週のはじめと週末って、何曜日?
普段、気にも留めないが、改めてその意味を問われると迷ってしまう言葉というのは、意外に多い。このような曖昧な言葉は、可能な限り例規に用いない方が望ましいし、止むを得ず用いるのであれば、定義規定を置くべきだ。
その典型例が、週のはじめ(始め、初め)と週末だ。
1 一週間のはじまりは、何曜日なのか。
例えば、香川県の三豊市部長会議規則(平成19年11月20日 規則第48号 )第4条第3項は、「部長会議は、週の始めの始業時に開く。ただし、特別の事情があるときは期日を変更し、又は臨時に開くことができる。」と定めているのだが、ここにいう「週の始め」とは、日曜日なのか、それとも月曜日なのか。
週の概念の由来については、諸説あるそうだが、一般的には、旧約聖書の創世記に、神が六日で天地を創造し、「1 こうして天と地と、その万象とが完成した。 2 神は第七日にその作業を終えられた。すなわち、そのすべての作業を終って第七日に休まれた。 3 神はその第七日を祝福して、これを聖別された。神がこの日に、そのすべての創造のわざを終って休まれたからである。」(『聖書 [口語]』日本聖書協会、1955年) という記述があることから、週七日制が生まれたと言われている。
そして、ユダヤ教では、土曜日が安息日(何もしてはならない日のこと。)で、日曜日が週のはじまりだとされている。
キリスト教では、イエス・キリストが復活した日曜日が安息日で、日曜日が週のはじまりだとされている。
ユダヤ暦に由来し、世界中で用いられているグレゴリオ暦(1582年にローマ教皇グレゴリウス13世がユリウス暦を改良して制定した暦法であり、太陽暦とも新暦とも西暦とも呼ばれる。)も、週のはじまりを日曜日としている。
そこで、我が国でも、明治5年11月9日太政官(だじょうかん)布告第337号(改暦ノ布告)で、太陰暦を廃止し太陽暦 (グレゴリオ暦)を採用した結果、日曜日が週のはじまりだと考えられるようになった。我が国のカレンダーや手帳の多くが日曜日から始まっているのはこのためだ。
ところで、昭和15年に作られた『月月火水木金金』という有名な軍歌がある。明治の海軍は、当初、英国などから軍艦を購入した。例えば、日露戦争の日本海海戦で連合艦隊旗艦を務めた戦艦三笠は、英国が建造した船だ。そもそも船足(ふなあし。船のスピードのこと。)の異なる大小様々な軍艦が隊列を組んで進むこと自体が難しいのに、当時の日本人の身長が低いため、背の高い英国人等を前提に設計された軍艦を操縦するのは至難の技だった。
そこで、訓練によってサイズ違いを克服しようと、海軍では土日返上で猛訓練に明け暮れたわけだ。この猛訓練がなければ、ロシアのバルチック艦隊を撃破することはできなかっただろう。
日露戦争後も、「勝って兜の緒を締めよ」とばかりに猛訓練に励んだため、ある兵隊さんが「これじゃまるで月月火水木金金じゃないか」と呟いた結果、この言葉が広まったそうだ。兵隊さんもお辛かったのだろう。大変明るい曲調だが、兵隊さんたちのご苦労が伝わってくる。
ちなみに、曜日を天体の名前で呼ぶのは、紀元前2世紀頃の古代エジプトの占星術が起源だと言われており、日、月、惑星等を、当時信じられていた地球からの距離順などを参考に配列したそうだ。
さて、余談はこれぐらいにして、話を戻そう。ヨーロッパは、言うまでもなくキリスト教国なのだが、ISO(International Organization for Standardization。国際標準化機構)の国際規格ISO8601に従って、 1974年からEUでは週のはじまりが月曜日になった。
日本も、ISO8601に対応する日本工業規格として「JIS X0301」(情報交換のためのデータ要素及び交換形式‐日付及び時刻の表記)があり、これを収録した『JISハンドブック情報基本2012』(日本規格協会) に月曜日を週の最初の日とする表が掲載されており、「統一的な週の番号付けのためには週の最初の日を一意に決める必要がある。商業目的には週の開始として月曜日が最も適切と分かった。」と記載されている。
つまり、日本を含む国際的な商工業の分野では月曜日が週のはじまりになったわけだ。そこで、我が国のカレンダーや手帳の中に、月曜日から始まっているものがあるのはこのためだ。
このように一週間のはじまりには、日曜日もあれば、月曜日もあり、どちらも正しいということになる。
それ故、「週の始め」又は「週の初め」という言葉を例規に用いると、これを日曜日だと解釈する人もいれば、月曜日だと解釈する人もいて、混乱が生じるから、「週の始め」及び「週の初め」という曖昧な言葉は、極力用いずに、端的に「日曜日」又は「月曜日」と表記することが望ましい。止むを得ず用いる場合には、例えば、「週の始めを月曜日とする」という風な定義規定を設けるべきだ。
ちなみに、e-Gov法令検索で「週の始め」及び「週の初め」を検索したが、ヒットしなかったので、「週の始め」や「週の初め」を用いた国の法令はないということになる。自治体の例規には、「週の始め」や「週の初め」を用いたものが多くあるのと対照的だ。
