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エクソソーム(Exosome)とは?

2020.08.09 01:39

https://www.cytivalifesciences.co.jp/newsletter/201707_exosome.html  【エクソソーム(Exosome)とは?】 より

細胞間のコミュニケーションに細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)が使用されているということが知られています。そのサイズや生物学的機能からエクソソーム、MV(microvesicles)などに分類され、中でも直径50~100 nmの小胞はエクソソームと呼ばれ、近年生体内での機能の解明が急速に進んでいます。

急速にすすむエクソソーム研究の中でも、がんとの関連は特に注目されています。がん細胞では正常細胞よりも20%多いエクソソームが放出されることが知られいるため、がん組織においてエクソソームは重要なツールとして位置付けられていることが推測されます。また、がん細胞由来のエクソソームには固有のマイクロRNAや表面の特異的タンパク質、DNAなどが含まれていることがわかっています。エクソソームはがんがその兆候を示す前、初期の段階から放出されていることから、がんの早期発見マーカーとして、またリキッドバイオプシーの対象として実用化に向けて研究がすすめられています(下図ならびに「がんマーカーとしてのエクソソーム」に詳述)。また、間葉系幹細胞から産生されるエクソソームにはがん抑制効果が見られ、研究対象として注目が集まっています。

以下では現在注目されているエクソソーム(Exosome)の特長を概説するとともに、 その解析方法をご紹介いたします。

がん細胞の早期発見モデル がん細胞由来のエクソソーム中に含まれるマイクロRNA をがんのバイオマーカーとして使用するという試みがされています。

がん細胞の早期発見モデル

がん細胞由来のエクソソーム中に含まれるマイクロRNA をがんのバイオマーカーとして使用するという試みがされています。

※本図は国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 落谷孝広先生にご提供いただきました。


2つのエクソソーム検出・解析方法

エクソソームの解析方法は現在のところ2つに大別できます。一つは血、腹水などの体液試料や細胞培養液からエクソソームを分離・精製した後、エクソソームによって輸送されているタンパク質・脂質・RNAを解析する方法で、もう一つは直接、体液中からエクソソームを検出・解析する方法です。

体液試料からの分離・精製には、超遠心や限外ろ過などの手法が広く利用されています。ただし、この手法の場合、性状・濃度が類似した他粒子(エンドソーム等)や、IgMなどの高質量のタンパク質も含まれるためエクソソームだけを見ることが難しいとされています。そのため、エクソソーム表面に発現するテトラスパニンファミリー(CD63, CD9, CD81)やエクソソーム内に存在するHSP70やRabタンパク質ファミリー1)を利用したアフィニティー精製と組合せて実施されることもあります。最終的に分離・精製したサンプルがエクソソームであることを確認するために動的光散乱法や電子顕微鏡でのサイズ確認や、前述のテトラスパニンやエクソソーム内に存在するHSP70ファミリーやRabタンパク質を標的としたウェスタンブロッティングが行われます。

エクソソームの分離・精製なしに体液中から直接検出する手法として、フローサイトメトリー2)、マイクロアレイ3)や表面プラズモン共鳴4)(細胞表面分子とのインタラクション)などの技術を利用したさまざまなものが研究されています。大腸がんの診断を目的とした、CD9とCD147の共陽性エクソソームを光増感剤ビーズも用いて高感度(血清5 μl~)に検出するExoScreenと呼ばれる手法も存在します5)。これらの手法は、主にがんの領域で、内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検(バイオプシー)に代えて、血液などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行うリキッドバイオプシーと呼ばれる低侵襲性の技術として期待されています。

参考文献

Taylor DD, Gercel-Taylor C. Exosomes/microvesicles: mediators of cancer-associated immunosuppressive microenvironments.Semin Immunopathol.2011 Sep;33(5):441-54. 21688197

Orozco AF, Lewis DE. Flow cytometric analysis of circulating microparticles in plasma. Cytometry A. 2010 Jun;77(6):502- 14.

Jørgensen M1, Bæk R, Pedersen S, Søndergaard EK, Kristensen SR, Varming K. Extracellular Vesicle (EV) Array: microarray capturing of exosomes and other extracellular vesicles for multiplexed phenotyping. J Extracell Vesicles. 2013 Jun 18;2

Im H, et al. Label-free detection and molecular profiling of exosomes with a nano-plasmonic sensor. Nat Biotechnol. 2014 May;32(5):490-5

Yoshioka Y et al. Ultra-sensitive liquid biopsy of circulating extracellular vesicles using ExoScreen. Nat Commun. 2014 Apr 7;5:3591[WK(H1]

がんマーカーとしてのエクソソーム

エクソソームはさまざまなタンパク質や脂質などを別の細胞に運ぶことで機能的変化や生理的変化を起こすことが知られていました。 2007 年にはエクソソーム中のRNA(mRNA, microRNA)の存在が明らかとなり1)、さらに、2010年にはmicroRNA(miRNA)がエクソソームを介して細胞間を移動し、機能することが証明されました2-4)。

miRNAは、約22塩基の1本鎖のRNA分子で、標的mRNAに配列相補的に結合して、主にその標的遺伝子の発現を抑制します。ヒトmiRNAは現在まで約2,600 種類(Refseq)登録されています。その働き方として細胞自身がmiRNAを発現し、細胞内で標的mRNAの発現を抑制するものと、エクソソームなどを介して、そのmiRNAを発現した細胞とは別の細胞の遺伝子発現を抑制するものがあります。これら、miRNAが関与する生理現象・疾患は多岐にわたりますが、がんにおいては、let-7が2000年にヒトゲノムに存在することが報告された5)こともあり、精力的に研究がすすめられています。特に下表のように、エクソソーム中にがん特異的なmiRNAの存在が認められることから、がん診断への応用が期待されています。

エクソソームは、その特性上、体液(主として血液)に存在するため、これまでの組織生検での診断から、より侵襲性の低い血液検査等での実施が可能になります。また、血液における存在量も末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の10倍以上6)であることから、早期診断や感度特異度に関しても期待されています。