無心の幼子への愛描く 『おらが春』
https://www.sankei.com/west/news/130924/wst1309240063-n1.html 【無心の幼子への愛描く 『おらが春』】 より
五十二歳の四月に結婚した小林一茶だが、五十四歳の四月には長男が生まれるものの、一月足らずで死んでしまう。その後、夫婦はぎくしゃくした時期を乗り越え、五十六歳の五月四日に長女のさとが誕生。『おらが春』は、その翌年の一年間の句文集で、さとの愛らしい姿が活写されている。
初めての誕生日を迎えた頃から、“てうちてうちあはは、天窓(おつむ)てんてん”をしたり、風車をほしがるので与えると、すぐさま“むしやむしや”しゃぶり捨て、つゆほどの執着もなしに、ただちにほかのことに心を移す。そして、そこらにある茶碗を壊しては、それもすぐ飽きて“障子のうす紙をめりめりむしる”。「よくやったよくやった」と一茶が褒めると、本気にして“きやらきやら”笑い、ひたすらむしる。
そんなさとを一茶は、「心のうちに一点の塵もなく、名月のように“きらきらしく”清らかに見えるので、“迹(あと)なき俳優(わざをぎ)”を見るように、本当に心のしわを伸ばした」と評する。無心なわが子の姿を、あとに続く者のない名優の演技を見るようだ、というのである。
さとの生き生きとした姿もさることながら、茶碗を割っても障子紙を破っても、怒らぬどころか、感動して見ている一茶の姿からは、いかに彼がこの娘を愛し、また、作家の感性を刺激されていたかが浮き彫りになって、心を打たれる。
外で子どもが踊る声がすれば、小椀を投げ捨て、声を上げ、手まねして喜ぶさとに、「いつか、この子も振り分け髪にして踊らせてみたら」と夢想する一茶だったが、さとは誕生日の一月半後、数え年二歳で死んでしまう。
“露の世は露の世ながらさりながら”
さとの死をよんだ一茶の句は、まさに慟哭(どうこく)としか言いようがない。
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【おおつか・ひかり】エッセイスト。昭和36年、横浜市生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。著書に『愛とまぐはひの古事記』、『源氏物語』全訳(六巻)など。
http://www.akutami.ac.jp/akutami_2nd/cat06/index06.php 【今月の俳句】より
毎月ごとに俳句を一句選び、今月の俳句として紹介します。 毎朝、クラスのみんなで音読して、身近な自然を詠んだ俳句に親しみ、自然と人とのかかわりを大切にする心を育みます。 今年も、小林一茶おじさんの俳句を通し、改めて日本の自然の美しさや、けなげに生きている身近な生き物たちへ寄せる思いに触れてみましょう。 幼い目と耳とこころで、そんな日本のよさに気づいていけたらと願っています。
4月の俳句; 「さくらばな どっちに寝ても 手の届く」 一茶
幼稚園を縁どる、明るく優しいピンク色の桜が一気に満開。
一年のスタートを祝う桜です。
その花びら一枚一枚を誇らしげに広げ、花手毬のように重なりながら咲く見事な桜です。桜は、冬の厳しい寒さで花の芽が目覚め、寒さが厳しければ厳しいほど開花が早くなると聞きました。咲くのを待ち構えていたのでしょうね。
春風に吹かれ、満開の桜の下の草に寝転んで花を見上げたら、手を伸ばせばその枝に触れ、花に吸い込まれ優しさや希望に包まれそうです。
「何かいいことがありそう!」
「きっと、あるはず!」
そう応援してくれる日本の桜です。
今年も、身近にある花や草、小さな生き物から四季を感じ、生きる幸せや喜びを小林一茶おじさんの俳句から気付き、味わっていきましょう。
5月の俳句 「草の葉や つばめ来そめて うつくしき」 一茶
青葉若葉の新緑が目にやさしい5月を迎えました。
山の木々の鮮やかな緑色だけでなく、身近な路地の草花の葉も、青々としてつややかです。
緑は目の疲れを癒すといわれますが、優しい若葉の色は心も和らげ、新たな場で「やってみよう!」と意欲を応援します。
そんな5月になると、今年もつばめさんがやって来て飛び始めました。
