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Angler's lullaby

Life goes on

2020.07.07 09:00
「おめでとうございます!確か、誕生日6月でしたよね。」


心優しい後輩くんがくれたウイスキーのミニボトルと世田谷産の高級マジックテープ。


「すみません。何日かは覚えてないんですけど・・・。」


そもそもちゃんと教えてないと思う。あんまり自分の誕生日を人に教えたりはしない。もうお祝いとかいう歳でもないしね。


そんでも、まあ、やっと、半世紀生きることができました。


ただ、誕生日は教えていなかったけど、アラフィフとしての意気込みは彼に執拗に伝えていた。多分、だいぶうるさがられていると思う。

ちなみに後輩くんは30代半ば。四捨五入すればアラフォー。


「俺ボチボチ年を取る準備を始めるから。」


「50になったらね、大事なのは健康とファッションだよ。煙草やめるぞ。」


「いい靴を買いなさい。トリッカーズとか、オールデンとか。」


「英国ジェントルマンジョークにね、”私は安物の靴を買えるほど裕福ではない。”ってのがあるんだってよ。結局、一緒にエイジングできるいいモノを買った方がお得なのよ。」


「俺、もうスニーカー履かないオジさんになるから。釣り場にもなるべく革靴で行くから。(でも雨ビショビショだと長靴ね。)」


「バイブリーコートのジャケット、いいよねえ。」


「知ってる?サスペンダーってイギリスじゃブレイシーズって言うんだよ。俺、アルバートサーストンってのを買おうと思うんだよ。」


「最近、グリュエンってメーカーのアンティークウォッチが欲しくってさ。」


多分この日も行きの道中、ほとんど釣りの話しはしてない。


何だか急に色気づいちゃった中年ジジイみたいな感じがしないでもないけど、別にいいのだ。僕は僕。他人の目なんか知ったこっちゃない。


そんなこんなでほぼ一方的に話しを聞かせつつ、泣き出しそうな梅雨空の下を2キロほど歩いて斜面を下り、入渓。


さて、それじゃタックルを、、、あれ?


まさか。ウソでしょ。


釣り人生初、ロッドを忘れていた。


いつもリュックの横に塩ビ管で自作したロッドケースを付けているんだけど、その中身は車の中。50早々、ナンダカナアな展開だけど、これはこれでいい。



「アンタ1人で釣りなさい。今日はカメラマンに徹するわ。こんなのもたまにはいいよ。」


素直にそう思えた。いつも釣りばかりで見てこなかったものを眺めようと思った。



気がつくと僕にしては随分長い間、サイトを更新しなかった。


一番の原因はやっぱりコロナ。それと世界中あちこちで湧き上がる暗くて、大きな出来事たち。心が沈んで、書く気が起こらなかった。


椎名林檎のとある曲の一節に、


”あぁまた不意に接近している

 淡い死の匂いで

 この瞬間がなお一層

 鮮明に映えてる

 刻み込んでる

 あの世に持っていくさ

 至上の人生 至上の絶景”


ってのがあって、大好きなんだけど、最近、世界中に漂う匂いはどうにもこうにも。


順調にブッこわれていく世界を目の当たりにしながら、色々と考えさせられてしまう。


ただ、僕自身についてはもう随分前から十分生きたっていう実感があって、あまり自分自身に対しては頓着がない。ホントに。




やっぱり気になるのは、後輩くん世代とか、子どもたち世代とか、これから羽ばたこうとする若い人たちのこと。


何の力もない僕に何が出来るのか、こんな時だからこそ冷静に。そして明るく、元気に、一生懸命。


まぁ、余計なお世話かもしれないけれど、こんな世の中、何かあんまりじゃないか。




小雨模様の天気が幸いしたのか、ヤマメは釣れた。アホみたいに数は釣れた。途中後輩くんからロッドを借りてキャストすると、1つのポイントから10匹以上釣れた。多分2人1本のロッドで、100匹は超えた。全部リリースした。


こんな川にはランカーがいない、っていうのが仲間内の定説になっているけど、そうじゃない可能性も見えてきた。やっぱり釣りは奥深くて、面白い。


そして何より、渓流魚はこんなにも美しい。


途中、手を掛けた岩の小さな小さな凹みに細い木が根を張っていた。


軽く握ってもガッシリとして、動じない。


太さ1㎝もない、か細い命がこんな所で強く生きている。何十年後かには、この大岩を包み込んで見上げるような大木になるといいな。


しばらく歩くと、今度は巨木が倒れて朽ちている。長い年月、何を見、何を思いながら生きてきたんだろう。


その表面には鮮やかな緑色をしたコケがびっしりと、美しく飾るように茂っていた。




「心配ないわよ。


全ての生命には、復元しようをする力があるの。生きてこうとする心があるの。


生きていこうとさえ思えば、どこだって天国になるわ。


だって生きているんですもの。幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ。」


ふとエヴァンゲリオンの中の台詞が頭をよぎる。


こうであったらいいと心底思う。



そして太宰治の「御伽草子」の中にはこんな一節がある。


「私はどうも、老醜というものがきらいでね。死ぬのは、そんなにこわくもないけれど、どうも老醜だけは私の趣味に合わない。~」


とりあえず。


オジちゃんが急に色気づいたのは、先進国の中で一番クタびれてて、一番洋服にお金を掛けないと言われている典型的な日本人中年男性にならないためなのだ。


生き生きと生きるため、若い人たちに見せられる背中を持ち続けるためなのだ。


なんちゃって。


どうか若い人たちも、こんな世の中だけど、奔放に、気高く人生を謳歌してください。


オジちゃんももう少し頑張ります。



こんな団体も始めました。よろしければご覧ください。