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紺碧の採掘師

第13章 01

2020.06.19 07:37

アンバーはケセドの街に向かって飛ぶ。その後ろにカルナギの船。

何人かの有翼種に囲まれつつケセドの役場の庁舎の上空に停まるアンバー。甲板のハッチから剣菱、剣宮、護、カルロスが出て来る。男性の有翼種たちが剣菱たちに近づくと、四人それぞれを背後から抱えて飛び、庁舎のベランダに着地する。アンバーは他の有翼種の指示で街はずれの採掘船停泊所へ。


有翼種たちと共に建物の中に入った四人はガーリックの部屋に通される。

中に入るなりガーリックが「また君か!」

護「お久しぶりです、ガーリックさん」

ガーリック「今度は人間を連れて来るとは。いい加減にしなさい!これ以上連れてきたら貴方をイェソドから締め出しますよ!」

途端に護と剣菱、同時に「待ってください!」と言って顔を見合わせ

護「船長どうぞ」

剣菱、ガーリックに「護が連れて来たんじゃありません。採掘船の皆が行きたいと言い、私が行こうと行ったのです。」

護「すみません、あと一隻、採掘船オブシディアンをイェソドに入れて下さい!」

ガーリック「ダメ!」

すると剣菱、カルロスを自分の前に出して「この人の親の生き別れた兄弟がイェソドに居るんです。」

ガーリック「な、なに?…人工種に兄弟がいるのか」

護「居ます!俺なんか五人兄弟です!」

ガーリック「ほぅ。で…イェソドに居る兄弟とは」

護「コクマに住んでる神谷可南さんです!」

するとガーリック驚いて「え。…カナンさん?」と言い「あの人はもう…かなり昔にイェソドに来て」

護「はい、82年間も会えなかった兄弟ですよ!何とか会わせてあげたいんです。だから黒船…採掘船オブシディアンもイェソドに入れて下さい!」

ガーリック「つまりその船に兄弟の片割れが乗ってるのか?」

剣菱「はい、その船に乗せて、イェソドに連れて来るという事です。」

ガーリック「うーん…。」と考えて、護を指差しつつ自分の隣にいた男性の有翼種に「って言ってますよ。どうしよう」と言う。

有翼種「それは貴方の方が詳しいでしょう、ガーリックさん。あの人工種のこと」

ガーリック「カナンさんはなぁ…。」と言い、護たちに「あの人がどうしてイェソドに居るか知ってるのか?」

護、きっぱりと「はい。」

カルロス「知っています。82年前、何があったか聞きました。」

ガーリック、ため息ついて「…これは…。まず本人に会いたいかどうか聞かないと…。」と言うと「ちなみにその採掘船ナントカって奴には人間はどの位いるんだ?」

カルロス「採掘船オブシディアン、略して黒船で結構です。人間は、船長だけです。」

すると剣宮が「え!たった一人なの?」

カルロス「うん。まぁ先代のティム船長の時に辞める人が多くて」

剣宮「どんだけ厳しかったん…。残った駿河船長スゴイ」

ガーリック「イェソドに入りたい船はさっきの奴と、黒船だけか」

護「あと俺とカルさんの船で、合計3隻!」

カルロス「それが自由にイェソドに出入りできるようにして頂きたいのです。」

するとガーリックの隣の有翼種が「出入り?」

カルロス「はい。単にイェソド鉱石を採るだけではなく、有翼種との交流と、交易をしたいのです。」

暫しの沈黙

ガーリックの隣の有翼種「すると代表を決めてもらわないとな。人工種側で、イェソドに来る奴を統率し管理する責任者が必要だ。船は3隻でもいいが、イェソド側との窓口は一本に絞ってもらおう。」

カルロス「なるほど」

護「わかりました。後で皆と相談して決めます。」

有翼種「俺はラウニー・フェブラシア。『壁』の警備の隊長だ。3隻をちょっと入れるだけなら許可できるが、常時出入りの許可となると俺だけでは判断できない。…カナンさんの意思の確認もあるし、時間をくれ。」と言い胸ポケットからメモ帳とペンを取り出し「そのカナンさんの兄弟の名前は?」

