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紺碧の採掘師

第15章 02

2020.06.21 05:06

一同はターさんの家の中へ。


ターさん、保温ポットを持ちつつカルロスに「これカナンさんが持ってきた、石茶専用の保温ポットなんだ。これに石茶を淹れると、1時間は温かいまま美味しく飲めるんだって。」

カルロス「今日はどんな石茶なんだ?」

するとカナンが「爽快石、中和石、葉っぱはイェソドリーフで、エネルギーの薄いイェソド鉱石水で15分かけて淹れてから沸騰させてる。」

カルロス「15分?」

カナン「この量だとその位かけないとイェソドエネルギー残っちゃうから。今日は人間さんがいるだろ。イェソドリーフは甘みがあるので石茶を知らない方も飲みやすい。お茶!って感じになるから」

カルロス「ほぉ…。」

そこへ護が「普通の石茶って殆どお湯!って感じだし」

そんな話をしている間に各自、席に着く。

テーブルを挟んで右側の椅子にはカナン、周防、ジェッソが座り、その後ろの小さな折り畳みの丸椅子にはメリッサ、昴、夏樹が座る。

テーブルを挟んで左側には駿河と上総。そして少し離れた三人掛けのソファには穣と透。

家の中に入らなかったメンバーは、外で妖精と遊んだり玄関脇に佇んだり各自自由にしている。


ターさんは石茶ポットの石茶をオシャレな柄の紙コップに注ぎ始める。その石茶を淹れたコップを、カルロスが皆に配り始める。

上総、カルロスに「ここが、カルロスさんが暮らしている家?」

お茶を配りつつ、カルロス「うん。」

すると周防がハッとしてターさんに「あっ。ターメリックさん。…カルロスと護君を助けて頂いて、ありがとうございます。」

ターさん「え。…ああ。お蔭で採掘師が二人も増えて大変ですよ。カルさんは探知しまくるし護君は石を採りまくるし。」

護「だってせめて家賃分は稼がないとー」

ターさん「十分稼いでるってば。」と言うと周防に「お蔭で家が賑やかになりましたが一つ困った事があって。…俺、適当な性格なんで整理整頓そんなにしないんですけど、護君とカルさんが来てから家の中がキッチリ片付いてしまって。散らかす事が出来なくなった。」

護「だってそれは」

すると穣が「よーくわかるわー」

上総も「何となくわかりまーす」

カルロス「仕方なかろう、黒船に乗るとそうなる!」

護「以前、ブルーで鍛えられたもんで!」

ターさん「掃除もホントきちんとやるし、凄いよこの2人。助けてよかった!」

穣「家賃分、こき使ってやって下さい!」

護、穣に「ちょっと!」

そこへ周防がカナンを見つつ「…タグリング、取れたんですね。」

カナン「ああ。ある日、朝起きたら自然に取れたんですよ、ポロッと。」

周防「取れたタグリングはどうしたんですか」

カナン「もう一度付けようとしたけど、くっ付かなくてねぇ。記念に残しときました。ウチにあるので後で見せます。」

駿河、カナンに「なぜ取れたんでしょうか?」

カナン「長い事メンテしなかったからかな。」

周防「壊れたんでしょうね」

駿河「すると、人工種のメンテって、実は要らないとか?」

周防「何をメンテするかですよ。身体のメンテは必要ですが、タグリングのメンテは要らないかなと」

駿河「…そ、そういう事だったんですか、メンテって!」

周防「うん。タグリングが壊れても、キチンと自分で身体をメンテしてればカナンのように元気に生きられる。でも身体のメンテはどうでもいいからタグリングのメンテをしろと言うのが、どっかの管理の人間達。」

駿河「ちなみに身体のメンテとは」

カナン「そんなの人間と一緒ですよ。何か不調があればゆっくり休んで栄養のあるもの食べたり温泉行ったり」

ターさん「温泉いいですよねぇ。」と言うと「あ、真ん中に置いてあるお菓子、自由に食べて下さいね。カナンさんが持ってきてくれたお菓子です。…カナンさんの奥さんが作ったんだって」

周防「ほぉ」

ジェッソたち「頂きます」と言いお菓子をつまむ

周防「…しかし貴方が喫茶店とは…。」とカナンを見る

カナン「イェソドに来てから色んな職をやったけども、最終的に石茶の店に落ち着いた。カルロス君と同じく石茶にハマってしまってね。石茶には薬効のあるものもあるし、自分の健康の為も兼ねて」

