第20章 03
上総「イェソド楽しいなー。…俺もカルロスさんみたいにイェソドに住みたいな…。」
穣「気持ちはわかる。明日、採掘はいいけど戻るのがメンドイ…。」
マゼンタ「またイェソド来ればいいじゃん!」
穣「来るよ。また来るけど、…向こうに戻った時に管理がウザいのが」
駿河「わかります!管理がウザイのが面倒なんです。」
総司「霧島研を鉱石弾でふっ飛ばしてしまいたい」
周防「建物をふっ飛ばしちゃイカン。あそこには人工種の重要資料が」と言って「あ。ふと思ったが、この複写冊子、霧島研に見つかるとマズイかもなぁ。」
駿河「え」
総司「もしかして管理にとって都合の悪い事が書かれているとか?」
すると周防「んー…」と言って暫し黙ると「都合の良い事も悪い事も書いてある。だから管理がこれから人工種との関係をどうしたいかによって、この情報の使い方も変わる。」と言い「でもこの間、霧島研で大暴れしたし、今回こうして黒船が勝手にイェソドに行ったから、向こうも何か考えると思うんだよ。相手の出方次第って所かなぁ。」
シトロネラ「もしも『よく戻って来たねー』って涙流して喜ばれて大歓迎されたらどうする?」
穣「それはメッチャ気持ちが悪い。」
周防「いや、でもな。管理の内心は、そうだと思うぞ。」
シトロネラ「そう、って?」
周防「つまり内心では『帰って来なかったらどうしよう!』と不安で心配で、だから戻ってきたら内心密かに『よかったー』と喜んでいる筈」
上総たち「ええー?!」
シトロネラ「そうかなぁ」
穣「んでもそれってさ?自分らが管理として人工種をこき使えるからっしょ」
周防「そうでござんすよ」
穣「じゃあ言う事聞かねぇワガママな人工種は帰ってくんなって事じゃないの」
ジェッソ「しかしイェソド鉱石を採る主力の採掘船が2隻も戻って来ないと今後困るから」
そこへターさんが「あのさ皆、俺、護君と出会ってからずーーーっと思ってるんだけど、人工種が採掘しないと人間が困るのに、何で人工種は人間に対して弱気なのーーー!っていう。おかしいじゃん!」
剣菱&周防「うむ!」
穣「まぁ、コレで脅されてたから」とタグリングを指差す
ターさん「でもさ…」と言って暫し黙ると「実は俺ね、護君と出会った最初の頃、人間ってホントに酷いんだなって思ってた。だってあの時の護君は、痛々しいほど怯えてて物凄い謝罪祭りで、戻らないと迷惑がとか探しに来たらどうしようとか皆に迷惑かけまくって申し訳ないとか。…不慮の事故で川に落ちてそこまで責められるってどんななの?って思ったよ。まぁ確かに迷惑はかけちゃうけど、普通は生きてて良かったになるじゃん!なのに事故とはいえ自分が悪くて皆に迷惑かけたから殺されるとかって、もー…。」と言い「人工種って一体どんな世界で生きてんのかと思った。」
そこへ穣が「ちょ、ちょっとだけ弁解してもいいか。護がそんなになったのは長男の満が原因で」
ターさん「でも長男にそういう観念を植え付けたのは人間だろ?」
穣「それはそうだけど」
ターさん「俺、貴方も相当苦労したと思うんだけど。親も長男もガチガチだから」
穣、驚いて黙る「…。」(…俺の苦労を…。ターさん鋭いな…)
ターさん「とにかく俺は最初の頃、怯える護君に対してどうしたらいいのか分からなくてさ。とりあえず一緒に採掘に連れて行ったんだ。そしたらすっごい楽しそうな顔するんだよ。だからもうこのまま一緒に暮らしちゃえと思って。…元気になってホントに良かった。」
上総「あの。カルロスさんは最初どんな感じだったんですか」
ターさん「カルさんは護君ほど酷くは無かったよ。まぁ仲間の護君が居たからだろうけど。でも最初全く食欲が無くて、二日か三日位何も食べなかったな。…まぁカルさんは何か、んー…。」と考えて「最初見た時、なんか凄いしっかりした人だなと感じた。芯が一本通ってる感じ。だけどそれがガッチガチに固まりすぎて無表情な人形みたいになってるって感じ。それが護君と一緒に採掘してる間に柔らかくなった。不思議だよねぇ…。」と言って「思うに管理の人ってホントはビクビクしてる筈だよ?だってそのタグリングって、恐いから付けたんでしょ?…だったら人工種はもっと強気になろうよー」
上総「恐いから付けた…?」
ターさん「なんか人工種を自由にしたら危険だ!って勝手に決めつけて、恐いから縛ったみたいな感じがする。」
