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紺碧の採掘師

第14章 03

2020.06.20 06:47

黒船のブリッジでは

駿河、しみじみと「十六夜兄弟って凄いですねぇ…。副長が爆笑しまくってて操縦ミスるんじゃないかと心配でした。」

総司「停船してて良かったー。あの面白さはヤバイ。」

と、そこで『管理区域外』の表示と共に、航路レーダーが真っ白になる。

総司「お。外地になった。管理も諦めたらしいです。」

駿河「よかった。…ブルーが諦めたからかな」

そこへカルロスが「しかし満さんな、本人の目の前なのにも関わらず、よくあれだけ悪口を」

上総「なんか凄い悪役になってたね!」

カルロス「凄すぎて意味不明だった」

周防、しみじみと「…ブルーのメンバーは、あの強烈な採掘監督の元でよくやってるなぁ…」

すると総司が「皆、ゲームでストレス発散してますからねぇ」

周防「というと」

駿河「メンバーの中にゲーム好きが多くて、仕事する代わりにゲームさせろと満さんに直談判して、武藤の前の船長がそれを満さんに認めさせたという。」

総司「皆、ゲームに情熱を燃やす事で理不尽な採掘監督へのストレスを緩和させてる」

上総「なんか情熱燃やすポイントがズレてる気がする」

駿河「でもなぁ。正面から真面目にぶつかると俺みたいにブッ飛ばされるんで」と溜息をつく

するとカルロスが「貴方は黒船に飛ばされて正解だと思いますよ。」

駿河「いやまぁ」

カルロス「だって黒船に来た頃の貴方は」

すると駿河慌てて「だからここで鍛えられてこんな感じになりました!」

そこへ上総が「黒船の先代の船長も厳しいって聞いたけど、満さんと比べてどっちが厳しいのかな」

一同、暫し黙って

ジェッソ「それはちょっと比較できないなぁ」

カルロス「厳しさの種類が違うというか」

総司「…当時は厳しいとは思ってなかったからなぁ」

上総「そうなの?」

総司「あ、いや個人的には。…駿河さんが船長になってから、前の船長は厳しかったなぁと」

駿河「俺が船長になった最初の頃、この副長によく叱られておりました。生ぬるいと」

総司、焦って「いやいや」

ジェッソ「当時は、あの厳しさが『黒船ステータス』だと思ってたからなぁ。」

上総「なにそれ」

カルロス「人工種を代表する特別な船のプライドというか。他船と違うから厳しくて当然みたいな」

上総「ああー」

カルロス「あの船長を立派な人だと思ってたから多少理不尽な事を言われても聞いてしまうみたいな」

ジェッソ「でも今、振り返るとそんなに立派じゃない。理不尽は理不尽。」

駿河「…ブルーの満さんみたいに『この人、変だ』と思える方がまだマシかもしれないな。」

総司「確かに」

ジェッソ「それは言える」

カルロス「自分がどれだけ無理をしているかというのは、その時は分からないもんだからなぁ…。」

周防「…自分達がどれだけ管理に縛られているかというのも、緩んで初めてわかるという」

一同「!」

総司「確かに!」

ジェッソ「そう、確かにそうだ」

周防「特に黒船はそうだろうね。認められているから。そんなに不満を感じない」

一同「…。」

周防「でもある日、本当の想いが爆発した訳だ。本気を出せば、こんな首輪はただの飾り物。」と自分のタグリングを指差して言い「外したいなら外しますよ、SSFで。」

カルロス「これがあると人工種だと一目瞭然だから着けておく。ところでそろそろ死然雲海に入るぞ」

船窓の景色がだんだん曇って行く。

二隻の船は雲の中に突入する。

カルロス「…ちょっと濃いな。」

