命の授業~豚を飼う、そして喰う~
【命の授業~豚を飼う、そして喰う~】
♂1人 ♀1人 不問2人 計4人
~20分
コウ先生 ♂
20代半ばの新人教師
物腰が柔らかく、優しいが、振り回されやすい性格
モモカ ♀
小学校高学年
元気で活発で、みんなのまとめ役
アオト ♂
小学校高学年
お調子者で、ノリが良い
タツキ ♂
小学校高学年
真面目な優等生、でもどこかずれてる
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先生 ♂ :
モモカ ♀ :
アオト 不問 :
タツキ 不問 :
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アオト「ターツーキっ!」
タツキ「わぁっ!?ど、どうしたの?」
アオト「今日は何読んでんだよー?」
タツキ「もぅ…くっつかないでよ。これは、最近流行りのミステリー小説だよ。アオトくんも読む?」
アオト「どれどれ~…うはー!?文字ばっか!?絵は!?バトルシーンは!?可愛いヒロインは?!」
タツキ「あはは、そんなの居る訳ないよー」
アオト「ちぇー…つまんねーの…」
モモカ「アオー、あんまりタッくんにからまないのー!タッくんが困ってるでしょー」
アオト「なんだよモモカ!お前には関係ないだろー!?」
モモカ「関係なくないでしょ!うちはタッくんの幼馴染だもんっ!」
アオト「うるせー!俺も幼馴染だろーが!」
タツキ「まぁまぁ二人とも…ね?」
モモカ「タッくんもタッくんだよっ!嫌なら嫌ってはっきり言わないと、このバカには!」
タツキ「えぇ…僕が悪いの?別に嫌とか思ってないけどな……」
アオト「ほれ見ろー。俺とタツキは親友だかんなっ!っつーか、誰がバカだと、コノヤロー!」
モモカ「バカにバカって言っただけだもーん。ふふんっ、ばーか。」(教室の外に逃げながら)
先生「おっと…。モモカじゃないか。朝から元気なのはいいが、教室で走るのは良くないぞー?」
アオト「おっ、コウちゃんナイス!そのまま捕まえてろよー。とりゃー!」
モモカ「せんせっ!ごめんねっ」
先生「おわっ……ぐへっ!?」
アオト「あっ…やっべ……」
先生「いってて…。こらアオト……」
アオト「コウちゃんごめんっ!」
モモカ「せんせー?大丈夫ー?」
タツキ「本当に、コウ先生はタイミングが良いと言うか、悪いと言うか…。あ、大丈夫ですか?」
先生「…あぁ…大丈夫だよ…。まったく、お前たちは……」
アオト「コウちゃん!違うんだって!そもそもモモカのやつがっ」
先生「アオト、何回も言ってるだろ?コウちゃんじゃなくて、コウ先生、な?」
アオト「別にコウちゃんでいいじゃん。先生って感じじゃないしさー」
先生「うぐっ…痛い所を……。それは先生も良く考えるよ……?小学生に舐められてる大人なんてって……」
タツキ「はぁ…。僕はコウ先生好きですよ。良く言えば、生徒の目線になって話をしてくれるとことか」
先生「タツキ…ありがとう。でも、なんか一言多くないか?」
タツキ「さぁ?そうですか?」
先生「…まぁいいよ。ほら、もうチャイム鳴るから。みんな席に座って座って」
モモカ「はーい。ほら席に戻るわよ、バカアオト」
アオト「またバカって言ったな!?」
モモカ「あっチャイムなったー。座ってない人は居残り掃除なんだっけー?」
アオト「あっ!ずりーぞっ!」
先生「よし。おはよう。今日もみんな揃ってるなー。えらいえらい。今日の授業はな、一昨年からこのクラスで飼っている、豚のトラ太郎についてだ」
アオト「コウちゃんコウちゃん。なんで豚なのにトラ太郎なんだよー」
先生「だからコウ先生な。そして、トラ太郎って名付けたのは、みんなだからな?」
タツキ「そういえば…、最初の名前決めの時に、アオトくんのゴリ押しで決まったんじゃなかったかな」
モモカ「そうそう。うちはぴょんきちが良かったのにー」
タツキ「……それは、どっちもどっちな気がするけど」
アオト「あー…そっかー…思い出した。あの時の俺はトラが好きだったんだなー、うん」
