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コロナ感染者

2020.06.22 06:04

http://www.med.u-toyama.ac.jp/biostat/hitori.html  【過去の教授のひとりごと - 富山大学 医学部】

【モノローグNO.142. コロナによる死者数は超過死亡からも推計できる(2020-6-15)】

都道府県によってコロナ死者の数え方が違っていたと報道されました。コロナが原因かどうかを医学的に精査して報告している自治体や、そうでない自治体が混在していたようです。臨床研究ならば、これはあってはならぬことだと思います。でも、今回は非常時でもあり、あらかじめ定義を一致させておくことは無理難題と考えます。

もし因果関係を一定の基準で確かめよということになると、そうでなくても天手古舞の保健所はパンクしてしまったことでしょう。そうではなく、感染から4週間以内の死亡に限るといった提案もあります。これなら日付だけを確認すればよいので容易かもしれません。でも、およそ1か月ものあいだ、きちんと捕捉できるでしょうか。退院したとき、もし何らかあったら電話連絡をとお願いしても、100%電話してくれるかどうかは不明です。

アメリカの感染者は約200万人、死者は約11万人ですから、見かけの致死率は約5%です。日本はどうかと言うと感染者は1.7万人、死者は約900人ですから、見かけの致死率は同じく約5%になります。ほぼ同じなのです。日本だけ死者の報告が徹底していないということではなく、どの国も似たり寄ったりではないかと思われます。ジャーナリストの方、余裕あればアメリカの実情も取材してください。感染者は非常に少なめのはずです。無症状で見つかっていない人が多いからです。死者も少なめと思われます。まさかコロナの致死率は5%ということはなく、米国CDCが5月27日に発表した推計では、コロナの致死率は0.4%とありました。季節性インフルエンザは致死率0.1%以下のようですから、それよりは危険だと分かります。

いずれにせよ、このような非常時の問題に対しては、臨床研究のように厳密なアウトカム定義は不可能だと思います。毎日報告される感染者・死者をあまり信用しすぎず、事後的に「超過死亡」という指標で、コロナによる死者を推計できます。超過死亡とは平年に比べ、何人死者が多いかの数字です。たとえば、今年5月の超過死亡が1,000人だったとしましょう。この70%、つまり700人程度がコロナ死者と推計します。70%というのは、エコノミスト誌が出典です(https://www.economist.com/graphic-detail/2020/04/16/tracking-covid-19-excess-deaths-across-countries)。超過死亡の中でコロナが占める割合は、国によってさまざまです。11カ国の上下3カ国を除外した平均を取ると、コロナが占める割合は70%になります。ラフにはなりますが、コロナ死者数を容易に推計できます。

【モノローグNO141. コロナ緊急度の指標に超過死亡が有用ではないでしょうか(2020-6-8)】

コロナ緊急度の指標として、感染状況と医療ひっ迫度が使われています。感染状況の一つに感染者数が使われています。毎日16時ころに発表され、だれもが目にする分かりやすい数字です。それは事実なのですが、緊急度の指標としては死者数が大切だと考えています。

死亡というのは究極の指標です。感染者はどんどん発生しても、死亡に至らず治っていくのであれば、それほど緊急度は高くないと思います。医療のひっ迫度は無視したという前提ですが。平年に比べて死者が増えてくる状況なら、緊急宣言をすべきでしょう。それを見る指標が、超過死亡(Excess death)です。

エコノミスト誌において、超過死亡の追跡が全世界で始まっていることを知りました(https://www.economist.com/graphic-detail/2020/04/16/tracking-covid-19-excess-deaths-across-countries)。平年に比べて今年は死者が何人増えたか、それが超過死亡です。それを週単位で出しています。コロナ死者数を超過死亡で割ることにより、コロナが死者の増加にどれくらい寄与しているかが分かります。国によってばらつきはありますが、死者が多い地域を見ると、およそ70%がコロナ由来の超過死亡のようです。

この計算には、タイムリーな週単位の死者数が必要です。一般人は分からないので、代替的な手法で「コロナによる超過死亡」(= [コロナ死者数÷平年の死者数]×100%)を定義しました。

人口 平年の年間死者 コロナ死者(現時) 予測年間コロナ死者(割合)

日本 1.3億人 136万人 916人 2,000人(0.15%)

アメリカ 3.3億人 266万人 112,000人 200,000人 (7.5%)

今後、およそ2倍のコロナ由来死者が出るとラフに予測しています。コロナによる超過死亡は、0.15%(日本)、7.5%(アメリカ)になります。東日本大震災は一瞬の出来事ですが、一年にならせば1.5万人(1.1%)の超過死亡でした。今回のコロナ超過死亡が0.15%辺りですから、それほど深刻ではないと分かります。アメリカは超過死亡7.5%ですから、東日本大震災以上のインパクトがあったことになります。

緊急度の指標にこれを使うには、年間ではなく、週当たりで見る必要があります。そのやり方を示します。すべての数字を週当たりに置きなおすだけです。現時点とピーク時の超過死亡を計算してみました。週当たりのコロナ死者は、公表グラフからラフに読み取っただけです。

