神葬祭と祖霊祭
一 神葬祭について
神葬祭は神道による葬祭です。『日本書紀』には、伊弉冉尊(いざなみのみこと)が神去り、紀伊国熊野の有田村に奉葬された際、「土俗(くにびと)、この神の魂を祭るに、花のある時には、また花を以て祭り、また鼓吹幡旗を用て、歌ひ舞ひて祭る」とあります。日本には古来の葬祭の習俗があったことを示しています。
神葬祭の根本思想は、人が帰幽すると、その御霊(みたま)は御祖(みおや)の神々とともに、永遠に幽界にとどまり、遺体はこれを墳墓に斂(おさ)めて霊を鎮め奉り、霊璽はこれを家に奉安し、一家の守護神として祭ることにあります。
以下に紹介する祭儀は、神社本庁『神葬祭の栞』に基づきますが、実際に執行する場合は、地域や家庭の風習等により変わることがあります。
二 神葬祭の祭儀
(一) 納棺以前に行うべきこと
① 注意事項
- 命が終わった後、まず神棚・祖霊舎に帰幽を奉告し、その前面に白紙を貼ります。
- 病気平癒などを祈願した神社があれば、代参を派遣するか遙拝をして祈願を解きます。
- 喪主、葬儀の日時を決めるとともに、斎主、祭員、令人、葬儀委員長、葬儀係などを委嘱します。
- 死亡届並びに埋葬の認可手続きを行い、葬具、用具、祭場舗設等の準備をします。
- 葬場、墓所、火葬場を決定し、諸事交渉をします。
- 各祭儀の幣帛、神饌、玉串、その他全般にわたり、数量や程度を協議決定します。
- 霊璽、銘旗、墓誌、墓標等の揮毫を依頼します。
② 枕直しの儀
命が終わった後、近親者が集まり、遺体を殯室(遺体を安置する部屋)に移します。北枕(または東枕)とし、白布で面部を覆い、枕頭に枕屏風を立て、守刀を置き燈火を灯します。前面に案(机)を設け、生前嗜好の常饌(または洗米、塩、水)を供え、家族・親族は慎んでその側に伺候します。守刀は枕頭に小案を設けて縦に載せ、柄を向こうにし、刃は遺体に向けません。小刀やその他の刃物に代えてもいいです。
(二) 納棺の儀
哀傷の中にも諸儀を進め、なるべく早く慎ましく遺体を棺に斂めます。正寝(表座敷)に移した後、棺前を装飾し、神饌を供えて拝礼します。
(三) 棺前日供の儀
納棺の儀の後、発柩にいたるまで、毎日朝夕、または毎朝、棺前に生前嗜好の常饌(または洗米、塩、水)を供えて拝礼します。
(四) 産土神社に帰幽奉告の儀
喪家より帰幽の通知があった時は、産土神社ではそのことを神前に奉告します。代参者は参列します。
(五) 墓所地鎮祭並に祓除の儀
新しく墓所を築く場合は、その工事に先立ち地鎮祭を行い、その土地の神を祭ります。祓除は墓所の工事終了後、葬儀に先立って行います。すでに定まった墓所がある場合は、祓除のみを行います。
(六)通夜祭並に遷霊祭の儀
通夜祭は往古の殯斂(もがり)の遺風であり、葬儀を行うまでの間、遺体のある所において生前同様の礼を尽くし、手厚く奉仕すべき祭儀です。「もがり」は「あらき」ともいい、古くはまだ葬り終わらない間、殯殿に遺体を移し、朝夕饌膳を供えたものです。
遷霊祭は葬場祭(告別式)の前夜に行うのを適当とし、発柩以前に故人の神霊を霊璽に遷し祭る儀で、夜間に行うのを本儀とします。霊璽は忌み明け後に家の祖霊舎に奉遷し、永く家の守護神として奉仕します。
(七) 発柩祭の儀
発柩祭は出棺祭ともいい、葬送の儀を行うにあたり、棺前に奉告します。
(八) 発柩後祓除の儀
発柩後、家に留まる家族や親族、各室、屋敷内を祓い清める儀です。
(九) 葬場祭の儀(告別式)
故人に対し最後の訣別を告げる祭儀です。
(十) 埋葬祭並に火葬祭の儀
埋葬祭は霊柩を墓所に移し、埋納してから行う儀で、火葬祭は埋葬祭に先立ち、遺体を火葬する儀です。地域によって、火葬後に告別式を行う場合もあります。
(十一) 帰家祭
霊前に葬儀終了を奉告する祭儀です。
(十二) 霊前祭の儀
① 霊前日供の儀
遷霊後、霊前に毎日朝夕、または毎朝、生前嗜好の常饌(または洗米、塩、水)を供えて奉仕することです。霊璽を祖霊舎に遷して合祀するまで行われます。
② 霊前祭の期日
帰幽後、霊前・墓前で行う霊前祭は、翌日祭、五十日目までの毎十日祭、百日祭、一年祭があります。とくに五十日祭、百日祭、一年祭を重くします。
(十三)清祓の儀
五十日祭の翌日に行います。その後、神棚と祖霊舎の白紙をとり、神棚、祖霊舎、神社の拝礼は平常通りにします。
(十四)祖霊舎に合祀の儀
清祓の後に仮霊舎の霊璽を祖霊舎に合祀する儀です。
三 祖霊祭について
人が帰幽すると、御霊は御祖の霊神とともに霊界に留まり、累代の祖霊舎に祭られて、一家の守護神となります。子孫は祖霊の遺徳を偲び、安寧を祈り、誠をもって祭りを奉仕することが大切です。
四 祖霊祭の祭儀
(一) 恒例祭の期日
恒例祭には、春季霊祭(三月春分の日)、秋季霊祭(九月秋分の日)、正辰祭(祥月命日)、月次祭(毎月一日、十五日)、日供(毎日)があります。とくに春季霊祭、秋季霊祭、正辰祭を重しとします。一月一日はとくに歳旦祭として奉仕します。以上の外に、地方により慣習のあるものはそれに習います。
(二) 臨時祭の期日
式年祭には、合祀祭(新霊合祀の当日)、式年祭(三年、五年、十年、二十年、三十年、四十年、五十年、百年、以後毎百年)があります。各祖霊に対して相当年の帰幽当日(祥月命日)に霊前と墓前で行います。