そこへ上総が「わ!」と驚き、石茶を飲みつつ「…このお茶すごい美味しい…。」

カルロス「お」

護「流石はカルさんの弟子」

周防も一口飲んで「確かに美味しい。これは美味い。…こんなお茶があるとは。」と言い「人間はどう感じるのかな。」と駿河を見る

駿河「…正直に言いますと、普通のお茶です。ほのかに甘くてサッパリしてて美味しいけど」

周防、笑って「そうですか」

カナン、周防に「これは人間の世界では流行らないお茶だよねぇ」

周防「そうですねぇ」

護は玄関から外にいる皆にも石茶を淹れたカップを配り始める。

そこへ穣が「…護。これ、メッチャ美味いぞ」

透「うん。美味しい」

周防「他に美味しいと思う人は?」

メリッサ「美味しいです!」

夏樹「美味しい」

昴、首をかしげて「なんとなく変なお茶。」

ジェッソも「うーむ…。お茶はお茶です。」

カナン、ジェッソ達に「有翼種でも感じる人と感じない人がいますからね。…でもこれ、ただのお茶だと思って飲み過ぎると酔っちゃうから」

駿河「これで?」

周防「酔うと言っても酒で酔うのとはちょっと違うけど」

カナン「まぁ人間さんはよっぽど濃いのを飲まなきゃ大丈夫。」と言い「ところでちょっと自己紹介してもらえるかな。…貴方から」と言い上総を指差す

上総「はじめまして!SSF SU SSC03周防上総と申します。」

カナン「SSFっていうと…どこの製造所だっけ」

上総、周防を指差し「周防紫剣人工種製造所です」

カナン、周防を見て「え!」と驚くと「貴方、そんなの建てたの」と言い「…建てるのに色々と苦労しただろう?」

周防「いや、紫剣さんという人間の製造師と一緒でしたから、結構すんなりと。」

カナン「それでSSFか。…周防紫剣…人工種の名前を頭に持ってくるとは珍しい。その紫剣さんという方は、どのような」

周防「元々は私の教え子で」

カナン「教え子?…貴方、先生してたの?」

周防「はぁ。まぁ大学などで、製造師を目指す連中に人工種について色々教えていました。んでも製造師になる奴はごく僅かで殆どは人工種管理になりますが。」

すると駿河が「えっ、管理って、元々は製造師志望者だったんですか?」

周防「…うん。大体はそうだよ。…中には、この人工種の講師に落とされた事を恨んで管理になって人工種を縛るという奴も居たな」と自分を指差しつつ言う。

駿河「ええ」

周防「仮にそんな奴が製造師になったらトンでもない人工種を作るだろ。だから厳しくしたんだけども」

駿河「…はぁ」

周防、カナンに「紫剣さんとの最初の出会いは彼が中央大の人工種学科に入った学生の頃です。彼は最初全くヤル気が無くボケーッとしていたので結構厳しくしたら、何か知らんけど突然、原体B型の研究がしたいとか言い出して、以後しつこく私を追いかけ回して、ついに製造師になりました。」

するとメリッサが「周防先生みたいな人工種を作りたかったんですよ」

周防「…。」

夏樹も「原体B型というより、周防先生みたいな人工種を作りたいと」

昴「ウン。その為に原体B型の研究してるって言ってた」

周防「…それはともかく」

メリッサ「照れてるし」

カナン、笑って「いい方と出会ったねぇ」

周防「もう腐れ縁です…。」と言うとジェッソの肩をつついて「自己紹介を」

ジェッソ「ALF KUR D05ジェッソ・レストールと申します。」

すると周防が「我々が作られたATLが、80年前に移転してALF、人工生命研究所内製造所になりました。」

カナン「ATL、古かったもんねぇ。」

周防「しかも小さかった。ALFはかなり大規模なファクトリーです。彼の製造師はクレス・ディーファ・レストールという人間の女性なんですが、かなり沢山の人工種を作っていて」