平年の死者/週 コロナ死者/週 超過死亡/週

日本 26,000人 50人 0.2% (現時点)

 200人 0.8% (ピーク時)

アメリカ 51,000人 5,000人 9.8% (現時点)

10,000人 19.6% (ピーク時)

日本は現在、およそ0.2%(50÷26,000)の超過死亡です。ピーク時は4月頃だったと思いますが、0.8%の超過死亡でした。その時点でも東日本大震災レベルには至っていません。1%でも深刻な超過とは考えていませんが、コロナによる超過死亡1~5%辺りが緊急宣言の基準ではないかと思います。アメリカはどうかと言うと、今でも毎日1,000人弱の死者が出ています。現時点のコロナによる超過死亡は9.8%にもなります。これでも自粛解除しているのは、新規感染者が減ってきているので、死者も減ってくると予測しているからでしょう。その意味では、死者は感染者から遅れて数字に出てきますので、感染者数を無視してよいわけではありません。

医療のひっ迫度は国民にはよく分かりませんし、感染者や死者のように毎日発表されません。ただし、緊急度の判断にはこれも大切な指標です。行政は毎日把握しておくべきでしょう。医療従事者の稼働率(病欠していない人の割合)、病床の空き具合などが考えられます。病院機能評価の指標に病床利用率があり、それが低すぎると経営に問題があるとされます。コロナのために病床利用率を70%までに抑えておくようにと言われると、病院経営の先行きがちょっと心配になります。コロナ指定の病院には、病床を空けておくことへの手当てが必要だと思います。

【モノローグNO.140. 抗体検査陽性でPCR検査も陽性とはどういうことか(2020-6-4)】

野球選手でまず抗体検査をして陽性となり、その後PCR検査をしたら陽性と分かりました。抗体検査は過去にコロナに感染したか、つまり感染歴を調べます。陽性ということは、過去に罹ったということになります。一方、PCR検査は今罹っているかを調べます。今罹っていることが分かったので、出場停止になったわけです。過去に罹ったのに、また現時点で感染が判明したので、いろいろ想像する人がいるようです。過去に罹ったのに、これは再感染を意味するのでしょうか。私はそう考えていません。

コロナウイルスに感染して2日後からウイルスが検出され、感染して5日後辺りに症状が出るとされます。無症状のため発症に気づかない人もいます。ウイルスが消えるのは、発症(症状が出て)から21日辺りと言われています。ウイルス量は徐々に減ってくるので、通常は発症から14日で消失すると言われています。だから、2週間の隔離で開放されるようです。抗体検査はと言うと、発症から14日経たないと検出されないようです。このことから、この野球選手はごく最近に感染したと思われます。無症状だったから、感染に気付かなかったのです。

無症状であればいつ発症したかは不明ですが、1日(Day 1)に発症したとしましょう。22日(Day 22)になっても、ウイルスは残っている可能性があるわけです。実際、この選手はPCR検査で微量のウイルスが検出されたようです。抗体はどうかと言うと、15日(Day 15)には検出可能なわけです。15日~22日(Day 15-22)の間に検査をしたとすれば、抗体検査は陽性(すでに罹ったことがある)、PCR検査も陽性(つまり今罹っている)になりうるのです。これは再感染ではなく、たった一度の感染です。

すでに罹っても油断はできないとか、再感染が疑わしいという人もいますが、むしろ感染症の進行過程から十分にありうることです。コロナは無症状が多いようなので、感染の有無はPCR検査をしないと分かりません。感染すると集団化しやすい病院・介護施設では、全員にPCR検査をしたほうが安全です。病院・介護施設は、どうしても密を避けられないのです。考えてみると、芝居も密を避けられません。密になるから芝居は無理だとよく聞きますが、芝居の役者さん全員にPCR検査をすれば可能ではないでしょうか。密を避ける生活様式を取れるところはいいですが、密が避けられないところは活動自粛か検査しかありません。

抗体検査はどうでしょうか。すでにコロナに罹ったかの確認のためです。陽性だったら、コロナ免疫を持っていることで安心できるでしょう。大多数が免疫を持っていれば(集団免疫)、さらに社会としても安心できることでしょう。もちろん、免疫を獲得したとしても絶対再感染しないとは限りません。コロナ抗体がどれくらい持続するかも分かっていません。抗体陽性だからと言って、油断しすぎるのは禁物です。衛生に気を付ける習慣は持ち続けるほうが、他の感染症予防にもつながります。実際、今年は異例にもインフルエンザが流行しなかったようです。

【モノローグNO.139. 抗体検査にはどんな意味があるのでしょうか(2020-6-2)】

米国ニューヨーク州で抗体検査の結果が4月末に発表されました。州全体での既感染率(感染歴のある人の割合)は15%、NY市に限ると25%という数字でした。5月に入ってから感染速度は収まってきたので、現時点の既感染率は35~40%辺りでしょうか。