カナン「…昔、私の製造師の神谷さんが言っていたんだけどね、人間には『自分たちは劣っている種族だ』という根深い思い込みがあると。有翼種と比較して、飛べない、寿命が短い、イェソドエネルギーに弱い、だから自分達はダメだと。それで必死に『下を作って上に立とうとする』と。」
駿河「…でも何となくそれは分かるなぁ。有翼種や人工種の能力って凄いし」
剣菱「まぁなぁ」
駿河「だけど人工種を縛ったら人間だって苦しいですよね。相手が苦しんでんのに自分達だけ幸せにはなれない」
カナン「いや幸せになっていいんですよ、自分らが苦しいから相手にも『お前も苦しめ』となる訳で」
駿河「え。」と驚いてカナンを見て「…てことは、管理も苦しいって事ですか?」
カナン「んー…。苦しみを感じないようにしている、とは言えるかもしれないねぇ。」
駿河「というと」
カナン「人も色々で、自責的に苦しむ人と、他責的に苦しむ人がいるって事だよ。何はともあれ、まず自分が幸せにならないと。ただ、何を幸せと感じるか、って所もあるけど」
周防「世の中には人工種を支配して上に立つ事が幸せと感じる人もいる」
カナン「人の価値観は色々だからねぇ。」と言うと「でも本当に幸せに生きている人は、他者を苦しめたりしないよ。だからまず自分が幸せになる事!」
駿河「…。」
暫しの沈黙
周防「まぁとにかく、向こうに戻った時に管理がどんな反応をするか。」
穣「どんな反応されたって、もう管理の言いなりにはならねぇが」
駿河「とはいえ俺は正直あまり力の無い船長なので、管理に反抗すると船長降ろされる可能性が」
ジェッソ「アンタが首切られたらストライキですよ」
剣菱「うむ」
総司「待った。そんな下らないストライキで無駄時間を費やす位なら、駿河さん連れてイェソド行きましょう!」
マゼンタ「そうだそうだ」
一同「そうだー」
ターさん「もう皆、イェソドに住んじゃえば?」
上総「そうしたい…。」
穣「今、護が何とかしてターさんの近くに家を建てるって頑張ってるけど、それが出来れば採掘船の拠点になっていいよな。」
マゼンタ「護さんの家の前に採掘船が泊まるのかぁ…。」
透「そしてそこに人工種の街つくって、穣が人工種の長になるんだよね」
穣「はい?」
透「だってケテル行く時の道中、言ってただろ。」
ターさん「あぁ何か言ってたな。」
穣「いやいやアレは冗談で。」
ターさん「長になるにはまず人工種の街を作らないとね!」
穣「むむー。そしたらまず人工種製造所を…」と言い「あっ!そういや周防先生、人工種だけで製造所を建てたいと言ってましたな!」
周防「うん。」
穣「護の家の隣にSSFの支店作っちまえばいいんだ」
周防「支店って。店じゃないんだから」
カナン「いいねぇ。するとコクマの図書館にも行けるし、アッチとコッチで皆で色んな情報を共有できる」
周防「ちなみに、もしかしたらいつの日か人工種は『人工』じゃなくなるかもしれないぞ。」
ジェッソ「というと」
周防「人間や有翼種のように自然生殖が出来るようになるかもしれない。」
一同「!」
周防「だって人工有翼種は自然生殖が出来たから。」
穣「てことは人工ヒト種になってから出来なくなったって事ですか」
周防「そういう事。現にそこに人工有翼種の末裔さんがいらっしゃる」とターさんを指差す
一同「えええ!」
駿河「た、ターさんが?」
穣「人工種だったの?」
周防「いや、人工種ではないよ。」
ターさん「俺、有翼種だよー。だけど純血有翼種ではないってだけ」
セフィリア「私は純血有翼種」
ターさん「単に先祖に人工有翼種がいるってだけだよ。そんな人いっぱいいるよ」
周防「厳密に言うと、ターさんは人間の遺伝子がちょっぴり入ってる有翼種って事になる。」
穣「そうか、人工有翼種は人間と有翼種の混血だからか」
セフィリア「でも純血とか混血とか気にする人あまり居ないけど」
そこへ駿河が「あれ?人工有翼種が自然生殖が出来たなら…何であそこに御剣研が?」
穣「そうか、人工有翼種の街、ダアトに何で人工種を作る為の施設が」
周防、複写冊子をパラパラ見つつ「ある程度までは人工有翼種を作らなきゃならないからだな。」
ジェッソ「そうか、人口増加の為に。」
穣「でもさ、自然生殖も人工生殖もできるって…」
周防「だから爆発的に増えたんだよ。」
