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かわいい金子麻友美

「かわいい金子麻友美」メモ4『カーテン』二次創作

2020.06.27 15:03

*注意*

 本品には、金子麻友美さんに関する事も作品の事も書かれてません。

 原作のキーワードと思われるカーテンの動きと心境の変化を想像しながら、最近のアニメでみかける一般人がゲームのような世界で大活躍するおとぎ話をかいてます。



 定食屋に入り壁に貼られている伝言をみる。

 新しい仕事があれば豪華に食べるし、何もなければ軽く済ませなきゃならない。近ごろは仕事がなくて懐が寂しい。

 伝言は何を書いても自由で、要らなくなった家具を売る人、裁縫、家具の修理、畑仕事の手伝、子供の世話などの依頼と募集がある。その中から仕事をこなして手間賃をいただくのだが、

「子守りだけ……」

 この文字もだいぶ読めるようになった。

「もう収穫も終わったからな、仕事は無いぞ」

 店長が野菜を切りながら答える。簡単な会話もできるようになった。

 あの日、朝目覚めたらココにいた。知らない場所、知らない文化。

 でも町のみんなは親切に面倒みてくれた。いまは手伝い仕事をして生活している。畑の収穫や家の修理、荷物運び、いろいろだ。それも秋の収穫が終わると手伝い仕事は減りはじめた。

「お前も今のうちに野菜を漬けて、薪を集めないと大変だぞ。みんな誰かに分けてやる余裕はないからな」

「このまえ、キノコと木の実を取りました。婆ちゃんと一緒に漬けました」

「そりゃいい。婆ちゃんのは旨い。お前も上手くできると良いな」

 店長は大柄で、あの太い指から想像できないほど繊細に野菜を紐で縛って吊るしている。

 この地の冬は初めてだから不安だ。自分も野菜を干そう。野菜スープとパンで軽めの食事を済ませて店を出る。


 ここでの生活は金もいるが物々交換や自給自足も出来なきゃいけない。前の地で自分は給料だけでどうして生活できていたのか、あれも夢かと思う時がある。

 町から徒歩で30分くらいで森に入る。夜になると獣が活発になるので夕方には帰らなければならない。

 獣と呼んでいいのかゲームやファンタジー映画でみたような豚のような顔の大きな者が住んでいて、たまに家畜のニワトリなど襲いに町にやってくる。そのような場所には罠が仕掛けてあるのだが、前に罠にかかった獣がとんでもない怪力で周りの柵を壊して暴れていたのを見たが思い出すだけでゾッとする。獣に見つかったら助からないだろう。太陽が苦手とは言うけどやはり怖い。

 森には多くの植物が生えているが食べれるものは少ない。採った植物や木の実、キノコは婆ちゃんに見てもらう。可食なら分けてダメなら捨てる。


 婆ちゃんは町のはずれでひとりで暮している。

 小柄で細身、白髪がだいぶ混じった長い髪を三つ編みにして後ろで束ねている。スカーフの使い方が洒落ていて、何というか都会的な印象だ。

 昔は町一番の秀才といわれて、街の大きな学校に通っていたらしい。卒業して魔法を研究する仕事をしていたが、町にもどって子供たちに勉強を教えていたそうだ。

「おやおや、ずいぶんと大きな子供だね」

 自分にも文字の勉強や食事作法など色々な事を教えてくれた。自分の身の上話をすると、きっと帰れるよと家の向かいの納屋を住まいに提供してくれた。婆ちゃんがいなかったら生きていられなかっただろう。

「ただいま婆ちゃん」

 夕方、柿のような甘い果物をお土産に採ってきた成果を見せた。

「おお一人で行ってきたかい。どれどれ」

 婆ちゃんの煎れたお茶を飲みながら一緒に選定をした。

「ぜんぶ食べれるよ。よく覚えたね」婆ちゃんは褒めて伸ばすタイプだ。そして俺は褒められると嬉しいタイプだ。

「婆ちゃんは私に教えた。上手。ありがとう。これ干しますか?漬けますか?」

「これとこれは干すといい。そのあと木の実は粉にするといいよ」

 婆ちゃんに保存方法を教わり、一緒に食事をして納屋に戻った。


 その夜、寝ていたが家の外が騒がしい。獣が喉を鳴らしているようだ。

 納屋の上に登って屋根からそっと外を覗くと、家の前にあの獣がいた。足に罠にかかったまま引きずって歩いている。家畜を食べようとしたのだろう。必死の形相で近づいたらあの太い腕と爪で脳天かち割られそうだ。

 すると同じく声に気づいたのか向い家から婆ちゃんが出てきた。玄関先から右手を前に伸ばす。手の周りから青白い光が発せられると獣は力が抜けて倒れてしまった。婆ちゃんがそれを見ると町の民家の方に歩いていった。