総司「前方のアンバーが目視できなくなって来た。」

カルロス「この濃さで、マリアさんは探知できるかな」

上総、探知しつつ「俺は探知できる。もう少しで目印の湖の上」

カルロス「その先に遺跡があるんだけど分かるか」

上総「遺跡って御剣研の?」

カルロス「いや。この直線上の先にある古い遺跡。湖を越えた後のイェソド方向の目印だから覚えて欲しい。」

そこへ総司が「あれ。アンバーの速度が落ちて来ました。」

カルロス「マリアさんギブアップかな」と同時に緊急電話が鳴る。

駿河、受話器を取り「はい。…了解しました」と言うと受話器を置いて「黒船が探知してくれと。本船が前に出ます」

カルロス&総司「了解」

上総、探知しつつ「古い遺跡…」

カルロス「前方の森の中に突然、広場みたいなひらけた場所が出現してケテル石で出来た古代の人工建造物がある。」

上総「…」必死に探知中

カルロス「これだけ言って何も感知できないんだからアウト」

上総「うー…。」と唸る

カルロス「総司君、若干左によりつつ、このまま直進」

総司「はい」

上総「…この雲海で、どうやったら探知出来るように」

カルロス「慣れだ。私も最初は全然探知できなかった。何回も探知してるとエネルギーに慣れて正確に探知するコツが掴める」

上総「はぁ」

カルロス「まぁでも今後は私が小型船で雲海をウロウロすると思うんで、何かの時は私を探知してくれれば。」

上総「…それは安心ですけど…。」

駿河、周防を見て「…先生。昔は鉱石弾で雲海を切り拓いたと聞きましたが」

周防「うん。この前方の砲身でね。結構な衝撃が来るよ。」

総司「…撃ってみたい…。」

駿河「同じく」

カルロス「有翼種はこの黒石剣で雲海を切り拓く」と自分の黒石剣を指差す。

上総「どうやって?」

カルロス「…切り拓く所を見たいなら、今、やってみるか」

上総「…出来るの?」

カルロス「うん。有翼種の採掘船での私の仕事は探知と雲海切りだ」

上総「ほぇ?」

ジェッソ「雲海切り?」

駿河「どうやるんですか」

カルロス「ん。…やるなら甲板に出ないと」

ジェッソ「ちょっとやって見せて下さい」

カルロス「では甲板に出ます」と駿河に言うと、総司に「総司君、少し速度を落として直進して遺跡が見えたら若干高度を下げて」

総司「りょうかーい」


ハッチから甲板に出たカルロス、そのまま船首方向に歩いていく。その後ろに上総やジェッソやメリッサ達。

メリッサ「なになに?…何するの一体。」

上総「雲海切りだって」

カルロス「上総、これから私のイェソドでの仕事を見せてやる」と言いホルダーから黒石剣を抜くと、バッと黒石剣を振って雲海切りをする。と同時に一気に雲海が切れて周囲の景色が広がる。

一同「!」ビックリ

カルロス「まだ練習中なんだが、これが雲海切りだ。ところで前方に遺跡があるの、わかるか?」と黒石剣で、かなり前方の遺跡を指し示す。

メリッサ達、ちょっと唖然としつつ

メリッサ「サクッと凄い事したわね…。」

上総も目を丸くしつつ「ビックリしました!」

昴「いくぞ、とか前フリしてほしい…」

カルロス「上総、雲海を切ったから今もう探知出来るだろ、あの遺跡の感覚を覚えて欲しい。」

上総「あ、はい!」

ジェッソ、黒石剣を指差して「…それ、そういう使い方をするとは…。全く予想外だった。」

昴「意外すぎた。」

カルロス「有翼種の採掘は死然雲海の中でやるから、雲海切りは必須なんだ。」

ジェッソ「はぁ。」

カルロス「あとは活かし切りするとかな。それで石のエネルギーが変わるから、まぁ本当に探知し辛いったらありゃしない。」と言い「上総!有翼種の採掘は探知が難儀で楽しすぎるぞ!」

