特に高齢犬に要注意~肛門周囲腺腫~
最近はペットも高齢化がすすみ、腫瘍(癌)を発症する割合が増えてきました。
かつて腫瘍は不治の病というイメージでしたが、早期に発見し早期に治療を行えば、完治するものも少なくありません。特に皮膚の表面に出来た腫瘍は飼い主さんにも見つけやすく、早期発見できるものが多くあります。
お尻の周りにできる「肛門周囲腺腫」も、そのような腫瘍のひとつです。
どこにできるの?
もともとお尻の穴の周りには「肛門周囲腺」と呼ばれる分泌腺があり、主に皮脂を分泌しています。この分泌腺が腫瘍化してしまったものが「肛門周囲腺腫」です。
通常は肛門付近の毛の生えていない部分に黒っぽいつるんとした小さなしこりができますが、まれに毛の生えている場所や尻尾の部分などにもできることがあります。
一ヶ所だけではなく、数ヶ所同時に発生することもあります。
どんな子にできるの?
多くは歳をとった去勢手術をしていない雄(オス)の犬に見られます。男性ホルモンが関係している腫瘍のため、若い頃に去勢手術をした雄犬、また雌(メス)ではほとんど発生しません。
似ている腫瘍に要注意
同じような場所にできる腫瘍で、雌の犬に見られるときは要注意です。「アポクリン腺癌」という悪性の腫瘍の場合があるからです。
良性の「肛門周囲腺腫」はその部分だけを小さなうちにすべて取り除いてしまえば治りますが、悪性の腫瘍は見た目が小さくても完全に取り除くことが難しく、体の他の部分に転移していることもあるため、治療は非常に困難となります。
放っておくと…
良性の腫瘍であっても、そのままにしておくと腫瘍は徐々に大きくなり、しまいには腫瘍の表面の皮膚が破れて出血し、潰瘍のようになってしまいます。汚れやすい場所なので、細菌感染を起こしてしまうと化膿してしまうこともあります。
また大きなしこりが肛門を塞ぎ、うまく排泄できなくなることもあります。大きくなればなるほど、手術で外科的に切除することが難しくなり、手術の際に肛門を締める筋肉(肛門括約筋)を傷つけるリスクが高くなります。
治療法
体の表面に出来た腫瘍の場合、治療法は手術で取り除くことが主流です。全身麻酔をかけてメスで腫瘍の部分を大きく切り取ります。
腫瘍の場合、細胞が少しでも残ってしまうとそこから再発してしまうため、しこりの部分ぎりぎりではなく、なるべく周囲・深さ共に大きく切り取ります。しかし、肛門の周りの皮膚は常に伸び縮みできなくてはならないため、皮膚にあまり余裕がなく、皮膚の下はすぐに肛門括約筋があるため、あまり大きく切り取ることはできません。できるだけ腫瘍が小さいうちに手術を行うことが大切です。
また通常、腫瘍切除と同時に去勢手術も行います。先ほどもお話したように「肛門周囲腺腫」は男性ホルモンと関係があるため、ホルモンを分泌している精巣を取ることで再発する可能性を下げることができるからです。
外科手術が出来ない場合や、大きな腫瘍を少しでも小さくするためにはホルモン剤を使って、腫瘍を小さくする方法もありますが、根治することは難しいようです。
特殊な治療法
凍結療法
凍結療法とは、液体窒素などで皮膚の表面の腫瘍を急激に凍らせて死滅させる方法です。
死んだ腫瘍細胞はカサブタのように黒くなって落ちますが、そこから正常な皮膚で覆われて正常な皮膚になるまでに、大きなものだと1ヶ月近くかかる治療法です。
レーザー
レーザーを皮膚に照射すると、その部分を熱で焼き切ることができます。
これを利用して、腫瘍の切除には手術用のレーザーメスが使用されています。レーザーメスによる外科手術は通常のメスによる切開よりも出血が少なく、術後の痛みも少ない治療法ですが、レーザーを発生させる高価な装置が必要となります。
放射線療法
腫瘍が大きくなってしまい外科的に取り除くことが困難な場合に行う、放射線を部分的に照射して腫瘍細胞を死滅させる治療法です。
これは正常な細胞よりも腫瘍細胞の方が放射線に対して敏感であることを利用しています。しかし、放射線療法はその治療装置がとても高価であり、操作には高度な技術が必要であるため、ごく限られた病院でしか行うことができません。
まとめ
「肛門周囲腺腫」は高齢の雄犬にできやすい腫瘍で、場所も少し恥ずかしい場所なので、見つけてもしばらくは様子を見る飼い主さんも多いようです。しかし、そのままにしておくとどんどん大きくなり、切除することが困難になってしまいます。
「高齢の子に麻酔をかけて手術するのはちょっと怖い」と思われるかもしれませんが、麻酔法の技術も進歩しています。見つけても慌てることなく、まずは動物病院へ相談してみてください。