 それから暫くすると大男が何人かやってきで獣を縄で縛り連れ去っていった。婆ちゃんは大男と少し話すと、家の中に帰っていった。


 魔法。マジシャンがモンスターを倒すなんてゲームの世界だ。信じられない事が起きて頭がぼーっとする。あした婆ちゃんに聞く事にして寝床に入る。


 ようやく眠気がもどってきたころ町の人が訪ねてきてきた。いまから広場に集まれと言う。

 まだ真っ暗だと言うのに広場には人が集まって火を焚いていた。肉が入ったからみんなで食べようと言う。あの獣のだろう、硬くて妙な香りがするが久しぶりの肉は嬉しかった。みんなも肉を頬張っていく。

 町の人に聞いてみる。

「婆ちゃんは不思議な力を持っている?」

「そうだよ。才能があると街で習うことが出来るんだ。それでも魔法を使えるのは殆どいないよ」

「婆ちゃんは何でも出来るんだ。俺も子供の頃から世話になってる。でも魔法は普通じゃないよな。獣を倒してさ」

「ああ、魔法なんて何すりゃできるのかわからねぇよ。おれのお袋より長生きしてるんだぜ。旦那が亡くなったてのも何かの魔法にされちまったんじゃねえかって噂だ」

 本人がいないから言いたい放題だ。

「婆ちゃん好き。もう言わないで。頼みます」

 すると、冗談だ、仲直りだと酒を強引に勧められた。本人には言うなよ、と解釈できて不満だったが、本気で婆ちゃんを尊敬して恐れているようにも見えた。

 これも久しぶりで効いた。気がづくと広場で横になっていて太陽は真上に昇っていた。肉は食い尽くされていた。


「婆ちゃんは魔法ができます」

 とうに畑仕事も家事を済ませて読書している婆ちゃんに話しかける。

「そうだよ。だから町で暮らせるし恐れられてもいる」

「俺は好きです。俺はできるか?」

「そうだね、何でも飲み込みが早いからできるかもしれないよ。冬の間ちょっと難しいけどこの本を読んでみるかい?原理や呼吸の仕方がかいてある」

 皮張りに刻印が押されている豪華なもので、広辞苑くらい分厚いが形が崩れておらず大事に扱われているのが伝わってくる。大事に読むことにしよう。


 冬は本当に厳しかった。植物は枯れて、気温が下がり雪が降る。なにも採れるものが無い。あの獣も森の動物が減っていたから町までやってきたのだろう。

 薪をくべる時間以外のほとんどは本を読んだ。理解できない部分は婆ちゃんに聞いて毎日呼吸と集中の練習をした。


 そうして春がきた。

 窓を開けると冷たい風が入ってきてカーテンがゆれた。冬とは違って部屋の中が清々しくなった気がする。

「婆ちゃんありがとう。これ返すよ」

「勉強になったろう?できるようになったかい?」

「ちょっと見てよ」

 俺は深く息を吸い集中して目の前のコップを見つめる。手をかざすと水が不規則に波打った。

「これは魔力だ。やったねぇ」

 とても喜んでくれて嬉しかった。

 春になると街の学校が始まるので行ったほうが良い、と学校への招待状を書いてくれた。魔法は貴重なので才能があれば街は無償で面倒を見てくれるらしい。

 数日後、荷物の整理を済ませるまで婆ちゃんは街の暮らし方やマナー、旅路の事を教えてくれた。そうして次の日の朝に出発した。


 街へは徒歩で10日ほどかかる。その間に何箇所か行商人たちが作った無人の宿泊施設があるので天気が悪いときや夜はそこで過ごす。婆ちゃんから教わった自給術のおかげで旅は順調だった。

 三日後、無人宿泊施設を見つけと先客がいた。外に馬のような動物と馬車が止まっているので行商人がいるようだ。ノックをして入ると部屋の中に若い女性と働き盛りの大柄な男の二人がいた。

「どちら様で」

「私は町から来た者で街に向かっています。一名ですが今晩ご一緒してよろしいでしょうか」

「どうぞ、部屋のあちらが空いてます」

 俺は挨拶をして一緒に泊まる許可を得た。

 宿泊所は頑丈な丸太小屋で5,6人は寝れそうだ。風呂もトイレもないが、ここなら雨風や獣を気にしなくてすむ。大事に使われていて、壊れていたら使った人たちで修理して維持していると聞いた。女性は行商をしていて、男は馬を引く仕事で雇われてた運び屋だという。

