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洞の間 ~Dougyou's room

本当の正義

2020.07.08 10:47

 E住職は今朝もお堂でひとり。 ムニャムニャナムナムニャ〜


 もうニ十年のあいだ、毎朝欠かしたことはない。


「お経の功徳にたてまつるぅ〜」

お経をあげる前には必ず付け加える。


「T国発生のケロリウイルスが我がN国に蔓延し、非常に困惑しておりまするぅ」


 そしてこれも絶対付け加えるのを忘れない。

「K国のN国に対する言われなき敵対行為及び暴言ムニャムニャ〜」


 そう、E住職は隣国が大嫌い。


「ナムキクチミツヒデコウソンレ〜」チーン


 思い起こせばニ十年前。先代のG住職が亡くなってからの忙しさといったら、それはそれは大変なものだった。


 数年経って、ようやくひとりぼっちになったことに気づいた。G住職はE住職の奥さんだったのだ。

 ひとりぼっちのE住職の楽しみは、憎き隣国の悪口を言うことだった。


「T国なんか滅んでしまえばいいんじゃムニャムニャ」


「K国の美味いものなんかありゃぁせんワイ」


 今朝もE住職が、隣国の悪口を言っていたちょうどその頃、 隣のK国では大人気男性アイドルグループのY青年が、仲間達に相談していた。 


「オレ、子供が産まれるかもしれないんだ」


「マジかよ!」


「で、相手は誰だよ?」


「歳はいくつだよ?」


「相手はオレと同じ二十歳。T国出身のHちゃんだよ。。。。」


「え? 相手も今人気絶頂のスーパーアイドルかよ」


「お互いまずいんじゃないの?」 


「二人とも、熱狂的過ぎるファンが多いしさ... ヤバいよ」


「うん、そこで相談なんだ」





 その数カ月後、Y青年は新妻のHと、産まれたばかりの赤ん坊と一緒にいた。


「N国に来て正解だったな。ここならオレたちの知名度はほぼゼロだし」


「まさかこんなに素敵なお家で、子育てができるなんて、わたし達しあわせよね?」


「なんでも、つい最近までお寺だったみたいだな。ここなんかも、部屋がお堂っぽいもの」


「あらっ、赤ん坊が笑ったわよ」


「目元なんてオマエそっくりじゃないか」


 赤ん坊は笑いながら、そっと部屋の奥に目を移した。





 星新一先生オマージュ