体は嘘をつかない ー体に現われる心理現象ー ~野口晴哉先生語録~
《野口晴哉語録より》
体は嘘をつかない
ー体に現われる心理現象ー
風でものが落ち、そのために皿が割れてしまったという人がおります。彼は私の目を見ないようにして言っております。自分で皿を落としたのでしょう。人間は元来正直なものです。それ故、嘘を言おうとすると、体に汗が出たり筋が硬張ったりして、平素と違う姿勢や動作をしてしまい易いのです。
中略
心は体に現われる性質をもっておりますから、口から出る言葉にききほれるより、その人の意識していない体の表情をよく見る方が本当のことがよく判ります。
恥ずかしいと赤くなってしまうのも、怖ろしいと青くなってしまうのも、心の体に現われる性質によるものです。それでも口から出る言葉は「怖いことなどあるものか」と言ったりする。しかし体は正直です。平気だと言っても、肩が硬張っていたら平気なのではありません。
怒った人のみぞおちは硬くなっておりますが、硬ければどんなことでも癇癪の材料にしてしまいます。だから心窩に硬張があれば他に怒っているのではなく、自分の体の平衡運動をしていると見るべきでしょう。これに誘われて同じように怒るということは可笑しなものです。
私達が日常何気なしに使っている言葉の中にも、体のいろいろの動作を表情のごとく使ってているものが沢山あります。腹が立つとか、目に角を立てるとか、胸を痛めるとか、かくのごとく人体が心を表現シテイルことを皆知っているのであります。
恥ずかしいことに顔を赤くすることを同一の意味に受け取っております。身の毛がよ立つといえば怖ろしいことを想います。肩をすぼめる時と方を張る時は人間そのものまでが違ったように感ずる位、運動筋の心理表情は実感を持っております。
体に現われる心を読むことを知ると、人間は正直であることが判ります。嘘をつくのでも大変な努力によるものです。指導的な立場にある人は体の表情を読むことを会得して、人の心の善良さを知っておくことが必要でしょう。
口は重宝で白を黒と言うことも出来ますが、それでも言いたくて言えないことも少なくはありません。言ったことだけ聞いていたのでは判らないことが沢山あります。
言えないことを察しられるようにならなくては、人の心に触れられないのでありますが、察するということはひとりぎめになり易いものです。そこで矢張り体の動きを読むという裏打ちが要ります。
また、同じ恥ずかしいのでも人によっていろいろ表現が違いますが、この相違は体運動特性によるものであります。
写真
by Hitomi デジカメ