「こどもたちはまっている」荒井良二
「こどもたちはまっている」荒井良二 亜紀書房/2020年6月発売
雑誌「東京人」2020年3月号の絵本特集号で、荒井良二さんと及川賢治さんの(長新太さんについての)対談が掲載されていましたが、その中で荒井良二さんが、自分が絵本をつくるきっかけとなったような絵本として、長新太さんの「ちへいせんのみえるところ」を挙げていました。
この発言の部分は自分も印象に残っていたのですが、この、荒井良二さんの新作絵本「こどもたちはまっている」は、なんとその長新太さんへと捧げた1冊、荒井さんいわく、この絵本こそ、ぼくの『ちへいせんのみえるところ』なのかもしれない、とのことだそうです。
この話を聞いて、期待してこの絵本を仕入れて、読んでみたら、とてもとても素晴らしい作品でした。
数多くある荒井良二さんの作品の中でも、一番好きかもしれないです。
短いテキスト、荒井さんの光の溢れる絵。
語り手は、子どもでも大人でもない、もっと大きなもの。
大きな何かが、子どもたちをそっと、優しく見つめている。
こどもたちはまっている ふねがとおるのをまっている
こどもたちはまっている ロバがくるのをまっている
こどもたちはまっている あめあがりをまっている なつをまっている
「こどもたちはまっている」というリフレイン。
純粋に、素朴に、「まっている」と言う言葉と、それが「やってきている」絵。
ふねがとおるのをまっている、その言葉にあてられた絵は、今まさに、船が通っている。
ロバがくるのをまっている、その言葉のページにはロバが隊列を組んで山を登ってきていて、なつをまっているページでは、海で子どもたちは遊び回り、テーブルの上には大きな向日葵。
口にされた願いと、実現された未来。
その叶えられた未来は、子どもたちの想像の世界のなのかもしれない。
期待と実現。
もしかしたら、それは訪れないかもしれない。
訪れない未来なのかもしれない。
でも今こうして、この手の中で開く本のページの中では、思いは遂げられ、報われ、求めていたものは訪れ、思い続けたことが、この手の中にあるんです。
こどもたちはまっている おいわいのひをまっている
こどもたちはまっている ねこがでてくるのをまっている
子どもたちが思い描く、思い通りの未来。
荒井良二さんが本の中に大きく描きだした、その一点の曇りもない未来に触れる、喜び。
子どもたちが未来を思うときに、どうかそれが、この絵本のような光に溢れたものでありますように。
すべての子どもたちが、この未来を思い描いて、眠りにつくことが出来ますように。
この絵本の帯には、荒井良二さんの新たな代表作、と書かれていますが、個人的にはもう、最高傑作なんじゃないかと思っています。
きっと長く、長く読まれ続けるであろう、素晴らしい絵本です。
オンラインストアでは長新太さんの「ちへいせんのみえるところ」と一緒に並べております。ぜひオンラインストアの方でも御覧ください。
「こどもたちはまっている」荒井良二
「ちへいせんのみえるところ」長新太