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レイフロ@台本師&声劇民☮

妄想が夢を抱く(2or3人台本)

2020.07.08 10:56

妄想が夢を抱く(いだく)

【ジャンル:狂気系、シリアス】

【所要時間:15〜20分程度】


●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。

●ご使用の際は、利用規約をご一読下さい。


【あらすじ】

男は妻を愛していた。とても愛していた。



【人物紹介】

男♂

:夫。


女♀ 

:妻。


露店商人(不問)

:年齢や性別の設定は自由ですが、怪しげな感じで演じて下さい。

※2人声劇でやる際は、必ず女役の方が兼役して下さい。





↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

【2人声劇用】

――――――――

『妄想が夢を抱く』

作:レイフロ

男:

女&露店商人:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/8743392

―――――――


【3人声劇用】

――――――――

『妄想が夢を抱く』

作:レイフロ

男:

女:

露店商人:

―――――――






※SEの指定があります。入れられる方はぜひ入れて下さい。(強制ではありません)











以下、台本です。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


男:

夢か幻か


女:

愛か、狂気か


男:

夢なら覚めないでくれ


女:

愛なら冷めないで


男:

幻なら解けないでくれ


女:

狂気で私を溶かして




男:[タイトルコール]

『妄想が夢を抱(いだ)く』







女:

ねぇ、私のどこが好き?


男:

そうだな…。キミの心が好きだ。


女:

そう…。


男:

不服かい?


女:

いいえ。嬉しいわ。


男:

キミの温かい心だけが、俺の生きる糧だよ。


女:

私が、欲しい?


男:

あぁ。欲しい。


女:

わかったわ。


男N:

彼女は微笑んで、おもむろにサイドテーブルにしまってある防犯用のナイフを取り出した。


(SE:刺さる音)



女:

…んっ…ぐ、ッ…!!!(自分の胸に刺す)


男N:

彼女はおもむろに、自分の胸にゆっくりとナイフを差し込んだ。


女:

ぐう…っはぁ、はぁ…!


男N:

ナイフを器用に動かし、やがて、赤黒い心臓を大事そうに取り出した彼女は、ソレを俺に差し出した。


女:

…ぁ……して、る…



男N:

にっこりと口角の上がった小さな唇からは、血がコポコポと溢れ出すばかりで、よく聞き取れない。

俺は、彼女の『心』をそっと受け取った。

手の中で、ドクン、ドクン、と脈打つ赤い塊は、まるで、俺の名前を呼んでいるようだった。







(間)







男:

…はっ…!夢、か…はぁ、はぁ…


女:

あなた、大丈夫?汗びっしょりだわ。


男:

あ、あぁ。ごめん、起こしたか?


女:

大丈夫よ、もうすぐ6時だし。起きる時間だわ。


男:

シャワー浴びてくるよ。


女:

ねぇあなた。


男:

ん?


女:

どんな夢を見たの?


男:

…どう、だったかな…。


女:

もう忘れちゃったの?(苦笑)


男:

うん。でも…

とてもいい夢だったよ。






女:

朝ごはん食べる時間あるかしら?


男:

もう行かないと。


女:

そう。残念だわ。


男:

すまない、せっかく作ってもらったのに。


女:

いいのよ。


男:

そうだ、今日は仕事が終わったら花を買ってくるよ。

君の好きな赤いブーゲンビリアはどうだい?


女:

素敵ね!


男:

あぁ。だからイイコにして待っているんだよ。


女:

えぇ。でも貴方がいない時間はとても寂しいわ。


男:

俺も寂しいよ。でも仕事には行かなくちゃ。君との生活を守るためにね。


女:

ありがとう。行ってらっしゃい。


男:

行ってきます。







(間)








(SE:PCのキーボードを打つ音)


男:

これ、コピー頼めるかな。あと資料、数値が間違っていたよ。悪いけどもう一度やり直してくれ。


男N:

平日の昼間。彼女が何をしているのか、俺は知らない。

聞いてみても、「家事」とか「買い物」としか答えてくれない。

平日の昼間の彼女を見たいと思った。


そのために会社を辞めたいと思った。








(間)









男N:

1時間不毛な残業をして、会社を出た。花屋が閉まってしまう。

俺は急いだ。


露店商人:

そこのお人。見ていって下さいな。ぜひ。ぜひ。


男N:

フードを目深(まぶか)に被った女が、露店で何かを売っている。

通り過ぎようとした思いとは裏腹に、足が止まった。


露店商人:

さぁどうぞ。これを手に取って。


男N:

両手で差し出されたソレを反射的に受け取った。


露店商人:

カバーを取ってみて下さい。さぁ。


男N:

木製の柄(え)に、木製のカバー。果物ナイフだろうか。

俺はそっとカバーを外すと、鈍く光る短い刃には、美しい細工が施してあった。


露店商人:

この花は…


男:

ブーゲンビリア…。


露店商人:

よくご存じで。


男:

妻の好きな花だ。


露店商人:

では貴方の言い値でお譲りしましょう。


男:

言い値?…100円でも文句はないと?