先生「話進めてもいいか?」
モモカ「いいよー」
タツキ「お願いします」
先生「この授業を始める時から、ずっと言ってきたけど、これは命の授業だよ。みんなで命を育てて、命とは何か、食べるとは何かをしっかり考えて、その尊さを考えようって、授業テーマなんだよね」
タツキ「そうですね。だからみんなで約2年間、育ててきましたからね」
先生「そうだね。みんなの愛情をいっぱいに受けて、トラ太郎は大きく育ちました。そこで、みんなにはトラ太郎の今後を考えてもらいます」
アオト「今後ってー?」
先生「このまま学校で育て続けることは出来ないんだ。だから、施設で育ててもらうとか、食肉センターに引き取ってもらうとか、みんなで食べるとかを、しっかり考えて話し合って―――」
アオト「じゃあ!はいはいはい!」
先生「よし、じゃあアオト」
アオト「はい!俺は生姜焼きが好きだぜっ!」
先生「いや、アオト。あのな?好きな食べ物を聞いてるわけじゃなくてな?」
モモカ「あ、じゃあうちは肉じゃがが良いな!」
アオト「はぁ!?肉じゃがは牛肉だろー!?」
モモカ「何言ってるのよ、豚肉に決まってるでしょ!?」
アオト「ぜんっぜんわかってねぇ!」
モモカ「分かってないのはアオトでしょ!」
アオト「ぜってぇ肉じゃがは牛肉に決まってる。だって美味いもん!」
モモカ「うわぁ…、じゃああれだー。カレーも牛肉じゃないとダメな人だー」
アオト「なんでカレーの話になるんだよっ!?そもそも俺は、カレーはシーフード一択だっつーの!」
モモカ「あ…。そういえばアオトのお母さんのシーフードカレーは凄く美味しいもんね」
アオト「だろぉ?だから俺のカレーはシーフードだぜ!」
先生「あ、あぁ……なんかまた、話がすごい逸れていく気が……はぁ…」
タツキ「あのー。コウ先生、僕もいいですか?」
先生「あぁ、タツキ…。ありがとう…。話を戻してくれるかな?」
タツキ「はい。僕は、豚の角煮が良いと思います」
先生「えぇっ!?」
タツキ「肉厚で、それでいてトロッと舌の上でとろける触感。脂のうま味が口いっぱいに広がって、それはもう幸せ以外の何も感じられない、最高の時間を味わえるんですよ」
モモカ「あっ!それ凄くいい!私も大好きっ!」
アオト「流石タツキだぜ!それ採用!まったく…、なんで俺は生姜焼きなんて言っちまったんだー…?」
タツキ「ううん。生姜焼きも美味しいよね」
アオト「いやいや、角煮には負けるぜ……」
モモカ「みんなも角煮でいいよね?じゃあ決まりね!」
アオト「おうよ!コウちゃん、早速角煮にしよーぜ!」
先生「うん。そうか……。って、いやいやいや!『角煮にしよーぜ!』じゃなくてね!?その角煮になるかもしれないのは、みんなで育てたトラ太郎なんだよ!?」
アオト「分かってるよ。あいつ最初全然俺に懐かなくてさー。散々体当たり喰らったけどよ…。今では一緒に干し草の上で寝る仲になったんだぜ!だから、トラ太郎の事なら何でも分かるぜ!」
先生「うんうん…。そうだよな。一生懸命お世話して仲良く、…ってお前。たまに授業に居ないと思ったら、飼育小屋で寝てたのかっ!」
アオト「あっ!やっべ…。秘密の昼寝場所、バレちまった……」
モモカ「せんせー、うちもお世話頑張ったよー。トラちゃん力強いから、お散歩するの大変なんだよー?」
先生「モモカも、他のみんなも、お世話頑張ってくれてたもんな」
タツキ「そうですよ。トラ太郎は僕達あじさい組の、大事な大事な仲間なんです」
先生「そうだよ!大事な仲間!大事な仲間なんだろう?……それを、角煮にして食べるのか……?」
タツキ「なにか、ダメなんですか?」
アオト「そうだぜ、コウちゃんがこれ以上育てられないから、どうするか決めようって言ったんじゃんか」
モモカ「そうだよ!うちだって別に、早く食べたいー、とか思ってるわけじゃないよ!?でも、そうするしかないなら、せっかくなら美味しく食べたいじゃん!」
タツキ「そうですよ。それがトラ太郎も幸せです。本望ってやつですよ」