雑草の若々しい青葉をかすめながら飛ぶつばめさんの様子は、何気ない景色ですが、その中にイキイキとした力や新たな命の誕生という希望の力が伝わり、心を動かされます。
そんなフレッシュな気持ちで迎える、新緑が美しい5月の幼稚園です。
6月の俳句 「蛍呼ぶ 後ろにとまる 蛍かな」 一茶
梅雨入り前の少しひんやりした夜、各地の清流に今でも蛍が飛び交います。
蛍が住める水辺を守って川が浄化されたり、自然回復の取り組みで、蛍の名所が観光スポットになっています。
「ホッ・ホッ・ほーたる来い!こっちのみーずはあーまいぞ・・・」
呼びかけられてもお構いなしに、明るく光を放ったりすーっと消えたり、光の軌跡が幻想的です。
ふと気づいたら蛍を呼んでいる自分の後ろに、ちゃんといたりして・・・・。
一茶おじさんの時代から蛍狩りは、初夏の風物詩として、みんなの楽しみだったのでしょうね。
今年も暑い夏がやってくるのでしょうか。
ほのかな優しい蛍の光に、ひと時の安らぎを感じる6月です。
7月の俳句 「笹葉(ささは)ぶね 池に浮(うか)して 星迎え」 一茶 梅雨の中休み、夏の夜空を仰ぐと、やはり七夕伝説の星を探したくなりますね。
一年に一度、天の川をはさんで7月7日に出会うという織り姫星(こと座のベガ星)と彦星(わし座のアルタイル星)の架け橋となったのは、かささぎという鳥でした。
鏡のような静かな夜の池に映った七夕の星を、小さな笹ぶねを浮べ、迎えましょう。そっとこの笹ぶねに乗り、ゆっくり揺られ天の川を渡ってみましょう。
一茶おじさんの空想的で童話のような世界・ゆめが伝わってきますね。
星を仰ぐと、小さなことにドキドキしている自分を忘れ、大きなゆめを描ける7月です。
8月の俳句 「ざんぶりと ひと雨浴びて 蝉の声」 一茶
梅雨が明け、本格的な夏を迎えました。元気いっぱいのお日様に、今年も暑い夏になりそうです。
こんなに暑いと大気の様子では夕立どころか、災害にも結び付くような大雨になることもあるこの頃です。
気象情報に敏感でいたいですし、注意が必要ですね。
今日も土砂降りのような夕立が、ざんぶりザブザブ!大粒な雨が一降り。
ひと雨過ぎると、気化現象で少し温度が下がりちょっと涼しげな夏の午後です。
そう思っているうちに、「待ってました!」とばかり、蝉の鳴き声が雨音に負けないくらいの激しさで、木々に響きます。
続いて、子ども達も網と虫かごを持って、蝉を追いかけます。
そんなうるさいくらいの蝉の声を聞きながら、夏には夏の自然を味わい、楽しみたい夏休み・8月です。
9月の俳句 「とんぼうや 犬をてんてん うってとぶ」 一茶
今まで経験した事のないあの暑さから逃れ、やっと朝や夕方には、少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。
乾ききった草花に、恵みの夕立が雨をもたらすと、一斉に蝉の声と共に、トンボ達が群れをなして飛び交います。
麦わら帽子で捕まえようと追いかけても、うまくすり抜けられてしまいます。
さらに、駆け回る子犬の頭を相手にツンツン!転々と突っつきながらあそぶトンボ達。
「かわいいな!」
トンボと子犬の追いかけっこに思わず、笑みがこぼれる一茶おじさんです。
長い夏休みも終わり、幼稚園にまたかわいいみんなの笑顔が戻ってきます。
無邪気に、友だちとなかよく体いっぱい走り回る元気な姿で、2学期を始めましょう。
10月の俳句 「どんぐりや さんべん回って 池に入る」 一茶 吹く風に射す光に、すっかり秋の気配の10月です。
9月の台風で、まだ緑色のまま落ちてしまったどんぐりの実もありましたが、幼稚園をとり囲むあべまきの木や、山の木々に秋の実がみのりました。
そんなどんぐりが、山から転がり落ちてきました。
♪どんぐりころころどんぶりこお池にはまってさぁ大変・・・
可愛い歌声が保育室から聞こえてきます。
山の木からころころ転がったどんぐりは池に落ち、ドジョウのおじさんに出会うのでしょうか。
幼稚園の子ども達のポッケには、どんぐりの実が宝物のように大切にしまわれています。身近な秋の自然の贈り物は、時にお砂場でごちそうの材料や飾りに。並べて大きさを比べたり数を数えたり。大小可愛いどんぐりの実が、子ども達のあそびを広げる秋、10月の幼稚園です。
