第21章 03
再び御剣研。建物の下に透と夏樹とメリッサがいる。
3人は固まってジャンプすると一気に下に向かって風を叩き付けて御剣研の屋上上空まで上がり、態勢を立て直して屋上の床にストッと着地。「ただいま!」とポーズをキメる。
透「…アドリブの割には決まった」
護&マゼンタ&悠斗「かぁっこいーい」拍手
昴「ないすー」
メリッサ、周防にデジカメを返しつつ「はい。結構撮ったよー。」
周防、撮った画像を確認しつつ「おお。」
メリッサ「なんか無人の街って気持ち悪いわね」
透「でも何かさ、やたらキレイというか…。荒れた感じが無い」
周防、画像を見つつ「確かになぁ」
透や夏樹も撮ってきた画像を穣やカルロス達に見せている。
夏樹「俺は動画も撮ってみたけど」
すると周防が「なに!動画だと」
夏樹「いや、動画だと動き速くて見づらい。」
周防「とりあえず撮ったもの全部くれ」
夏樹「後でSSFにメールで送りつける」
と、そこへ「おーい皆、どんな感じだー」と言いつつアンバーのタラップから剣菱やネイビー達が降りて来る。
穣「あれ。」
護「どうしたんですか、船長。」
剣菱「皆、ちょっとこれから黒船で、大事な話し合いをしたいんだが、いいかな」
カルロス「黒船で?」
ジェッソ「何の話でしょうか。」
剣菱「さぁ何の話だか知らんけど、黒船の船長さんが全員に話したい事があると。」
カルロス「…えっ。」
ジェッソ「ほぉ。」
穣「…へぇ…。」
剣菱「だから調査が一段落したら皆で黒船に」
すると周防が「もう調査は終わりました。」
剣菱「じゃあ黒船の中へ行こう。」
一同、ゾロゾロと黒船のタラップへ歩き始める。黒船の採掘準備室には既に総司や駿河そして船内メンバー全員がいる。
駿河、周防に「周防先生、イスどうぞ」と折り畳みの丸イスを勧める。
周防「ありがとう」と言い腰掛ける。
駿河、剣菱に「剣菱さんも」とイスを勧める。メンバーは各自適当に立ったり床に座ったり。
駿河と総司は並んで一同の前に立っている。駿河、一同が落ち着いた頃合いを見計らって「じゃあ…いいかな。始めます。」と言うと一同を見てから「皆さん、突然ですが、俺は黒船の船長を辞める事にしました。」
すると昨夜カナンのお茶会に行っていないメンバー達が「えっ!」と驚く
護&悠斗「ほぇ?」
剣宮「辞める?ま、マジで?」
駿河「そして人工種の江藤総司君が、黒船の新しい船長になります!」
メリッサ達「…………。」唖然
ネイビー「…って、彼、人工種なんですけど…」
駿河「うん。これで黒船が人工種だけの船になる」
剣宮「って、…なんで? あの、ホントに船長辞めてもいいの?」
護「まだ管理にクビにされた訳でもないのに!」
駿河「クビにされる前に自分でクビになるよ」
護「いやいやいや」
剣宮「黒船に未練とか無いんですか?せっかくここまで頑張って来たのに」
駿河「総司君が船長になるなら未練なんか無いよ。だって俺、元々傀儡だったし」
剣宮「…って…。」と言ってふと周囲のメンバーを見て「あの。…皆さん、何でそんな静かなの」
剣菱「昨日、カナンさんのお茶会で聞いたから。」
カルロス、駿河を指差し「以前から総司君を船長にしたがっていたので。」と言うと「貴方はともかく、総司君はどうなんだ」
総司「…正直、不安はありますが。でも管理に決めさせるのは嫌なんです。駿河さんがクビにされたら代わりに船長ってのはスッキリしない。」と言うと「とにかく挑戦する事にしました。どこかの誰かも黒船から逃げた割には戻って来て楽しそうにしてるし、何がどうなるか、やってみないとわからない。」
カルロス「おお」
上総「そう、どっかの誰かが逃亡したお蔭で俺は突然、黒船の探知の役目を押し付けられて大変だったぁ!」
総司「ああ、そうだったな」
カルロス「…。」
駿河「でもあの時、上総の成長ぶりが凄かった。」
総司「うん、なんかどんどん頼もしくなって」
ジェッソ「うむうむ」
上総「だって、やるしかなくなったから」
総司「そうだよな。俺もやってみるしかない。」
駿河「…と言う事で、これで晴れて人工種だけの船が誕生したと!」
マゼンタたち「おお…。」
メリッサ「なんか、突然すぎてピンと来ないけど、おめでとう?」
護「…駿河船長、凄い嬉しそうですね」
駿河「まぁ俺の望みだったんで」
カルロス「ところでお前はどうなるんだ。黒船を降りるのか?」と駿河を指差す
駿河「はい。」と頷き「カルロスさん、もし良ければ俺を雇って一緒に中型船を買いませんか。」
カルロス思わず「は?」と大声を出して驚いて「な、なんだって?」
