Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

KANGE's log

映画「ステップ 」

2020.07.24 04:41

【全員善人…それでも、子育てはままならぬもの。緩やかに穏やかに】

イオンシネマのワンデーフリーパスポート5本のうち2本目です。

以前から気になっていて、試写会にも応募していたのですが、コロナ禍で流れてしまった作品。

娘が生まれて間もなく、妻を亡くした健一は、男手一つで育てることを決意。仕事と育児の両立、残された親類縁者との関係、娘の成長、新たな出会い、いろいろと悩みながら、ゆっくりと成長する父と娘の10年…という作品。

重松清原作ですから、泣かせにかかってくるのは覚悟の上です。でも、「ひとり親で苦労もしたけど、頑張った。どうだ、感動するだろ」と押しつけるような作品でもなかったと思います。

とにかく、出てくる人物、出てくる人物、全員いい人。

営業から、時間の融通がきく総務に異動させてくれて、フレックス勤務を認めてくれる会社も優しい。夕方の急な仕事も引き取ってくれる同僚も優しい。誰も「チッ」とか言わない。元上司もずっと気にかけてくれる。昼飯の蕎麦屋には中川大志もいる。

義父母も、亡くした娘の代わりに、強引に孫娘を健一から取り上げるなんてことはしません。義兄夫婦も「子どもに恵まれなかった我が家に美紀ちゃんを」とゴリゴリ押してきたりはしません。それは、健一から、美紀ちゃんだけではなく、舞をも取り上げることになるのが分かっているからでしょう。この父娘の幸せが、亡き娘の幸せだと思っているからなのでしょう。

保育園のケロ先生は、正しく美紀ちゃんを贔屓してくれる。まるで、もともと重松清が伊藤沙莉をあて書きしたんじゃないかと思うぐらいハマってた。

小学校の先生がちょっと頼りないのですが、彼女にしたって、学校共通のプログラムの中で、ギリギリまで自分でなんとかしなければと考えあぐねた結果、投げちゃったと思えば、それを責めても益はありません。「これが正解」なんてことはないのですから。

奈々恵さんも、ちゃんと美紀ちゃんのことを一番に考えてくれる。引くところは引いて、ちゃんと前に出るべきところでは前に出る。よくできた人。「笑顔工場」ですから、健一や美紀ちゃんや自分が笑顔でいられるように、奮闘してくれることでしょう。

美紀ちゃん本人も、よくできた子。父親の負担を軽くするために、意識しているかしていないかは別として、早く大人にならなければという事情もあるのでしょうが、およそ小学生とは思えない、しっかりとした子。重松清の作品には、大人が考える「子どもらしい子ども」は出てきませんが、美紀ちゃんも例に漏れず、大人のことをちゃんと見ている子どもです。その分、体の反応として、子どもであることが出てくるという演出は、よかったですね。

動く母親を再現するための作戦は、ちょっとどうだろうと思いましたが、快く受けてもらってよかったですね。あそこは美紀ちゃんの反応がポジティブに出るかどうか、結構な賭けだったと思いますよ。仕込みであることは伏せておいて、美紀ちゃんに気付かせる→その場で健一から事情を話してお願いする体をとる、という流れでもよかったかもしれません。ちょっと作為が過ぎるかな。

それにしても、健一さん、女性に声をかけることに躊躇がないですね。きっと昔からモテてきたんだろうなぁ。あるいは、1人親になって、誰かにヘルプを求めることのハードルが下がったのかな? それでいいのだと思います。

たとえ両親揃っていたとしても、100点満点の親なんてのはいないでしょうし、そうでなければいけないということでもありません。今の日本は、親であることのハードルをどんどん上げていっているような気がします。逆行しています。

もっと、緩く暖かく見守れないものでしょうかね。この映画の人たちのように。

この作品の後に見たのが「MOTHER/マザー」だったので、同じシングル親の物語ながら、その落差に「順番間違えた」と後悔しました。これが逆だったら「ああ、浄化された」となったのに。

些末なことですが、気になったは、軽口とはいえ、さすがに小学校1年生で「愚問」といった単語を使いこなすだろうか?というところ。これも、例えば、夫婦間の口癖のようなもので、しょっちゅう会話の中で「何よそれ、愚問」と軽く使っていたものが、舞さんの死後も健一の口癖として残り、それで美紀ちゃんも小さい頃から使うようになったのだとしたら、もうそれだけで泣いてしまうかもしれません。