ブラッシャー天体写真儀
失われた写真乾板
ブラッシャー天体写真儀(口径20cm、焦点距離120.3cm)は、1896年(明治29)の日食観測のために、東京天文台がアメリカのブラッシャー社から購入した天体写真儀です。購入価格は2893円(この価格は鏡筒のみ)でした。現在の貨幣価値に換算すると、5000万〜6000万円というところでしょうか。レンズは、へースチング型のダブレットです。しかし、12年後に非点収差が大きいことが判明し、再研磨を東京天文台がブラッシャー社に要求しました。寛大にもブラッシャー社は受け入れましたが、再研磨ではなく、口径20cm、焦点距離127cmのペツヴァール型のダブレットレンズとの無償交換で応じました。
ブラッシャー天体写真儀で撮影された写真乾板は、1945年2月8日の東京天文台本館火災で全て失われたと思われていましたが、つい最近、古い写真乾板が残っていたことが話題になりました。しかし、これは1899年~1917年に撮影された441枚のみです。当時東京天文台に在籍していた廣瀬秀雄氏は、「天文台本館は終戦の年の2月8日に焼失し、ブラッシャーその他のレンズで得られた写真原板もすべてなくなっていた。ただし、本館から200mの観測室にあったブラッシャー天体写真儀は無事であったが、使用できる写真乾板は全くなかった。」と書いています。(小川茂男,天体写真NOW No.4,誠文堂新光社,1978年,P.62)1941年頃に撮影された写真乾板も同様に失われたと思われますので、今回ご紹介する写真は、とても貴重なものになります。
上の写真は、東京天文台のブラッシャー天体写真儀で撮影された、NGC2422(M47左側)とM46(右側)です。撮影された年月日は分かりませんが、伊達英太郎氏天文写真帖の1941年(昭和16年)のページに保存されていました。撮影者は廣瀬秀雄氏です。データとして、7h35m -14.5°(1925.0)Scale 1cm=27'.06が記入されています。写真の上が北、下が南、左が西、右が東です。
19h40m +11°(1925.0)”Triple Cave" in Aquila 中央下より輝星はγ Aquila Scale 1cm=27'.06
写真上が北、下が南、左が西、右が東
伊達英太郎氏天文写真帖の該当ページです。
この写真には詳しいデータは記入されていませんが、さそり座の南の銀河のようです。右上がM6、中央下がM7です。暗黒星雲が入り乱れて見事です。写真上が北、下が南、左が西、右が東です。
(参考文献)
中桐正夫,ブラッシャー天体写真儀の来歴,国立天文台 天文情報センター アーカイブ室新聞2010年2月12日第283号
(2枚目以降の写真は、伊達英太郎氏天文写真帖より)