BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第九回:レディオヘッド『OKコンピューター』
日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画!
レディオヘッド『OKコンピューター』(購入@中目黒 waltz)
今回のレビュー対象作品は、新作やサマソニでの来日も話題のレディオヘッド、その代表作『OKコンピューター』です。
そしてボーイズ・エイジ Kazと対決する音楽評論家は、この連載の担当編集である私、照沼健太。いつかこの連載の原稿依頼が来るだろうと思ってましたが、絶対に書かないと心に決めていました。…でも、書いちゃいました!
さて、そんな対決の行方は果たして!?
>>>先攻
レヴュー①:Boys AgeのKazの場合
現実に人工知能がやがて人間と同じ自我に至ったら、人間は彼らを揶揄なく差別なく、「マシン」という一つの「人種」として、受け入れられるだろうか。工場で作られようが母体の子宮内で作られようが自我に貴賎があるのだろうか? 我々は、しっかりと受け止め、受け入れられるのだろうか。とりあえず争いは起こるだろう。
人間の大人以上の知識とか持ちながら、心の扱いを心得てない初期状態のAIは、不条理や矛盾の中でのエラーに耐えられるのだろうか。そうやって心に振り回されるマシンのために、同情が出来るだろうか。私は、「人間=精神」と捉えているからAIを弄くり回すのは人体実験と変わらないと感じてしまうかもしれない。機械にも魂はある、と思っている。一方で、所詮は機械、と軽蔑している部分や、便利な道具以上の感情を抱いていない部分もある。機械の心は、そういった多方面に矛盾し続ける心を合理化するのだろうか、しないのだろうか。
人間と機械の共生の中でこそ、人間の精神は試される、かもしれない。
常々考えてることへのアプローチの一つを、週刊少年チャンピオンで連載中の山田胡瓜『AIの遺電子』(一巻品薄爆売れ)が描いてくれている。古典SFの頃から描かれている、いや、あるいはファンタジーでも描かれ続けている「同じような精神を持つ人間と異なる種族」との付き合い方ってのにはいつも考えさせられる。機械も、機械同士で宗派分裂とか戦争するんだろうな。あれ、AIイデの宣伝になってるな。イデ……宇宙滅亡しちゃう。前々回? の『ブレードランナー』で普通に「遺伝子」って勘違いしてたが「遺電子」ね。
機械といえば、まああんまり関係ないか、日本出身のバンドで主に欧米で頑張ってる、幾何学模様(Kikagakumoyo)ってサイケ・バンドがいて、前聴いたのはいかにもなファズ・サイケですって感じで(ちゃんと聴きこむとそれだけじゃあないのだが)、良いアルバムだったけど、我が精神状態的にまったく最適でなかった。で、最近新譜の『House in The Tall Glass』(煙突コップの中の家、とかそんなんかな)ってのが出て、日本人の音楽で聴きながらワクワクするのは本当に久々だな。図書館、赤い靴、以来かもしれない。まあ売れ方から言って別に日本の音楽、みたいな捉え方も不要だよ。どれだけ美しいフレーズをつま弾こうが移り変わる万華鏡のように無機質、しかし相反して有機的な要素もあるという面白い印象のアルバム。聴いた時に感じた色は、水銀灯の明かりに生物的な胎動を足した感じ。うん、多分誰も意味わかんないだろう。良いから聞いてそれから判断しなさいな。
さて、序文のマシン論、無機有機の共存という似たようなテーマ、と来て、なんか王道アルバムもレヴューする云々という提案から今回はレディオヘッドの『OKコンピューター』というアルバムについてだよ。ロック(?)を聴いてる人は大概とりあえず知ってる大御所バンド、レディオヘッドのもっとも著名なアルバム、だと思う。中学生の頃と高校生の頃に聴こうと思って最初の2曲で断念したな。いや、耳に合わなくて。一応、『イン・レインボウズ』? と『キング・オブ・ナニガシ』みたいなのは聴いたことある。こっちの2作の方が好きかな。各曲や簡単なバックストーリーはwikipediaにあるからそれ読んだ方が早い。今更私は語りたくない。ネット上に腐るほど記事があるよ。……こうやって職業ライターの雇用が下がるのか。胸が熱くなるな。実際問題、ファンが何百万人もいるバンドなんかストリーミング・サービスでもそれなりに稼ぐよ。Youtuberみたいにさ。でも規模の小さいバンドにとって日銭に直結する物販は死活問題さね。レディオヘッドが嫌いなわけじゃないんだ。
というかカセットテープを聴けってタイトルなのに、カセットテープで聴く意味をまったく見出せないプラチナ・アルバムを取り上げる意味ってあるのか……? そもそもカセットテープで聴けよりまずやるべきことは、「お前ら音楽を『キチンと』聴け!」だな。起立、礼! 始めましょう(小林ちゃんこちゃん)。
