第21章 02
二隻は死然雲海に入る。
総司「雲海に入った。結構濃いな」
上総は探知をかけている「んー…。」と暫く探知しつつ悩む
駿河「探知しにくいのか?」
上総「ここからダアトの遺跡を探知出来るかなぁと思ったんだけど…。目印の遺跡に行かなきゃダメかなぁ」
カルロス「今は雲海が濃いからな。」
上総、ちょっとカルロスを見て「…カルロスさん、ここからダアトを探知出来ます?」
カルロス「出来るよ。」
上総「そっかー!」と言い「俺も頑張る。」
駿河「…ちなみに進路このままでいいの?」
上総「うん」と言い「あー!いや、えーと、もうちょっと右!あっ、やや上昇」
総司「ナビしっかりしてくれー」
上総「大丈夫!」
カルロス「頼もしくなった」
上総「ちなみにあの。」と言うとカルロスを見て「カルロスさんって尊敬する探知の先輩とか居たんですか?」
カルロス「…いないなぁ。」
上総「どうやって探知能力伸ばしたんですか」
カルロス「…ストレス発散かなぁ。嫌な事があると探知しまくっていたという」
上総「ストレス発散?」
カルロス「無謀な事を沢山やりました。目を瞑って探知だけで自転車乗って突っ走るとか」
上総たち「ええ!」
総司「こっわ…。」
カルロス「スケートボードに乗れた頃は目を瞑って探知だけで乗ったり。まぁ色んなアホな事をやったな!んで次の日ボロボロで出勤してきて皆に『何があったんだ』と聞かれるという。試しにやってみ?」
上総「俺はやりません。痛い思いしたくない…。」
駿河「しなくていい…」
カルロス「最近思ったんだけど、私は探知が好きなんだな」
ジェッソ「何を今更!」
カルロス「う、うん。石茶もそうだけど、ハマると突っ込むタイプなんだ。誰もそこまでやれと言ってないのに勝手に深入りするんだな」と言い「だから自分の好きな事を好きなようにやるのがイチバンだ」
上総「そうですね!」
カルロス「しかし好きな事をするには越えねばならないハードルもある。」と言うと「小型船の免許取るとかな。」
上総「あー…。」
ジェッソ「難しいんですか」
カルロス「覚える事が多くて…。石茶の事だったらすぐ覚えるのに、航空法だとすぐ忘れる。」
ジェッソ「なんと」
カルロス「学科の教本を読んでると眠くなる。…採掘船の操縦してる人々を尊敬しますよ。」
総司「まぁ色々面倒ですからね航空法は…。」
駿河「ちなみに…絶対、小型船じゃなきゃダメなんですか?例えば誰か操縦士をスカウトして中型船を持つとか」
カルロス「まぁそういうのも考えた事はあるけど。小型船であれだけ高いんだから中型は無理だろ。」
駿河「中古船だったら安いのあるかもしれませんよ」
カルロス「うーんまぁ確かに中型の方が積載量多くて稼げる事は稼げるが」と言い「何にせよ、船を買うのに免許が要る…って小型船免許で中型船買えないぞ」
駿河「…うんまぁ」
カルロス、溜息ついて「船があれば誰か雇って操縦してもらうのも手なんだが!」
駿河「それは人工種だけで?」
カルロス「いや?種族は何でもいいが。」と言い「ともかく何とか小型船免許を取るので船長、副長、ご指導宜しく。」
駿河「う、うん。」
そこでふと上総が「あれ?なんか雲海の感じが変わった。」
総司「若干、視界が晴れて来た」
二隻は死然雲海の中を飛び続ける。あたりの雲がだんだん晴れてきて、ついにキレイな青空が広がる。
総司「なんか晴れちゃったぞ!」
上総「晴れた!」
カルロス「珍しいな。こんなに晴れるなんて」
ジェッソ、駿河に「ちょっと甲板に出てもいいですか」
駿河「うん」
カルロス「行ってみよう。」と言いジェッソと共にブリッジを出て行く。
コンテナ満載の甲板に出るジェッソたち。
メリッサ「ホント晴れてる。」
カルロス「おお。」と言い甲板の上に立つと空を見上げて「…紺碧の空だ。」
その頃、ブリッジでは。
駿河、ポツリと「…カルロスさん側には問題はないようだ。あとは、貴方の心次第。」
総司「今はその話は…。仕事に集中できなくなる。」
