観念のはたらき ―新しい自分― ~野口晴哉先生講義録~
《野口晴哉講義録より》
昭和30年正月潜在意識講座
観念のはたらき ―新しい自分―
前文略
新しい自分を作る場合も同じです。最初にこれから作ろうとする新しい自分を、自分で想像してみることが大事です。「私はこういう自分になりたい」という自分の好みの自分を作ってみる。
大抵の人は今までの自分と反対の自分であろうとしで自分のこういうところが嫌だから直したい"と思うけれども、其だけでは好みの自分にはならない。
自分がなろうとする目標を、まずはっきりさせることが一番大事で、二番目は、目標が決まったらそれを実現した自分を思い浮かべて、それが似合うか似合わないかよく考えて、もし似合うと決まったら、その特徴を紙に書いてもいいし、言葉で言ってもいいのです。
例えば「どういうことに出会っても、心を乱さないでどっしりと構えていられる。しかも細心に気がすべてに行き届いて、ときには自分の不利益を顧みずに人に親切にすることができるという面もある」というように、一応口に出して言ってみる。そして、それを幾日か繰り返すのです。
一度では駄目です。
そうすると空想のなかで、これから作る自分のスタイルが出来あがるのです。そらでさらっと言えるようになると、口で言わなくても、新しい自分の全体がすうっとつかまえられるようになりますから、そうなるまで繰り返すのです。
そして、これから作る新しい自分が、すうっと思い浮かべられようになったときから、次の「認める」という問題にかかるのですが、ここまでは設計の段階です。この設計がいいかげんですと、゙今日は少し人に親切にしよゔと思っても、明日になると"親切もいいが多少の利益も得よう、損してまでやることはない"などと思うようになる。親切と利益は矛盾しているのです。
だから自分がこれからなろうとする自分の設計をよく覚え込んでしまうように、声に出して繰り返すのです。紙に書いてもいいが、それを読んではいけない。書くのはただ考えをまとめるために書くのですから、書いたら捨てて、翌日また書くのです。
自分の頭の中に、これからの新しい自分が、すっと浮かぶようになるまで書くのです。そしでこういう自分になろゔと思うこの設計が出来あがったなら、"これからの自分は、そういう自分になるのだ"と決心するのです。決心が早すぎて目標も決まっていないのに、゙新しい自分を作るんだ゙と言うけれども、決心は、きちんと設計ができてからするのです。
決心したら、「自分は今から、自分の設計した新しい自分に極めて楽々となってゆく」と、二、三日同じことを続けて言うのです。そして昨日は気がつかなかったことに今日は気がついた。また昨日気になったことが今日はあまり気にならないというように、自分で決めた方に向かっている自分を認めて、自分に言い聞かせて、思い浮かべるという心だけの世界でしばらく遊んでから認めていけばいいのです。
そして、自分の設計した自分を、ときどき頭に描くことを一ヶ月やって、あとは忘れる。一ヶ月以上やってはいけない。できれば一週間ぐらいのうちに終わらせて
そのまま気を抜いて、設計した自分をさっと忘れてしまうのです。忘れてしまうことは難しそうですが、思い出すことを二、三日やらなければ、だいたい忘れてしまうものなのです。
頭は重宝にできていて、頭が忘れた頃から変わってきて、自分の設計した新しい自分に近づいていることに気がつく。気がついたらもう一回再確認してみる。
そして、"ここはよくなったが、ここはまだ駄目だ"と思ったら「ここが、もう少し変わると、モット立派になるんだがな」と、ちょっと自分に言ってみる。言って忘れている。
そして、一ヶ月経ったらその動作をもう一回やっておいて、それから先はこの問題には全然触れない。
これは観念を自分に実現していく方法です。自分というものがあっては駄目なんです。本来自分というものはないんだということが前提でなくてはいけないのです。
中略
新しい心を作ると、古い心は取り去られます。対立するものではないのです。それは光と闇のようなものであって、新しい光が入ると自然に新しく変わってしまうのです。なぜかといえば、新しい自己とか、古い自己と言って、捨てたつもり作ったつもりなっているけれども、それはもともと空っぽのものです。
私はこの講習会を通して、新しい自己の作り方を説明してきましたが、私の言いたいことは、人間はどのような自分にも、自由になり得るということを自覚していただければ、それでいいのです。
平成11年5月1日発行「月刊全生」より引用。
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by Hitomi スマホ