露店商人:

貴方がそうおっしゃるのなら。


男N:

フードで女の顔は見えなかったが、ニタッと笑う唇は真っ赤だった。

俺は一万円を女に握らせると、走り出した。

早く帰らなくては。


早く。


早く。


早く。









(SE:扉が開く音)


女:

おかえりなさ…どうしたの?走って帰ってきたの?


男:

はぁ、はぁ…た、だいま…


女:

花は買ってきてくれなかったの?楽しみにしていたのに。


男:

今日、露店でイイ物を見つけてね…。


女:

イイ物?


男N:

俺はナイフのカバーを抜いた。木製のカバーはフローリングに落ちてカツンと音を立てる。


女:

ナイフ?


男:

ナイフの表面に彫り物がしてあるんだ…ほら見てくれ。


女:

ブーゲンビリアね。とても綺麗。


男:

あぁ。でも何か寂しいと思わないか?なぜだろう?


女:

そうね…。色がないからじゃないかしら。


男:

そうだ…。色がないからだ。


女:

えぇ。ブーゲンビリアは赤でなくちゃ。


男:

なぁ。


女:

なぁに?


男:

君の『 赤 色 』を、くれないか…?


(SE:刺さる音)







(間)








男:

…はっ…!夢、か…はぁ、はぁ…


女:

あなた、大丈夫?汗びっしょりだわ。


男:

あ、あぁ。ごめん、起こしたか?


女:

大丈夫よ、もうすぐ6時だし。起きる時間だわ。


男:

シャワー浴びてくるよ。


女:

ねぇあなた。


男:

ん?


女:

どんな夢を見たの?


男:

…どう、だったかな…。


女:

もう忘れちゃったの?(苦笑)


男:

うん。でも…

とてもいい夢だったよ。





(間)









露店商人:

おや…また来なさった。


男:

「また」、とは?


露店商人:

これに見覚えは?


男:

果物ナイフかい?すまないが急いでるんだ。妻に花を買っていく約束をしていてね。


露店商人:

これは、花なんて儚いものより、ずっとずっとイイ物ですよ。


男:

刃に彫り物がしてある…この花は、っ!


露店商人:

『妻の好きなブーゲンビリア』

…でしょう?


男:

なぜそれを…?


露店商人:

さて、何故でしょう。


男:

これを売ってくれ。


露店商人:

(ぼそっと) …これであなたがこのナイフを買いに来たのは180回目…。


男:

なんだって?


露店商人:

ふふふ、こちらの話です。値段はあなたの言い値でかまいません。











(SE:鈴やベルの「リン」というような音が入ると良いです)



男:

これを売ってくれ!


露店商人:

(ぼそっと) …1095回目。






(SE:鈴orベルの音)


男:

これを売ってくれ!!


露店商人:

(ぼそっと) …3285回目。







(SE:鈴orベルの音)


男:

(疲れたように) これを、売ってくれ。


露店商人:

(ぼそっと) …これで3650回目。

…10年、か。


男:

なんだって?


露店商人:

ふふふ、こちらの話です。

ときに、奥様はお元気ですか?


男:

何故結婚していることを…?あぁ、指輪か。

妻は、10年前からベッドから起き上がることが出来なくなってしまってね…。


露店商人:

それは大変ですね。


男:

まぁね。でも、ずっとベッドに居てくれるから安心ではあるよ。

ずっとそこに「居てくれる」んだから。


露店商人:

ずっと?


男:

あぁ。だって俺が仕事に行っている間、妻が何をしてるのか、どこにいるのか、心配だろう?


露店商人:

浮気されるんじゃないかと気が気じゃない?


男:

はは、妻はそんなことはしないよ。でも物騒な世の中だから。何が起こるかわからないじゃないか。


露店商人:

…そうですね。


男:

さぁ、このナイフを売ってくれ。護身用にもなるし、何より妻の好きなブーゲンビリアが彫り込まれているなんて、運命としか言いようがない。


露店商人:

運命、ですか。


男:

臥(ふ)せってからの妻の夢は、「ブーゲンビリアが咲き乱れる花畑に行くこと」なんだそうだ。

連れて行ってあげたいけど、なかなかね…。


露店商人:

本当に花畑には行けなくとも、いい方法がありますよ。


男:

え?