11月の俳句 「夕やけや 唐紅(からくれない)の 初氷」 一茶 朝夕はすっかり冷え込み、夏、青々としていた木々の葉っぱも、赤や黄色に色づき、秋の深まりを感じる季節となりました。
古くから11月は「霜月」と呼ばれ、「霜の降る寒い季節」と言われます。
一茶おじさんの住む信濃(長野県)の標高の高い所では、霜が降りるどころか、初氷が張るほどの冷え込みがあるのでしょう。
中国(唐)から渡来した鮮やかな紅色のような夕焼けが、今年初めて張った氷を照らし真っ赤に染めています。その風景が珍しいだけでなく、心に残る美しさに、今日という一日の終わりを迎え、素直に感謝と幸せを感じます。
今年のカレンダーも残り2枚。過ぎ行く時間の速さを感じながら、一日一日の子ども達の成長や、周りを包む一つ一つの景色が愛おしく感じる11月の幼稚園です。
12月の俳句 「満月を そっくりおいて 冬ごもり」 一茶
すっかり冷え込み、雪に覆われた山や野の生き物たちは冬ごもりの季節を迎えました。
私たちも暖かくして、心も体もほっこりさせゆっくり休む12月・師走の夜です。
そんな夜、寒々とした中でふと見上げると、深い宇宙の色に吸い込まれそうな圧倒的に澄み切った夜空です。
そこには、冬の満月が美しく冴え渡っています。
その美しさに月見だったり、特別な日として祭事が行われたり、不思議な力があるとも言われる満月も、この季節は、そっとそっくりそのままの美しさを空に置いて輝いています。
無事に過ごせた一年を振り返りながら、静かにふける12月の満月の夜です。
1月の俳句 「散る雪も 行儀正しや 今朝の春」 一茶
新年 明けましておめでとうございます。
清々しい気持ちで新しい年の初め、元旦の朝を迎えました。
新たなスタートラインに立つような緊張感と、気持ちを切り替え、なりたい自分・変わりたい自分・やりたい事に向かおうとする思いで、気持ちも高ぶり、背筋もピンと伸びます。
そんな熱い思いのお正月の朝。
今朝から降る雪も、穏やかに行儀よく真っ直ぐに散り落ち、静かに降る様子は、お正月の改まった気持ちにピッタリです。
今年も、みんなの願いがかなう、健康で明るい平和な一年でありますように。
2月の俳句 「わんぱくが 袂(たもと)よりでる 氷柱(つらら)かな」 一茶
冷え込みの厳しい日が続くものの、幸いに氷点下になったり、積雪を見ることはなく、大人にとっては無事社会生活を送ることができ、ホッとするところです。
しかし、子ども達にとっては雪が降っての雪あそびや、凍った水たまりでの氷あそびが待ち遠しい真冬の日々です。
時代は違っても、元気な腕白たちにとっては、冬ならではの軒先に下がる氷柱は自然が作る珍しい宝石のような宝物になります。
家に持ち帰ろうと大切に着物のたもとに入れたんでしょうね。少しずつポタ・ポタと、解け始めてはいないかしら・・・。
つららを見るには積雪が解け始め、再び凍ることでできるもので、今の気象状況の岐阜の市街地では難しいかもしれませんね。自然が作る美しい現象に興味・好奇心いっぱいの子ども達の姿を大切にしたいです。
冬には冬の楽しみ・あそびを思い切り味わいたい、2月の幼稚園の子ども達です。
3月の俳句 「門出よし 山もくりくり 雪とけ」 一茶
再び廻ってきた春は、新たな世界へ飛びたつ門出の春です。
見知らぬ場所や初めてのなかまとの出会いはドキドキし、勇気がいりますね。「今のままがいいな!」「淋しいな!」って考えてしまうこともあるかもしれませんね。
でも大丈夫!旅立つ新たな一歩を踏み出す準備は万全にできているから、心配はいらないですよ。丈夫に健やかに育った体は勿論、やってみようとする強い心・人に気遣いの出来る優しい心の準備もできました。
電車の出発ではありませんが、「出発OK! 旅立ちOK!」「門出よし!」です。
周りの山々の雪が解け「春がきたよ!」と、クリクリって喜んでいるような山並みが、みんなの門出を祝ってくれています。
さぁ、胸を張って、次のステージへ一歩踏み出しましょう。
一茶おじさんの俳句を通し、日本の四季折々の自然の美しさ、そこにけなげに生きる動植物への温かいまなざし、幼な子達のあどけない様子に癒され励まされてきました。そんな美しい言葉に触れ、素直な心・ピカピカな心を育てていきましょう。