「心からのつながりを感じられる場所に」「文化と文化が混ざり合って新しい文化が生まれてほしい」。サイニングストア「スターバックス コーヒー nonowa国立店」初代ストアマネージャー、伊藤真也氏の思い
手話を共通言語とするサイニングストア「スターバックス コーヒー nonowa国立店」が6月27日、東京・国立市にオープンしました。世界で5番目、日本では初めて。聴者と聴覚に障がいのあるパートナー(従業員)が共に働き、多様な人々が自分らしく過ごし活躍できる居場所の実現を目指したスターバックスのダイバーシティ&インクルージョンを象徴する店舗の一つです。”Infinite Possibilities(無限の可能性)“をコンセプトに、お客様もパートナーも、誰もが居場所と感じられる、そんな思いが詰まっています。
手話でのコミュニケーションやドリンクのオーダー方法、真新しい店内のデジタルサイネージなど一見変わった部分もありますが、「一杯のコーヒーを通して、人々の心を豊かで活力あるものにする」というスターバックスが大切にしている、ミッションをベースに、一人ひとりのお客様に寄り添った体験を届けるのは同じです。個性を持った店舗がまた一つ、仲間に加わりました。
そんなnonowa国立店のストアマネージャー(以下、SM)を務める、伊藤 真也氏。スターバックス歴は今年で15年。自身の体験談を交えながら、伊藤SMに店舗運営で大切にしていることや店舗にかける思いを聞きました。
■ 人と人とのつながりを感じられるお店に
2018年1月、赴任した鎌倉御成町店で、聴覚に障がいのあるパートナーだけで数時間、店舗を運営する「サイニングアクティビティ」に初めて携わりました。うまく営業ができるのか不安もありましたが、終わってみれば、「何も心配することはなかった」。その時、店舗に立った聴覚障がいのあるパートナーのオペレーションとお客様の様子に、「オーダーの時に、お客様は必ずパートナーと目を合わせて、コミュニケーションしていただける。当たり前のことだけれど、これが毎回起きています。目と目を合わせて、笑顔を交わす。とてもシンプルだけど、人と人のつながりを感じることができた」と大きな気づきがあったと言います。
手話やジェスチャー、指さしなどの注文が初めての方も多くいます。注文を終えて、ドリンクを受け取ったお客様のほっとした様子、明るくなった表情を思い浮かべ、伊藤SMは「あの時感じた人と人のつながりを日々、生み出していきたい。店をみんな作っていく上で、大切にしていきたい」と店舗への思いを語ります。
■ 誰もが安心して働ける場所、社会を目指して
これまで15年、バリスタとして経験を積んできても「サイニングアクティビティ」に参加する中で不安を感じることがあったと言います。それは、聴覚障がいのあるパートナーの中に自分ひとりでオペレーションに入った時。「マイノリティになって、初めて心境が理解できました。こんなにも不安を感じるものなんだ」。一人ひとりが安心して働くことの大事さ、そして、居場所と感じられる環境を作っていくサポートをしたいとの思いを強め、聴覚に障がいのあるパートナーの不安をなるべく解消するように情報を多く伝えることを意識し始めました。お客様同士の会話や、聴者のパートナー同士の会話など、「知らないことが不安につながる。できるだけ、多く引き出しを持っていてほしいと思います」。伝える情報を勝手に取捨選択しないで、可能な限り伝えるよう心掛けています。そうすることで、次への学びに、考えて行動するきっかけにつながると信じているからです。
■ 多様性、個性を感じ、新しい文化が生まれていく場所に
25人のパートナーのほとんどが聴覚に障がいのあるパートナー。伊藤SMは「聴こえの程度や話し方、性格や能力それぞれに個性がある。カラフルで楽しい」とメンバーを表します。来店を通して、ろうの文化を知り、理解を深めるきっかけを提供したいと考えています。多様なパートナーと働く姿を思い浮かべ、店舗のこれからを思い描きます。「働いている私たちを見て、いろいろな文化や多様な人たちが混ざり合っていることを感じてほしい。そこからまた新しい文化が生まれていく、そんな場所になればうれしい」
オープンを間近に控えた最後の週末。店舗を使って、実際の営業を想定したシミュレーションを実施しました。注文を受けてドリンクを作り、商品を渡す―何度もその工程を繰り返し、それぞれが気づいたことや学びを伝え合う。そのコミュニケーションの中心には伊藤SMがいました。情報を多く伝えることを意識し、各ポジションのパートナーに目を向け、話を聴き、一体感を高めていきました。「シミュレーションを重ねるごとに確実に成長していく姿がありました。新しいものをみんなで作り上げているんだという実感が強まり、楽しみも増しています。店舗を通して、ここだけの体験を地域の方に届けていきたいです。やっと始まります。みんなと一緒にこの店舗を、新しい文化を作っていきたい」と気持ちのたかぶりとともに、店舗にかける思いを語ってくれました。
「人を助ける仕事がしたかった」と昔は、消防士に憧れていた伊藤SM。今日からはnonowa国立店のSMとして、25人のパートナーを支え、助けていきます。同時に、経験や性格、バックグランドがそれぞれ違う、多様で個性的なメンバーから教えられることもたくさんあります。日々、気づかされ、刺激を受け、伊藤SMもメンバーと一緒に、店舗と一緒に成長を続けます。
午前10時。nonowa国立店がオープンしました。伊藤SMは拳を耳からすっとおろし、人差し指を折り曲げて、とびきりの笑顔でお客様を迎えます。「おはようございます」。
(広報部・外処 郷平)