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#061.読みやすい手書き楽譜の書き方 1

2020.07.20 21:00

最近は誰でも手軽に出版されているものと同じような楽譜を作れるようになりました。

けれど、「なんか読みにくい…」と感じる残念な楽譜に出会ったこと、ありませんか?出版製本されている楽譜と同じようだけど、何かが違う。


出版譜のようなフォントを使って作られた印刷譜なのになぜか読みにくいのは、楽譜を書く上でのいくつかの空間バランスや位置のルールが守られていないからなのです。例えば、ざっくりした感じで言うと、器楽の場合は強弱記号は五線の下に置きます。テンポに関する指示のほとんどは五線の上、練習番号も上にあります。もしもこれらの位置が逆になったら、多分多くの人がいろいろな情報を見落としてしまう非常に読みにくい楽譜になることでしょう。

何という読みにくさ。


我々は楽譜の書き方に対して具体的なルールを知らなくても、たくさんの楽譜を見ているうちに「そこにはそれが書かれている」と無意識に予測して読んでいるために、予想外の位置に予想外の記号が書かれていると、見落とし、見間違えなどのトラブルを起こしてしまうのです。読みにくい楽譜は読むための(本来不要な)エネルギーを使うために、演奏クオリティを左右してしまう可能性すらあるのです。


僕が楽譜を書くようになったのは音大受験を目指すようになってからです。「書くようになった」なんてエラそうな言い方をしましたが、実情は音大入試の課題に「聴音」があったからです(聴音の試験がない音大や専攻もあります)。


聴音とは、聴こえてきたメロディや和音を楽譜に書き表す試験で、僕はとてもとても苦手でした。言い訳がましくなりますが僕は中学1年生で吹奏楽部を始めたのをきっかけに音楽に関わるようになったため、楽譜が読めないままトランペットを演奏していました。そのまま中学生の間は正確に楽譜を読めないまま、新曲の楽譜をもらうたびに音源を聴いて覚え、楽器を演奏するという荒技で乗り切りました。


そんなレベルの人間が高校1年生になって音大目指すからといきなり聴音をやってできるはずもなく。本当に苦戦していたので、少しでも完成度を上げるためには「誤解されないキレイな楽譜を素早く書ける」スキルを上げる努力も必要だと考えました。そこで出会ったのが仙田尚久著「楽譜の書き方」(音楽の友社)でした。

多分この本はもう絶版になっているとは思うのですが、当時まだ楽譜浄書ソフトがなかった(もしくは一般的でなかった)時代に使われていた「写譜ペン」で楽譜を書くための解説本で、巻末に鉛筆書きについても触れていたために購入しました。


写譜ペンで書かれた楽譜、と言われてもちょっとピンとこないかもしれませんが、吹奏楽ですとミュージックエイトの古い時代の楽譜、と言えばわかるかもしれません。finaleという楽譜浄書ソフト(後でまた出てきます)にも、ジャズフォントというのがあって、写譜ペンで書いたような楽譜を作成することもできます。ビッグバンドの楽譜などは写譜ペンで書かれたものが今でも結構ありますね。


この本を見ているうちに鉛筆書きだけでなく写譜ペンを使った楽譜を書いてみたくなりました。


中学生の頃から何を買うでもなく横浜にある少し大きいヤマハに毎週のように通い詰めて何時間も滞在し、あらゆるものを物色する迷惑な人でした。そこに写譜ペンが売ってるのも当然知っていたので、高校生の頃、珍しくお金を払って購入したわけです。


あ、万引きはしてませんよ。そうじゃなくて楽譜を立ち読みしたりショーケースの中にある楽器をガラスに貼り付いて眺めていただけです。悪いことはしてません、迷惑なだけです。

写譜ペンはラインマーカーのペン先が真っ直ぐになったような形をしていて、引く角度で細くなったり太くなったりします。これを使って、玉や連桁を太く、棒を細く引くことができるわけです。