駿河「なーに言ってる。ベテラン一等操縦士が。」と笑い「貴方なら出来る。」
総司「…。」ちょっと黙ってから「なぜそんなに俺を」
駿河「だって、本当は、…望んでただろ?」
総司「…。」
様々な想いを乗せて紺碧の空を飛ぶ二隻の採掘船。
黒船の甲板ではメンバーが景色を見たり妖精と遊んだりしている。
すると再びちょっと曇って来る。
メリッサ「あら。また曇って来た。」
カルロス「そろそろダアトが近いしな。…雲海切りの出番かな」
すると妖精がポンポンと跳ねる。
ジェッソ「どうした妖精君。」
妖精、耳で皆にバイバイする。
ジェッソ「ここでお別れか。しかし大丈夫なのか?飛び降りて」
妖精はポコポコと跳ねる
ジェッソ「そうか。またな」
昴「元気でなー」
妖精君は黒船から飛び降りる。周囲はどんどん曇って来る。
二隻は再び真っ白な雲海の中を飛んで、とある場所で停止する。
カルロスは黒船の甲板を歩いて船首のブリッジの真上近くに来ると、黒石剣を構えて前方に雲海切りをブチかます。するとバッと雲海が拓けてダアトの遺跡が姿を現す。
ジェッソ「さすが雲海切り職人!」
カルロス「…結構、広範囲の雲海を切れた。この間ドゥリーさんに指導してもらったお蔭だな。」
二隻は御剣研の屋上に降下し、船首を向かい合わせて着陸する。
黒船とアンバーのタラップから周防やメンバー達が降りて来る。
周防、辺りを見回しつつ「ここがダアトか…。」
すると周防の背後にいたカルロスが突然「…んん?おかしいな。」と言い、屈んで屋上の床に手を当てて探知をすると「この建物、窓も入り口も無いぞ。」
上総「え」と言い屈んで探知をかけると「…ホントだ!」
マリアも探知しつつ「この建物、なんか変!」
上総「真ん中あたりで弾かれませんか」
カルロス「…うん」と言うと「誰か紙とペン持ってないか?」
すると周防が「ある」と言い肩に掛けたショルダーバックからノートとペンを取り出しノートの最後のページを開いてカルロスに渡す。
カルロス「この建物、地上3階、地下は恐らく…5階位の建物で」と言いつつノートに図を書き始める。
カルロス「2階で隣の建物と繋がってるような感じがするけど何か壁があるような。」
上総「2階はSSFっぽい感じの作りですよね。でもこの真ん中がわからない」
カルロス「そう、建物の中心を探知しようとすると弾かれる。」
穣「弾かれるっていうと?」
カルロス「探知出来ない。誰かに探知妨害されるのと同じ感じ」
マリア「まるで鏡の中を探知したような」
瞬間、上総とカルロスがマリアを指差し「そう!」
マリア「3階は小部屋が沢山あって…アパートとか宿泊施設のような…」
カルロス「1階は、歪む。上手く探知できない」
上総「カルロスさんもですか」
カルロス「うん。地下になると全くダメ。こんな建物、初めて…でもないぞ、思い出した!」
周防「もしかしてMFの地下かな」
カルロス「そう!子供の頃、MFの地下を探知しようとして出来なかった、アレだ」
周防、一同に「人工種の探知を阻む方法…というか、仕掛けがあるんですよ。ここはまだそれが生きてるんだな…。」
上総「それってSSFにもあります?」
周防「あるよ。でも気づかないと思う。」
上総「え。」
カルロス「何だと。…もしかして私も気づいていない?」
周防、ニヤリとして「かもしれないなぁ」
カルロス「上総!」と同時に
上総「カルロスさん!」お互い向き合って
カルロス「いつかSSFの探知だ。」
上総「やりましょう!」
周防、屈んでカルロスが書いた図を見つつ「この建物の構造、何となくMFと似てるな。」
カルロス「しかし窓も入り口も無いというのは」
周防「…いや、あると思う。でも探知出来ないようになってるんだよ多分」
カルロス「そんな。」
マリア「そんな事、出来るんですか?」