駿河「護さんと3人で頑張れば中古の中型船を買えるかもしれませんよ!」
剣菱「買える買える。ってか買わせる」
カルロス酷く焦って「いやいや、お前、ちょっと待て。」と言うと「い、一緒にやる?…俺らと?」
駿河「はい!」
カルロス「…そのまま黒船に居た方が…。だって俺と護はイェソドに住んでるし」
駿河「俺、船に寝泊まりしますから」
カルロス「…て、お前。…ホントにいいのか?何の保証も無いぞ!」
駿河「はい!俺は船の操縦が出来ればそれで」
カルロス「はぁ。」というと「しかし中型船は…。」
上総、カルロスに「ちなみに中型ってどの位のサイズなんですか」
すると剣菱が「この採掘船サイズ!」と黒船の天井を指差す
上総「ええー」
カルロス怒って「剣菱さん!」
剣菱「まぁそれは冗談として」
総司、上総に「中型もピンキリで大きさ色々だよ。この採掘船は一番大きな中型だ。」
駿河、カルロスに「まぁ最初は小型でもいいですけど。何にせよ俺が代表で船を買います」
カルロス「…って…。お前な…。」と言うと護を見て「護、アイツとんでもない事言い出した。」と駿河を指差す
護「んー…。」と言うと「まぁその、駿河さんが良いなら良いんですけども。」と言うとカルロスを見て「カルさん。俺は個人的には中型船が良いと思うです。小型船だと滅茶苦茶頑張らないと稼げないっす、多分!」
カルロス「…でもな。」
護「デカイ船だと船に住めるからターさん家に世話にならなくてもすむし、もし稼げなくて金無くなっても住むとこあるし!」
カルロス「でも船がデカイと維持費がかかるだろメンテとか駐機場とか。」
剣菱「うむ」
カルロス「最初の出費がデカイと後々大変だから最初は小さく」
すると護、立ち上がって「カルさん!自信ないのはわかるけど、総司さんも船長するんだからカルさんも頑張ろーよ!」
カルロス「ってお前、何でそんな自信満々な」
護「だってドンブラコして何がどうなったやらだもんよ!」
カルロス「まぁ…俺もなぁ黒船から逃げた時には覚悟したんだが。しかしデカイ船を買うとなると今後の事が」
剣菱、カルロスに「アンタ、妙な所で堅実だわな」
カルロス「ええまぁ」
剣菱、駿河を指差しつつ「あの人が居れば、どんな船買っても大丈夫だと思うぞ」
カルロス「そ、それはまぁ…。しかし何でまた突然…。」
駿河「俺も、やりたい事をやりたくなりました。」
カルロス「…やりたい事、なのか。」と言うと「んー…、俺らと一緒にやるのはいいけど、稼げる保証は無いぞ」
総司、ちと呆れたように「…稼げますよ。」
駿河「少なくともイェソド鉱石を採れば稼げます」
カルロス「ま、まぁそれはそうだが。何せアッチとコッチで稼がなきゃならないっていう」
剣菱「少なくともマルクト石を売ればイェソドで稼げるかと。」
カルロス「あ」
剣菱「コッチでマルクト石を採ってアッチで売って、アッチでイェソド鉱石を採ってコッチで売る。これで両方で稼げる」
護「するとターさんはどうなるの」
剣菱「あの人は一人でも十分稼げるんだから当面は別行動でいいやん。アンタらはまずとにかくお金を貯めようや。船買ったら貯金スッカラカンのカッツカツになるんだし!」ニヤリ
カルロス「はぁ…。」溜息ついて下を向く
剣菱「んで稼ぎに余裕が出来たら、ターさんと一緒に雲海でケテル石の採掘するなりご自由に」
護「俺は早くケテル採掘で一人前になってイェソドのお金を貯めたい!カルさん頑張ってアッチとコッチを往復しよう!」
カルロス「何だこの信じられない急展開は…。」
そこへ総司が「…ふと思ったんですが、カルロスさんの船が常に双方を行き来してるなら、別にアンバーと黒船二隻一緒でなくても各船それぞれ雲海を越えてイェソドに行けるような。」
上総「行けます!行きます!」
マリア「同じく行けます!…妖精さんもいるし」
総司「じゃあもう自由にイェソドに行きまくって鉱石を採って来る事ができますね。」
穣「採掘量、爆上がりだな。これで管理は俺らにデカイ顔できねぇ」
ジェッソ「ついでにマルクト石をイェソドで売って来ましょうか」
駿河「マルクト石は当面カルさんの船に独占させて頂けませんかー!」
剣菱「しょーがないなぁ。期間限定で独占させてあげよう」
ジェッソ「独立支援キャンペーン中だけなら」
そこへネイビーが手を挙げて「あのー…、ちょっと質問なんだけど、総司君が船長になるのはいいけど黒船の副長は誰がやるの?」
駿河「それが居ないんですよ。静流さんはまだ副長になれる資格を持ってないし。」
静流「今、一等操縦士になれる2級免許取得の勉強中です。」
すると総司が「あ!今、気づいたけど俺、船長免許持ってませんよ!」