だって、みんなそんなに音楽好きじゃないでしょ? 海外の友人たちが私によく、日本にツアー行きたい! って相談してきて、君の街とかで共演したいっていじらしいこと言ってくる。でも日本の音楽は欧米の文化とはハナから違うものなのよね。ラジオも基本ないし、商店街でも面白い音楽は流れてない、地域ごとの特色もないし。ストリーミングストリーミング無料無料うるさいくせに、じゃあいざ店先とかにいってもそれをUSENみたいに活用すらしてないし、そもそもファックラックが邪魔なんだよ。このインターネット全盛の時代に誰の権利をどこで守ってるんですかね。お遊戯ごとならよそでやれよ(マリアナ海溝とか)。売れてないやつの戯言に感じるだろう? 売れてないからこういうシステムは存在自体が巨大な壁なんだよ。ある意味ベルリンのよりも。
なんだかなあ。今やるべき事ってカセットテープを聴かせるとかもうそういう高い次元のことじゃなくて、いやこれが高次元になっちまうほど状況がヤバいんだ。音楽のさ。
マジで緩やかな死滅へ待ったなしなんだ。それを考えたら、何千万枚も売ってるバンドなんか心底どうでもよくなる。仮にそれが、私が大好きなバンドだとしても。
ま、多分業界人とかバンドだけが何かしようとしても無駄だろ。ファンと一緒に盛り立てていかなきゃな。バンドが、ライブ来てくださいって言ったところで来ないし聴いてくださいって言ったところで聴くわけがない。まったく無関係の人間が必要なのさ。
ふと思ったんだが、人間と同じ心へ行くことが人工知能の進化なら、人間の精神は合理化を目指すのか? その中間が新人類になるのか。一瞬の交差のあと、マシンが人間に、人間がマシンにとってかわるのか。まるで『ロックマンDASH』だな。
あと、トム・ヨークもさすがに随分老けた。髪型も相まってちょっとイギー・ポップに似てきたね。
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★★
もう少し頑張りましょう。『OKコンピューター』というタイトルから、AIのレーゾン・デトールについて論を進めていくという導入とテーマ設定はとても面白い。また、日本でも20万枚近く売れたアルバムをカセット・テープをレヴューするという企画で取り上げる意義があるのか? という問題提起から、誰もが音楽を聴こうともしない、というさらなる問題提起に繋げていくところも見事な流れです。カズくんの文筆家としての力量には溜飲を下げずにはいられない。
ただ、カズくんは大きな間違いをひとつ犯しています。誰も音楽を聴こうともしないという問題提起と、こんな著名作品についてならネット上にもいくらでも情報なんて転がってるぜ、というメッセージが徹底的に食い合わせが悪いんです。
この2016年、とある誰かがこれまで聴いたことのないポップ音楽を聴こうとする時の最大の障害のひとつ。それはWikiやNAVERまとめに象徴されるネット上にアーカイヴされた、とても平準化された文字列です。
集合知の優位性を前提とした英語版のWikiの場合、異なる文化に属する不特定多数の人々が、特定のモチーフに対して何かしらの共通した文脈をシェアすることを促すことにはとても長けている。特に、ネット上の出典を明らかにした情報のみに精査されていく仕組みは、政治的な妥当性という意味においても、とても優れています。
ただ、ポップ音楽に代表される表現というものは正解を持たないもの。あらゆる読解の可能性が無限に開かれている有機的なテクストです。ところが、英語版のWikiというのは、表現にとってもっとも重要な効用――受け手に対して「わからない」という感覚をもたらし、聴く観る読むという行為と、能動的な思考に向かわせるというメカニズムを無化させてしまう。受け手に対し、「なるほど、そういうことか」という退屈な納得と安心をもたらし、能動性と思考を奪い、表現の読解と受容という無限の可能性をどこまでも抑圧する装置にほかなりません。
とにかく今日は体調が絶不調で、とても不機嫌なので、普段の先生と生徒という舞台設定さえも面倒くさくなっていますが、カズくんの作文に腹を立てているわけではありません。カズくんほどの優れた表現者で、横断的なポップ表現の受容者で、優れた批評家でさえも、アーキテクチャの奴隷なのか、と、絶望的な気持ちになっているだけです。
と、読者に対して無駄な緊張感を与えるべく無駄に歌舞いてみました。でも、もう少しちゃんと書いてやれよ! だって、英語版のWikiはまだしも、ポップ音楽に関する日本語Wikiの情報なんてホントたかが知れてるし、何ちゃらまとめに至っては事実誤認と紋切り型の退屈な翻訳だらけなんだから。次はもっと頑張ってね!