周防「うん。これはちょっと…かなり驚いた。この三人でも探知出来ないのか…。」と言って暫し考えると「もしかしたら。」と言い「人工有翼種は自然生殖が出来た。という事は、ここはそう長くは使われなかったのかもしれない。そしてその後、有翼種と人間は争いを始めただろう。このダアトが中立を守った人工有翼種の街だとすると…。この施設、またはこの中の情報か何かを守るために、入り口を封鎖したのかもしれない。」
カルロス「そして探知も出来ないようにしたと。…なるほど」
穣「確かにそれは考えられる。」と言い「しかしここに住んでた人工有翼種は一体どうなったんだろうか」
周防「さぁなぁ…。それはイェソドの有翼種達もわからないらしい。」
カルロス「どうする、どっかに穴でも開けてこの中に入るか?」
周防「…中を調べたいのは山々だけれども、完全に封じてあるものを開けるのは、なぁ…。」と言うと「これは紫剣さんと一緒に…いや、人間、有翼種、人工種の皆で開けて調査するべきだ。」
穣「なるほど」
カルロス「そうだな。」
周防「まずはこの状況を有翼種にも伝えよう。」
カルロス「うん。」と言ってノートとペンを周防に返す。
周防「凄腕の探知三人でも探知出来ないというのは…、それ自体が凄い発見だよ。ダアトに寄って、よかった。」
カルロス「じゃあ船に戻るか」
するとメリッサが「ちょっと待って!」と言うと「風使いの出番よ!」
夏樹「俺達が下に降りてパパッと街の写真を取って来る!」と言うと「行こう透君!」と透を見る
透「よっしゃ!」
周防「あ、じゃあ私のカメラに宜しく」と言い上着のポケットからデジカメを出してメリッサに渡す。
メリッサ「カメラ持ってたの」
周防「うん。ここ押せば取れるから」とシャッターボタンをメリッサに教えた途端、カシャ!と周防を撮る。
周防「私を撮るな!」
メリッサ「いいじゃない」
透「じゃあ、あと俺のスマホと」
夏樹「俺のスマホで」
メリッサ「いってきまーす!」と言うと3人はバッと大ジャンプして建物の下へ。
そのまま風を使ってジャンプ移動しつつ3人は分散して御剣研の建物をアチコチ撮る。そして街の方へ。
マゼンタ「かーっこいい。」
悠斗「かっこいいねぇ。」
その頃、黒船のブリッジでは。
スピーカーからマゼンタ達の会話が流れて来る。
『俺もあんな風にジャンプしたーい!』
『その有り余る元気でジャンプするんだ!マゼンタ君』
『ええー!』
駿河「楽しそうだなぁ。」
総司「…。」何か悩んでいる
駿河「しかし御剣研の中には一体何があるんだろう。探知も出来ないなんて」
総司「…。」無言で小さく溜息をつくと「あの、…船長。」
駿河「ん」
総司「もう、これは、…ここで決めた方が、いい…かもしれない。管理が貴方をクビにするとかそんなの関係なく…。」と言い「そう、そんなんじゃ俺は、自分が船長という責任を背負った事を、管理のせいにしてしまう…。」
駿河「…。」
総司、長く深い溜息をついて「なんかもう青天の霹靂ですよ…。人工種の俺が、黒船船長なんて。絶対有り得ないのに。…でも、実は俺は本当は、…船長になりたかった。」
駿河「知ってる。何となく気づいてた。」
総司「だから」
駿河「俺が船長になった最初の頃。貴方に『生ぬるい』と叱られた。…多分その時、貴方の中には『自分ならこうするのに』という想いがあったんだろうなと。」
総司「…」暫し黙って「…まぁ、その」
駿河「いいよ全部言っちまえ。『コイツに船長が出来るなら俺にも出来る』と思ったろ」
総司「…。」暫し黙ってため息つきつつ「…うん。」と返事をすると「でも俺は人工種だから…。」
駿河「俺は、人工種の船長の黒船が見たい」
総司「…貴方が居なくなると寂しい。船長と副長、この関係が楽しかった」
駿河「頼もしい副長だった」
総司「…」暫し黙ると「…貴方は、黒船の船長に未練はないんですか」
駿河「今まで散々頑張ったし。それに、黒船が本当に力を持つ為には人間の俺が船長じゃいけない。」
総司「そう…、黒船が人工種を代表する船であるなら、本当は…。」と言い、溜息をついて「ではこれから船長交代について、メンバー全員と話し合いを」
駿河「了解。…ありがとう総司君。」と微笑む