 夕食は互いの食料を出し合って食べる事にした。自分は干した果物と婆ちゃん特製の野菜漬け、彼女はチーズとパンを出した。

 チーズなんてコチラで食べるのは初めてだ。うまい、間違いなくチーズだ。懐かしくて感激していると彼女らも婆ちゃんの漬物を絶品だと喜んでくれた。

「私達は3日前に街から出たところよ。あなたは街へ何しに行くの?」

「学校に行きます。魔力の見込みがありそうなので」

 すると女性と男が顔を合わせて笑った。

「本当かよ?あそこは才気ある子供が集まるところだ。大人が行くなんて聞いたことがないぜ」

 そんな!婆ちゃんは俺を子供だと見えているのだろうか、先々でもみんな同じ事を言われるだろう。転生されたと言うのも面倒だ。

「記憶が曖昧で、1年前にさまよっていた処を町の人に助けられたんです」

「それはすまない。もともと魔法使いだったのかもしれないぞ。学校で思い出せりゃいいな」

「そうね。街に行くのならこの先、道の西側に池と林があるけど、そこに獣の巣があるみたい。春先は食料探して活発になるから、あの辺りで休憩しな方がいいわ。道中、他の人に出会ったら同じことを伝えてちょうだい」

「ありがとう。こっちは町から何も起きなかったよ。森には獣がいるけど、夜は火を焚いていたから近くに来ないし」

 道中の情報を交換していると、あっという間に夜になっていた。

 横になっていると突然、外にいた馬が悲鳴のような声を発した。獣が近づいているようだ。

 男は剣を抜き、片手にランプを取り部屋を飛び出した。棍棒をもった四人が例の唸り声をだして威嚇してくる。獣はランプの火に怯むものだが今回は違った。

「この雰囲気、昨日の仕留めたヤツと同じ族かもしれないな」

「あなたが子供を切ったからでしょう」

「小屋に篭って朝を待つか?」

「ダメよ。馬車がなくちゃ生きていけないわ。やりなさい」

「兄ちゃんもソコの槍をとれ」

 行商人と自分は荷物の近くにある槍をとり獣と対峙した。

 槍は棍棒よりもリーチがあるから獣もうかつに近寄れない。だが槍は細く、もしもあの太い腕で掴まれたら簡単に折れてしまいそうだ。突こうとすると動物的な反射神経でサッと避けられてしまう。ジリジリした展開だ。

「その調子で押し続けてくれ!」

 男が駆けながら刀で一人の腕を切る。

 斬られた獣は血しぶきがあがり、ひっくり返り倒れた。立ち上がろうとしてもバランスがとれない。暴れるほどに傷口から血がポンプのようにドッドッと吹き出す。

 それから大人しくなり血の量が減ると、大きく呼吸して身体をブルブルと痙攣して動かなくなった。残りの獣は悲しみと怒りの混ざったような威嚇の声を上げて一斉に突っ込んできた。

 駆け寄る獣に槍を突いたが素早い動きで槍が弾き飛ばされてしまう。こっちに襲ってくる。彼女を見ると荷物の上から槍でけん制するのに必死でコチラには手が回らない。

 その時、あの夜を思い出した。手をかざして意識を集中する。

 眠れ!手の周りが青く光る気がした。

 獣はこちらに駆けたまま俺に覆い被さるように倒れて眠った。重くてぜんぜん身を動かせない。まわりの獣も、男も倒れ眠っていた。

 彼女は俺から離れた場所にいたせいか無事で、眠った獣に留めを刺していた。

 俺も獣の下からようやく体を抜け出して留めを刺した。その肉を取り分けて宿泊施設で塩をまぶす。整理が済んだころには朝日が昇りはじめていた。

「俺は街までの食料があれば十分だよ。徒歩だからそんなに持てないし。残りは持っていって下さい」

「ありがとう。それじゃあ遠慮なく。商品が増えたわ。」

 宿泊施設の窓を開けるとカーテンが揺れた。彼女の髪が日の光に反射して美しかった。

 会った時は暗くてわからなかったが、黒色の髪、済んだ瞳。20代後半だろうか、一人で行商しているだけはある。落ち着いた気品に満ちた雰囲気を感じる。

「あなたの魔法のおかげよ。やはり魔法使いだったのね」

 自分でもどうして発動できたのか覚えてない。もう一度と言われても出せない。

「朝日が出たから我々は出発するよ。ヤツらが落ち着くまで四、五日かかるだろから、兄ちゃ……いや、魔法使いさまも先に進んだ方がいいですぜ」

「徹夜の徒歩はきついけど、池より先に進めば川があって、橋を越えた先にも宿泊施設があるわ。今からならたぶん日暮れ前には入れるはずだから、がんばってね。」

 肉で荷物が増えたが行くしかない。

「私はしばらく街には戻らないけど、戻ったら絶対に会いに行くわ。命の恩人、本当にありがとう」

 彼女は町にある行商の本拠地の住所をかいてくれた。彼女の紙は何かいい匂いがした。

 お互いに無事を願って別々の道を進む。

 きっと街に辿り着ける。新しい生活が始まる。そんな気がした。

(終)