「ここは」最果タヒ 及川賢治
先日発売されたばかりの新刊絵本「ここは」は、最果タヒ×及川賢治の絵本という、とてもインパクトの強いこの組み合わせの、その名前の印象に全く負けない、素晴らしい絵本です。
ここは、
おかあさんの
ひざのうえです。
こんな文章から、この絵本は始まります。
絵は、窓から覗いた親子の姿。母親の膝の上に乗る子ども。
まちのまんなか
でもあります
次のページはその窓から引いて、通りを挟んだ向こう側からの風景。
道路の車、歩道歩く人々、先程の開かれた窓から見える親子の姿や、隣家のお店なども見る事ができます。
ここまで読むと、あ、これはイームズの「Powers of Ten」のような絵本なのかな?と思います。視点がどんどん引いていって(もしくは近づいていき)、世界の様々な視点/層を描き出す、そんな絵本。
こういうタイプの絵本って、幾つもありますよね。
でもこの「ここは」はそうした絵本とはちょっと違っています。
最初の視点から、ある程度離れるように進んでいくと、その次のページで突然、
いすのうえ
でもあるね。
とカメラはまた親子のそばにいて、今度は部屋の中からの視点になるのです。(先ほど覗いていた窓からは、今度は逆に外の風景が見えます)
ここで一気にこの絵本の面白さが加速します。
なんと言えば良いのでしょう。この視点の切替がすごく愉快で気持ちが良いんですよね。
この後、カメラは部屋の中を回転し、そこから今度は一気に俯瞰へ、と思いきや次は地中を含めた断面図!(アリの巣観察のように切り取られた視点のカメラ!)
こんなのがアリなんだ!と驚きとともに、このダイナミックな動きに爽快感も感じられます。(ダジャレを言ってしまいました)
更に今度はカメラは宇宙へ飛んで、またそこから部屋の中に戻ったりと、その展開のリズムがとても気持ちがいいんですね。抜けが良いとでも言えば良いでしょうか。
絵本の中で、絵と文章が躍動している感覚がとても強いんです。絵と文章の運動が、強く感じられる絵本なんです。
ここまででもすごいなあ、面白いなあと感心しきりなのですが、この後の展開にこそ、この絵本の素晴らしさが詰まっています。
前述したように、視点の切り替えで躍動感を出していたところに、また別の次元の切り替えが起こっていくのです。
空間の移動だけだった視点の切り替えに、今度は時間/環境の変化が加わり、さらには、「ここは〜」に続く部分が空間の言葉ではなく、心のなかの部分入っていくのですね。
文章で説明すると少しわかりにくいのですが、この最後の展開はとても感動的
です。
おそらくこの絵本はマーガレット・ワイズ・ブラウン&クレメント・ハードによる名作絵本「ぼくのせかいをひとまわり」を意識して作られたのだと思います。
ですがこの「ここは」は「ぼくのせかいをひとまわり」よりも、より広い部分を、より広い世界を捉えています。
近いことの親近感、温かみから、遠くの、知らない場所、知らない部分、知らない世界への好奇心。
その二極のものを同列に描き、同じ価値を与えた、ほんとうに素晴らしい絵本です。
近い場所と遠い場所、親しい人と赤の他人。
この世界の様々な二極がどんどん離れて行ってしまっている現代に生まれた、この世界のかけがえのなさを取り戻すための、大切な一冊です。
ぜひオンラインストアの方でも御覧ください。
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