本来のはたらき ~野口晴哉先生講義録~
《野口晴哉講義録より》
本来のはたらき
―前文略
人間は自分の体を自分でつくってきたのです。生まれると自分で必要なものを集めて、親の体の中で自分の体をつくってきたのです。
そのつくったのは誰かというと、自分なのです。
胡瓜と茄子と同じ土に入れても、茄子は紫になるし、胡瓜は緑になる。人間もその元になる体の要求というものの方向にあったものを集めていって体をつくってきた。
だからつくられたこういう見える体は物質を集めたその結果であって、そういう物質の前にあった見えないもので集めてきたのだから、それらを集めてきた体の力の方が人間の実質であると言わなくてはならない。
そういう自分の要求で体をつくってきた。だから、怪我をしても自分で治る。悪いものを食べても自分で吐いていく。栄養が足りなくなれば食べるが、余分なものは捨ててしまう。
だから赤ちゃんだって、白い乳を赤くしたり、黄色くしたりすることができる。
何故かというと、それは本能の術だからです。知識ではどういうものが必要か、必要でないかというようなことも分からない。けれども自分の体ではちゃんと分かる。
だから、同じ食べ物を食べても、大便にするものもあれば、血にするものもある。そういうことは習ったのかというと、習っていないのです。
産まれた時から私の家にいる猫が、お産をすると簡単に産んで、自分でちゃんと袋も破れば、臍も切れば、ちゃんと始末までするのです。そんなことをどこで習ったのかと思っても、その猫は学校へ行ったこともない。
ずっと小さいうちから私は見ていたのです。だから、その猫はお産の学校なんて行かなかった相違いない。それでもお産をする方法は体に備わっている。
それを人間は学んだり習ったりする方に心の重点を置いてしまってので、そういう知識で生活を行っているのですが、体の管理ということは知識ではできない面がある。
始めからそういう自然の力でやるようにできている。だから、知識で健康を保とうという考え方は可笑しい。
中略
この間も、食べ物は丁寧に噛むことがいいと言って、丁寧に一生懸命噛んでいる人がいた。ただ、そういうことをずっと長い間やると、よく噛まないとお腹が痛むようになる。お粥ばかりを食べていると、お茶漬けを食べただけでお腹を壊すようになってしまう。
だから丁寧に噛むことは弱い胃袋のまま栄養を保つのにはいいけれども、胃袋を丈夫にする方法ではない。
写真
by Hitomi デジカメ