カルロス「ATL SK-KA B02周防和也」

途端にラウニーが「はぁ?…そうか人工種の名前って長いんだよな」

カルロス「B02とか周防和也でも」

ラウニー「書いてもらうよ」とメモ帳とペンをカルロスに渡そうとして「あ、ところでその黒船ってのは、いつイェソドに来るんだ」

カルロス「早ければ、約5日後に来る事が出来ます。」

ラウニー「乗員全員の名前が分かれば今、書いてもらうんだが」

カルロス「全員…。」と言って「名前はわかるが人工種ナンバーがワカラン…。」

ガーリック「何人乗ってるんだ。」

カルロス「15人です。あ、あとカナンさんの兄弟を足して16人」

剣菱「ウチの船は基本的に15人」

護「まだ持ってないけど俺とカルさんの船は2人だけ」

ラウニー「まだ?」

護「そのうち船買います!それまではアンバーと黒船に乗っけてもらう」

ラウニー「はぁ」と言い「つまり…イェソドに出入りするのは船3隻、合計…何人だ?」

カルロス「33人」

ラウニー、メモ帳に書くと「じゃあとりあえずカナンさんの兄弟の名前と、黒船の船長の名前をここに書いてくれ」とカルロスにペンとメモ帳を渡す。

ラウニー「一気に33人かぁ…。これはちょっと大事だぞ」と呟く

ガーリック「ターメリックの奴がこんなのを拾うからだ。」と護を見て言う

護「あ、ちなみにダアトの遺跡見つけましたよ」

ガーリック「え?…ダアトというと」

護「人工有翼種の」

ガーリック「雲海の中には沢山の遺跡がある。それがダアトという証拠は」

護「御剣人工種研究所の写真があります!」

ガーリック「写真…。」

カルロス「書きました」とラウニーにペンとメモ帳を返す。

ガーリック「…今もうダアト探しをする人は居なくなってしまったが」

ラウニー「じゃあそのダアトの件も含めて相談して来ます。ガーリックさん、また」と言うと部屋から出て行く。

ガーリック、護たちに「それでは、とりあえず船で待機しといて下さい。」と言うと近くの有翼種に「船まで案内してやって」

有翼種たち「はい」



一方、街はずれの採掘船停泊所に停泊しているアンバー。アンバーの船体後方にはブルートパーズが泊まっている。

アンバーの船体の周りには有翼種の採掘師たちが集って、その船体を珍し気に見ている。


船内の食堂ではカルナギやターさんが穣たちと話をしている。

穣、目を丸くして「蛇口からイェソド鉱石水が出るぅ?」

カルナギ「普通の水が出る蛇口もあるが」

マリア「じゃあゴハンとか全部、イェソドエネルギーが含まれてるの」

ターさん「鉱石水は普通は調理には使わないよ。味が変わるから。」

透「イェソドエネルギーで食べ物の味、変わるの?」

ターさん「うん。あ、でも石茶には使う。石茶って有翼種のお茶ね。鉱石水で淹れる」

アキ「あの、人間は大丈夫なんでしょうか」

カルナギ「まぁここは麓の街だからな」

ターさん「でももしイェソドで生活するなら気を付けた方がいいね。中和石っていう石を着けていれば大体大丈夫だけど。」

穣「逆に有翼種って人間の世界だと生活し辛いと思うよ。だってイェソド鉱石殆どねぇもん。」

ターさん「でもイェソドエネルギーで生活してるって聞いたよ。」

透「そうだけど、量が絶対的に違うよ。」

穣「コッチは鉱石を毎日毎日一生懸命探して何とか採って生活してるので…。」

健「あのぅ、有翼種の皆さんは人間の世界に興味ありますか?」

カルナギ「無い。」

ターさん「ちょっと興味はあるけどね。君達がどんな街で暮らしてるのか」

そこへ階段の方から「ただいまー」と声がして、食堂に剣菱がやってくる。

穣たち「おかえりなさい」

剣菱、穣達に「スマンが誰か、『全員、採掘準備室に来い』って船内放送してくれ。これから我々の身分証明書の為の登録作業をするそうだ。」すると船内電話の近くに居たマリアが「はーい」と電話の所に行く。

剣菱「あと穣。ダアトの御剣研の写真、プリントしてくれ。有翼種に渡すから」

ターさん「お。もしかしてニュースになるかも?」

穣「じゃあ凄いキレイにプリントしないと。透!ちょい助っ人して。…プリントしてきまっす!」


採掘準備室では

何人かの有翼種が手にB6版くらいの大きさの薄い四角い石のような端末とペンを持って登録作業をしている。

それを見たマゼンタ、護に「…有翼種もタブレット使うんだ。」

護「記録石を使ったノートなんだって。一応ネットみたいなのもあるからねぇ。」

マゼンタ「へぇ」

有翼種、良太に「じゃあここにどっちでもいいから手を置いて」と端末表面に手を置かせる。すると端末が光る。「よし。あとはここに名前と読み方を書いて」とペンと端末を渡す。良太、フルネームを書いて有翼種に渡す。

