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自筆遺言書の「花押」は無効

2016.06.06 04:37

平成28年6月3日、最高裁は、1,2審で有効とした遺言書の署名欄後に押す印鑑の代わりに、花押を書いた遺言書を無効との判決を下した。

最高裁第2小法廷平成27年(受)第118号判決 民集70巻5号1263頁

判決:自筆遺言証書に押印の代わりに書かれた花押は、民法968条の要件を満たさず、自筆遺言書は無効である。

1審・2審は、有効としていた。(福岡高裁那覇支部「花押は認め印より偽造が難しい」とした。)2003年に男性(85歳)が、自筆遺言書に花押を押して亡くなりました。しかし、息子同士で、それが有効かどうかを争った事件。


(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

第2項は、平成民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立)のうち自筆証書遺言の方式の緩和部分。(平成31年1月13日施行)
同日以降に自筆証書遺言をする場合には,新しい方式に従って遺言書を作成する。同日よりも前に,新しい方式に従って自筆証書遺言を作成した遺言は無効となる。


※「花押」とは、中世に武士に流行った署名の後にした直筆の印形型サイン。「昔のはんこ」という説明がなされている辞典や本もありますが、はんこではありません。ただ、別名「書判」(かきはん)ということからは、はんこといえますが。要は、はんこのかわりで、草体に崩した草名(そうな)体文字。

ただ、有名な印鑑「漢委奴国王」があるように、文字よりも、はんこのほうが古いと言われます。ですから、古来より武士やお公家さんは、はんこを使っていましたが、平安時代後半より花押が広く行われるようになり、1600年前後は、はんこと併用して使ったとのことです。

本来「花押」とは、<花のように美しく書かれた署名>であり、「押」は署名という意味だそうです。武士や公家の公・私文書に使われていましたが、鎌倉時代にはまた、私印が使われだしました。戦国時代、文書が多くなるにつれて、花押よりも簡単であり、はんこが使われるようになります。政治権力的意味合いを印鑑は持つことになるのです。しかし、本来、花押は、本人自著であるところに価値があり、はんこのような略式的なものではなかったと。

江戸時代には、庶民にもはんこが普及され、生活に必須なものとなる。
武士の文書には花押とはんこの押印とがなされることもあったとのこと。しかし、花押は、江戸も末期には使われなくなります。現代でも大臣が重要文書に花押を書くことがあるといいますが、ニュースでも見たことがないです。

福岡高裁那覇支部の判決にいうように、誰にもまねできない自著である点では、正しい判決と言えますね。しかし、明治6年の太政官布告により「証書には必ず実印を使え~でなければ裁判証拠にならない」という御触れが出ることとなったといいます。かつ明治10年には、「名前の自著も加えろ」となったとのことです。ですから、すでに、花押は、使うことに裁判証拠として、無効であることが言わているのです。(とはいえ、息子同士で争わなかったらそのまま有効でもあったわけですが。花押だけでなく、名前の署名をして花押を下に書くのが問題なかったわけですね)