穣「俺ら人工種も自然生殖できたら爆発的に増えちまう?」
周防「かもしれんねぇ。」
マゼンタ「うわぁ。管理が知ったら絶対阻止だぁ」
穣「だから、俺達が自然生殖出来ない様にしたのかー!」
周防「多分そういう事ですな」と言い「御剣さんが書いた本によれば、最初はマルクトで人工有翼種を作る技術を確立し、その後、有翼種の要望でダアトに御剣研を作ったという事らしい。最初は有翼種がマルクトに来たんだな。しかしイェソドまで遠いから本格的な製造施設は中間地点に、という事のようだ。」
駿河&穣「なるほど」
ターさん「じゃあその頃は人間と有翼種は仲良くて、結構行き来してたのか」
上総「それが今はこんな事に」
剣菱「ちょっと質問なんですが。人工有翼種が純血有翼種と子供を作れるって事は、人工ヒト種は人間との子供を作れるんでしょうか」
周防「今は出来ません。なぜなら管理が研究させてくれないからです!」
剣菱「なんと」
周防「でも人工ヒト種は人間とも有翼種とも子供を作れる可能性があるんですよ。自然生殖では無理ですが、人工種製造所でなら出来る筈です。だからもしも人工種同士で自然生殖が出来るようになった時、人工種製造所の存在意義は異種混血の為、になります。」
剣菱「おお」
周防「で、管理はそういう多種多彩な遺伝子を管理する所になったらいいんですよ。異種混血となったらどれだけ膨大な遺伝子チェックが必要になるか…。」
マゼンタ「その膨大な仕事がメンドクサイから混血の研究を阻んでるんだな、多分!」
穣「なんて奴らだ。こうなったら護の家にSSF支部を作って周防先生に自由に研究させてあげよう」
マゼンタ「よーし!」
ジェッソ「その為にはイェソド側のお金を稼がなければならない!」
マゼンタ「でも稼いだお金はイェソドで遊ぶ金にしたいー」
剣菱「とりあえず護とカルさんにとっとと小型船免許取らせてやるべ。」
駿河「小型船かぁ…。あのー。例えばだけど、俺が黒船の船長クビにされたら総司君が船長になって俺は頑張って中型船を購入してカルさんと護君を乗せてイェソドへ…というのは如何でしょうか」
上総「ほぇ?!」
総司「何を言ってんですか」
駿河「いや本気です。そしたら俺が操縦するから2人が免許取らなくてもすぐに船が持てるし。」
ジェッソ&穣&剣菱「ほー!」
総司「…本気って」
ターさん、駿河と一緒に空を飛んだ時の事を思い出して(ああ…。)
『船の操縦も好きだよ。船長になるとあんまり操縦しないけど…。』
ターさん(そうか…!)と思いつつ、駿河を見つめる。
駿河「ただ問題は中型船を買えるかどうか」
すると剣菱が「大丈夫!俺の知人に中古船販売屋がいる!」
総司、駿河に「あのー、それ以前に俺、人工種なんですけど」
駿河「人工種初の船長になればいい」
総司「んな冗談やめて下さい。大体、管理が」
駿河「いや、マジです。管理は何とかする」
総司「…って」
するとジェッソが「この真面目な船長が冗談言うか?」
総司「俺、無理ですって!」
駿河「なんで」
総司「だって俺、船長なんて微塵も考えた事ないですよ」
駿河「俺も自分がいきなり黒船船長になるなんて微塵も考えてなかったよ」
総司「…まぁでも、貴方をクビになんかさせませんから」
駿河「クビになってもいいよ、総司君が船長になるなら」
総司「はぁ?さっきクビになったらどうしようって」
駿河「総司君が船長になるなら」
総司「…何でそんなに…。貴方が良くても皆が反対する」
ジェッソ「いや?」
静流「お、応援します!」
アメジスト「うんうん!」
上総「駿河船長が良ければ、いいと思う!」
総司「…。」
マゼンタ「…なんか単なるお茶会で凄い話が出て来た」
透「こんな所で船長交代話なんて」
総司、困ったように「…マジで言ってんですか…」と呟く
駿河「まぁでも、カルさんにも聞いてみないとな。絶対に小型船がいいと言うかもしれないし。人間は入れたくないとか」
総司「…ですよね」
駿河「突然、船長しろって言われても、総司君も困るわな」と笑う
総司「…そりゃそうですよ…。」
駿河「俺もそうだった。」
総司、ちょっと駿河を見て黙ると「でも、…まぁ…」と言い「…万が一、もし仮に、駿河さんが船長をクビにされるような事態になったら、その時は、…覚悟しときます。」
駿河「うん」と微笑む
暫しの沈黙。
そこへ剣菱が「さてじゃあ、この辺でお開きにしとくか!」