ジェッソ「いや周防一族の人数には負けます。」

メリッサ、周防に「だってウチは何人いるのか分かんないじゃない」

ジェッソ「レストール一族は人数が把握できますから」

周防「…そうかー。」

メリッサ「ちなみに私はMF SU C174周防メリッサでーす。」

周防、メリッサを指差しつつ「アレは私がMFに居た時の子です。MFはご存知ですよね」

カナン「うん。」

周防「ここの2人は結婚してますから」とジェッソとメリッサを指差す。

カナン「おぉ。人工種も結婚できるように…」と言い「貴方は?結婚は」と周防を指差す

周防「え」と驚いて「いや、まぁ、私は」と非常に焦る。

昴「自分で墓穴掘った」

メリッサ「複雑な事情があるんですよねぇ」

周防「まぁ、その。語ると長いので…自己紹介の続きを」

昴「ALF SI ALA452 紫剣昴です。」

周防「紫剣さんがALFに居た時の子です。その隣は」

夏樹「MF SI MA1031紫剣夏樹です。」その瞬間、周防が「え、紫剣?」

夏樹「はい。俺、SIですよ。紫剣先生がMFに居た時に作った唯一のMA型」

周防「そうかそうだった。MA型に一人だけSIが居たのを忘れてた。」

夏樹「誰の子と勘違いしたんですか」

周防「…SUかなと。MA型のSUって結構いるので」と言うとカナンに「人数が多いとたまに間違えるんですよ。」

すると上総が「たまにじゃありませーん!」

メリッサも「頻繁でーす」

昴「そうだそうだ」

周防「皆、成長するし髪型変えたりするしで分からなくなる!」と言い「ああいう風に目印を付けてくれれば」と穣を指差す

上総「皆がハチマキつけたら意味ないじゃん。」

周防、カナンに「とにかく外見で分からなくても人工種ナンバーを聞くと思い出すんですよ、ああ、あの時の子だなと」

カナン「ちなみに大体何人くらいいるの、貴方の子は」

周防「…それが自分でも分からないんです。一年に5人作ってた時もありますし。」

カナン「ええ?!」

周防「しかもSSFになってからは紫剣さんと共同なので、どっちの子なのか。」

ターさん「…なんか有翼種的に聞くと、凄い話だなと思うんですけど」

駿河「人間的に聞いても凄い話に聞こえます。」

周防「ああ、まぁ人工種の場合は」

カルロス、周防を指さし「コイツは遺伝子を組むだけで、実際に育てるのは他人に丸投げ」

周防「いや、昔は自由に育てられないというのがあって…」と言って「でも近年は、私も育成してるぞ」

上総「俺は周防先生に育成してもらった」

メリッサ「私はあんまり記憶になーい」

周防「まぁSSFになってからは、のーんびりやってるので上総とかはねぇ。MF時代は死ぬほど忙しくて馬鹿みたいに殆ど寝ないで遺伝子組んでましたが。だからMFに居た頃は全然」

するとカルロスが「…MF生まれだけど俺はコイツに散々厳しく育成されました。」と周防を指差す。

周防「あ」とカルロスを見て「あぁ、まぁ…カルロスの時は…。すまん…。」

カルロス「お蔭で今の俺があるから、もういいけど。」

周防「…。」やや驚いた顔でカルロスを見る

カルロス「次、そこのハチマキ自己紹介!」と穣を指し示す

カナン、穣を見て「いつもそのハチマキしてるの?」

穣「はい!これは俺のトレードマークで気合入れでござんす!」と言うと「どうも、十六夜五人兄弟の次男、ALF IZ ALAb447十六夜穣と申します!」と言い護を指差し「アレが四男の護、そしてコレが末子の透」

周防「ここはちょっと反則技で。遺伝子の複製は禁止されてんですがそれを強引にやってしまったという。」

すると穣たちが「複製?」と驚き、穣が「満の遺伝子を元に作ったんじゃ」

周防「だからそれが複製だって。」

穣「え…?」

護「本当に、複製なんですか?」

周防「だから五人兄弟と認定されたんだよ。全く同じ遺伝子使ってるから。」

護・穣・透、嫌そうに「えーーーーーー!」

周防「知らなかったとは」

透「だって今まで満の遺伝子を『元に』、作ったと」

ジェッソ「モノは言いようだな。」

周防「でも君達が出来て、完全な複製にはならない事が判明したと」

穣「どういう事ですか」

周防「途中でどうしても変化が起きる。…例えるなら一つの塊を五等分して育てても途中でそれぞれ変化して全く同じものにはならないと。」

穣「ていうか満が五人いたら相当恐い」

カルロス「うむ」全員頷く

透「ちなみにあの、五人それぞれ違った能力にしようとしたって聞いた事あるんですが」

周防「らしいね。遺伝子が変化し始めた時に、どうせならそうしようと思ったらしいけど結局そうならなかったと。よくある事ですよ。」

護「…どうせなら、って」

周防「しかし五人兄弟が生まれたのは奇跡的な事なんだぞ。しかもこんなに立派に育って。十六夜先生は凄い人だよ。複製遺伝子が成功する確率は限りなく低いので、少なくとも私はやりたくない。」

穣「…複製…。」

透「満の複製…。」

護「今こんなところで明かされた衝撃の事実」

透「でもさモノは言いようだから!『元に』作ったって事にしとこう!」

護「そうだ!『複製』は嫌だ!」

穣「今まで通り、『元に』だ。『複製』なんて言葉は聞かなかった!…って事で皆さん、宜しく!」

周防「了解しました。」

昴「小耳には挟んじゃったけど。」

カナン「そういえばMKFだったかな。マルクトの霧島人工種研究所は?」

周防「今はもう人工種を作っていません。55年前に人工種製造をやめて、遺伝子等の管理部門だけが残りました。まぁ人工種に関するデータが山ほどある所なので、管理するのはいいんですがね…。」

駿河「管理しすぎになったと」

周防「あれでも昔より緩くなったんですよ…。」

駿河「そ、そうですか…。」