>>>後攻
レヴュー②:音楽評論家 照沼健太の場合
ふむ、これがレディオヘッド『OKコンピューター』か。TSUTAYAのレンタル・コーナーでは「轟音トリプル・ギターが絡みあうロックの歴史的傑作」って書いてあったけど、めちゃくちゃ激しくて盛り上がる感じかな? とりあえずジャケットはかっこいいよね。
1. エアバッグ
ぜんぜんロックぽくないタイトルだ。ってか、ゆったりしたテンポだしドラムの音も変だし、ロックじゃないじゃん。明るくて速くて激しい曲が最高でしょ! まあ、この曲は明るいし、ちょっとバイオリンっぽいギターも、うねうねするベースも悪くないけどさ。ただ、ドラムの音、変だよ! それとサビないよ!
2. パラノイド・アンドロイド
タイトルかっけー! ……と思ったら、なんだよこのアコギのイントロ。民族っぽいし暗いしさ。ん、ちょい待ち。ベースがかっこよくなってきたし、ロックぽくなってきた? うわ、ギターが鳴った! そしてボーカルも叫んだ! きたーーーー!! これこれ! ロック! ……って、おい。なんだよー、またゆっくりになってきたよ。『FF6』のラスボス戦BGMじゃないんだからさー。洋楽ってこういう遅くて暗いメロディ好きだよね。ハイスタの“Stay Gold”の方がカッコいいじゃん。……あ、また激しくなった!
3. サブタレニアン・ホームシック・エイリアン
タイトル通り、左側で鳴ってる音が宇宙っぽいね。ゆっくり目の曲だけどノリやすいしメロディも明るいし、結構良いかも。サビもあるし。そして宙に浮いたような、音に包まれる感覚が気持ち良いな。この前、学校で覚せい剤の怖さを伝えるナンチャラがあって、元中毒者の人が「音が泡になってその中に入れるんだ」とか嬉しそうに話してたんだけど、それってこういう感じ?
4. イグジット・ミュージック
暗っ! 笑えるくらい暗っ! でも、これ好きだな。井上陽水の“傘がない”っぽい。ここまで暗いと泣けるよね。もし2組のあの娘に告白してフラれたらこれ聴いてもいいよ。フラれたくないけどさ。
5. レット・ダウン
おっ、明るいし普通な感じの曲だ。でも、なんかノレないな? そして泣ける雰囲気だけど、いまいち泣けないな? 良いメロディのとこでも、ヴォーカルが左と右で別々になってるし。てか、ここまで聴いてきて気付いたけど、このレディオヘッドってあんまロックっぽくないバンドだよね。そしてどの辺が轟音トリプル・ギターなん? 2曲目だけじゃなくね? TSUTAYA嘘つきなの?
6. カーマ・ポリス
あっ、良い感じのイントロと歌い出しだ。Bメロもあるし、サビもちゃんとある! そうだよ。ロックっぽくないなら、ちゃんとハッキリしたメロディを聴かせてくれよ。ミスチル見習おうよ!
7. フィッター・ハッピアー
なんかコンピューターが話してるだけなんだけど、これ曲って言っていいの? 解説と対訳読む限り、白人の理想的な生活を羅列して、最後に皮肉を言ってるみたい。でも、この生活のどこがダメなんだろう? 映画『ファイト・クラブ』もこんな感じだった気がするな。
8. イレクショニアリング
変な響きのギターだけど、激しいのきたー!! ボーカルも2曲目ぶりに叫んでる! ノレる! ノレる!