先生「あ、いや…その。あの…ね?」
アオト「なんだよっ!じゃあコウちゃんはどうしたいのさっ!」
先生「それはだな。ちゃんとこれからも育ててもらえるところに引き取ってもらって、とか…他にも選択肢は…」
モモカ「もう!はっきりしてよ!!何が良いたいのよ。大人でしょ!?」
先生「ご、ごめんなさい」
タツキ「じゃあ先生。先生の言うように、引き取ってもらったとして、それは本当にトラ太郎の幸せなんですか?」
先生「え?トラ太郎の幸せ…?」
タツキ「そうですよ。トラ太郎が小さい時から、僕達は一緒に居ました。その僕達と離れ離れにされて、それは本当に幸せなんですか?」
先生「そ、それは…。でもほら、そうしたらみんなで会いに行くとかできるからさ」
モモカ「本当にちゃんと育ててもらえるの?だってトラ太郎は食用として生まれてきたんでしょ?もしかしたら、いじめられるかもしれないんだよ?」
タツキ「そうです。もしかしたら、勝手に殺されてるかもしれないですよ。そうならないって言いきれますか?保証できますか?」
先生「え、いや…それはちゃんと引き取ってくれる人を調べたりして…」
アオト「なぁ、コウちゃん。たとえば、それでトラ太郎が元気に生きれるとするよ。それでも俺は!トラ太郎を食べたい!」
先生「だから…その…。食べるってことは、トラ太郎は死んじゃうんだよ?もうトラ太郎に会えなくなるんだよ?」
アオト「そんなの当たり前だろ!ちゃんと殺して、ちゃんと処理して、食肉に加工してもらうんだろ?さっきコウちゃんが言ってたじゃん!」
先生「……そこまで言ってたかな?」
モモカ「たとえ死んじゃって、会えなくなっても、トラちゃんはこれからもずっと、うちらの仲間だもん!」
タツキ「モモカちゃんの言う通りです。先生、僕達はただ食べるんじゃなくて、トラ太郎の生きた時間とか、思いとか、そーゆーいっぱいの思い出を食べるんです。食べて、残すんですよ」
先生「……そうか。そこまで真剣に…」
タツキ「トラ太郎は、僕たちの血とか、肉になって、一緒にこれからも生きていくんです。だから食べるんですよ!それに、食べたいんですよ!角煮が!」
先生「そっか…。そうだな……。トラ太郎を角煮にして食べたいよな……。ん?なんか違くないかな…?あれ?」
アオト「違わないよ!俺たちはみんな、トラ太郎を角煮にして食べたい!そうだよな!みんな!」
モモカ「うんうん。あ、そうだ!うちのおじーちゃんが農家やってて、毎年美味しいお米送ってくれるから、それ持ってくるね!」
タツキ「それは良いですね。じゃあ、僕も庭で作ってる野菜を持ってきますね!」
アオト「じゃあ俺は食う専門で!」
モモカ「あんたホントにバカね!みんなで作るの!やらなかったら、角煮食べさせてあげないからっ!」
アオト「それは困る!じゃあ、俺も頑張って作るぞ!」
先生「あのー…みんなー…?」
タツキ「あ、先生。まだ居たんですね」
先生「ずっとここに居たよ!?」
アオト「何やってんだよー。早くトラ太郎を食肉加工してもらってこいよー」
モモカ「そんなにすぐ出来るわけないでしょ、バカアオト」
アオト「なにー!?じゃあコウちゃん!いつできるんだよ!?」
先生「え、えっと…たぶん一週間後…、ぐらいじゃないかな…?」
アオト「じゃあ一週間後に『さよならトラ太郎、角煮パーティー!』だな!!
タツキ「うんうん。楽しみだね」
モモカ「楽しみ過ぎて、もうよだれ出てきちゃった」
アオト「うわっ!きったねぇ!」
モモカ「なによ!?ほんとには出してないわよっ!」
アオト「うるせー!こっちくんなー!よだれがうつるー!」
モモカ「よだれがうつるってなによー!そんなのうつらないわよっ!」
アオト「うわー!」
タツキ「ねぇ、先生」
先生「……あぁ、タツキか。どうした?」
タツキ「次は、鶏を飼いたいな。焼き鳥が食べたい」
アオト「あ、ずりぃ!コウちゃん!俺はマグロが良い!」
モモカ「もぅ、マグロなんか学校で飼えるわけないでしょ!ほんとバカなんだから」
先生「あぁ……。もう…いやだ……。……俺、教師辞めようかな」