。
――SARS-CoV-2は、再感染する可能性はあるのか。
ボイド その問題を考える際には、我々の体にできる抗体の量と、質や機能を理解する必要がある。
SARS-CoV-2に対するIgG抗体を持っている人はウイルスを中和できているという報告がある。一方で、この抗体のレベルが低いと完全に中和できずに、再度感染する可能性があるということだろう。
また、抗体の減衰については、他のコロナウイルスと似てくると考えている。抗体が次第に減って、1年持たない場合があるかもしれない。ただ、この点は研究が始まったばかりなので、もう少し時間が必要だ。
――今回の抗体検査の結果を、医療や社会にどう活用していくのか。
ボイド いくつかの利用法が考えられる。まず1つ目は、抗体を確認できていれば、発熱などを認めた際にCOVID-19を除外診断しやすくなる。再感染のリスクについても予測できるだろう。
また、ウイルスがエリアにどの程度拡散しているのかを知ることができる。それによって行政などが結果に応じた政策を打ち出せる。
最後はCOVID-19から回復した患者の血液を利用して治療する「回復期血漿」の活用だ。今後取り組んでいきたい。実際にどの程度量の抗体が理想的に必要なのか、感染や増殖を防ぐ中和能力を知る必要もある。