マゼンタ「待ってもう一杯だけ飲ませて」と言いカウンターに置いてある石茶ポットの石茶をカップに注ぎに行く。
穣「んじゃ俺も飲もう」
剣菱「じゃああと10分したらお開きにしよう。ちなみにカナンさん、一杯いくらですか」
カナン「ん。別にいいけどねぇ」
駿河「でも結構、飲みましたから」
カナン「なら二杯目から、一杯100ケテラでいいよ」
マゼンタ、石茶を飲みつつ「後片付け手伝って行きます!」
アメジスト「私も!」
カナン「大丈夫だよ。」
ターさん「俺が手伝っていくから」
マゼンタ「あ、そういえば!質問です!」
カナン「ん?」
マゼンタ「有翼種って飛べるのに何で階段があるんですか!」
穣「凄い質問が出たぞ」
カナン「あるから、ある!」
ターさん笑って「まぁ四六時中飛んでる訳でもないし。疲れて飛べない時もあるし病気で飛べない時もあるし」と言い「あ、一番の理由は建物を建てる時に使うからだ。」
セフィリア「とにかく、飛べても階段は必要よ。」
マゼンタ「なるほど!これで夜グッスリ眠れる」
カナン「良かった!」
一方、図書館の上の駐機場の黒船では。
カルロス、護、マリア、良太、メリッサ、大和にジュリアが加わって一緒にお茶をしている。
マリア、ニコニコしつつマグカップを持って「石茶って本当に美味しい…。感激しちゃう」
カルロス「だろう!…でもカナンさんの出す石茶はもっと美味いんだ」
良太「うーん。美味しい事は美味しいけど、感激するほどじゃないな。コレ味覚と関係あるの」
メリッサ「味覚よりはエネルギー感覚かな」
ジュリア、大和に「不思議な美味しさよね。」
大和「うん。」
護「…。」つまらなそうに「皆、美味しさがわかっていいねぇ…。俺にとってはただの薄いお茶だよ」
カルロス「白湯よりはいいだろう。お前も感覚を磨け」
護「磨いてるよ!いつもカルさんの白湯みたいな石茶飲まされて。」
マリア、カルロスに「これってもっと飲みやすくならないんですか?」
カルロス「ていうと」
ジュリア「レモン入れたりして味を付けてあげるとか」
カルロス「…まぁそういう石茶もある事はあるけど」
護「でもカルさん本格派だからそういうのキライなんだよね。まぁ俺にとっちゃ白湯だけど、いつもカルさん凄い真剣に淹れてるから俺はその気合を飲んでる。」
良太「気合か!」
メリッサ「こうしてマイ石茶ポットを持ち歩く位、石茶ラブだもんね」
カルロス「…まぁ。」
マリア「でも、美味しいって言ってもらった方が嬉しくないですか?もうちょっと美味しくしてあげたら」
メリッサ「白湯ばっか飲ませてたらちょっと可哀想かも」
ジュリア「うんうん」と頷く
大和「あれ。そういえば。」と言って「石茶屋に行った時、なんか『その人のエネルギーに合った石茶を作れる』とか」
カルロス「ああ」
護「うん。でもカルさん作ってくれないの」
するとメリッサたち女性陣が「えー!」ブーイング
マリア「何で作ってあげないんですか?」
ジュリア「たまには作ってあげたらいいのに」
カルロス「…。まぁ、…特に意味は無く…。」と、何だかきまり悪そうにして、照れる。
護「作ってよー」
メリッサ「って言ってるよ?」
カルロス「…。」なんか照れ臭そうにすると「の、…飲みたいのか。」
護「うん!飲みたい!」とニコニコする。
カルロス、ゴホンと咳払いすると「じゃあ、仕方がない…。手持ちの石茶石で作ってやる!」とキャリーバッグから幾つか小さな缶を取り出す
良太「そんなに持ち歩いてんですか」
カルロス「…うん。」と言うと、丁寧に石茶ポットに石茶石と葉を入れて「…本当は鉱石水がいいんだが、普通のお湯しかないからな」と言いポットから石茶ポットにお湯を注ぐ
護「うん」にこにこ
カルロス「暫し待つ。」と言い、石茶ポットをじっと見る。
メリッサ、小声で「この真剣な眼差し!」
良太「気合を入れてるんだな」
それからゆっくりとカップに石茶を注ぐと護に渡して「…お前用に作ってやった。」
護「ありがとう!」と言い一口飲むと「お!この白湯は美味い!」
カルロス「白湯じゃない、石茶だ!」
護「これが石茶かー!」と言うと「美味しい。凄く美味しい。ありがとう、カルさん!」
カルロス、ちと照れたように「うむ」
マリア、カルロスに「これからも美味しく作ってあげて下さいね」ニコニコ
カルロス「…気が向いたらな!」