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砕け散ったプライドを拾い集めて

ジャカランダ

2020.06.24 11:04

 ロスアンゼルスは基本的に砂漠のなかに、人工的に水を引き、緑の植栽をした街だ。もっと直裁に言えば、カネ掛けたところはグリーンで、カネ掛けてないところは茶褐色。

樹木も乾燥に強いものが選ばれている。オーストラリアのユーカリとか、インドの胡椒の木やベンジャミン・ファイカスなどだ。なんのことはない、この街では、樹木までが移民なのだ。

  


このLAで最も忘れがたく印象的な樹は「ジャカランダ」である。この樹はブラジルあたりからきたものだという。多分乾燥にも強いのだろう。
6月になると、この樹の花が咲き始める。そして、ロスアンゼルスの本格的な夏が始まる。
とは言っても、ロスアンゼルスの季節は3つしかない。hot,hotter,hottestの3シーズン。その最後の「最も暑い季節」がやってくる。

日本のソメイヨシノが愛されるのは、若葉が吹き出てくる前に薄ピンクの花が咲くから。このジャカランダも若葉の前にその紫の花が咲くので、目に鮮やかな素晴らしいプレゼンテーションになる。
そして、ソメイヨシノの咲き誇りには、むせかえるような〝女の情念〟を感じてしまうが、紫紺の桜のジャカランダは同じく女の情念だとしても、もっと静謐なものだ。

近所に聳えている大きなジャカランダの樹の枝々に美しい紫色というかラベンダー色の花をつけていたところに初めて遭遇したとき……それもたまたま、空気も薄紫色になっている黄昏時に。なんだか気圧されてドキドキしながら立ちすくんでいた。思わず口からは「幽玄」と小さく呟いていた。

その何年後かの6月。 南フランスのニースからカンヌへ左手に「コート・ダ・ジュール」をみながら海岸通りをドライブしていたとき、ちょうど中間ぐらいで、その〝紺碧海岸〟を見下ろす岡の上に、大きなジャカランタが聳えていた。紺碧の海の色を吸い上げたかと思うようなディープ・ブルーの花を総身に纏って。
〝この海を見たくて、ブラジルからここまでわざわざ出かけてきたのかい?〟