cf.1島根県の邑南町時間外勤務命令等の取扱要領(平成16年10月1日 訓令第37号)
第4条第5項 時間外勤務命令は少なくとも当日の午前中までに命令するものとし、週休日及び休日の勤務命令は、少なくとも週の初めの月曜日までに行わなければならない。尚、命令権者の次席の職員等は、職員の勤務状況から時間外勤務命令の必要について、命令権者に具申することができるものとする。
第4条第6項 週休日の振替は、できるだけ同一週内にさせるようにしなければならない。(週の初めを土曜日とする。ただし、図書館は、週の初めを日曜日とする。)
cf.2長野県の上松町時間外勤務命令等の取扱要領 (平成25年6月26日 訓令第1号)
第5条第6項 週休日の振替は、できるだけ同一週内にさせるようにしなければならない。(週の初めを土曜日とする。)
2 週末とは、何曜日なのか。
次に、週末とは、何曜日なのだろうか。例えば、茨城県の結城市スクールソーシャルワーカー設置規則 (平成23年8月25日 教委規則第6号)第8条は、「SSWは,毎週末日までに当該週における活動等の実績をSSW業務日報(様式第5号)に記入し,教育委員会に報告しなければならない。」と規定しているが、ここにいう「毎週末日」とは何曜日なのだろうか。
また、千葉県の印西市会計事務規則(平成18年3月28日規則第18号)第26条は、「出納員は、歳入を収入したときは、即日又は翌日に、指定金融機関に払い込まなければならない。ただし、小額のものその他の事由で、即日又は翌日に払い込むことが適当でないと認める場合は、会計管理者の承認を得て、週末又は月末に取りまとめて払い込むことができる。」と規定しているが、ここにいう「週末」とは何曜日なのだろうか。
前述したように、旧約聖書の創世記では、神は6日働いて7日目に休んだので、ユダヤ教では、一週間は、日曜日に始まり土曜日に終わる以上、週末とは、安息日である土曜日を指したわけだ。
ところが、キリスト教は、この安息日を日曜日に移してしまった。キリストが復活した日である日曜日を安息日にし、かつ、日曜日を週の始まりだとしたため、一週間は、休みである日曜日に始まり土曜日に終わるので、週末とは、働く日である土曜日ということになった。
しかし、身体感覚からすると、働いて疲れたから休むのであって、休んだから働くわけではない。そうだとすれば、月曜日から土曜日まで6日間働いて日曜日に休む以上、キリスト教徒であっても、月曜日が週のはじまりだと思うようになるのは自然の流れであって、日曜日こそが週末だ考える人が出てきても不思議ではない。
実際、前述したように、EUでは、ISO8601が月曜日が週のはじまりだと定めているので、週末は日曜日になる。
そして、週休二日制が採用されるようになると、土曜日及び日曜日が週末だと考えられるようになる。
さらに、一週間のうち、働かなければならない日の最後の日である金曜日が週末だと考える人が出てくるようになる。
この点、2018年、NHK放送文化研究所が行った興味深い調査結果がある。人によって週末の捉え方が様々だということが分かる。
このように「週末」の捉え方が人によってまちまちである以上、曖昧な言葉である「週末」を例規では用いないことが望ましい。端的に「土曜日及び日曜日」という風に明記すべきであるし、止むを得ずに「週末」を用いるのであれば、「週末とは、土曜日をいう」という風な定義規定を置くべきだ。
ちなみに、e-Gov法令検索で「週末」を検索したが、ヒットしなかったので、「週末」を用いた国の法令はないということになる。自治体の例規には、「週末」を用いたものが多くあるのと対照的だ。
どうして国と自治体でこうも異なるのか、不思議だ。。。
cf.3筑紫野市市民課週末窓口サービス実施規則 (平成21年6月1日規則第33号)
(趣旨)
第1条 この規則は、週末に市民生活部市民課の窓口を開設して行うサ-ビス(以下「週末窓口サービス」という。)について必要な事項を定めるものとする。
(実施日)
第2条 週末窓口サービスを実施する日は、毎月第2土曜日及び第4土曜日とする。ただし、12月は、第2土曜日及び第3土曜日とする。
cf.4愛知県一宮市の消防署処務規程 (昭和53年8月25日 消防本部訓令第4号)
第31条 車両の日常手入れは、毎日大交代後実施し、週末手入れは毎週土曜日又は日曜日に実施するものとする。
cf.5岐阜県の土岐市救急業務実施規程(平成11年3月30日消防本部訓令甲第3号)
(消毒)
第31条 救急車及び救急資器材の消毒は、次の各号に掲げるところにより実施するものとする。
(1) 定期消毒 毎月1回
(2) 使用後消毒 毎使用後
(3) 週末消毒 毎週土曜日
(4) 特別消毒 随時
2 署長は、前項第1号及び第4号による消毒を実施したときはその旨を消毒実施表( 別記様式第4号)に記録し、救急車内部の見やすい位置に表示しておくものとする。