これが慣れるまでが大変。全然上手に書けないんですね。なのでたくさん書いて慣れていくしかなかったわけですが、こういうのすごい楽しくて、頼まれてもいないのに高校時代には出身中学の校歌のパート譜を書き直したり、アンサンブル楽譜の紛失したスコアを書いてみたりもしました。

しかし、この楽しさが一気に失せてしまう瞬間がありました。ミスです。書き損じ。

鉛筆だったら消しゴムでチャチャっと消せるけれど、写譜ペンはインクなのでそうもいきません。そこで、同じサイズの五線紙を切り貼りして書き直す方法を取るのですが、これが自分としてはとても面倒臭い。

料理は好きだけど洗濯と掃除が大嫌いなのと同じです。そういう性格なのです。

楽譜を書くこと自体そこまで慣れていなかったので、ミスを連発していくうちにモチベーションが下がり、いつしか使わなくなってしまいました。

その頃はもう音大生で、1996年頃だったと思いますがfinaleというPCソフトで出版譜のような楽譜を作れると友人から聞き、いてもたってもいられれなくなって、大変お恥ずかしい話ですが両親におねだりをしてPCごと買ってもらいました。ちなみにこの当時、finaleはMac専用ソフトだったために、20年以上もの間私はApple製品しか使ったことがないのです。Windowsは文字の入力の時点で行き詰まるほど操作知識がありません。ひらがなをカタカナにする方法を教えてください。

さて、このfinale、案の定ドハマリして、頼まれてもいないのに、そこらじゅうにある出版譜を入力しては印刷するという意味不明な行為で楽しんでいました(写譜ペンの時と何ら変わっていない)。しかし、そのうちに書き写すだけでは納得できなくなり、自分で編曲してみたくなりました。finaleは入力すると再生できるので完成形のイメージがつきやすかったというのが編曲をするようになった最大の要因です。


編曲のノウハウもないまま金管五重奏の楽譜を作りっては大学の友人を巻き込んで演奏させ、あまりひも酷い編曲に自ら呆れ返る、そんなことを何度も繰り返していたものですから本当に迷惑な人でした、ごめんなさい。


さて、編曲の話は置いておくとして、finaleを使っていてひとつ気になったことがあるのです。それが、冒頭に書いた「なんか読みにくい…」楽譜になってしまう点です。


理由はすでに書いたとおり、空間バランスや記号の位置がルールに背いているから。

読みやすい楽譜にするためには視線の流れにストレスなく情報が流れ入ってくる状態を目指すことが大切です。


別に浄書屋さんを目指すわけでもありませんが、楽譜のミスを訂正したり、変更するなどメモ的に書いたり、理論を学ぶ時やパート内で基礎練習を考えるなど、音楽に携わっていると結構な頻度で楽譜を書くことがあります。また、僕が中学生の時には吹奏楽コンクールで演奏する楽譜は、ちゃんとした出版譜があるにも関わらず、自分のパートを写譜(楽譜を書き写すこと)をしなければなりませんでした。これを実践している学校、結構多いように感じます。確かに楽譜をしっかり見て、丁寧に全部を書き写すことで見えてこなかったものが見えてきますので、悪いことではないと思います。


写譜をするのは良いのですがその楽譜を見てみると、印刷譜のフォントと同じようにト音記号や旗、四分休符を書いている「一体何時間かけているのだろうか」というものや、全部シャープペンシルで書いていて薄くて細くて読めない楽譜だったり、定規を使い過ぎることで製図になってしまったもの、冒頭で書いたように空間バランスや位置のルールが適当になっている楽譜などに出会うことが大変多いのです。


そこで今回は、鉛筆書きによる楽譜の書き方について解説してまいります。

…と思ったのですが前置きがあまりに長くなってしまったので、具体的には次回お話します。


楽譜は音楽に携わる方みなさんに関係することですから、トランペット以外の方にもぜひお付き合いいただければ幸いです。

ぜひぜひこのブログの存在を広めてください!


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)


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