駿河「え。」
剣菱「そうか人工種だから交付されてねぇのか!」
ネイビー「人間だったら2級免許取る時に船長免許も取れるけど、人工種は無い」
駿河「同じ試験受けて受かってんのに人工種だけ免許もらえないってオカシイですよね。」
剣菱「だよなぁ。何の為に勉強するのか」
静流「副長は船長の代理を務めるからでは」
剣菱「そりはそうだがせっかく勉強すんなら船長免許キッチリもらおうや!」と言うと「本来、2級免許は船長と副長になれる資格なんだから船長免許くれ!と騒ごう。…って事で、黒船の副長どうする」
駿河「…とりあえず人工種限定で、一等操縦士を募集するしかない。」
総司「人工種限定で一等…すぐ見つかるかなぁ…。」
駿河「なんか管理が邪魔しそうだな…」
するとネイビーが「私が黒船の一等になろうか?」
剣菱と穣たち「ええ?」
ネイビー「だって二等の剣宮君、すぐ一等になれるじゃん。」
剣菱「あー、そうか。剣宮君はもう2級の資格を取ったからな。」
悠斗「え。じゃあもう船長になれるのか」
剣宮「いや、資格だけではダメ。副長としての乗船履歴が無いと」
悠斗「ほー」
ネイビー「2級免許は船長と一等、3級免許は二等と三等の操縦士になれる、だからアンバーの三等のバイオレットはすぐ二等に上がれる。すると三等がいなくなるけど、黒船と違ってアンバーは種族問わずだから」
剣菱「まぁ種族不問で三等募集ならすぐ来るわな。」
ネイビー「ってな事で、私が黒船の一等になろうか?…と。」
穣「ちなみに1級免許ってどんなの?」
ネイビー「1級は大型船の免許よ。かなりデカい船の。」
穣「ほー」
総司「…じゃあネイビー、黒船の副長になって下さい。」
ネイビー「何なら船長でもいいわよー!…ってウソウソ、嘘よゴメンなさぁーい!」
剣菱「そして剣宮君が晴れてウチの副長と」
剣宮「頑張るっス!」
剣菱「よし決まった!これで黒船は駿河さんが抜けても問題なく出航できる。ウチは三等募集になるけど、まぁ誰か居るだろ。」
護「こんな簡単に船長とか副長とか決まっていいんだろか…。」
駿河「いいんじゃないの。だって本部も俺の事を簡単に黒船船長にしたし。」
総司、駿河に「…よく引き受けましたね。」
駿河「まぁ俺が船長にならないとさ、あのティム船長よりもっと厳しい人が来たら嫌だと思って。」
総司「なるほど」
駿河「それに…」と言ってちょっと考えて「俺、あの時もし船長にならなかったら黒船から降ろされていたかもしれない。だから出来る所までやってみようと思った。どうせ新米船長だし、多少ヘッポコな船長の方が皆もラクかもなーと」
剣菱「…それでよくここまで続けたな…。」と感慨深げに言う
駿河「いやもぅ潰れそうになった事、何回もありますよ。」
剣菱「忍耐強いやっちゃ。…辞めるのチト勿体ない気もするけど」
駿河「今が辞め時です。自分でクビ切ったから、最後に管理に言いたい放題、文句言って辞めます!!」
穣と剣菱「ほ」と目を丸くする。
総司とカルロス「ほぉ!」
ジェッソ「おお…!」
そんな一同を、ニコニコしつつ見守る周防。密かにちょっと目頭を熱くして、(…素晴らしい…。)
駿河「…と言う事で、この決定事項を本部や管理に伝えに行きましょう!」
剣菱「おお!行くべ!」
穣「行こう!」
ジェッソ「行きましょう!」
全員、ワラワラと立ち上がるとアンバー一同はテクテクと黒船のタラップを降り始める。
剣菱、歩きつつ「いやぁ…あの人、変わっちまったなぁ。」
穣「なんか吹っ切れましたよね」と言いつつタラップを降りて外に出ると「…凄いな。まさかマジでこんな事が。」
剣菱「人生何がどうなるやらだ。物事、どうせ無理だとか思っちゃいけねぇなぁ」
穣、ウンと頷いて「やりたい事はやってみないと!」
一方、黒船の船内では。
ブリッジへの通路を歩いている一同。
カルロスため息ついて「…何でこんなに変わってしまったんだ…。」
駿河「何が?」
カルロス「お前だ!」
駿河、立ち止まって「貴方こそ、何でそんなに変わったんですか!」
カルロス「…。そう、か?」と言うと「ところで…。私の小型船の免許はどうなる?」
駿河「俺が居るから貴方は免許無くても大丈夫です。あとは貴方が個人的に免許欲しいかどうか。」と言い再びブリッジへ歩き出す。
カルロス「…せっかくだから小型船の免許を取っておくかなぁ…。しかしなぁ…。」と悩む
駿河「免許は最初の講習から半年以内なら取得できるので、ゆっくり決めたらどうですか。」
カルロス「そうしよう。」
二隻は御剣研の屋上から発進し、再び死然雲海へと飛び立つ。