9. クライミング・アップ・ザ・ウォールズ
うっわ、また暗くなった……。このまま最後まで激しく盛り上がっていこうって気はないのかね、レディオヘッドくん。ドラムの音、変だし。なんか高校生になってから躁鬱が激しいし、こういう不安になるような曲聴きたくないんだよ俺。んー、また轟音ギター来たけど、こういうゆっくりなやつじゃなくてさ……。ボーカルも叫び始めたけど、こうじゃなくて、もっとアガれる感じで行こうよ……。
10. ノー・サプライゼズ
タイトルと歌詞良いね。そう、安心したいんだよ。コンプレックスだらけの自分が、なかなかあの娘に告白出来ない自分が嫌なんだよ。しかも周りも受験勉強とか言い始めてきたし、将来やりたいことなんかないし。あー……、子守唄みたいで安心するな、この曲。
11. ラッキー
憂鬱だ……。この田中宗一郎って人の解説によると、このアルバムは政治的な問題とかを色々歌ってるらしいけど、俺は自分の悩みや憂鬱で手一杯なんだよ。大人になればこんな悩み無くなるって言う人もいるけど、今この瞬間が苦痛なんだってば! 助けて!
12. ザ・トゥーリスト
これがアルバム最後の曲か。なんかめちゃくちゃ落ち込んできたけど、最後はちょっと頭撫でてくれるみたいな感じだな……。何も解決はしないけど、生きるしかないって感じかな……。
結論としては、椎名林檎の2ndアルバムに似てるけど正直よく分からないって感じ……。この前HMVのグラミー賞コーナーで試聴した『キッドA』の方がテクノっぽくて断然好きだな。でも、とりあえず今週発売の『アムニージアック』って新作は買ってみるよ。
【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】
★
クソ忙しい時にクソ面白くない、通信簿つけるにもクソ面倒くさいクソ原稿書きやがって。
狙いは買います。この2016年ではなく、2001年に書かれたという設定。しかも、架空の書き手――せいぜいがTSUTAYAでCDを借りる程度で、大半がクソ邦楽しか聴いたことがなく、90年代後半から加速度的に進化した欧米のロックやポップ音楽について、まったく知識も蓄積もない間抜けという書き手を設定するというアイデア。文章の内容だけでなく、形式にも気を配ったのは褒めてあげるべきだと思います。でもね、企画倒れ。外してる。
聴き手が違えば、聴き手の知識や経験によって、まったく聴こえ方が違ってしまう。しかも、この2016年の日本においては、欧米のポップ音楽を聴くための基礎教養や歴史観そのものがまったく失われてしまった。そうした現実をあぶり出そうとする意図は感じ取れます。でも、だったら、2016年に設定しましょうよ。設定にブレがありすぎ。効果的ではありません。
それに椎名林檎ちゃんを引き合いに出すなら、1stアルバムではありませんか。“ここでキスして”のプロダクション/アレンジを聴けば、ベースにしろ、太鼓にしろ、ギターにしろ、多くの部分がレディオヘッドの“エアバック”なしには生まれなかったことがわかる。そうした参照点の指摘についても、明らかに間違っている。もし、それがこの書き手の知識のなさをより浮かび上がらせようと意図しているとしたら、それにはあまりにも無理があります。とにかくツメが甘すぎる。
というわけで、健太くんにはこれまでの通信簿の最低点をあげます。プロなんだから! しっかりして下さい! また炎上狙いだったら、心の性根としても最低です。次の作文は頑張ってね!
勝者:Kaz
田中宗一郎先生が過去最大級に大暴れ。Kazが勝利をおさめ、照沼がボコボコにされました。
ぐうの音も出ません。自分でも「失敗作出来!」と思ってました。…ということで、なぜこういう原稿にしたのか、なぜ「絶対この企画には出ない」と一部で豪語していたのに書いたのか。その辺のどうでもいい言い訳は後日私のTwitterにて。ぜひフォローしてね★。
さて、突然キャッチーなビッグタイトルが飛び出した『カセットテープを聴け!』ですが、次回はどんなカセットをレビューすることになるのか?
おたのしみに!
〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。