ZIPANG-4 TOKIO 2020 全国の姥神像行脚(その19)尾張名古屋の黒い姥神像・・・【寄稿文】廣谷知行
熱田神宮の森
愛知県名古屋市の熱田
愛知県名古屋市に、熱田神宮で有名な熱田区があります。熱田神宮は日本神話の三種の神器のひとつ、草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)を御神体とし、大化2(646)年に建立したとされています。
この熱田区、熱田神宮の近くに、裁断橋とともに姥堂があり、ここに姥神像が祀られています。
姥神(うばがみ)とは
姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。
本号の主役「黒い姥神像」です・・・
奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。
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ー新型コロナ菌肺炎のパンデミックに寄せてー
昨年、我国は皇室の御代替わりで年号も改まり、昨秋の奥ゆかしき即位式には深い歴史の重みに国民は改めて誇りをもち、2020オリンピック主催国日本は明るい兆しを求めて令和2年を迎えたばかりでした。その余韻も覚めやらぬ1月半ば、世相はいきなり急転直下…
目下、全世界が新型コロナ肺炎パンデミックに巻き込まれております。未だ対処方法も終息期も見出だせない状況下、各国で拡散し猛威を奮っております。
今、私達に出来ることはただ一つ。それはこの目に見えない新型コロナ菌に出逢わない事だそうです。その方法とは… "三密 " つまり密集、密閉、密接 を避ける事ですね。
当面は一人一人がその "三密 " を守りましょう。皆が心を合わせれば、コロナ菌は行き場を見失うのです。
どうか、世界各国が足並みを揃え、協力しあって一日も早く平和な日々が訪れますように。
編集局より
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尾張名古屋の黒い姥神像
姥堂に黒い姥神像
この姥堂は、同じく熱田区にある時宗円福寺の末寺となっており、延文3(1358)年に建てられたとされています。もともとは、熱田神宮涙ヶ池のそばににあったとされ、旧東海道の精進川に架けられた裁断橋の袂に移されたと言われています。
現在この姥堂の2階に姥神像が祀られており、木像で、その姿は、全身が黒く、手には観音像を乗せています。安産や子育てに霊験があり、「おんばこさん」と呼ばれて信仰を集めていました。現在の像は、平成5年に姥堂とともに復元したもので、昭和20年の空襲で焼失してしまった以前のものは、大きさが八尺(約2.5m)ほどあったそうです。(現在のものは1m強ぐらい)姥堂前には裁断橋も造られています。
安永年間(1772~1780年)頃に編纂されたとされる「張州雑誌」第五十七巻に、優婆堂の名目で、挿絵入りで紹介されています。ちなみに、この絵では手に観音像を乗せていません。
復元された断罪橋と姥堂
愛知県大口町に、堀尾吉晴公の一族屋敷跡を利用した堀尾跡公園があります。堀尾吉晴公は、松江城などを築いた愛知県出身の豊臣政権三中老の一人です。
堀尾吉春公
慶長5年(1600年)の関ヶ原合戦の後、出雲・隠岐両国を拝領した子の忠氏と共に、遠江国浜松(静岡県)から月山富田城(広瀬)に入ったが、松江の将来性に着目して城地を移しました。豊臣秀吉、徳川家康と二人の天下人に仕え、豊臣政権下では三中老の一人として功績を残しています。城普請の名人であり、孫の忠晴を助け松江城と城下町を建設し、現在の松江市の礎を築きました。
国宝 松江城
松江のシンボル松江城は全国で現存する12天守のうち、国宝の一つで唯一の正統天守閣ともいわれています。
堀尾跡公園の裁断橋。長さは短いけれど、日本三古橋の宇治橋や瀬田の唐橋にも見劣りしない流線型の見事な橋です。
この公園に裁断橋と姥堂が再現されています。ちょっと姥堂は門のようになってしまっていますが、趣のある造りの橋と相まって、当時の雰囲気を味わうことができます。
尾張名所図会に描かれた裁断橋と姥堂に色を付けたものがこの姥堂のそばに石碑として置かれていますので、当時の賑わいとともに参考になります。
立山の姥堂の影響?
裁断橋の記録で最も古いものは、永正6(1509)年の「熱田講式」とのことで、姥堂より後に造られたと推察できます。姥堂は延文3(1358)年に建立とされていますが、姥神像はもともと熱田神宮にあったと言われていますので、もっと古くからあったと思われます。また、当時から姥堂と呼ばれていたことなどを鑑みると、立山の影響で祀られた姥神像が、奪衣婆の伝承と習合し、三途の川に見立てた精進川のそばに祀られることになったのではないかと考えられます。
橋の名の由来には、死者を閻魔大王が裁断する場という説もあります。
参考文献
「張州雑誌」第7巻、愛知県郷土資料刊行会、一九七六年
続く・・・
寄稿文
廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家
協力(敬称略)
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松江城(松江城山管理事務所)〒690-0887 島根県松江市殿町1-5 TEL.0852-21-4030
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