有翼種「ALF ETO ALA456…これにはどういう意味が?」

良太「人工種ナンバーです。ALFは作った製造所、ETOは作った製造師、ALAは遺伝子型、456が個体ナンバーで、どこで誰に作られたかが分かる仕様。」

有翼種「なーるほど」


一方では穣とカルロスとターさんが、有翼種の一人に御剣研の写真を見せつつ説明をしている。

カルロス「イェソドからの距離は、かなりあります。人間の都市とイェソドの丁度中間あたりで」

有翼種「人間の都市側というと、大死然の反対の方か」

ターさん「そうです。皆が行かない方の死然雲海。」

有翼種「なるほど…」と言い「他には」

穣「…今の時点で分かる事は全部話したかな。」

カルロス「そのうちまた行くので、何か分かったらお知らせします。」

有翼種「よろしくお願いします。」と言い「今、人工有翼種の研究する人、殆ど居なくなったからね…。場所が人間側の方角となると、行くのはちと難しい。」

ターさん「俺そのうち行ってみようかな。カルさん達が船を持ったら」

有翼種、ターさんに「君が今度は何を連れて来るのか楽しみにしてるよ」

ターさん「え。俺が連れてきてる訳じゃ…。」

カルロス「まぁ、勝手に来る奴がいっぱいいる」


レトラ、端末で名前を確認すると「全員登録しましたね」と言い剣菱や護たちに「では証明書発行まで待機してて下さい。この付近はウロウロしても構いませんが、街の中には入らないように。」

一同「はい」

レトラ「それでは」と言いタラップを降りていく。

カルナギ「じゃ、俺もこの辺で。」とタラップを降りていく。

ターさん「おつかれさまー」と手を振る

護「またねーカルナギさん」

剣菱「さってと。じゃあかなり遅くなったがとにかく昼飯だ、アキさん、ターさんの分も」

アキ「お任せを!下ごしらえしといたから、30分後に昼食開始できるよ」と言い階段の方へ

マリア「私も手伝うー!」

剣菱、他の皆に「30分後に昼だそうだ」

穣、透を見て「そういやお前、クッキー焼いたとか」

透「うん昨日、沢山焼いてきた。持ってくる」と言って階段の方へ

するとターさん「透さんのクッキー?」と言い「護君が絶賛してたよ。俺も食べてみたい」

穣「んじゃ軽くお茶にするべ」と言って椅子を集め始める。


暫し後、テーブル代わりの小さなコンテナの上に透のクッキーが籠に入れて置いてある。それを囲むように周囲に適当に椅子やコンテナを並べて各自座って自分のカップでお茶を飲んでいる一同。