上総「いや俺、まずは黒船での探知をちゃんとしないと。あの遺跡の感覚、覚えました!」

カルロス「よし、じゃあ中に戻ろう。」

昴「さっきのもう一回見たい!」

メリッサ「見たい!」

カルロス「え。」

ジェッソ「ほら、丁度また曇って来たし。」

上総「イェソド着くまでずーっと雲海切るとか」

カルロス「いやそれは」

メリッサ「とりあえず、もっかい!あと一回、切ってー!」



一方その頃、イェソドのターさんの家では。

カルナギの船が、ターさんの家の近くに来て停まる。ターさんはカルナギの船の甲板に飛んでいくとカルナギに「おはよう!どしたのカルナギさん、もしかして野次馬?」

カルナギ「まぁな。邪魔はしないがコッソリ様子を見ようかと。」と言うと「ん。何か来たぞ」とイェソド山の方から来る船を指差す。

ターさん「あ、カナンさんが来た。それじゃ」と言って去りかけた所を

カルナギが「待った!」と引き留めると「採掘の件だが皆に了解がとれた。石屋も協力すると」

ターさん「ホント!?」

カルナギ「だから後で時間作ってくれ。」

ターさん「ほいほい!じゃあ後で」と言い、カルナギの船から離れて自宅の玄関前に降り立つ。

小型船が二隻、ターさんの家の前に到着し、その一隻から大きめのバスケットと小さなカバンを持ったカナンが降りて来る。

ターさん「おはようございます。」

カナン「おはよう!ター君。今日は宜しく」と言い「石茶セット持ってきましたよ!人数分のコップも」

ターさん「え。30人分?」

カナン「ウチの喫茶店はデリバリーもしますからね。最大50人分を用意した事が」

ターさん「へぇ?!」

カナン「皆さんに美味しい石茶を飲んで頂きたい!」

ターさん「じゃあ準備しましょう。中へどうぞ」



再び黒船とアンバー

黒船のブリッジでは

駿河「…何でそんな剣みたいな石を大事に持ってるのかと思ったら…。」

総司「切るところ見たかった!」

駿河「見たかった」

カルロス「…まぁ今後ナンボでも見る機会はあるかと…。」

駿河「それにしてもカルロスさん、あの時、この距離を歩いてイェソドへ?」

カルロス「いや…。」と言うと「実は、探知ミスをしていて。」

上総たち「え」

カルロス「あの時はまだ死然雲海なんて知らなかったので、雲海のせいで探知距離の感覚が歪んだ事に気づかなかった。当初は二日も歩けば辿り着けると感じたので、それで逃亡する決心をしたんだが、実際にはそんなモンじゃない。もし当時、正確な距離を知っていたら逃亡は諦めたと思う。」

駿河「じゃあ、どうやって。あの時、殆ど何も持たずに」

カルロス「そうなんですよ。…雲海の中で妖精や護たちに偶然助けられたので、今こうして生きている訳ですが。そうでなかったら、まぁ…。でも行ける限界まで頑張ってくたばっても悔いは無かったですが。」

駿河「…」

総司「ちなみに妖精とは」

カルロス「鉱石の妖精という…イェソドに行けば嫌でもわかります。」と言い「…人は精神的に追いつめられると視野狭窄になるもんで…。とはいえ切羽詰ったからこそ逃亡出来たとも言えますが。結果として今こうなりました。」

駿河「まぁね…。でもそんな無謀な決心をする前に何とかしたかったな…。」

カルロス「…そろそろ雲海の端です。雲海を抜けたら一応イェソド。」

総司「一応?」

カルロス「本当のイェソドは山の中だから。カナンさんとの再会場所、ターさんの家はその手前にある。」

周防「…イェソドか。」と言い「まさか再び来るとは夢にも思わなかった。…カナンに会えるとは…。」

上総、周防に「…82年ぶりに会うって、どんな心境?」

周防「んん?」と上総をちょっと見てから「そうだなぁ…。」と言い腕組みして暫し黙ると「うん。まぁ…」と言い「色々ありすぎるなぁ…。」と言いため息をつく。

と、そこで突然バッと白い雲が消えて太陽の光が差し込み、一気に視界が広がると同時に森が消えて草原が広がる。

総司「おお!」

上総「抜けた」

周防、やや左側前方の山を指差し「あれが有翼種の住むイェソド山。」と言い「…あの時見た風景だ…。」と呟く

カルロス「ちょっと左によって飛んで…見えて来た。一軒ぽつんと」

総司「ああ…あれか」

カルロス「家の後ろに泊まってるのはターさんの友達の船だ。有翼種の採掘船だよ。」

総司「あれが…?」

カルロス「それにしても…。」と言い「警備が厳重だな…。あ、こっちに来た」

数人の有翼種が黒船に近づいて来る。

駿河「飛んでる!」

ジェッソ「マジで飛んでいる!」

上総「ほ、本当に、有翼種だ!」


ターさんはカナンと共に玄関前で、こちらに近づく黒船とアンバーを見つめている

ターさん「来た来た。」

カナン「採掘船。…懐かしいねぇ。」

有翼種に囲まれた黒船はターさんの家の前から少し離れた所に、船首を家側に向けて着陸する。

アンバーはそれと並行に並ぶように船首を家側に向けて黒船の右隣に着陸する。それぞれタラップを降ろす。すると黒船の周囲を飛んでいた有翼種達が、そのタラップから黒船の船内に入って行く。


黒船の採掘口では。

レトラ、採掘準備室に入りつつ「まだ全員、船から出ないように!あなた方にはまだ許可が出ていません」と言うと「乗員全員をここへ集めて下さい!」と叫ぶ

駿河、レトラに近づきつつ「もうすぐ全員、ここに来ます。」と言うと「初めまして。オブシディアンの船長、駿河匠と申します。」

レトラ「私は『壁』の警備の副隊長、レトラ・アレクシス。人工種の周防和也という方は…」

駿河の後からやって来た周防、小さなショルダーバッグを肩に掛けつつ「私です。」

レトラ「全員の手続きが終わり次第、貴方をカナンさんと面会させます。」と言い、タブレット石を出して「まずは船長から。これに手を乗せて下さい。」

レトラと共に船内に入った数人の警備の有翼種達も黒船メンバーの手続きを始める。


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