ダムの緊急放流と事前放流
梅雨前線が停滞した影響で、4日未明から降り続いた雨は記録的な大雨となり、河川の氾濫や堤防の決壊など九州全域で甚大な被害をもたらしました。
気象庁の発表によりますと、4日15時までの24時間雨量は、熊本県山江村で453㍉、水俣村で474㍉、人吉市で410.5㍉と、同県7地点で観測史上最大を記録しました。また、降りはじめから7日15時までの総雨量は、鹿児島県鹿屋市で877.5㍉、宮崎県日南市で746㍉、大分県日田市で656.5㍉、福岡県大牟田市で519㍉を観測しており、昨年10月25日に千葉県で発生した大雨の24時間雨量が、市原市で285ミリ、大多喜町で276ミリ、君津市で241.5㍉と比較しても、圧倒的な降水量であったことが伺えます。
大雨による河川の氾濫は、橋や道路を破壊し、家や車を押し流すだけでなく、尊い生命も奪ってします。そのため、このような災害が発生するのを防ぐことを目的として、ダムにより下流域への水量を調節し、洪水被害を軽減しています。しかし、ダムの容量にも制限があり、今回の九州豪雨では、大分県と熊本県の県境にある下筌(しもうけ)ダムが、基準水位を超えたため緊急放流を行いました。
緊急放流とはダムに流れ込む水と同量の水を放出することであり、ダムの決壊を防ぐ最終手段ですが、下流域の水位を急上昇させ、大規模な水害を引き起こすおそれもあります。
集中豪雨が頻発している近年、ダムの洪水調節機能を上回る水量が流れ込むと予想されるとき、千葉県ではどのような対応をとるのでしょうか。高滝ダム管理事務所にお話しを伺いました。
ダムは、さまざまな目的により分類されますが、洪水調節や農地防災を目的とする治水ダムと、灌漑や上水道供給を目的とした利水ダムに大別されており、単独の目的を有するダムもあれば、複数の目的を有する多目的ダムもあります。
県内にあるダムのうち、千葉県が管理する治水ダム(多目的ダム)は、高滝ダム(市原市)、矢那川ダム(木更津市)、亀山ダム(君津市)、片倉ダム(君津市)の4箇所です。
昨年の千葉の大雨時には、高滝ダム(市原市)と亀山ダム(君津市)の緊急放流の可能性はあったものの、最終的に緊急放流に至らなかったのは記憶に新しいところですが、今年度からは、高滝ダムと亀山ダムの2箇所において、事前放流をすることとなりました。(矢那川ダムと片倉ダムについては、放流調整設備(ローラーゲート)が無いため、事前放流を行うことができません)
事前放流とは、大雨の発生が予測される場合、事前にダムの水を放流して水位を下げておくことです。しかし、事前放流を行うとダムの利水容量の水(水道用水や農業用水)も同時に放流することになるため、予想に反して雨が降らなかった場合には、水不足に陥る危険性があります。そこで県では、事前放流の判断材料のひとつとして、日本気象協会が運用する「ダムの事前放流判断支援サービス」を活用し、大雨時の災害の備えを進めていくようです。
「ダムの事前放流判断支援サービス」では、世界各国の気象機関が出す数値予測をもとに、独自補正や、AIによる予測時間や空間の詳細化を行い、最大15日先までの1時間雨量・5kmメッシュでの降雨予測が可能となります。早い段階から、ピンポイントにおける総雨量を評価することができるため、災害発生の予測に期待されます。