NY市の感染者は現時点で20万人のようです。人口は850万人ですから、2~3%の感染率です。これは統計値です。この感染症は無症状のまま、感染に気付かない人も多いようなので、実際の感染率はもっともっと高いでしょう。現時点の既感染率を40%と仮定すると、統計値の20倍もの人がすでに感染しているという勘定になります。

日本全体の感染者は現時点で約2万人ですから、感染率はわずか0.2%です。NY市の例を当てはめ、統計値の約20倍が実際の感染率だとすると、0.2×20=4%が既感染率と推計されます。ちょっと前になりますが、神戸市の抗体検査は既感染率3%でした。いい線だったのかもしれません。ただし、日本はNY市よりPCR検査が極めて少なかったので、統計値の感染率は低く出たと思われます。統計値では0.2%程度の感染率ですが、PCR検査をもっと多く実施していたらどうでしょう。単純に5倍検査を実施していたとすると1%、つまり20万人感染という統計値が出ていたことでしょう。そうすれば、既感染率は1%×20=20%と推計されます。

これから日本で実施される抗体検査で、既感染率がかなりの精度で得られます。現時点の既感染率は4%が正しいのでしょうか、それとも20%でしょうか。これによって、PCR検査が少なかったのかどうかが明らかになるでしょう。仮に既感染率は5%程度と低ければ、決してPCR検査が少なかったわけではないと分かります。むしろ、どうして日本人はCOVID-19に感染しにくいのかに疑問が移ることでしょう。

PCR検査はCOVID-19の診断に使うものですが、抗体検査は医療政策にとって重要と考えられます。PCRの偽陰性率は50%程度、つまり半分くらいは誤って陰性と出てしまうようでした。一方、抗体検査はと言うと、偽陰性率も偽陽性率も10%未満のようです。最新のロシュ社による検査キットは、どちらも0.2%未満と報告されています。ほぼエラーはないようです。抗体検査で推計される既感染率はほぼ正しいと思われます。

抗体検査はどのような意味があるでしょうか。大都市で既感染率が高ければ、密集によって感染は広まったと考えられます。その他、どういった人が感染しやすいか、といった危険因子も明らかになると思われます。メディアで言われているように、自分がすでに感染したかどうかを知ることにより、安心できるというメリットもあります。自分だけの話ではなく、集団としてのメリットもあります。今後の医療政策に大切な情報になるでしょう。すでに50%近くに達していれば、集団免疫が確立しつつある段階と読めます。自粛政策はほぼ意味がないかもしれません。一方、既感染率がまだ5%程度なら、第二波に備えた医療の準備が必須です。日本で感染及び死亡が少ないことは、ファクターX、つまり未知数と言われています。今回の抗体検査により、本当に感染が少なかったかどうかが明らかになります。PCR検査が少なかっただけではないか、という疑問にも答えることができるでしょう。こういった意味でも、今回の抗体検査の結果は大変待たれるところです。

【モノローグNO.138. COVID-19の検査性能はどうなのでしょうか(2020-5-26-③)】

富士レビオ社が開発した抗原検査キット「エスプラインSARS-CoV-2」(5月13日、薬事承認)の添付文書を見ると、PCR検査の結果をゴールドスタンダード(真実)としたときの本検査の感度は37%、特異度は98%のようです。添付文書には感度ではなく、PCRとの陽性一致率と書かれています。PCR検査をゴールドスタンダード(真実)とすると、PCR検査で陽性のとき本検査も陽性と一致する割合が感度になります。だから、陽性一致率は感度のことなのでしょう。

感度・特異度は検査の性能を表すパラメータですが、これが一般には分かりにくいように思います。そこで、厚労省の添付文書は陽性一致率や陰性一致率にしたのでしょうが、これもちょっと誤解を招くような気がします。それよりも、偽陰性率や偽陽性率のほうが一般人にも分かりやすいと思いました。偽陰性率(%)=100%-感度(%)です。誤って検査陰性と出る割合です。先ほどの抗原検査の感度37%であれば、偽陰性率は63%になります。半分以上で、誤って陰性と出る検査だということです。

偽陽性率(%)=100%-特異度(%)=2%ですから、誤って陽性ということはなさそうです。抗原検査を行って陽性だったら、これはCOVID-19だと思ってもよいのでしょう。その一方で、検査陰性であっても大丈夫とは言い切れないので、さらにPCR検査をするという段取りになるのでしょう。

唾液検査なども出てきているようです。イタリアの報告では、感度80%、特異度99.5%くらいのようです。偽陰性率は20%ですから、抗原検査よりは精度がよさそうです。簡便性や飛沫危険も少ないようなので、抗原検査より唾液検査のほうがよいかもしれません。唾液検査はまだ薬事承認されていないとは思います。新しいコロナの検査がいくつも出てきますが、ぜひ偽陰性率を報道してもらいたいと思います。

季節性インフルエンザの迅速検査ですが(PCR法)、感度54%、特異度99%と報告されています(Ann Intern Med 2012;15:500-11.)。偽陰性率は46%です。この手の検査は偽陰性率が高いようです。陰性だからといって安心せず、体調が悪ければしばらく様子を見るか、改めて再検査することが必要なのでしょう。

(略)