露店商人:

ナイフの意匠(いしょう)をよくご覧なさい。


男:

…美しい細工だ。


露店商人:

でも、何か足りないと思いませんか…?

大事な大事な何かが。


男:

色が…。

「赤」が、足りない。


露店商人:

ふふふ。


男:

でも、もう、妻は、すっかり血の気が引いてしまって、真っ白なんだ…!


露店商人:

ふふふふ。


男:

ただただ、真っ白なんだ…!


露店商人:

奥様に「赤」はもう無くとも、すぐ近くにあるじゃないですか。


男:

え……?


露店商人:

あるじゃないですか。


…「あ な た の 中」に。









(間)










男:

ただいま。


女:

(おかえりなさい)


男:

ここ10年は、君がずっとここにいてくれるから、俺は本当に安心だよ。


女:

(でも貴方がいない間、寂しいわ)


男:

そうだね、俺も寂しいよ。


女:

(花は買ってきてくれなかったの?楽しみにしていたのに)


男:

今日露店でイイ物を見つけてね…。


女:

(イイ物?)


男N:

俺はナイフのカバーを抜いた。木製のカバーはフローリングに落ちてカツンと音を立てる。


男:

ナイフの表面に彫り物がしてあるんだ…ほら見てくれ。


女:

(ブーゲンビリアね。とても綺麗。)


男:

でも何か寂しいと思わないか?


女:

(色がないからだわ。)


男:

そう…。このブーゲンビリアには色がない。君の好きな赤が。


女:

(いつか、真っ赤なブーゲンビリアの花畑に行きたいわ。)


男:

あぁ。行こう。二人で。


(SE:刺さる音)


男:

…ぐう、ッ…!!!(自分の胸に刺す)


女N:

彼はおもむろに、自分の胸にナイフを差し込んだ。


男:

ぐぐ…っはぁ、はぁ…!


女N:

ナイフを器用に動かし、やがて彼は、自らの心臓を大事そうに取り出した。

ドクンドクンと脈打つソレは、ベッドに横たわる私の胸に…白骨化してしまった私の真っ白な肋骨(ろっこつ)の上に、ゆっくりと置かれた。


男:

…ぁ……して、る…


女N:

穏やかに微笑んだ彼の唇からは、血がコポコポと溢れ出すばかりで、よく聞き取れない。

カシャンと音がして、ナイフが落ちる。

細やかな意匠(いしょう)が施(ほどこ)された刃(やいば)には、真っ赤なブーゲンビリアが、美しく咲き誇っていた。










End.

―――――――――――――――――――



【あとがき】

現実と夢と妄想の境界線が曖昧な話を書きたかったので、『わけわかんないっ!』と思って頂けるのが正解ではありますw

ですが、全くわからないとモヤモヤすると言う方のためにw

以降考察を載せておきますので、読みたい方だけどうぞ。










【考察】

愛する妻が目の前で自殺し、そのショックから夫は夢と妄想の世界に入り込んでしまいます。

妻の自殺は自分のせいだ、自分が殺したようなものだ、という思いから、『会社帰りに、露店で妻が好きなブーゲンビリアの細工がしてあるナイフを買い、それで妻を刺す』という妄想を毎日繰り返します。

ただ、これは妄想なので現実の時間はきちんと経過しています。

『会社に行く→露店でナイフを買う→妻を刺す』を3650回繰り返すということは、現実の時間として10年経過しているということです。(土日も会社行ってんのかよ、とお思いでしょうが、現実で妻が死んだ日の次の日が平日なら、『妻が死んだ次の日は会社に行かなくてはならない』という妄想にとらわれます。だから土日も『会社に行く』という妄想を見ています。)

『(妻は)今はずっとベッドに居てくれるから安心ではあるよ』と言っていることから、自殺した妻の遺体はその日からずっとベッドに安置されていると思われます。

最終的に10年経過していますので、妻はすっかり白骨化しています。

では露店商人は何なのか。

それは描いていませんが、恐らく、最初の一回は本当に露店商人からナイフを買ったのでしょう。妻が死んだ次の日に、本当は弔いのためにブーゲンビリアの花を買おうとしていたのかもしれない。

でも偶然ブーゲンビリアの意匠が施されたナイフと出会ってしまい、それがエンドレスリピートの妄想に入ってしまうきっかけになってしまったのかもしれませんね。