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在宅ひとり旅/小坂ひとみ

2020.07.11 02:58


6月21日

今日は久しぶりに週に一度のアルバイトの日だった。

車でバイト先に向かっていると、観光客らしき人々の姿をたくさん見かけた。なんだか懐かしささえ感じる。運転しながら横目で彼らのほうを眺める。

電動自転車をこぎながら大はしゃぎするカップル、一人でもくもくと歩いていくバックパッカー、歩道の脇にしゃがみ込んで何やら相談し合う若い男の子3人組…

いまだかつてないほどに楽しそうに見える。ま、まぶしい!!!

鶏を飼いはじめてから、「あらっ?これって私、今後遠出なんて出来ないんじゃなかろうか?ましてや海外旅行なんて…」とは思っていた。

私の1日のルーティンで今現在必須項目となっているのが

AM 5:30 朝の餌やり

PM 3:00 午後の餌やり

なのである。遠出どころか、日帰りのお出かけすら難儀。

実は「旅」というものに心の底から興味が高まったのはここ数年のことで、それまでは「一人旅をした」とか「海外に行った」という事実がただ欲しいがために旅行していた感じがある。若かったし。

それが少しずつ年齢を重ねて行くにつれて、自分の生活をほぼ100%自分の手で組み立てられるようになってくると、馴染みのない地域の人々の生活というものを見物するのがめちゃくちゃ面白くなったのだった。

豊島で飲食店をしていた数年は、毎年冬の閑散期に「冬眠」と称して長期休暇をとり、何かと旅に出ていた。いつか行ってみたい場所、また訪れたい国がたくさん浮かぶようになった。

私は旅先の観光名所めぐりよりも、現地のふつうのスーパーめぐりの方が激しく心躍るタイプの人間なので、無目的に歩き回って土地勘を掴んでみたり、宿泊先のキッチンで自炊、みたいなことがしたい。地味だが楽しい。

思えば、東京の実家暮らしから豊島に移り住んで最初の1年は、ずっと旅行をしているような感じがしていた。電車やバスではなく船を使った移動、商店での買い物、知らない食材、すぐそばにいつでも海。

それが少しずつ馴染んで親しんで、気がつけば「住処」になった。

自分を取り囲む物事に未知である割合が多ければ多いほど、旅先のような新鮮さがあるのかもしれない。

ならば、と思う。今のこの生活も、旅のようではないか。それも基本孤独なひとり旅。

日ごろ会話という会話はほとんどなく、週末に帰ってくる夫と話をするくらいなので、思ったことは頭の中の独り言として、羽毛のようにふわんふわんと積もったり吹き飛んだりしている。たまに飼い猫や飼い鶏に向かって普通に話しかけたりもするが、彼らは言語が違うよその国のものたち。けれどたまに心は通う。

今住んでいる地域、ひとりで過ごしてみると知らないことだらけだし、鶏の世話も畑の世話も、とてつもなく未知だ。

うん、似てる似てる。



小坂ひとみ
1986年生まれ。2012年に東京から瀬戸内海の豊島に移住。現在は小豆島在住。夫と猫とともに暮らしている。