ターさん、クッキーを手に取り一口ほおばると「美味しい。このサクサク感いいなぁ」と言いもう一つ摘まんで食べると「噂通り美味しいよ、透さん。」

透、照れて「ありがとう」

カルロスもチョコ味のクッキーをほおばって「どっかの護のクッキーとは大違いだ」

透「…護がクッキー作ったの?」

ターさん「うん」

穣「コイツがクッキーとは、…やっぱ変わったよなお前」

透「どんなクッキーだったの?」

カルロス「硬すぎて割れない。物凄い甘い」

護、透のクッキーを手に取り「…こういうの食べたいなぁと思って自分で作ったんだよ!本に書いてた通りにやったのに、なんか失敗した。」

透「今度、作り方教えてやるよ」

護「いいよ俺、やっぱ食べるの専門だから。」と言って、ふと「あ。」とカルロスを見る

カルロス「…なんだ。」

護「ふと思ったんだけどさ。アンタが石茶だして透がスイーツ作ったら、イェソドで喫茶店やれるなぁと」

カルロス&透「はぁ?」

マゼンタ「それアリかも!透さんのスイーツはぶっちゃけ美味い!」

悠斗「十分売れる!」

透「い、いや…。作るのは好きだけど」

カルロス「私の趣味は探知で、石茶は単に好きなだけだ!」

穣「探知は趣味だったのか」

そこへ剣菱が「ところで皆。有翼種との交渉の窓口になる代表を決めなきゃならないんだが、誰がいいと思う?」

マゼンタ「代表?」

剣菱「イェソドと関わる採掘船全ての人工種や人間を責任もってまとめる人だな。」

穣「船長じゃダメなんですか」

剣菱「俺は人間の管理連中と交渉するだけでお腹いっぱいだ。」

穣「じゃあこの2人のどっちかだな」と護とカルロスを指差す

カルロス「最初にドンブラコした奴で」と護を指差す

護「イェソドまで走ってきた奴で」とカルロスを指差す

カルロス「お前の方が有翼種の知人多いじゃないか」

護「アンタ俺より年上だろ?しかも黒船勤続13年」

ターさん「2人でやったら。とりあえず年上の方が代表、年下が副代表とか」

穣「決まった」

剣菱「みんな、それでいいか」

一同「オッケー」

悠斗「いいでーす」

そこへ船内スピーカーから『ゴハンのお知らせでーす。ゴハン出来たよー』

穣「よしメシだメシ」

護「ターさん食堂へ行こう!」

悠斗「俺達は船室で食うのでごゆっくり」

穣「サンクス」と言うとターさんに「食堂、全員入らないから、はみ出た奴は船室とか適当なとこで食べるんだ。」

護「採掘船ルール」

ターさん「へぇ」


昼食後。特にする事も無いので自由時間。各自適当にしている。

剣菱は船室で仮眠。カルロスは食堂で椅子を並べて仮眠。

ターさんは護たちと茶飲み話、マゼンタやマリアは妖精と遊ぶ。


護、ふと時計をみて「もう夕方だけど、証明書まだかな」

穣「役所仕事は遅いってのが定石だ。」

護「それ管理だけじゃ…。」

穣、自分の近くに寄って来た妖精の頭をポンポン叩きながら「まぁノンビリ待とうや。」

すると妖精、穣に反撃。肩に乗って耳でポンポン穣の頭を叩く。

穣、そんな妖精を手に取ると「しかしコイツら、クチはあるのにケツがねぇ。」

そこへアキが来て「ねぇ、夕飯何時にする?いつもは18時に合わせて作ってるけど。」

ネイビー「勝手に決めちゃえ」

穣「いつも通りでいいんじゃね?今日はもう適当に」

アキ「オッケー」

アキたちはキッチンで調理を始める。

すると突然カルロスがムクリと起きると欠伸して「何か来るぞ」

護「寝言言ってる」

カルロス「起きてる」と言い「下に、あのレトラって人が来てる」と言って立ち上がる。

護「あらま」と言い慌てて立って食堂から出ると、採掘準備室に降りる階段の方から「誰かいませんかー」という声が。

護「はい!今いきまーす」と言いながら階段を降りていき、採掘準備室のレトラの元へ。

レトラ、護に封筒を渡して「身分証明書です。常時携帯して下さい。一応、ケセドの街の中は自由に行動してもいいですが、街の外には出ないように。あと黒船とカナンさんの兄弟の件は、明日、決定事項をお伝えします。」

護「明日?」

レトラ「今日はちょっと決まらないようなので。鉱石採掘の件も明日になります。」

護「そうですか…。」

レトラ「ではまた明日。恐らく午前中には来れるかと。」と言いタラップを降り、去っていく。

護「お疲れ様でーす。」と見送って「明日かぁ。」

カルロス「仕方ない、今日はとっとと寝よう。」

穣「アンタさっき寝てたやん」

カルロス「気にすんな。」

護「…カナンさんの件、すんなり許可されると思ってたんだけどなぁ…。」

穣「向こうにも事情があんだろ。」

カルロス、ふと。「そういえば。私は今晩、アンバーに泊まるのか?」

穣「あー…。」と言って護を見て「護のベッドはあるけどな、カルさんのベッドは…。」

護「俺、毛布さえあれば、どこでも寝るからカルさん俺のベッド使って」

カルロス「ならば私はケセドの街の宿に泊まる」

穣「いやいや」

カルロス「街の宿にした。決まりだ。」

ターさん「石茶が飲めるもんねぇ」

護「あ、そーか、そーいうことかー」

カルロス「ウム。アンバーでゴハンを食べたら宿に行く」

ターさん「じゃあ俺もゴハンをご馳走になったら実家に帰ろう」